【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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一四一話:虚ろの玉座にて待ち受ける者

「……というわけで、実は木原数多さんは既に亡くなっていたそうなのですが、木原の書(プライマリー=K)となって復活したらしいのですわ」

 

 

 ──その後。

 なんやかやで落ち着いた二人の少女と上条に向けて、シレンは今までのあらましについて軽く説明を終えていた。

 

 もちろん、この場にいる三人は全員シレンが助けを求めた『協力者』である。美琴と食蜂はシレンにとっては同学の仲間であり最初の最初から情報を共有していたし、上条に至っては神の右席全員の打破に関わっているのだから、当然の話だが。

 しかし、前方のヴェントと左方のテッラが既に倒され残るは後方のアックア一人、なおかつ全貌不明の『木原』やアレイスターが暗躍しているとなると、上条当麻という駒の扱いやすさについても色々と前提条件が変わってくる。

 上条はアックアのような単純物理特化の敵とは相性が悪すぎるし、『木原』のような科学技術に長けた相手とぶつけるのも不安が残る。

 

 アレイスターに至っては……これまでの経緯からなんだかんだ何とかなるんじゃない? と思いつつあるシレンだが、ヤツに限っては『何とかなった後』の暴走が怖い。

 神の右席の集中攻撃を受けて『窓のないビル』から敗走したと思ったらその足で何やら暗躍しているところしかり、シレンに成す術もなく敗北したところからレイシアを自陣に引き入れたところしかり、木原の書(プライマリー=K)に敗北したところからシレンの介入を引き当ててシレンに貧乏くじを押し付けたりしているところしかり、シレンは既にアレイスターが敗北では終わらないということを十分に知ってしまっていた。

 その相手に上条当麻などという『とりあえず確実に勝ってくれるだろうけど殺したりは絶対にしないヒーロー』をぶつけたら、負けたあとのアレイスターがどう暴走するか分かったものではない。

 

 

「……でも、奇想外し(リザルトツイスター)だっけ? 妙なモンができたもんよねぇ……。……まるでコイツの右手みたいな」

 

「多分、原理的なモノは似ていると思いますわ。もっとも、起こせる現象は全く違いますけれど」

 

「私としては、納得力が高いわねぇ。アナタの精神、全然読めないしぃ。明らかに白黒鋸刃(ジャギドエッジ)じゃ説明のつかない現象が起こってるんですものぉ。むしろ分かりやすい異能ができてくれたお陰ですんなり呑み込みやすくなったわぁ」

 

「(……俺の右手とかち合ったら、どっちが優先されるんだろう……??)」

 

 

 真面目な現状認識の横で最強議論(ホコタテ)に思考を飛ばしているバカ学生はさておき。

 

 シレンは今まで共有した情報を踏まえて、話を進めていく。

 

 

「で、どうやらわたくしの右手は木原の書(プライマリー=K)……いえ、『木原』全般に特別に有効らしいのですわ」

 

「? そりゃあ、攻撃が全部失敗するんだから、誰にだって有効なんじゃない?」

 

「いえ、そういうわけではなく」

 

 

 首を傾げる美琴に、シレンは首を振ってから、

 

 

「先ほど前方のヴェントと戦闘した際、共闘した相似さんは『害意ある思考』すら失敗させられて、棒立ちの状態になってしまった……という話をしましたでしょう? このように、『木原』は一挙手一投足に害意が宿ってしまうのです。……これが、木原の書(プライマリー=K)にも言えるのだとしたら?」

 

「! ……木原の書(プライマリー=K)は、独立力を持った存在として行動しているものの、木原数多が生み出した、いわば『行動の結果』。つまり、木原数多の害意力が宿った『存在の成立』自体が失敗する……ってことかしらぁ?」

 

「ええ、おそらくは」

 

 

 先ほど木原の書(プライマリー=K)が己の一部を分離したのも、存在の成立が失敗した部位を切り離すことで、全体に失敗が伝播するのを防いだということなのだろう。

 そう考えると、木原の書(プライマリー=K)とのシレンの戦闘相性はあまりにも良いということになる。というか、ほとんど対面したら勝利は確定したようなものだ。しかし──

 

 

「そうなると参ったな」

 

 

 困ったように眉を顰めるのは、上条だった。

 

 

「それってつまり、シレンが指パッチンをしたら一発で倒せるけど、そうなった場合はその木原の書(プライマリー=K)ってヤツ自体が問答無用で死んじまうってことじゃねえか。俺の右手でも多分同じだろ? 手札の威力が高すぎて逆に対処が難しくなってねぇか?」

 

「そうなんですのよねぇ……」

 

 

 おそらく余人が聞けば『そんなことを言っている場合じゃないだろうが』とツッコミを入れられそうな会話だったが、シレンと上条はそんな話を大真面目にしていた。

 美琴と食蜂にしても、この期に及んで当たり前のように不殺を前提にしている二人に苦笑はしているものの、反論するつもりはないようだった。

 

 当然だ。この四人は、一体数万円で製造できるクローンや魂を持たない機械人形を救う為に、大真面目に大人の論理に反抗してきた。その彼女達が、今更敵対関係でその理屈を投げ捨てることは決してありえない。

 

 

「アレイスターはそうしたわたくしの事情を全部無視して『奇想外し(リザルトツイスター)を持っているから楽勝だろう』みたいな算段で動いていそうなのが、ちょっと不安なのですけれど」

 

「…………良く分かんねーけど、大丈夫なんじゃ? だってなんかすごい黒幕なんだろ?」

 

「…………、……ですわね!」

 

 

 そこはかとなく不安なシレンだったが、分からないことについて考えても仕方がない。

 それに、木原の書(プライマリー=K)と激突してからのことを心配するよりも先に心配すべきことがある。

 

 

「ともあれ。先ほども話しましたが、肝心の木原の書(プライマリー=K)の居場所がさっぱり──」

 

 

 ──と。

 

 ッゴガバッギィィィイイイイイン!!!!! と。

 まるで波打つような甲高い破砕音が、天体水球(セレストアクアリウム)を席巻した。

 

 

「な、なによぉ!?」

 

「う……抜かりましたわ。入口で始まったアックアと『アイテム』の戦闘が、この天体水球(セレストアクアリウム)の内部に移ったのではなくて!?」

 

 

 突然の轟音に頭を押さえて身を縮こまらせる食蜂に、戦慄した様子で返すシレン。

 超能力者(レベル5)と神の右席の戦闘なのだ。戦場がひとところに留まらないのは当然である。

 

 

「ど、どうしましょう……このままだとわたくし達も戦闘に参加せざるを得ないのではなくて? そうなれば、もう木原の書(プライマリー=K)どころではありませんわ!」

 

 

 美琴はともかく、食蜂も上条もシレンも、とてもではないが音速の戦闘にはついていけない。もしも下手に乱入でもしてしまった日には、最悪『アイテム』の足を引っ張ってしまうことになるかもしれない。

 

 

「ああ、それなら……裏口を使ってみたらどうだ? 俺達、ここに入るときに正面の入り口じゃなくて、非公開の裏口を使ったんだよ」

 

「…………どうやってそんな情報を??」

 

「それはほら、こう、御坂のビリビリで、ビリビリと」

 

「ビリビリ言うな! 私の能力がなきゃどうしようもなかったでしょ!」

 

 

 やはり超電磁砲(レールガン)は現代戦にて最強というわけなのだった。

 さておき、裏口からであればアックア達の戦闘に巻き込まれる心配もない。四人はひとまず、そちらからの脱出を当面の目標とすることに。

 

 

「……しかし、思ってたよりも激しい戦闘だな……」

 

 

 一列になって歩く一行の先頭に立ちながら、上条はぼやくように言う。

 進み始めて一分ほどだが、既に四人は先ほどのような轟音に慣れつつあった。全体がガラスの水槽によって構成されているような施設なこともあり、威圧感はひとしおである。

 

 

「……さっさと行きましょ。アックアとかってヤツ、水を操れるんでしょ? なら多分積極的に水を放出させたがるはずだし」

 

 

 言いながら、美琴は前を歩く上条を急かすように言う。

 本当は一刻を争うのだし思い思いに走っていくべきなのだが……シレンの『それだと食蜂さんが早晩疲れて動けなくなってしまうのではなくて?』というもっともすぎる指摘の為に、歩きでの移動を余儀なくされているのであった。

 ついでに、一列になって歩いているのは、歩きで移動する都合上襲撃のリスクが高い為、すぐに対応できるようにという考えのもとである。

 

 

「あ、ここよ!」

 

 

 そう言って美琴が指差した先には、非常口の扉がある。上条達が行きの時に通ってきた通路だ。

 流石にここは小走りで扉に駆け寄った上条が扉を開ける。すると、その奥には無数の水路がまるで絡まったコードのように複雑に入り混じっている空間があった。

 

 

「基本的な考え方はビオトープとかと同じね。水族館っていう限られた空間の中で生態系を創ろうとすると、どうしても水の淀みが問題になってくる。水が淀むとバクテリアとかが発生しちゃって、それは全面ガラス張りの此処じゃ売りを打ち消す致命的な事態でしょ」

 

「だからこうやって大規模な水の流れを形成して、毎日膨大な水の入れ替えを行っているって訳ねぇ。それだけじゃなく、膨大な水の流れを利用した発電力を用いたビジネスもしていたみたいだけど。売電ってヤツかしらぁ?」

 

 

 再生エネルギーの活用が著しく発展した学園都市では、ごくありふれた話である。

 ともあれ、そうした事情があるとなると、いよいよこの施設にいる限り水から離れることはできないのかもしれない。奇しくもアックアにとってはホームステージに近しい条件だ。

 

 と。

 

 ボゴン!!!! と、天井付近から『何か』が突き抜けるような音が響き渡った。

 『何か』と表現したのは、その物体が形容しがたい複雑さを持っていたからではない。むしろ、その物体の形状は分かりやすい棒状だった。その物体の不明瞭性を底上げしていたのは、物体そのものの性質ではない。

 

 『速度』だ。

 

 音速をはるかに超える速度で天井を通過した『それ』を目視することなど、人間には不可能。ゆえにその場にいた四人は、単なる氷の投げやりを『何か』としか認識することができなかった。

 そして。

 超音速で通過した氷の投げ鎗は、次にとある事象を齎した。

 その事象の名は、『ソニックブーム』。

 

 超音速を超える物体の移動による余波は、空間全体を席巻し──当然の帰結として周辺の配管を破壊した。

 

 

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最終章 予定調和なんて知らない 

Theory_"was"_Broken.   

 

一四一話:虚ろの玉座にて待ち受ける者

Last_One.

 

 

 


 

 

 

 ──天体水球(セレストアクアリウム)にて大規模な破壊が発生したのと、ちょうど同時刻。

 木原の書(プライマリー=K)への対処を全てシレンに押し付けたアレイスター=クロウリーは、第七学区の『窓のないビル』が見えるとあるビルの屋上で、別行動をとっていたレイシアと合流していた。

 

 

「……あら、遅かったですわね。当麻達とは合流できたんでしょうね?」

 

 

 屋上から窓のないビルを見ていた白黒のナイトドレス姿のレイシアは、つまらなそうに合流した現在の仲間──アレイスターへと視線を向ける。

 

 

「後方のアックアでしたっけ? わたくしが顔を合わせると色々面倒になる可能性があるとかで当麻との接触はアナタに任せたのですから、何もなかったとは言わせませんわよ」

 

「そのことなんだが、上条当麻とは接触できなかった。すまないな」

 

 

 ドゲシ! ドゲシ! ドゲシ!! と少々暴行の音が響き渡る。

 

 

「ふざけるんじゃっ、ありませんわよ!! お使いすらもできない無能でして!? アナタ世界最悪の魔術師とかいう触れ込みなんでしょう!? アックアと激突したって軽く煙に巻けるでしょう!?」

 

「待て! 勘違いするな!」

 

 

 鋭いヒールで蹴り突かれる統括理事長様は、這いつくばりながらそう言って制止する。

 スッと起き上がったアレイスターは、楽しんでいるようにも困っているようにも見えるような表情で言った。

 

 

 

「実は、木原数多に妨害を受けてな。……一応映像を撮っておいた。これを見てくれ」

 

 

 アレイスターの言葉に応じるように、空中にモニタのようなものが浮かび上がる。

 そこには、アレイスターと対峙している白衣の男──木原数多の姿が映し出されていた。

 

 

「……!? 木原数多!? ヤツはシレンの中に憑依しているはずでは!?」

 

「どうやら……『木原』の継承は完了していたらしいな」

 

 

 アレイスターは、深刻そうな声色でレイシアの当惑に答える。

 

 

「『木原』とは、血族の在り方ではない。本質は情報(ミーム)にあると言っていい。私の部下のとある老犬が顕著だがね。……その点で言えば、木原数多は極めつけだ。ヤツは自分の手駒である猟犬部隊(ハウンドドッグ)についても、恐怖と暴力で支配することで部分的に『木原』を継承させていた節があるからな……」

 

 

 『暗闇の五月計画』はメインテーマではないから不完全だったようだが、とアレイスターは呟きつつ、

 

 

「憑依して同じ肉体の中でインスピレーションを与え続けたことで、シレンの思考はある程度『木原』に寄った。そう判断したから、シレンを切り離して活動を開始したのだろう。……おそらくは、臨神契約(ニアデスプロミス)の扱いで競合する私を排除する為に」

 

「…………、」

 

「無論、私による臨神契約(ニアデスプロミス)の利用計画は既に頓挫している。今の私にシレンをどうこうしようという意志はない。だが、向こうはそう思っていないというわけだ。……いや、それより君にとって重要なのは、木原数多はシレンの体質を悪用しようとしている、という点かな」

 

 

 既に、レイシアは拳を強く握り締めていた。

 ──もちろん、このアレイスターの発言はかなりアレイスターに都合よく脚色された事実である。

 たとえばシレンは『木原』の影響など全く受けていないし、木原の書(プライマリー=K)の目的などアレイスターはちっとも分かっていない。

 だが、『木原数多の姿をした存在に上条との合流を邪魔された』のは事実だし、『木原の書(プライマリー=K)がアレイスターを排除しようとしている』のも事実である。

 それを映像付きで提示されてしまった以上、レイシアの目の前には与えられた事実が真実であると判断する以外の選択肢が失われてしまっている。

 

 

「……そこで、窓のないビルだ。あそこは私の本拠地だからな。あそこを奪還できれば、私のとることができる行動もかなり増えるというわけだ」

 

「分かっていますわ。きちんと監視しておりましたもの。でも、アナタが不在のうちに『窓のないビル』に潜入しようとした連中は一人残らず叩き返されていたようですけど」

 

「それは重畳。排除する手間が省けるからな。さっさと戻って反撃準備を整え、」

 

 

 アレイスターがその次の言葉を紡ぐことはなかった。

 何故か。

 

 ドジュオッッッ!!!! という熱線が地上から放たれ、その姿をあっさりと塗り潰したからだ。

 

 

「あ、アレイスター!?」

 

「大丈夫だ! 咄嗟に()()()()!」

 

 

 思わずレイシアが目を剥くと、アレイスターは先ほどいた場所から数メートルほど離れたところで片膝を突いていた。

 表情に余裕はないが、目立った負傷はない。レイシアがその事実を認識する間もなく、アレイスターはさらに声を張り上げた。

 

 

「それより、今すぐここから飛び降りろ! アレを食らえばその身体でもひとたまりもないぞ!」

 

 

 言うが早いか、アレイスターはさっさとビルの屋上から飛び降りてしまう。

 状況は理解できなかったが、レイシアはそれを見て考えるよりも先に躊躇なく屋上からのダイビングを敢行した。途中で隣のビルの壁面に指を立てると、ゴガガガガギギギ!!!! と指をめり込ませて落下の速度を軽減していく。

 

 

「……君、随分その身体に慣れてきたな」

 

「人は慣れる生き物ですわ」

 

 

 軽口をたたきつつ、レイシアは先ほど熱線が放たれた攻撃の発信源へと注意を映す。

 そこには、一人の男が佇んでいた。

 

 ゆったりとした服装を身に纏ったその男は、右肩の辺りから漂うもやのようなものをむしろ見せつけるようにして、第七学区の大通りを闊歩していた。

 男は言う。

 

 

「逆に、だ」

 

 

 あまり鍛えているようには見えない中性的な風貌。

 一見すると爽やかな雰囲気だが、その裏側に蠢く活火山のような威圧感。

 溢れんばかりの自信を隠そうともしない立ち居振る舞い。

 

 男の在り方を説明するなら、色々な表現があるだろう。

 しかし、最も端的な説明があるとするならば、これだった。

 

 『赤』。

 

 ストレートセミロングの赤髪に、赤を基調としたゆったりとした服装。

 

 そして、その右肩から浮かび上がる、巨大な異形の『右手』。

 

 

「右席を三人も費やすような大事業に、この俺様が噛んでいないとどうして納得できていた?」

 

 

 

 神の右席の、最奥。

 『右』を司る、最強。

 ()()()────()()()()()

 

 

「こんなところで接触するとはな。少し予想外ではあったが」

 

「だろうな。この登場は俺様の独断だ。とはいえ、ベストタイミングだったろう? 今なら余計な横槍を入れられる心配もなく貴様を殺せる」

 

「果たして、殺せるかな?」

 

「強がるなよ」

 

 

 あくまでも平然と答えるアレイスターに、フィアンマはせせら笑うような調子で言う。

 

 ──正史において、アレイスター=クロウリーは右方のフィアンマに勝利した。

 その事実を以て、あるいは彼らが構築した計画の精度を以てアレイスターの方がフィアンマを上回っていると判断するのが、おそらく大多数の考え方だろう。

 だが戦闘や開示された事実を一つ一つくみ取っていくと、実はそうではないことが分かる。

 まず、あの時点でフィアンマは手負いだった。その上で、アレイスターは不意打ちでフィアンマの右腕を切り落とし、フィアンマの『聖なる右』を弱体化させた。

 その上で、アレイスターとフィアンマの一騎打ちである。

 弱体化し、『あらゆる対象に勝利する』能力も不完全となったフィアンマであれば、衝撃の杖(ブラスティングワンド)の『相手のイメージする攻撃力の一〇倍の出力となる』能力でも勝利できるはずだ。

 だが──もし仮に万全な状態であれば?

 

 アレイスターがわざわざ不意打ちで右腕を切り落としたことを考えても、この激突ではアレイスターに分が悪いと言わざるを得ないだろう。

 

 

「そもそもお前らは、何故俺様の介入を一度も想定しなかった?」

 

 

 フィアンマは言う。

 

 

「きっと、そこにはこんな考えがあったはずだ。『ただでさえ厄介な神の右席が三人。流石にバッドニュースはここで打ち止めだろう。これ以上何かがあったら、もうどうしようもない』……そんな希望的観測がな」

 

 

 まるで、死刑宣告でもくだすかのように。

 

 

「だが、現実はこうだ。最悪の上に最悪は積み重なり、打開の余地なく現実というものは弱者を押し流していく」

 

 

 『勝利』を司る右手を掲げ、右方のフィアンマは断言した。

 

 

「残念だが、希望的観測に縋れる時間はここまでだ」


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