【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス) 作:家葉 テイク
とりあえず馬場さんに当麻さんにはその場で待機するよう言ってもらいつつ、俺達は
なお、相似さんとはそのタイミングで別れている。一緒に来ないかって提案したんだけど、レイシアちゃんからの猛反発にあってしまい……。あと、相似さん本人からも断られてしまった。
なんでも、相似さんの方は相似さんの方でやりたいことがあるんだとか。ろくなことじゃなさそうだけど、一応もう味方になったので信じることにした。
……しかし、『原典』って誰の事なんだろうね?
俺の心当たりがある範囲では、ショチトルさんかなあ……? でもショチトルさんが自分のことを原典と自称したりするもんかね? エツァリさん相手なら煽りまじりにやりかねない気はするけど。
そもそも、魔道書の『原典』っていう概念がよく分からないんだよな。『正史』でも出てきたのってオリアナさんとショチトルさんのとこだけだったと思うし……。情報が全然ない。えーと、確か、地脈の力とかを使って半永久に動く、破壊不可能な魔術オブジェクト……みたいな雰囲気の概念だったよね?
………………女の人の形になったりとか、すんの? わからん……。
《つまるところ、シレンが『読んだ』ところ以降の展開で出てきた要素というわけではありませんの? 『原典』関連なんてモロにそれっぽいではありませんの》
《まぁ確かに。考えてもしょうがないかぁ》
……レイシアちゃんのザ・テキトーな言葉に、考えるのは無意味だと判断した俺はとりあえずそういうものだと思うことにした。
この世界、わりとなんでもありだもんね。
そうして、『T:GD』を運搬しながら高速で飛行すること、三〇秒ほど。
高空から下を確認しながら空を飛んでいると、見慣れたツンツン黒髪頭が目の端に入った。……おー本当にいた。当麻さんだ。
で、傍らにいるのが……ゆるくウェーブがかった、ブロンドの髪の女性。ただし、恰好がウルトラ煽情的だった。なんというか、身体のラインが出まくっている。簡単に説明するなら……お札で構成されたボディスーツ? 手足はドレスグローブだったりサイハイブーツみたいな感じに成型されているし、腰の辺りにはミニスカートみたいなヒラヒラがあるけど、そのスカートも股間部分は覆われていないので全体的な印象は『えっちなワンピース水着』であった。
あと、胸元の開き方が本当にエグい。谷間どころかおへそまで開かれてる。なんだよあの衣装。
「は、破廉恥な……」「うわっ凄いですわね今の台詞。本物のお嬢様みたいでしたわ」
おい本物のお嬢様!
「ともあれ……、アレが『原典』さんですの?」
俺が懐疑的な声を出してしまうのも、無理はないと思ってもらいたい。
何故なら、この煽情的極まりない……言葉を選ばず表現するならめっちゃエロい恰好の女性を、俺は既に知っているのだから。
レイシアちゃんにも似た、毛先がロールした金色の長髪。
そして、妖しく細められた青眼の眼差し。
確かに彼女は、正史において既に登場しているはずで、この歴史においては登場していない空白の駒だったが──まさかこんなところで、こんな形で出てくるなんて、思ってもみなかった。
「────」
すい、と空を見上げた彼女と、視線が交わる。
彼女の名は、
オリアナ=トムソン。
何故か、此処に来て盤上に現れたのだった。
「えーと、あなたの主観からしてみたら、初めましてになるのかしらねぇ」
「…………、どこか違う歴史で出会ってたみたいな感じですの?」
開口一番。
正式に合流した俺達だったのだが、オリアナさんはそんな意味深なことを言い始めた。なに? 此処に来てタイムパラドックス的な話?
「いやん、そんな話じゃないわ。お姉さん相手に前のめりになってくれるのは嬉しいけど、そんなに焦りすぎるとイロイロ上手くいかないよ?」
《あっ、わたくしコイツみたいなのダメですわ。シレン、あとはパス》
《人間関係の見切りが早すぎるよレイシアちゃん》
まぁ言葉選びのセンスは置いておいても、レイシアちゃん持って回った言い回しの人嫌いだもんねぇ。
ちょっと納得しつつ話し合い担当を変わった俺に対して、オリアナさんはすっと笑みをひっこめて真面目な表情になってから、
「……お姉さんは、言ってみれば魔術サイドのスパイ。オリアナ=トムソン……と呼ばれていた魔術師
「………………魔術師、だったもの?」
「ええ」
首を傾げる俺に、オリアナさん(?)は頷いて、
「実は、お姉さんの肉体は多分、もう既に廃人状態なのね」
「えぇ!?」
そ、そんな馬鹿な…………!? いったいなぜ!?
「そこに繋がる話なんだけどねぇ。お姉さん、さっきも言ったけど魔術サイドのスパイだったの。──話の始まりは、術式を使って学園都市をローマ正教に都合の良い場所に変えてやろうっていう『平和的な侵略』のプロジェクトからなんだけど」
「……そんなの、どこも平和的じゃねーだろ」
「相対的に、って話よ。魔術の炎で街を燃やすような侵略より、術式の効果で自然と人々がローマ正教の味方になるなら、そっちの方が人道的だ──そういう話が、あったのよ」
当麻さんの言葉に少しだけ視線を逸らして言うオリアナさんは、多分もうそんな解決方法が本当に正しいとは思っていないのだろう。……これは想像だけど、多分、件の計画を提唱したリドヴィアさんだって本心からこれが一〇〇%正しい方法とは思っていなかったんじゃないかな。
でも、多分リドヴィアさんがこの方法をとらなければ、もっと被害の大きいやり方が出てきていたのはのちの世界情勢を鑑みても間違いなくて、そういう絡みもあったりしたんだろう。
ま、もう頓挫したんだけどね──と語るオリアナさんは、遠い目をしながらさらに続けて、
「頓挫した理由は、至ってシンプル。
言われて、俺は黙って目を逸らした。
心当たりが全くなかったから──ではない。そう言われてしまうだけの心当たりが、確かにあったからだ。
そりゃ、魔術サイドから見たらそうなるよね! 学園都市の
「……ま、そうよねぇ。辞めといて正解だったよ、アレ」
……完全に勘違いなんだけど、実際に
「ただね、敵に読まれていたから作戦を中止させました──だけじゃ、組織としてのメンツっていうのが立たないっていう人が上層部に一定数いてねぇ……。要は、『こっちは作戦なんかやるつもりはなくて最初からスパイのつもりでしたよ』ってポーズを取りたかったわけなのよ」
「あー……」
大変だなあ、派閥政治。多分責任者の人が他の上層部の人につつかれたりするんだろうね。
いやいやいや、俺も最近レイシアちゃんの補佐でちょこちょこそういう領域に首突っ込んでるから分かるけど、大変だよねぇああいうの。まぁそれに振り回される現場の人はたまったもんじゃないとも思うけど……。
「で、もともとの計画で実働部隊だったお姉さんがスパイ役に任命されたって訳。ま、お姉さんアレからソレまでイロイロと器用だからねぇ……」
なるほど、『正史』と違ってオリアナさんがこの時期まで学園都市にいた理由は良く分かった。
土御門みたいな二重スパイじゃなくて、真実ただのスパイとして乗り込んでいたわけだ。
「その後は、主にブラックガードさん、あなたのことを監視していたの。そっちのツンツン頭クンもそうだけど、この街において科学と魔術が縺れ合う特異点にはあなたがいたからね」
いや、普通に当麻さんの方が重要度で言っても高いと思うけど……いや、考えてみれば大覇星祭が終わった後の魔術サイド絡みの事件ってアドリア海の女王の件くらいだっけ? オリアナさん視点だと、今も継続的にステイルさんとか神裂さんとかと手紙のやりとりしてたり、配下にショチトルさんがいる俺達の方が要監視対象……いやマジでこうやって書くと監視対象以外の何物でもないな俺達!?
っていうかここまでやっといてよく魔術サイドの人たちから「お前を野放しにしてたらヤバイので殺します」みたいな感じにならなかったなホント! ……そっち系の人は当麻さんに行ってたんだろうか。不幸だし……。
「ただね……ちょっと、問題が起こっちゃって」
自分のしてきたことに地味に慄いていると、オリアナさんはそう切り出した。
……それが、廃人状態っていうところに繋がってくるのか。
「実は、お姉さんはスパイ活動がこの街の『暗部』にバレちゃったの。頑張って逃げたんだけどねー、この街の『闇』に属する人たちがなかなか休ませてくれなくて。結局お姉さん音を上げちゃって、最後には捕まっちゃったのね。そしてお姉さんを捕まえた男の名前が」
オリアナさんは一呼吸おいて、
「
………………。
なんというか。
全部が、繋がってきた。そんな感覚がした。
「多分、木原数多はお姉さんのアタマの中から色んなヒミツを抜き出してるでしょうね。お姉さんも、緊急用の準備はしているから正教の情報までは抜かれてないと思うけど……多分、備えが機能しているならお姉さんの本体は今頃廃人かな」
数多さんが魔術を利用しようと考えた理由。
それは、実際にオリアナさんの脳の中身を覗いて魔術の知識を得たからだったんだ。そして……おそらく、廃人になってしまったオリアナさんからさらなる技術情報を得る為に、食蜂さんの
「それでは……今わたくし達の目の前にいるアナタ自身は?」
「んー、
さっと説明するオリアナさんは、多分事情をそこまで理解してもらうつもりはないんだろう。
此処にインデックスがいればそれがどれだけ凄まじい事態かは説明してもらえたと思うけど、此処にはいないし。俺達に分かるのは、オリアナさんが今置かれている状況は『正史を含めても今までで類を見ない異常事態』ってことくらいだ。
科学サイドで類似の事象をさらってみると、一応この間の事件で登場した悠里千夜さんの状況が該当するけど、これはまたちょっと凄さが違う話だと思う。
「その後は、捕縛されたお姉さんの本体を囮に逃走成功。……でも、まずは木原数多をどうにかしなくちゃいけないから、どうにかできそうな人に助けを求めた──ってことになるのかしらね」
ああ、それで当麻さん……。
……いやいや、そういうタイミングのオリアナさんと出くわすあたり、当麻さんは本当に持ってるよね。
「それはちょうどよかったですわね。こちらとしても、数多さんに大事な人を攫われておりまして。確保する為に動いておりましたの」
「そういうわけだ。やることは変わらねえよ。……ただ、お前はいいのか」
当麻さんは、そう言ってオリアナさんを見据える。その表情には、不安が見て取れた。
……ああそっか。当麻さん、直近で見ちゃってるもんな。自分が『偽物』だと知って、それで絶望しちゃった子を。そういう苦しみがあるってことを知っちゃってるんだもん。実際にその苦しみを抱えているであろう人を前にして、何も思わないなんて器用なことができる人じゃない。
「あはは、お姉さんのこと心配してくれてるの? 嬉しいわね。……でも、心配には及ばないわ。たとえお姉さんがお姉さんでないとしても、この胸に刻んだ一つの願いまで偽りになるわけじゃないもの」
そう言って、オリアナさんは胸に手を当てる。
それは、まるで宗教画のように神々しい姿で。
「……『
「…………すまない」
その答えを聞いて、当麻さんは深々と頭を下げた。
「つまんねえことを聞いちまった」
「いいえ? たまには優しいのも悪くないかなって。お姉さんちょっとだけ悦んじゃった」
そんなことを言い合いながら、俺達は一旦足を止める。
そこには──一棟の廃墟が建っていた。
『……此処からショチトルの反応がある。廃墟だが中はかなりしっかりした研究所らしいぞ。三人は今も探索中だそうだ』
『T:GD』ごしに、馬場さんが状況を連絡してくれる。
よかった、まだ三人は交戦中とかじゃないんだね。
「三人とも、準備はいいか?」
「ええ、もちろん」
「お姉さんもいつでもイケるわよ?」
『サポートくらいならいくらでもしてやるさ』
俺達三人の返事に頷き、当麻さんは言う。
「んじゃ──取り返しに行くぞ。食蜂も、那由他も、オリアナも。……木原数多に奪われた人達、全てを!」
感想欄を見たら速攻でオリアナさん原典化展開を読んでる人がいてビビっちゃいました。キャラ魔改造の手口が完全にバレている……。