【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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おまけ:深刻なる難問 ⑦

「…………どういうことですの……?」

 

 

 二人の助太刀を受けて地に降りたレイシアの第一声は、困惑だった。

 無理もない。少なくともレイシア=ブラックガードの目を通して見たこの事件において、フレンダ=セイヴェルンと浜面仕上はこういった行動をとるような存在ではない。浜面はともかく、フレンダはこういった強大な敵に対して自分から立ち向かうようなキャラクターではないだろう。

 

 

「なぜ、この局面でアナタ達が? アナタ達は早々にこの戦闘からは離脱したはず…………?」

 

 

 対するフレンダや浜面も、その困惑は当然のものとして受け止めていた。笑みすら浮かべ、フレンダが言う。

 

 

「微細乙愛って女は、結局私の友達だったって訳よ」

 

 

 拳を、握りしめる。

 その言葉だけで、上条当麻はあらゆる疑念を放り捨てる覚悟が決まった。こんな声色のヒーローに対して疑義を向けるなんて、それだけで失礼なことだ。

 さらに追い打ちをかけるように、フレンダは続けた。

 

 

「あの化け物兵器は、微細のヤツの技術を使っている。ドSな上に無茶ぶりもするクソ野郎だけどね。結局、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「チッ。別に俺にはこんな御大層な理由があるわけじゃねえけどよ」

 

 

 上条の手前だからだろうか。浜面は居心地悪そうに毒づきながら、

 

 

「アレをぶっ壊してくれって、お願いされちまったからな。美女の頼みは断れねえだろ」

 

「……そっか」

 

 

 そして、上条はそんな浜面に対して多くを語らなかった。

 上条も、浜面のことは覚えている。あの夜、手前勝手な理屈で御坂美鈴を殺そうとしたこの少年に対して拳を振るった記憶は、まだ新しい。

 だが、その上条から見ても、目の前の男はあの夜とは別人のように見えた。あるいは──本来持っていた魂の輝きを取り戻したか。

 

 

「なら、此処は任せていいよな」

 

 

 上条は、握った右拳に視線を落としながら言う。

 

 

「俺は、吹っ飛ばされた幻生の方へ行く。さっきの戦闘でだいぶ消耗しているはずだし、こっちの時間はもうそんなに残されていないと思う。早く幻生を倒さないと……塗替が本格的にヤバイからな」

 

 

 あとは、言葉は要らなかった。

 四人のヒーロー達は、互いに頷き合って己の役割を果たしに行く。

 

 

 


 

 

 

第三章 魂の価値なんて下らない Double(Square)_Faith.

 

 

おまけ:深刻なる難問

>>> 第二一学区方面操歯涼子争奪戦 

 

 

 


 

 

 

 夜の山林の中を、フレンダと浜面は猛然と駆け回る。

 空の上では、レイシアが『亀裂』の翼をはためかせて宙を舞っている。音速で駆け回るレイシアは、今のところはマイクローブリベンジと間合いをとっている段階のようだった。

 

 

「さてナイト様。とうとうヒーローまみれの場違いな戦場になっちまったが、これからどうするつもりだ?」

 

 

 上空では、レイシアがちょうど能力を攻撃の為に発動したところだった。

 まるで白黒の稲光のように空を『亀裂』が閃き、マイクローブリベンジに襲い掛かる。しかしマイクローブリベンジはこれをいとも容易く回避し、返す刃でレールガンをレイシアに叩き込む。

 レイシアもこの程度は躱してみせるが、難なく──とはいかない。

 砲撃の威力が、あまりにも高すぎるのだ。

 砲撃そのものを回避したとしても、その周囲に発生する気流の乱れだけで十分致死たりうる。気流を操ることができるレイシアだからこそなんとか耐えきれているが、それにしたって長続きする均衡でもないだろう。

 

 その様子を横目に見ながら、浜面は言う。

 

 

「天下の超能力者(レベル5)サマが来てくれたことでこっちは大分楽になったが、マイクローブリベンジは超能力者(レベル5)が出てきたからってどうにかなる領域じゃねえぞ。一機で世界中の戦争を丸ごとぶっ壊したって不思議じゃない。壊したってすぐさま修復されちまうなら、そりゃもう無敵としか言いようがないだろ」

 

「…………いや、その結論はまだ早いって訳よ」

 

 

 少し考えたフレンダだったが、やがてそう切り出した。

 

 

「また足元を壊してみればどう? すぐに修復されるかもしれないけど、裏第四位(アナザーフォー)がいるこの局面で移動が停止するっていうのは結局致命的って訳よ。一瞬でも動きが鈍れば、その間に機体を真っ二つにできる。『亀裂』さえあれば修復も阻害できるし……っていうか、マグマを生み出せる動力炉が破壊できれば問答無用で大爆発なんじゃない?」

 

「いや」

 

 

 人差し指を立てながら提案するフレンダだったが、対する浜面の返答は否定だった。

 浜面は天文台でくすねてきたらしき片手持ちの望遠鏡をフレンダに手渡しながら言う。

 

 

「そいつでマイクローブリベンジの野郎の足元を覗いてみろ」

 

「……? 足元がどうかしたの……、……ッ!!」

 

 

 怪訝そうな表情を浮かべつつ望遠鏡の中を覗き込んだフレンダは、ほどなくして息を呑む。

 マイクローブリベンジの鎧袴のような形状の推進装置。今までは下部は大きく広がってマグマを噴出する機能を重視していたが、今はそこに開閉する蓋のようなユニットが追加されていたのだ。

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 考えてみれば当然のようにも聞こえるが、これは実際のところそんなに簡単な話ではない。何せ、兵器というのは莫大な計算のもとに成り立っている一つの電子工芸品でもあるのだ。その場のインスピレーションで機能を追加すれば、それが思わぬ形で発露して自分の首を絞めることだってある。

 それを、戦闘中にやってのけるという芸当。おそらくはドッペルゲンガーという機械の脳だからこそなしえた芸当だろうが、それにしたって凄まじい対応力である。

 

 

「……操歯涼子。代替技術を極めた科学者と一年間同化していたサイボーグ、ね……」

 

 

 ただの機械ではこんなことはできないだろう。

 ドッペルゲンガーだからこそ、というわけである。

 

 とはいえ──状況は悪くなっている。足元の破壊が意味をなさなくなったということは別の策を立てなければならないのだが、フレンダの手持ちの爆薬で破壊できるのは精々装甲の表面程度。それにしたって簡単に修復されてしまう程度のものでしかない。

 ならばレイシアのサポートに回ろうとしても、そもそも足を止めることすらできないとなると、本格的に手詰まりになってしまう。

 

 と。

 

 そこで、望遠鏡を預かって敵を観察していた浜面は、あることに気付く。

 

 

「そ……そういえばよ。そもそも、なんでマイクローブリベンジは第三位の磁力を使ってまで『口径可変式のレールガン』なんてモンを主砲にしてるんだ?」

 

「はあッ? そりゃ、…………」

 

「だって、おかしいだろ。わざわざ一発撃つごとに主砲を再構築する手間さえなければ、ヤツはあの一撃をジャブみたいに乱射できていたはずだろ。そうなっていれば、今頃裏第四位(アナザーフォー)だってあっさり倒せていたはずだ。なのに連撃不能のリスクを背負ってまで、どうしてあんなややこしい仕組みになっているんだ……?」

 

 

 言われて、フレンダの脳裏にもう一つの疑念が浮かび上がる。

 それは、フレンダが美琴とぶつかる前のこと。ドッペルゲンガーは、木原数多と接触する前に一度操歯涼子と接触をとったらしい。

 そしてその際、ドッペルゲンガーは操歯涼子を殺害しようと動いていたという。

 

 

(操歯涼子の殺害未遂。そことマイクローブリベンジによる大暴れがイマイチ繋がってこなかったのが、疑問といえば疑問だった。まぁ、私達にはカンケーないからって放置していたけど……もし、二つの事象が根本的に一つの目的の上に重なった行動の結果だとしたら?)

 

 

 操歯涼子の殺害未遂。

 

 マイクローブリベンジの運用。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 これらが指し示す答え。

 それは────。

 

 

「…………浜面、でかした!!」

 

 

 なんのことはない。

 答えは最初から出ていたのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 


 

 

 

【マイクローブリベンジ】

  MICROBE REVENGE

全長約150m(本体は50m)

最高速度時速320キロ

装甲10センチ厚×50層(微生物や溶接など不純物含む)+磁力式自動回復機能

用途遅延戦闘兼極地暗殺用兵器

分類山岳地帯特化型第二世代

運用者ドッペルゲンガー(木原数多)

仕様静電気+過加熱炭化微生物放出式

主砲空中浮遊式可変口径レールガン

副砲なし

コードネーム微生物の逆襲(根幹システム含め微生物が使用されているところから)

メインカラーリング

 

 

 


 

 

 

 ──レイシアは苦戦していた。

 

 躱すだけでもこちらの体勢を崩されるほどの威力の砲撃もそうだが、戦闘時間が五分一〇分と伸びていくにつれて、徐々に『スタミナ』という埋めがたい性能差が少しずつ顕在化してくる。

 それも当然。相手は機械でこちらは生身。そしてレイシアは能力をフルに使うことで音速機動の反動を相殺している。戦闘についていくだけでも脳をフル稼働させているのだ。ただでさえレイシアは今日既に誉望、麦野と連戦している。もうそろそろスタミナも尽きかけてくる頃だ。

 

 

《シレン……大丈夫ですか……!?》

 

《まだまだ……いける……けど……》

 

 

 とはいえ、『ここが限界』という感覚は二人にはなかった。やろうと思えば、まだまだやれる。

 ただ、原因不明の悪寒があった。

 これ以上進めば戻れなくなる。そんな悪寒が、二人にさらなる死力を尽くすことを躊躇させていた。

 

 

《なら、どうします? これ以上じり貧をやって死んでは笑い話にもなりませんわ。今ある手札で済ませるには、いったい!?》

 

《…………まずは、認めよう》

 

 

 この苦境において、シレンは諦めたような雰囲気を漂わせて言う。

 即座に反駁しようとするレイシアを宥めるように、

 

 

《恋査さんのシステムを限定応用した、超電磁砲(レールガン)の借用。あの巨体を運用しているところを見る限り……多分、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだと思う。もう一人の操歯さんの扱う『憑依』……あれは多分粘菌による物理的な操作だから、あの粘菌を使って演算回路を形成すれば……》

 

《……! ()()()()()()()()()()()!》

 

《その通り。それを機体全体に張り巡らせれば、機体の全域を『自分の一部』と定義することはできるだろうね。……そして、第三位の能力を第三位以上の演算回路と規模で運用するような相手に、裏第四位(アナザーフォー)の俺達じゃ逆立ちしたって勝てやしない。まずは、それを認めるんだ》

 

《…………、》

 

 

 普段ならばコンマ一秒も持たずにムキになるような言いぐさだったが、しかしレイシアはいつもと違い冷静にシレンの言葉に聞き入っていた。

 なぜならば。

 

 

《諦める……というには、随分不敵な声色ですわね?》

 

《俺達じゃ逆立ちしたってアイツは破壊できない。勝てない。……でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?》

 

 

 シレンは、悪役令嬢のような不遜さを瞳に秘めながら言う。

 

 

《狙うのはアイツ自身じゃない。地面だ。山を『亀裂』で分断していくんだ》

 

《……足場を崩す、と? それで勝てると思うのは楽観が過ぎるのではなくて? あの推進装置は足場の崩落に強そうですし、仮にそれでは防ぎきれない大規模な土砂崩れを起こしたとしても……『自動修復機能』はつまり、機体の再構築(リビルド)を意味しますわ。より足場の悪い環境に適した機体に再構築してしまえば、元の木阿弥では?》

 

《その場はね。……でも、その後は? 足場の崩落のあとは『残骸物質』の障害物を出そうか。それはどう克服する? 克服していくたび、アイツはその場しのぎの機能をゴテゴテと取り付けていくことになる。兵器っていうのは全体像が計算されたうえで設計されているんだ。その場のインスピレーションで機能を追加していけば、最終的に牙が大きすぎて絶滅した古代生物みたいに機能のアンバランスさで自滅するんじゃないか?》

 

《あ……!》

 

 

 自分が起点となって積極的に『倒す』のではなく、徹底的に相手に『誤った学習』をさせることで、自滅を誘発させる消極策。

 恐ろしいことに、超能力者(レベル5)たる白黒鋸刃(ジャギドエッジ)ならばそれが可能なのである。

 徹底的に地形を変え続け、それに場当たり的に対応させることで機体をアンバランスになるよう誘導し、しかる後に自滅させる。確かに有用な策だろう。強いて問題点を挙げるとするならば、レイシアに時間稼ぎを任せて何やらいろいろと動いている二人の無能力者(レベル0)がその影響をモロに受けそうという点だが……。

 

 そこで、シレンは遅まきながら気がつく。

 

 フレンダと浜面が、その影響をモロに受ける。

 

 ………………………………。

 

 

《……レイシアちゃん、やっぱやめよ、》

 

《やりましょう! これしかありませんわ絶対に!》

 

《ちょ、レイシアちゃん!? 自分で言っておいてなんだけどこの作戦、浜面さんとフレンダさんの安全を全く考えてないんだよ!? 土砂崩れやら『残骸物質』やら、そんなのが飛び交う戦場に二人を送り込むわけにはいかないでしょ!?》

 

《おバカ! あの二人がそのくらいで死にますか! むしろ良い感じに生き残って良い感じに仕事してくれるに決まっていますわよ! そういうわけでプラン決行異論は聞きませんわ!!》

 

 

 シレンの指摘を華麗に無視したレイシアが、本格的に作戦行動を開始しようとした、その直後。

 胸ポケットにしまっていた携帯端末が、通話を受信した。

 

 

「…………」

 

『あ……! よ、よかった。レイシアか』

 

 

 機先を挫かれたレイシアが憮然としながら通話ボタンを押すと、そこから聞こえてきたのは彼女の友人であり、今まさに戦っている機械人形と同じ顔をした少女──操歯涼子の声だった。

 

 

「……? 操歯さん? どうかしたんですの? あ、馬場に任せていましたが無事に避難できて、」

 

『それなんだが……すまない』

 

 

 そして操歯が続けた次の言葉に、レイシアのプランは早々に崩壊することとなる。

 彼女は、こう続けたのだった。

 

 

 

『あの、妙な二人組に連れられて山に戻ってきたんだが、君と合流するには、どこに行けばいい?』

 

 

 

「あ…………あの馬鹿二人…………!!!!」

 

 

 脳裏に思い浮かぶは、なんかムカつく感じで笑っている金髪と茶髪の無能力者(レベル0)ども。

 レイシアは万感の思いを込めて、こうつぶやいた。

 

 

「オシオキ、カクテイですわ…………!!!!」


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