【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス) 作:家葉 テイク
マグマによって地面を舗装し終えた山岳の王者は、その場で移動せずに即座に主砲を振り回した。
ぐりん!! と回転した主砲に思わず息を呑んだフレンダと浜面だったが、しかしマイクローブリベンジの狙いは二つの小さな綻びには向けられなかった。
代わりに向けられたのは、空。
「ひょほ、どうやらさっきまでのドッペルゲンガー君は単なるデコイにすぎなかったというわけみたいだねー……!」
デコイのドッペルゲンガーを破壊した幻生は、その手ごたえを見て忌々しそうに顔を顰める。
──デコイのドッペルゲンガー。それが意味するところはつまり、
そしてそれは、それまでデコイのドッペルゲンガーを破壊するのに手間取っていた幻生にとっては限りなく悪い情報だった。
そこで幻生は、思考を切り替える。
つまり、二つの魂に耐え切れないがゆえに不安定な出力となっている器での独力解決を目指すのではなく、この戦場にいる他の駒を利用する方向へと。
(とはいえ上条君は僕の憑依を解除させようと動いているからねー。彼に今以上の自由を与えては、却って僕自身の首を絞める結果になりかねない……。……とすると、誘導するならばブラックガード君か……、)
そこまで考えて、幻生は眼下へ視線を向けた。
そこには、けなげにバイクで山道を走り回っている金髪と茶髪の二人組。
(……うーん、アレじゃあどうにも、力不足が否めないねー)
路傍に転がる石を迅速に意識の隅へと追いやると、幻生は他の役者へと目を向ける。
(麦野君……はブラックガード君に早晩倒されそうだ。数多が面白そうなことをやっていたようだけど、あの程度じゃねー。……とすると、その数多を攻略しそうな帆風君かな? 相性は悪そうだけど、目くらまし程度には使えるだろうからねー)
当然、相手が相手だ。マイクローブリベンジの装甲を帆風が貫くことは難しいだろうし、仮に貫けたとしても生身では直径五〇メートルの巨体と激突するだけでミンチになるしかないので、当然捨て駒としての運用になるわけだが……所詮は裏技でも
そう考え、帆風を戦闘に巻き込もうと急降下しようとした、その瞬間。
カッ!!!! と帆風から突然電光が迸る。
それは、帆風が──否、『
一定の間隔で明滅する光によって、光過敏性発作を引き起こす一手。
それは、当然ながら木原数多に向けられたものでもあったが──
「な、ば……ッ!?」
今の幻生は、塗替の肉体を乗っ取った状態。
即ち、元のサイボーグではない完全なる『生身』。当然ながら生理反応も、通常の生体同様に存在するわけであり──有り体に言って、幻生の意識は一瞬『飛んだ』。
そしてその一瞬は、マイクローブリベンジとの戦闘においては文字通り致命的だった。
ゴギン、とマイクローブリベンジの主砲が、脈動するようにひときわ巨大になる。全長一〇〇メートルにも及ぶ巨砲に一瞬にして変貌したマイクローブリベンジの白亜の主砲は、過たず木原幻生に照準を合わせると、
キュガッッッッッッッ!!!!!!!! と。
光の柱で以て、幻生の姿を塗り潰した。
「ぎゃ、ぎゃあああああああああっっっ!?!?!?!?!?」
同時刻。
山の斜面では、バイクから転げ落ちて二人して地面を転がる二人の馬鹿がいた。
マイクローブリベンジが木原幻生に放ったレールガン。これは今までのそれよりも桁違いの出力を誇っており、その余波として放たれた光だけでも殺人的な暴力を秘めていたのだ。
幸いにも森の中を走行していた二人はその光を直視していたわけではないが、木々越しに浴びた光だけでも馬鹿二人を地面に転がすには十分すぎるダメージであった。結果、バイクから転げ落ちた二人は落ち葉の上でのたうち回るハメになった。
転げ落ちた拍子に木々に激突したりしなかったのも含め、何気に運のいい二人である。まぁ、『たまたま光を直視してしまった不運』に比べれば大した幸運でもないが。
「なぁっ、な、な、何あれ!? 結局さっきまでとは威力が桁違いじゃない!?」
「クソったれ……、あの野郎、さっきまでのは慣らし運転だったんだ! おそらく第三位の能力を完全にジャックできてないとかで、不安定な出力だったんだよ!!」
目を瞬かせながら言う浜面だったが、発覚した事実はさらなる絶望を煽る材料でしかない。
しかもたった今、幻生がその攻撃をモロに浴びたのだ。目下の脅威が一つ消えたことで、盤面に占めるマイクローブリベンジの影響度はさらに増したと言わざるを得ない。
ここから先は、マイクローブリベンジの気まぐれ一つでこちらの命が消し飛びかねなかった。
「まぁ、あの程度で死ぬジジイではないと思うけど……結局、一時戦線離脱は免れないでしょうね。ったく、なんであっさり吹っ飛ばされてんだか……」
「だが、この後どうする? このままだと俺達の身の安全まで危うく……、」
と、浜面が弱気な言葉を漏らしかけたそのときだった。
ギギギ、と不吉な音を奏でながら、巨大な砲身が小さく組み変わりながら、下へと照準を定め始めたのだ。
ぎょっとしたのはフレンダと浜面である。
何せ先ほどまでマイクローブリベンジの足回りに攻撃を仕掛けていた張本人である。幻生が戦線から離脱した戦場においてマイクローブリベンジから最もヘイトを稼いでいるのは当然この二人。狙われるのも必然──と思ったのだが。
グイン!! と、マイクローブリベンジはもう幻生もいないのに高速起動を行う。まるで、射角を調整するような小刻みな移動を怪訝に思うフレンダだったが──やがて気付く。
マイクローブリベンジの目的は、自分たち二人ではないことに。
「そうだ……! アイツよ。敵の狙い!!」
「はぁ!? 誰だっつーんだよ、俺達以外にあの化け物に立ち向かおうなんて馬鹿は……、」
「
フレンダは人差し指を立てながら答える。
確かに、レイシアは『亀裂』の翼で空を縦横無尽に駆け回ることができるし、『亀裂』による攻撃は切断と同時に修復を阻害する効果もある。まさしく、マイクローブリベンジにとっては天敵となりうる能力なのだ。
それを考えれば、おそらく麦野を下したであろうレイシアにマイクローブリベンジが狙いを定めるのは不思議な話ではない。
「そうか……! ってことはヤバくねえか!? いくら
「当然! 結局、此処で黙って見ているなんて選択肢はあり得ないって訳よ!」
「じゃあどうすんだ!?」
切羽詰まった浜面の問いに、フレンダは脂汗を滲ませた笑みを浮かべながら答える。
「助けるに決まってんでしょ。最弱の
バイクを
最弱の
お題目は立派だろう。
では、具体的にどうやって助けるか。
フレンダの『爆破』では、真正面からぶつかってもマイクローブリベンジに手傷を負わせることはできないだろう。これについてフレンダは、一つの答えを持っていた。
「そのためには……浜面、アンタの協力が必要不可欠だからね」
『……分かってるよ。あークソったれ。今この時点でマイクローブリベンジが俺のことを狙ったらと思うとマジで心臓が縮み上がるぜ……』
無線で適当に言い合いながら、フレンダは地面を確認していく。
バイクで逃走している合間にも、既にリモコン式地雷はバラ撒いておいてあった。マイクローブリベンジが真上に来たタイミングで起爆すれば先ほどと同じように足場を破壊することができるだろう。
だが、それだけでは噴出口を破壊することはできない。とはいえ。
「にしし、そんなもん、結局工夫次第でどうとでもなるって訳よ……♪」
爆発物を操る。ただのその一点だけで
「それより、アンタよアンタ。浜面の準備は大丈夫? 結局、アンタがちゃんとしなけりゃこっちの準備も水の泡なんだけど」
『…………分かってるよ』
対レイシアの為か、持ち前の高速機動を使いひとところに留まらないマイクローブリベンジだが、これは一方で一つの問題を孕んでいた。
リモコン式の地雷では、マイクローブリベンジが通過したタイミングで起爆することが難しいのだ。
先ほどまでは出力が劣っていたからか移動もそこまで早くはなかったが、今はもうそんな様子は全くない。フレンダが地雷を炸裂させるには、どうしてもルートを限定する必要があるのだ。
そのための策として──
「…………妙だな」
その時。
ラディケイト087──フレンダ達からはマイクローブリベンジと呼称されている巨大兵器のコックピット内で、ドッペルゲンガーは小さく呟いていた。
その周辺は、まさしく異形と表現するほかなかった。
直径三メートル程度の球状の空間の中心に位置するドッペルゲンガーは、真っ白い粘菌で形作られたボディスーツに身を包んでおり、その粘菌がまるでドッペルゲンガーを操り人形のように空中に固定している。
球状に切り取られたような空間の壁には真っ白い粘菌がまるで網脂か何かのようにびっしりと張り付いており、そこから棒状の機器が何本も伸びて蠢くように左右に揺れていた。
コックピットでありながら、巨大な怪物の胃の中のような威容。
無機と有機の冒涜的な融合。
ドッペルゲンガーという機体のコンセプトを、これ以上ないほど明確に表現した光景だった。
「
ドッペルゲンガーが木原数多と交わした契約には、
あとはなるべく改造によって得た己の能力を外界に披露してくれと言われているが、これは努力目標に過ぎない。自分に噛みついてきた者達がどう逃げまどおうと、そんなものは目標達成にとってはどうでもいい些事に過ぎない。
ただ、一度は足場まで破壊してこちらの動きを止めようとしてきた二人組だ。おそらく何かしらの強力な目的を帯びているだろうに、まださしたる反撃を受けたわけでもないのに尻尾を巻いて逃げるというのは考えづらい。
おそらくは、何か作戦を練っているのだろうが……。
「…………
だがしかし、圧倒的優位がゆえにドッペルゲンガーはその先にあるフレンダの策も読んでいた。
「まぁ、その程度ならば
そう呟き、ドッペルゲンガーは完璧に思考を切り替える。
ラディケイト087にはいくつものセンサー群が積まれている。電磁気センサー、赤外線センサー、光学センサーといったセンサー群の大半は幻生との戦闘では大量にばら撒かれた力の余波によって無効化されていたが、その幻生が戦線から離脱した今となっては本来の機能を復旧させている。
その今ならば、地面に設置されている地雷を確認してから修復機能を稼働させる程度のことは訳ないのである。
「………………、」
そこで、ドッペルゲンガーは計器の乱れに気が付いた。
具体的に言うと、電子系・赤外線系のセンサーにジャミングが施されたのである。確認してみると、天文台の一つから放たれた電波によってセンサーがジャミングされているようだった。
「……なるほどな」
これを見て、ドッペルゲンガーも得心する。
学園都市に配備されている最新鋭の天文台では、赤外線を用いた天体望遠鏡も当然存在する。
その機器のパラメータを操作すれば、確かに即席のジャミング兵器として運用することもできるかもしれない。
そしてジャミングによってセンサー機器がダメになれば、足元がおぼつかなくなったラディケイト087の隙を突いて地雷の攻撃を成功させる可能性も、なくはない。
だが。
「甘いな」
短く呟き、ドッペルゲンガーは腕を振るう。
するとその動きに合わせて細く伸びた無数の菌糸がたなびき、その動きに応じて細長い鉄棒がさざめきのように右へ左へと揺れた。
そしてその動きは、外界にて『旋回と主砲の照準』という結果として出力される。
「確かに、目標以外の犠牲は少ないに越したことはないが…………」
ドッペルゲンガーは、きわめて冷徹に、
「別に私は、目標達成に必要な犠牲を厭う性格ではない」
人から死体という最後の尊厳を奪う主砲のトリガーを、引いた。
「どっわァァあああああああああああああッッッ!?!?!?!?」
一方そのころ、浜面は何気に九死に一生を得ていた。
言うまでもなく、先ほどの天文台の天体望遠鏡を改造したセンサーへのジャミングは浜面の仕業である。
正確には、その道のプロである微細乙愛のレクチャーを聞いた浜面の仕業、だが。
『大丈夫なの……!? 今凄い音がしたけど』
「なんとかな! クソったれ、こんな命がけの賭けはもう二度としねえ!!」
乱暴に叫んで通信を切った浜面は、立ち昇る白煙を背にしながらその場に座り込み、背後に立つ女に声をかけた。
「ヘイ命知らず。地獄の景色はどうだった?」
「そりゃこっちの台詞よ無鉄砲。結局、九死に一生を得た感想は?」
「…………」
二人の馬鹿は顔を見合わせ、同時に答えを言い放つ。
「「最悪だったに決まってんだろこの馬鹿野郎」」
直後。
マイクローブリベンジの足元が、音を立てて爆裂した。
『結局、足場崩しって訳よ!』
その数刻前。
フレンダは確かにそんな宣言をしていた。
当然、開口一番にこの発言を聞いた浜面は、渋い顔をする。
『またかぁ……? 結局は足場の破壊もマグマ噴出で無効化されたじゃねえか。むしろこっちが危うく溶岩流に呑まれて死ぬところだったのを忘れたとは言わせねえぞ』
『もちろん、全く同じことをやれば同じ展開の焼き直しでしょうね。でも、私だってちゃ~んと考えがあるって訳よ』
自信満々に言うフレンダは、人差し指を立てながらこう続ける。
『結局、前回私が失敗したのは、向こうの手札をきちんと把握していなかったからって訳よ。あのとき私はマイクローブリベンジの修復機能は想定していたけど、マグマ噴出機能までは想定していなかった。その現実との誤差が、失策として跳ね返ってきたって訳よ』
『失策のツケが即・死に直結するってのも怖ええ話だけどな……』
『ま、死ななかった私の勝ちとは言えるかもしれないわね』
にしし、と笑うフレンダのポジティブさに浜面は苦笑しながら、
『で、具体的にはどうすんだ?』
『次は真っ先にマグマ噴出口を破壊する』
フレンダはハッキリと断言した。
『あのマグマ噴出の用途は、足場を破壊されたことによる体勢の悪化を軽減する目的と、足元に群がる雑兵の駆除。つまり、体勢が悪化した瞬間にはもう起動していなければ機能としての意味がないって訳よ。でも……』
フレンダは握り拳を爆発させるかのように思い切り広げて、
『……足場を破壊したときに、一緒にマグマ噴出口を破壊していれば……敵はマグマ噴出と修復機能を同時に使えないから、どう足掻いても足を止めざるを得なくなる』
『そりゃそうだけどよ……。でも、爆発と同時に噴出口を破壊するなんてできるか? 相手は爆発しようが即座に修復するバケモンだぜ。正直同じ場所への攻撃が二度通用するとは思えねえけどよ』
『そこは問題なし。……たとえば、噴出口内部で爆発が起きればどうかしら?』
『…………、』
『地面を爆発させるときに、一緒に爆発物も吹っ飛ばすのよ。爆発の勢いで噴出口内部に爆弾を送り込むわけ。機内で爆発すれば、流石の巨大兵器サマだってひとたまりもないって寸法な訳よ』
それは、もう曲芸というレベルですらないだろう。
まず、爆発の衝撃で爆発物だって誘爆するのが常識である。それを、『爆発させずに爆風には載せる』なんて、殆ど魔法の領域だろう。
しかし、フレンダは──爆発物の扱いのみで暗部の一角に君臨する女は、さも当然のことのように話す。
『爆発なんてのはね、結局、酸素と爆薬の化合でしかないって訳よ。つまり、爆発物を真空状態にしておけば、その外で核戦争が起きようが爆発物は絶対に起爆しない。たとえば、日焼け対策のハンドクリームなんかでもいいわね。乙女の必需品だけで、起爆の無効化なんてわりと容易にできる訳よ』
ただし、いくらフレンダが爆弾のプロでも、工作自体は現地に赴かないとできない。
その穴を埋めるのが、浜面の仕事というわけだ。
『その工作をするための時間稼ぎに、天文台を使ってほしいのよ』
『……天文台?』
首を傾げる浜面に、フレンダは頷く。
『そ。第二一学区は山岳地帯で天文台も多い。んでもって、天文台は別に馬鹿正直に望遠鏡で夜空を覗くだけが仕事じゃない。むしろ、現代の天文台は電波やら赤外線やらを飛ばしたり受信したりするのが仕事な訳よ。……だからこそ、火星からのメッセージだって受信できたんだからね』
『…………、』
『そして、お誂え向きに私達にはその道のプロが味方についてる。微細のヤツなら、天文台の電波望遠鏡を改造してジャミング兵器にする方法だってレクチャーしてくれるはずよ。アイツ暗部の人間だからそういう悪用とか得意なはずだし』
ただし、これは別に逆転の一手というわけではない。
『マイクローブリベンジは、きっとセンサー類へのジャミングを嫌うはず。目の上のたんこぶである幻生が消えて、ようやく視界がクリアになったばかりなんだもの。余計にジャミングを厭わしく思うに決まってるって訳よ』
『……じゃあ俺はどうなるわけ?』
『ジャミング装置を起動させたらとっとと逃げて』
『そこでパワープレイかよっ!?』
さすがの理不尽さに、浜面も呆れてしまう。
『大丈夫よ大丈夫。ジャミングの感知から破壊の決断まで最低でも五秒はあるだろうし、タイマーセットとかできればさらに時間的な余裕はできる。アンタの悪運の強さなら問題ないでしょ』
『悪運を勘定に入れてる時点で何か間違ってる気がするんだがよ……』
ぶつくさ言う浜面だったが、彼我のヒエラルキーの差は覆しえない。
フレンダはそのまま話を進めていってしまう。
『そこで、私の登場って訳よ。ジャミングで各種センサー類は潰され、照準を天文台に合わせるために足元がお留守になっている状況。そこに……爆弾を括り付けたバイクを走らせる!』
浜面がマイクローブリベンジの足を止めさせているほんの数秒程度の時間を使って、爆弾をくくりつけたバイクを走らせる。そして足元に来たところで地雷を起爆させ、バイクごと爆弾を吹っ飛ばし──そして、マグマ噴出口内部でさらに起爆させる。
そうすればマイクローブリベンジはマグマ噴出口を吹っ飛ばされ、姿勢制御を封じられて穴に足場を取られることとなる。機動力を奪われた独活の大木は、
そこまで聞いた浜面は、しみじみと感想を呟く。
『全体的に救えねえなあ……』
敵も味方も、科学の悪用に次ぐ科学の悪用。
もともとは微細の科学を悪用させないための戦いだったはずなのに、気付けば微細に科学を悪用させることが勘定に含まれていた。
こんなことでは、技術の平和利用なんて夢のまた夢。実に暗部らしい、どこを見渡しても悪人しかいない煤けた戦場である。しかしそれでも、フレンダは笑った。
『なに? 後に残るのが可愛い女の子の笑顔だけじゃ不満って訳?』
『……いいや。十分だな』
浜面も、それに釣られて笑う。
たとえクソったれな過程にまみれていても、最後に少女が笑顔で終われるならそれで上々だ。今は、素直にそう思えた。
『……ところで今の、ひょっとして報酬はお前の笑顔って意味じゃねえよな?』
『んだと浜面ぁそりゃ私の笑顔が報酬じゃ不満って意味かー!!』
『ぎゃあ! ローキックはやめろローキックは! キング浜面の黄金の右にヒビがっっ!!!!』
──かくして、マイクローブリベンジは爆発炎上した。
もちろんそれはマイクローブリベンジの敗北を意味したわけではないが──彼女たちの奮闘は、結果としてレイシア=ブラックガードの命を救うことになった。
爆炎立ち昇るマイクローブリベンジを背に、フレンダと浜面は少女たちを見据える。
レイシア=ブラックガードに、上条当麻。
二人のヒーローが茫然とその姿を見守る中、まずフレンダが口を開く。
「やーれやれ。結局、今のは麦野たちを追っ払ってくれたお礼ね。お陰で、私たちもだいぶ動きやすくなったって訳よ」
そして次に、浜面が。
「悪いけど、このまま時間稼ぎしてくれねえか? 俺達だけじゃどうにもならねえっぽいんでな」
そして最後に眼下に構える巨大兵器を見据え、二人が言う。
「「ちょっとあのバカでかい兵器ぶっ壊してくる」」
役者は揃った。