【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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おまけ:深刻なる難問 ②

 運命の転換点とは、意外とそこらに転がっているものだ。

 

 各人が気付かないうちにそうした転換点を踏むたびに、運命の流れは切り替わっていく。プレイヤーが多ければその転換の頻度は上がっていき、結果としてテレビのリモコンを争うようにして運命は生物的に変化していく。

 たとえば──上条当麻と木原幻生の戦闘。

 単なる衝突に思えたその戦闘の余波が、思わぬ運命の変化を齎すことだってある。

 

 

「……操歯涼子誘拐をサボるって言ってもさあ」

 

 

 フレンダ=セイヴェルンは、暇そうにしながら夜道をブラブラしていた。

 最終下校時刻をとうにすぎた学園都市の夜には、人の気配など皆無だ。彼女の近くにいる生命体は、隣を歩く下部組織の少年──浜面仕上くらいのものである。

 

 

「結局、任務中の麦野に鉢合わせたら一巻の終わりだし、そうでなくとも後から行動の空白とかで不審に思われないためにアリバイ作りはしておく必要があるのよねえ」

 

 

 『最初は、第二一学区に行って微細にでも匿ってもらおうと思ってたんだけど』と、フレンダは適当そうに言う。

 微細というのが何者なのか浜面には分からないが、おそらく彼女の幅広過ぎる友人関係のうちの一部だろう。このフレンダという少女、仕事のときの残忍さとは裏腹にけっこう人懐こい性格であり、裏表問わずとにかく良く分からない人脈を持っているのだった。

 

 

「だったらどうする? 操歯涼子のところには一応行っておくか?」

 

「ウーン、もしも行かなかったら、『なんで操歯涼子の近くに行かなかったんだ』って話になりそうだし……。かと言って、馬鹿正直に行ったらなんやかやで結局操歯涼子を誘拐しなくちゃいけなくなるハメになりそうって訳よ」

 

 

 フレンダはその細い人差し指を唇に当てて考える仕草をしながら、ううんとひとしきり唸った。

 浜面はその横顔をぼけーっと眺めていたが、

 

 

「そうだっ!!!!」

 

「うぉっ、びっくりした……。急に大声出すなよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「…………はぁ?」

 

 

 自信満々に言うフレンダに、浜面はさらなる疑問符を飛ばすことしかできない。

 だが、一見意味不明に聞こえる発言は、フレンダの中では一本筋の通った理屈になっているらしい。あからさまに疑念を向けられても、フレンダはさして気にした様子もなく、

 

 

「私達は麦野から与えられた任務をサボりたい。でも、理由もなくサボれば待っているのは麦野のオシオキ。そうよね?」

 

「オシオキっつーかストレートに粛清だと思うけどな……。なんでお前はそこまで麦野からのペナルティを楽観視できんだ……? いつもぶちのめされてるのに」

 

「そこで私は考えた訳よ! 結局、理由もなくサボれば怒られるなら、理由をこっちででっちあげちゃえばいい、ってね!」

 

「いやお前な……でっち上げるっつっても、そんな都合よく別の事件が発生するわけが……」

 

 

 呆れながら浜面が言いかけた、その直後。

 ボッゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!! と。

 最早音の発生源がどこなのか、その距離感すらも掴めない程の轟音が、夜の学園都市に響き渡った。反射的にその場にしゃがみこもうとした浜面は、同じように反射的に物陰に飛び込んだフレンダによってついでに地面に引き倒される。

 

 

「な、がッ!?」

 

「馬鹿野郎! 結局、あんなとこでしゃがみこんでたら敵に殺してくれって言っているようなモンよ! アンタ死にたいの!?」

 

 

 浜面は呻きながら頭を起こし、

 

 

「な……なんだ……? 何が起こった……?」

 

「さあ。でも、こっちまで瓦礫の破片がパラパラ落ちてきてる。相当な破壊力の『何か』が撃ち込まれたんでしょうね。…………ところで浜面クン。結局、さっき言いかけたことをもう一度言ってもらっても良いかにゃーん?」

 

「…………『まったく、退屈しねえよなこの街は』っつったんだよ!」

 

「それについては、私も同意って訳よ!」

 

 

 笑みを浮かべ、げんなりした表情の浜面を引き連れながらフレンダは音の発生源へと近づいていく。

 とはいえ、馬鹿正直に道なりに進むわけではない。フレンダの場合は──

 

 

「……何やってんだ?」

 

 

 何やら、近くの廃工場の壁にラクガキをしているようだった。

 

 

「ん、隠密工作。結局、街中って意外と遮蔽物に乏しいのよねー。だから道をそのまま歩いていても、人通りの多い時間帯ならともかく今の時間帯じゃ完璧悪目立ち。だからここは、スマートに建物に不法侵入といきましょー」

 

「コンスタントに軽犯罪を積み重ねまくっている……」

 

 

 白いチョークのようなアイテムを用いて廃工場の外壁に二人分が通れそうな白線の枠を描き出すと、フレンダはその横に立って、ペンのようなアイテムをそこに当てる。

 白線は火薬によって構成されており、そこにペン状のアイテムから発せられる電気信号を送ることで『着火』することができるのだ。普段はフレンダの設置した爆発物を起爆させるための導火線として用いられているが、ただの家屋の壁程度なら少し多めに使えば焼き切ることだって可能である。

 

 ズバチィ!! と火花が迸り、コンクリートの壁がくっきりと焼き切られる。ぐらぐらと揺れるコンクリートの壁を指差しながら、フレンダは一言。

 

 

「じゃ、あとはこれを蹴っ飛ばせば開通、と」

 

 

 がこん、とわりと大きな音を立てて、コンクリートの壁がくり抜かれる。

 平時であれば夜間にあまり大きな音は……と眉を顰めるところだが、生憎既に『がこん』程度では問題にならないほどの騒音騒ぎである。きっと明日の学園都市はニュースまみれだろう。それに比べたら家屋の破壊くらいどうということはないかもしれない。

 

 

「さてさて。……お、ラッキーなんだかアンラッキーなんだか。浜面、どうやら騒音の原因はこの先に『いる』みたいだよ」

 

 

 言われて、浜面は意識をフレンダに向ける。

 その彼女がニヤニヤ笑いで親指を向けたその先。

 

 家屋のはめ込み式窓の向こう側の景色では────

 

 

『面倒臭せえな。どうせ倒されるなら、いっそここで「天使」級の一撃を暴走させてやるか』

 

 

 塗替斧令が、自爆していた。

 

 

 


 

 

 

第三章 魂の価値なんて下らない Double(Square)_Faith.

 

 

おまけ:深刻なる難問

>>> 第二一学区方面操歯涼子争奪戦 

 

 


 

 

 

「ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃわ────っ!!!!」

 

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!! っつかアレ塗替斧令だよな!? 白黒鋸刃(ジャギドエッジ)に逆婚約破棄された上に汚職で捕まったっつー婚約者の!!!! なんで留置所から出てんだよ!?」

 

 

 知っての通り、その爆発自体はレイシアの介入によって被害は最小限に収められているのだが、それは別に周辺への余波がゼロだったことを意味しない。

 『天使』級のそれではないにしても、精々普通のダイナマイトの起爆程度の余波を周辺──特にフレンダ達の方向へ撒き散らしていたわけで、咄嗟に浜面がフレンダのことを引き倒していなければ、今頃二人してガラスのシャワーを全身に浴びて真っ赤にドレスアップしていたことだろう。

 必死の想いで爆風を回避した二人は、そのまま物陰へと這いずって身を潜める。追撃(まぁ今の自爆は二人を狙ったものではないのだが、それはともかくとして)を躱すのと、一旦落ち着いて今の爆発による負傷確認をする狙いだ。

 

 

「はー……はー……。あ、ありがと。助かったわ」

 

「このくらいで礼なんてするなよ気持ち悪りい。それよりアイツ、何だったんだ……?」

 

「さあ……」

 

 

 適当に言い合っていたフレンダと浜面だったが、二人はどちらからともなく息を殺しだす。

 何故なら──二人が潜んでいる屋内で、人の足音が響いたからだ。

 

 状況的に、足音の主は一人しかいない。

 

 自爆した脱獄犯──塗替斧令だ。

 

 

(クソっ!? 結局、今日は厄日か何か!? しかも足音がだんだん近づいてきているし……!!)

 

 

「──うーん。今はなんとか抑えきれているけど、タイムリミットとしてはあと三時間といったところかねー」

 

 

 それは、ワイドショーなんかで見たときの塗替斧令の余裕のない口調とはかけ離れた、老獪な雰囲気を漂わせた口調だった。

 どうやら塗替は自分の身に起きている現象に気を取られているらしく、物陰に隠れているフレンダ達には気付いていないらしい(迂闊だ)。

 彼は廃工場の中を進みながら、さらに情報を落としていく。

 

 

「『器』の強度が安定すれば、もう少し出力も安定するんだけどねー…………」

 

 

 そんな言葉の残響と共に、塗替は廃工場の奥へと潜り込んでしまった。

 あとはもう、靴音の反響に混じって声は聞こえなくなってしまったが……二人は息を殺したまま、互いに顔を見合わせる。

 

 

「(な……何よ今のアレ!? っつか……なんか遠めに見た感じ、手がヒビ割れてなかったあれ!?)」

 

「(俺に聞かれても分かるかよ!! でも今の感じ……どうやらアイツ、このままだと自壊する? みたいだな)」

 

「(だからそれを何とかする為に動こうってことなんでしょ。……ふーん、結局、分かりやすくなってきたって訳よ)」

 

 

 そう言って、フレンダは立ち上がる。

 もう、足音の残響も聞こえない。フレンダは自信満々に決意した。

 

 

「アイツを追うわよ。……こんな街中(廃工場周辺だけど)でとんでもない威力の攻撃をぶっ放すような危険人物だもの。絶対、野放しにしていたら学園都市の危機だわ! それに私達、目の前で攻撃を受けたんだもんね! 結局、報復の理由もばっちりって訳よ!」

 

「動機は、逮捕された学園都市への逆恨みか……。よく分からねえが、俺達がいくら悪党とはいえ、街の善人たちまで危険に晒されるとあっちゃあ……黙って見ているわけにもいかねえわな」

 

 

 ……白々しいことこの上ない物言いだったが、生憎ここにそれを指摘する常識人はいない。

 二人の小悪党どもは、お互いに醜い笑みを向け合いながら言う。

 

 

「……けっ。仕方ねえなヒーロー様。だが付き合うこっちの身にもなれよ」

 

「文句言うなよ、不良学生。結局、私達がやるしかないんだから、早く腹を括った方が気持ちが楽になるよ」

 

 

 芝居がかったセリフで──というか真実正義漢ぶった三文芝居に興じながら、二人の小悪党どもはお互いの拳をぶつけ合わせる。

 それは、二人の素性とはかけ離れたお題目を自分たちの保身に利用することへの自虐が多分に含まれていたが────。

 

 

「…………じゃ、行くか。塗替をうまいこと捕獲できたら、レイシアとの交渉カードになって麦野も喜ぶかもしれないし」

 

「あの爆発を引き起こす得体のしれない力を前にして、無能力者(レベル0)二人で? 現実的じゃねえなあ……」

 

 

 ぶつくさ言いながら馬鹿二人は夜の街へと繰り出していく。

 

 

 目標は──塗替斧令。




☑即死爆風を相方のお陰でギリ回避
☑渋る不良に『やるしかない』と諭す

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