GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:異世界満州国

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接触編
エピソード6:コダ村にて


  

 アルヌス攻防戦から5日後……。

 

 

 この日、「二条橋の英雄」こと伊丹は隊長に昇進、部下を引き連れて高機動車に乗っていた。

 

 彼らに与えられた任務は、地域住民との交流だ。もちろん、ただの交流ではなく、特地の情報収集を兼ねた現地調査の任務もこれに含まれている。

 

 

「――今後のためにも、我々にはこの地の調査が必要だ。向こうの住民と接触、可能ならば友好的な関係を結んできたまえ」

 

 との隊長のありがたいお言葉である。

 

 軍を効果的に運用するためには、地域住民との関係も欠かせない。

 

近年のCOIN(対反乱作戦)などで重視される作戦のつとして「民事作戦」と呼ばれる、現地住民が自軍に有利な行動をとるよう働きかける作戦がある。

 

友好的であれば必要な資源や情報の提供、作戦行動への協力などが期待できるが、敵対的であれば治安維持や補給ルートの防衛のために多大な戦力を削がれる事となるからだ。

 

 

 分かりやすい例として、旧枢軸国に対するアメリカ軍とソ連軍の振る舞いの違いが挙げられる。

 

 前者はジープに乗った兵士が日本の子供たちにチョコやガムを与えたり、ベルリン封鎖によって生活必需品の不足したベルリン市民に大量の物資を空輸するなどした結果、占領軍へのイメージを改善することに成功した。

 

 対して後者は上記のような努力を怠ったばかりか(災害救助などの例外はあるが)、工場や技術者を接収するなどした結果、むしろマイナスイメージを増長させることになってしまった。

 

 なお、その後継国家であるロシア連邦は当時の反省を踏まえ、クリ○アでは人心の掌握に力を注いだ結果、「礼儀正しい人」と比較的高評価を得るに至っている――との評価もある。

 

 

「お、あっちの方に人が……ーーって、えぇ!?」

 

 突然、車を運転していた倉田が素っ頓狂な声を上げる。

 

「人多すぎでしょ!!」

 

 伊丹たちの前方には、小さな集落らしき家々が見えていた。問題は、そこにいる人間の数だ。建物の数の割に、圧倒的に人が多い。

 

 一体どういうことなのか、伊丹たちはそれを調べるために車を降りて集落に近づいていく。

 

(いったい何が起こっているんだ?)

 

 中心部まで来たところで、やや身なりの良い中年男性が不機嫌そうに近づいてきて、何やら大声で怒鳴り始めた。

 

「……俺たち、ひょっとして怒られてる?」

 

「みたいっすね。身振り的に、出てけって言ってる感じです」

 

 悪いことをした覚えはないのだが、ひょっとして外国人や余所者を嫌う排他的な集落なのだろうかーーそんな風にも解釈できるが、それにしては村の雰囲気が悪すぎる。

 

排他的な組織や社会は得てして身内同士の団結が固いのだが、この村ではそんな様子は見られなかった。

 

それどころか村人同士、対立すらしているように見える。

 

(あるいは、難民でも流れて来たか…?)

 

自衛隊が特地に来た事で、アルヌス付近の農民が疎開して来たのかもしれない。

 

「さて、どこから話をつけたものか……」

 

 伊丹が途方に暮れていると、今度は小さな子供が近づいてきた。

 

「アウレ・ワーテ?」

 

 やはり、何を言っているのか理解できない。

 

「ははは……」

 

 仕方が無いので伊丹が曖昧に笑顔を浮かべると、少女ははちきれんばかりの笑顔を返し、そして――。

 

「ラテル・ガ――!」

 

 大声で何かを叫んだ。

 

(……なんだ?)

 

 やはり意味は全く分からない。伊丹が首を傾げていると、少女に声をかけられた人々――先ほどの中年男性とは違い、浮浪者のようにボロボロの身なりをしている――は顔を輝かせ、一気に伊丹たちに殺到した。

 

「これは―――どういう事だ?」

 

 予想外の出来事に、富田が驚愕に目を見開く。

 

「こいつら、高機動車の倉庫に……!」

 

 何人もの男女が高機動車に群がり、手当たり次第に備品を引き剥がそうとしている。

 

「隊長、ひょっとしてさっき女の子が聞いていたのって……」

 

「あー、うん。“おじさん、この変なもの頂戴”とかそーいう意味だったんだろうな……」

 

 倉田の質問に、顔を引きつらせながら答える伊丹。

 

ハリウッドのアクション映画に出てくる「アフリカじゃよくある話」みたいな光景が、目の前で繰り広げられているのに茫然とするしかない。

 

「隊長が曖昧に返事するから!」

 

 同僚の栗林が頬を膨らませるも、今となっては後の祭りだ。伊丹の笑顔をイエスと解釈したらしい人々は、高機動車を分解しかねない勢いだ。呆れるほかない。

 

「ラテル・ファル!エレスタ・アレク・エイーダ!」

 

 先ほどの笑顔の少女はすっかり伊丹に懐いたようで、しきりにスキンシップをとってくる。何を言っているか全く理解できないが、状況から考えるに「ありがとう」を示すこちらの世界の言葉なのだろう。

 

 もちろん、状況が状況なだけに嬉しくとも何ともない。感謝と笑顔があろうと何事にも限度というものはある。

 

「とりあえず、もう一度改めて意思疎通を図ってみます?」

 

「ダメだ。また変に解釈されちゃ堪らない。とりあえず、急いでここを離れよう」

 

 これ以上、高機動車の備品を盗まれないよう、伊丹は勢いよくクラクションを鳴らした。突如として響いた爆音に、群衆が驚き手を放す。

 

「今だ! 発進!」

 

 一瞬の隙をついて、伊丹は一気にアクセルを踏み込む。

 

「はい!危ないからどいて!どいて!」

 

 群衆を引き離すために、伊丹はクラクションを鳴らし続ける。

 

「……なんか俺たち暴走族みたいっすね、隊長」

 

「うっさいわ!」

 

 半ば逃げ出すようにして、伊丹たちはコダ村を脱出した。

 

 そしてこの判断が、後に彼らの運命を大きく変えることになるーー。

 

 

 

**

 

 

 コダ村から脱出して四時間後、伊丹たちは森の中を進んでいた。

 

「――隊長、前に何か見えます!」

 

 

 道をまっすぐに走っていると、倉田の呼びかけが聞こえる。伊丹は前に視線を向け、そして声にならない感嘆の声を上げた。

 

「ん?……おぉぉおッ!」

 

 “それ”は突如として目の前に現れた。森の中の街道を進み、左右の深い木々が開けたと思うと、眼前には驚きの光景が広がっていた。

 

「む、村だ……」

 

 土を踏み固めただけの簡素な大通りを中心に、左右に巨大な樹木が乱雑かつ不規則に立ち並ぶ。驚くべきは、その樹木の上だ。

 

 ーーなんと樹木の上に、いくつもの家が建っているのだ。家は木の枝や革、茅に動物の毛皮など全て自然のもので出来ている。しかも所々には広場や集会場らしき建物も見え、それぞれが道やはしごで樹木が生い茂り圧迫感はまるで無くまさに自然の中の大集落である。

 

「ん?人……いや、あれは……ッ!」

 

 倉田が何かを見つけ、驚愕に目を見開いた。

 

「エルフだッ!エルフがいますっ、隊長ぉ!」

 

「なにぃ!?」

 

 興奮したような倉田の叫びに反応し、伊丹も座席から身を乗り出すようにして前方の人影を確認する。一見すると人のようだが、よくよく見るとやや大きめの耳が尖っている。

 

「……エルフ」

 

 知識としては知っている。特徴的な長い耳を持つ、とても美しく若々しい外見を持った妖精の種族。

 

「本当にいたんだな…」

 

 森の清涼な風に頬を撫でられながら、伊丹は棒のように突っ立って驚愕に目を見開いていた。




異文化交流は難しい。どっちかに悪気があるとかじゃなくて、単純に常識が違かったりするからしゃーない

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