GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:異世界満州国

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エピソード21:炎龍との戦い3

    

「炎龍……なんで、まだ動けるの……?」

 

 黒川の声音には絶望がにじんでいた。必死の思いで炎龍を誘導して作戦を成功させたにもかかわらず、敵はまだ継戦能力の一部しか失っていないという事実。伊丹も茫然と目の前で復活した炎龍を見つめていた。

 

 すでに予備プランは無く、部隊の全員がわずかな弾薬と武器しか持っていない。

 

(ここまで……なのか……?)

 

 万策尽きた――伊丹がそう思った直後。

 

『―――戦うのを諦めるな!』

 

 突然のように鼓膜を叩く野太い声。さらに一瞬後、背後から多数のトラックと装甲車が姿を現す。数は120人ほど、一個中隊といったところだ。

 

(この声……第1戦闘団の加茂一等陸佐!?)

 

『――炎龍は現在、その機動力を大きく喪失している!第3偵察隊および第9中隊はその場で射撃を継続し、砲撃準備が終わるまでの時間を稼げ!』

 

「「了解!」」

 

 伊丹は目の前で行動に移る第9中隊を凝視――激戦を潜り抜けてきた精兵たちなのだろう。炎龍を目の当たりにしても動きは衰えず、技量が際立っていることは一瞬で見て取れた。

 

「イタミ、あれを――」

 

 テュカがこれまでになく焦燥を浮かべながら叫んだ。促されるまま空に視線を向ける――ロゥリィと戦闘していたはずのジゼルが、砲兵のいる方角へ高速で飛翔している。どうやら砲兵射撃を脅威と認識したらしい。

 

 反射的に彼女を追おうとするロゥリィに、伊丹は大声で叫ぶ。

 

「ロゥリィ、追うな!」

 

「伊丹?何を言って……」

 

 振り返ったロゥリィは、大きく傷ついた炎龍を見て伊丹の真意を察した。

 

 ――敵が分散した今こそ、各個撃破する絶好の機会だ。

 

「ロゥリィは先に新生龍を殺れ! 炎龍は俺たちで何とかする! ジゼルは……」

 

 砲兵隊が時間を稼いでくれる………それは同時に、彼らを死の危険にさらす事を意味する。

 

 だが、追いかけたからといって救えるかは不明だ。たとえロゥリィが全力で追いかけようとも、翼を持たぬ彼女では間に合わない。

 

 

「――いい作戦だわぁ。採用よ」

 

 

 だがしかし、彼女はロゥリィ・マーキュリー。『死と狂気と戦争と断罪』を司る亜神だ。それが意味のある死ならば、一切の迷いなく肯定する。

 

「運の悪い何人かはジゼルに殺されるでしょう。でもその死は無駄ではない。彼らは死して英雄となる」

 

 砲兵がジゼルに壊滅させられている間に、ロゥリィはまず新生龍を、そして炎龍を倒す。そして最後に、残ったジゼルを始末する。一対一の戦闘なら、ロゥリィは相手を確実に仕留められる自信があった。

 

「――じゃあ、まずはアナタから」

 

 ロゥリィはそう呟くと、地面を力強く蹴り、飛行中の新生龍に急接近。新生龍は迫る彼女を追い払おうと口を開くも――。

 

「――はぁぁぁぁっ!」

 

 ロゥリィは絶叫と共にハルバードを振り上げ、新生龍の顎を砕いた。新生龍の口元から赤黒い血液が吹き出し、地面にえぐれた顎が墜落する。

 

「次っ!」

 

 ロゥリィは地面に着地し、再び得物を大上段に掲げて跳躍する。

 

 しかし今度は新生龍もただやられるばかりではなかった。ロゥリィの攻撃に対し、急旋回して彼女の側面から尻尾を叩きつけたのだ。

 

「ぐぅぅッ!」

 

 勢いよく弾き返されるロゥリィ。しかし彼女は弾き返された衝撃を活かして、今度はハルバードをブーメラン状に投げつけた。狙いは新生龍の翼――そこにダメージを受ければ、敵は大きく機動力を損なう。

 ロウリィの読み通り、翼にダメージを受けた新生龍はバランスを崩して錐もみ状に墜落を始めた。

 

 一方、ロゥリィはゴスロリ神官服を大きく広げ、空気抵抗を増やして落下速度を落とす。そして新生龍に並ぶと、その肩に深々と刺さっていたハルバードを両手で掴んだ。

 

「これで、終わりよ!」

 

 腕に力をこめてハルバードを大きく捻り、傷口を抉っていくように広げる。炎龍が凄まじい悲鳴をあげ、苦しみにもがく。対照的に、ロゥリィは楽しそうに笑い声すらあげていた。

 

「ふふっ、もしかして痛いのは初めて? なら、もぉーっと痛ぁくしてあげる!」

 

 ハルバードを引き抜き、得物の突起部分を炎龍の首元に横合いから突き立てる。ハルバードが食い込むにしたがって大量の血と絶叫が吹き出し、ロゥリィの服に赤い染みを作ってゆく。

 

「突き刺すだけじゃ、足りないようね?」

 

 愉しそうに笑うロゥリィ。ハルバードを器用に逆手に持ち替え、血液が迸る傷口に今度は槍の部分を勢いよく突き立てた。

 

 

 **

 

 

 一方そのころ、砲撃を準備していた戦車部隊は少なくない混乱をきたしていた。

 

「敵対的未確認生物、こちらに急速接近しています!このままでは我々が蹂躙される恐れが……!」

 

「作戦に変更はない。予定通り砲撃を急がせろ」

 

 兵士の一人が額に血管を浮かせながら叫ぶも、加茂一等陸佐は決然と首を振った。

 

「件の未確認生物がこちらに向かったおかげで、あのロゥリィとかいう亜神を名乗る少女はドラゴン共を圧倒している。我々は自らを囮とし、友軍が敵を各個撃破するまでの時間を稼ぐのだ」

 

「しかしそれでは、我々は全滅……」

 

「それで残りの友軍が生き残れるならそれでいい!」

 

 加茂の言葉に、周囲は瞬間的に静まり返った。

 

「敵は愚かにも戦力分散の愚を犯した! この機会を今活かさずしてどうする!? 常に選択すべきは多数の命だ!」

 

 青ざめる兵士たち。だが、加茂の言葉は真実だ。他に代替手段もない。

 

「――加茂一等陸佐へ報告!砲撃準備、完了しました!」

 

「……やるぞ」

 

 重い声で加茂が呟く。そして――。

 

「撃てぇッ!」

 

 74式戦車の持つ最大最強の武器……51口径105mmライフル砲が火を噴いた。

 

「そのまま撃ちまくれェっ!怪獣退治は自衛隊の役目だってことを、特地の連中に教えてやれ!」

 

 連続する発射音――全車両ともに、搭載されていた全ての砲弾を連続発射していく。何十もの砲弾が白煙を引きながら炎龍に向かっていく。

 

 気付いた炎龍は必死にブレスで応戦する。

 

 だが、炎龍のブレスがいかに強力とはいえ、高速で飛翔してくる砲弾すべてを撃ち落とすことは不可能だった。砲弾は着弾と同時に炎龍の鱗を粉砕、続く第二、第三射で次々に内側の筋繊維を吹き飛ばされてゆく――。

 

 

 伊丹にとっても、それは想像を絶する光景だった。炎龍と砲兵隊が正面から撃ち合っている。炎龍は最初の何発かをブレスで撃ち落とすことに成功したものの、自衛隊の飽和攻撃によって、10秒と経たないうちに爆発と煙に包まれた。

 

 数分後、ほとんどの砲弾が撃ち尽くされ、集中砲火を食らった炎龍はついに沈黙した。全身の4割が失われ、グロテスクな肉塊へと変貌している。

 

「やった、のか……?」

 

 茫然とした伊丹が呟く。ロゥリィは「確かめてみる」と言って炎龍の残骸へと近づき、勢いよくハルバードを突き立てる。

 

 反応はない。それが意味することは、一つだ。

 

「ついに……死んだんだな」

 

 伊丹がそう言うと、振り返ったロゥリィはゆっくりと頷いた。

 そして――。

 

「「うぉぉぉおおおおおおお――ッ!」」

 

 直後、歓声が無線から響き渡った。自衛隊は、ついに炎龍を倒したのだ。

           




中ボス、炎龍を撃破。

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