女神科高校の回帰生   作:Feldelt

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孔雀/それは鮮やかに

目にも止まらぬ速さで黒い悪魔は動く。

それを虚ろな少女は最小限の動きでいなす。

 

当然といえば当然だ。悪魔の方は片腕がないのだから。

残っている右側のビームサーベルを持って、ただ闇雲に

突撃しているようにしか見えていない。

 

「はぁ...このままずっとこうするつもりなのかなぁ...」

 

虚夜は感覚的に動いてはいけないと分かっている。

それが虚夜を退屈させているのであった。

 

「うらぁぁぁ!」

「無駄だよ。」

 

何度目かの切り結びが起きる。

が、今回は少し違った。

 

「武器が変わってる...混影ね...」

「そこぉぉ!!」

 

影は右腕の袖口に仕込んだビームサーベルを

小指と薬指に挟み、そのまま虚夜に向けて腕を振るった。

 

「んなっ...がっ!?」

 

当然、予想すらしていない一撃に虚夜は左脇腹をビームで

抉られるのであった。

更に追い討ちとして回し蹴りを同じ左脇腹に食らう。

左脚でなおかつ踵を当てる様に放った回し蹴りだが、

それで終わるはずもなく、左脚に仕込まれているブースト

カートリッジを使って、加速用のバーニアを傷口に照射したのだ。

 

「ぐあぁぁぁ!?」

 

傷に塩を塗るどころか傷に炎とはエグい...

 

そんな感想はともかくとして、影のストライクフォームも

解除され、黒いオーラも消えていた。

 

「はぁ、はぁ...どんなもんよ...ぐ...ごふっ...

 ...はは、もう保たんか...」

 

口から出る血を拭い、地に伏した虚夜を見やる。

 

「やってくれるね影君...固有無しで私に深手なんて...」

「虚夜...逃がさんぞ。」

 

時間圧縮を使って距離を詰め、混影を虚夜の右肩に刺した。

 

「うぐっ...私の虚写しの弱点に気づいていたとはね...」

「あぁ...見えなくても感覚で倒せるからな...ごふっ...

 なぁ、虚夜...お前は人の業や性を背負わずにそれを

 否定した...俺は業や性を仕方ない物として否定した...

 お前の考える、業や性の無い、愚者の存在しない世界は...

 いいよ、代わりに、俺が作ってやる...」

 

虚夜は数瞬の驚きを見せ、次には笑っていた。

 

「...何がおかしい...」

「君にそういう考えがあったなんてね...でも、具体的には

 どうするんだい...?」

 

「それはだな...」

 

遠くに見える白い塔を見やり、影は言葉を紡ぐ。

 

「あいつらを信用とか、信仰とかを一切しない愚か者を、

 この手で消し飛ばすのさ。...もっとも...この身体で

 何処まで出来るのかは謎だがな。」

 

「へぇ...私が面倒だと思った一番確実な方法を選ぶんだ...

 でも、いいのかい?そんなことをしたr「わかってる。」...」

 

「俺はまた、あいつらの敵になる。平和を望む同士として。

 ...俺と、お前のように。」

 

「ふぅん...案外憎悪にまみれてるかと思ってたのに、

 真っ当な考えを持ってるね...」

 

「矛盾だけどな...けど、人間なんてそんなもんだ。」

 

「あぁ、そう...じゃあ見せてよ、君の望んだ世界の果てを。」

 

「あぁ、あの世で、明に詫びて来てから、見せてやるよ...」

 

「ふふ、この、シスコン...」

 

袖口のビームサーベルを発振し、虚夜の胸を貫く。

そして即座に、天界を去るために虚夜の基地である黒の塔へ

向かった。当然ゾディアックシリーズはいる。

だがそのほとんどは非戦闘型だ。それに、虚夜が死んだことで

ゾディアックシリーズに組み込まれた信奉のプログラムも無くなった

事も相まって、俺は無事に下界へ降りることが出来た。

 

「お前一人で帰ってくるとはな。」

 

出迎えてくれたのはマジェさんであった。

 

「マジェさん...」

「また旧校舎の時よろしく素性を隠すつもりか?」

 

全部筒抜け、というか読まれてた。

 

「...そうですね...そうでないと、一人の意味が無いですし。」

「待ち人もいるのにか?」

 

...流石、俺を育てた人だ。全部わかってる。

 

「待たせて置きます。帰ると約束しても、それは今じゃない。

 あいつらはいずれ真の女神となる。4州は独立して国となる。

 その時にまたいずれ反乱が起こる...それを鎮めないと...」

 

「ふむ...だがいずれにせよその身体では無理だ。

 どうせ武器は自作だろう?素材も自分で集めろ。

 私からくれてやるのは義手義足だけだ。」

 

「マジェさん...ありがとうございます...」

 

「まずは身体を休めろ、とは言っても小屋には戻らないだろうな。

 ...まぁいい。病院を手配してやる。そこでしばらく休んでろ。」

 

「はい......」

 

 

--こうして、凍月 影の物語は一旦、幕を閉じる。

  残された者達の物語は、まだまだ、続く...--

 




はい、これでほぼ終わりました。

次回、「88/全ての終わり、新たな始まり」

感想、評価等、お待ちしてます。

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