女神科高校の回帰生   作:Feldelt

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麒麟/終焉の前の退屈

ギアの記憶は急場しのぎに過ぎないが戻せた。

ブランの傷も段々と治ってきている。

だが、俺の精神は限界をとっくに突破していて、

もはや戦いにおもむく事も出来ない無気力状態になっている。

 

4日間、ベッドから出てすらいない。

ずっとブランとロムラムと、過ごしていた。

それでも心は欠けたままだった。

 

 

「...もしかしたら...えー君はもう戦えないのかもね。」

 

 

茜は真っ正面からそんなことを言った。

それはさも当然のような気がした。

戦っても戦っても、何かが溢れていった。何かを失っていった。

結局、残っているのは後悔と苦しみと怒り...そして虚無感。

それは人の負の面を如実に表している。

それが、人の業であり性なのだな...

 

おそらく虚夜は嫌がったのだろう。

負の面に固執し、羨望や妬みを向けていて自らを変えようとしない一部の人間を。

その一部の人間を産み出している格差を。

その格差を産み出しているシステムを。

そして、そのシステムは大抵感情とリンクしている。

感情というものは厄介だ。行動するための原動力となるときもあれば、

行動をするときに枷となることもある。

 

つまり、その点では虚夜と俺は、同じ考えを持っていることになる。

だが、それだけの為に世界再編などは起こさせない。

 

無気力なら無気力なりに、今、何を成すかは考えている。

 

「戦えない、か...言ってくれたものだ...」

「影...?」

 

隣で横になっていたブランが尋ねる。

 

「決めたよ、ブラン...今までずっと考えてた。体が保たなく

 なっていることや、心がガタガタになってること、全部

 ひっくるめて、ずっとずっと...気力も削ってずっと考えてた。

 無気力なら無気力なりに、ね...」

「そう...で、その答えは...?」

 

一つ大きな呼吸を置く。

 

「虚夜を倒す。今の俺の全身全霊、魂すら賭けて、奴を止める。」

「そう......必ず帰ってきなさい。貴方に私のいない世界を想像することが

 出来ないように、私にも貴方のいない世界を想像することなんて出来ない

 のだから...だから絶対に帰ってきなさい。」

 

「...それが死亡フラグでない事を祈ってるよ...

 だけど、せめて今は...君と二人で過ごしていたいよ。」

 

「相変わらずね...いいわ、影。」

 

思えばあの日、孤独だった俺とブランが初めて会話した時から、

俺たちの運命の歯車は噛み合って、回り始めた。

だからこそ、対になる歯車を欠けさせるわけにはいかない。

絶対に帰る。そう決めた。

 

そして時が経ち、夜が明けた。

 

 

----------

 

 

「すぅ...はぁ...茜...どうして戦わない?」

 

 

一人起きて、部屋から出た先には茜がいた。

だから、聞きたい事を聞いた。

茜に限って臆病風に吹かれた訳ではない。

 

そこ、同じ赤系統だからってダディと同じとか言わない。

 

「臆病風に吹かれた私はもう戦えない...」

「そんなの俺信じられないよ!」

 

訂正、ダディだった...

 

「冗談はさておくとして、私は虚夜と取引したの。

 あいつの邪魔をしない代わりに、私を殺さないっていうね。」

 

「...そうか...命を大事にしてるんだな...」

 

そうだろう、せっかく生き返ったんだ、また散らす訳にはいくまい。

 

「別にそういう訳じゃないよ。私はやりたいことをするだけ。

 私はね...先生になりたいんだ。私のような、行き場の無くなった

 子供たちを導ける、希望のような先生に。」

 

「茜...?」

 

教員志望とは驚いた。かなりざっくばらんとしてるのに。

 

「えー君。今度こそ、買い物行こう。二人で。これだけは

 ブランちゃんにも譲れない。どーせえー君の事だもん。

 ブランちゃん待たせてるんでしょ?女の子二人待たせて、

 帰って来ないほどえー君はろくでなしじゃないよね?」

 

「そうだな...って、死亡フラグ重ねがけとか止めてくれ。」

 

マジで死ぬのは勘弁。

 

「そう...じゃ、えー君。後ろ向いて。」

「なんでだよ。」

「『帰還』って背に書くの。ほらほら。向いた向いた。」

「はいはい...」

 

しかし...背中に書かれて『帰還』と、分かるだろうか...

だが、茜からは背文字はやってこなかった。

代わりに、腕が回されてきた。

 

「あかっ...「振り向かないで...えー君...」...」

 

茜らしくもない声音は俺をその指示通りに動かした。

いやいや、しかし茜よ、戦いに向かう前ですよ俺。

 

「えー君...しばらくこのままでいい...?」

 

だがこんなことを言われては否定なんてできないよ。

 

「帰ってきてよ、えー君...ちゃんと、生きて...

 それで...笑って...そのあとを過ごせるように...」

 

茜は泣いていた。指摘するのも野暮だろうと思った。

だからしばらくこのままでいた。

 

そして、数刻が経ち、茜が離れた。

 

「さぁ、行って、えー君。私達の平和のために。」

 

「...あぁ、行ってくる。凍月 影、〈sevensword〉、出る...!」

 

七本の剣を携え、遂に、最終決戦の舞台へ足をかけた。

 

 

 

 




ようやくだー。

ようやく虚夜vs影。

次回、「ペルセウス/死闘、勇者vs悪意」

感想、評価等、お待ちしてます。


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