女神科高校の回帰生   作:Feldelt

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ペガスス/幻想と孤独と

ゾディアックシリーズ...

虚夜時雨の理想、世界再編の鍵を握っている12体の人造的

女神化能力保持者...

 

その力は自然に変身できるようになった少女達とほぼ同じ。

だからこそ、戦況は泥沼化し、怪我人も出るレベルとなっている。

だが、こちらは追加装備などの諸々もあり、辛勝に次ぐ辛勝を重ねた。

 

 

ブラン救出から2日。

こちらの継戦能力は低下し、ほぼ全員が満身創痍であった。

大半のゾディアックシリーズは撃退した。

残っているのはピスケス、アリエス、カプリコーンのみ。

 

戦いは...記さずとも激戦で、泥沼で血みどろで、凄まじいとわかった。

 

だからこそ、今のこのギアの状態は、変に納得している自分がいた。

 

「ネプギア、しっかりして、ネプギアってば!」

 

ネプテューヌが何度もギアを揺さぶるも、その目は虚ろで、

体にも力が入っておらず、まるで脱け殻のように揺らされていた。

 

「こうなったのも全部ピスケスって奴の仕業なんだよね、

 そうなんだよね、だったら...あいちゃんの力で打ち消せないの!?」

「無理よねぷ子。力そのものでこうなったのなら打ち消せるけど、

 力の結果でこうなったのなら無理ね。」

 

きっぱりとアイエフは否定した。

 

「っく...じゃあどうすればいいの、影!」

 

怒りとも体現出来そうな声音でネプテューヌは俺を問い詰める。

 

「...どうすれば、か...わかればもうやってる。それに...

 今俺にはそれを考える余裕もない...茜、明、ブラン、

 そしてギア...こうも俺に親しかった連中がこうなっていくと...

 俺は...俺は...!」

 

「やめましょうネプテューヌ。影もあなたと同様に傷ついてるの。

 尋常じゃない程に、ね...」

「だから何...ネプギアを諦めろっていうのノワール...わたしの妹だよ!?

 諦められるわけないよ!!」

 

諦められるわけない。そうだ。ギアは俺の妹でもあった。

けど、俺の妹は...明だ。血が繋がって無くとも妹は明だ。

 

「...............けい...........いか...」

 

『え?』

 

この場にいる全員、怪我人のブランと看病しているコンパと

疲れて寝たロムラムユニ以外の面子は口を揃えて疑問符を投げかけ、

俺はその後に訪れた静寂に向けて、吐き捨てた。

 

「生きてるだけいいじゃないか...妹が生きてるだけいいじゃないか!

 喚くな、この程度で!どれだけ辛いと思ってやがる、どれだけ苦しいのを

 我慢してきたと思う...暴走も心配もさせないように、どれだけ精神を

 削ってきたと思ってる!なんなんだなんなんだなんなんだよ、何様だよ、

 何をもってそんなこと"だけ"で騒げるんだよ...俺の痛み苦しみを何も、

 何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も......ッ...

 知らないくせに、知ろうともしなかったくせに、ただ同情と憐れみしか

 向けなかったくせに、自分がそうなったときに、それ以上のものが

 返されると思うな!世界は...そんなに甘くねぇんだよ...その事少しも

 考えないでいるような奴は...力があっても心がなきゃ...何も出来ない...

 今の、俺のように...何も...」

 

全員が静かになった。

当然だ。最大の被害者は俺なのだから。

だが、後ろから声がした。

 

「貴方にしては珍しく感情的ね...傷に障るわ。」

 

まだ寝ていなきゃいけないはずのブランが、コンパに車椅子を押されて

やってきたのだ。

 

「まだ安静にすべきだろ...なんで...」

「私は椅子に座ってるだけよ。それが安静状態ではないと?」

「けど...!」

 

傷が開いたらどうする...と言おうとしたら掌をつき出されて制された。

 

「心配しなくていいわ。貴方が心配すべきは自分自身よ。」

「ふざけんな、俺は...」

「明や私、ネプギアの件は全部自分のせいって思ってるんでしょう?

 優しすぎよ。または思い上がりね。やめなさい。貴方はそう思い

 続けられるほど、精神が頑丈ではないわ。」

 

図星だ。何もかも、やはりブランには筒抜けだった。

 

「だったらどうしろって言うんだよ...!」

「話だけなら簡単ね、虚夜を倒せばいいのだから。」

 

ホントだ、話だけなら簡単だ。

 

「頼んだわよ、影。こればかりは、貴方にしか頼めない。」

「茜もいる。こいつらもいる。だから...か。

 すぅ、はぁ...頼まれたよ、ブラン。けど、まずはギアを取り戻す。」

 

「えっ...?方法は?」

 

「イストワールに記録されているギアの存在している記憶を

 ギアの脳へ流し込む。出来るだろ?この塔の主ならば。」

 

「はい、出来ないことではありません。」

 

イストワールがどこからか現れた。神出鬼没だなぁ...

 

「ですが、そうするとネプギアさんはこうなる前の約14年分の記憶を

 全て持ってしまいます。それでは脳が持ちません。」

「じゃぁ、1年分...いや、ギアとロムラムユニが出会ったとこからでいい。」

「それでもぎりぎりですよ?最悪ネプギアさんの脳に多大なダメージが...」

「それでもいい、いーすんお願い!」

 

ネプテューヌの叫びがイストワールを動かした。

 

「では...ネプギアさんの脳に記憶をコピーします。」

 

イストワールはギアの頭の上で魔法陣を展開し、

次の瞬間、ギアは苦しみ始めた。

 

「が、あ、あぁぁぁッッッ!?」

 

聞くに耐えない叫びだ。だけど...耐えてくれ...

 

「ネプギア...お願い、頑張って...」

 

「あ、うぅぅぅぅ...おねぇ、ちゃ...あぁぁぁぁ!?」

 

脳への直接干渉...この義眼もそうだ...最初のころはえげつない程の

気持ち悪さを感じた。だから...今のギアの感覚はよくわかる...

 

「...終わりました。後は、吉と出るか、凶と出るかです。」

 

イストワールが離れると、ギアはぐらりと倒れこんだ。

すかさずネプテューヌがそれを支える。

 

「ネプギア、ネプギア、起きて、ネプギアッ!」

 

ネプテューヌが呼び掛けて、ギアは口を開いた。

 

「聞こえてるよ...お姉ちゃん...」

 

そう言って、崩れた。

 

「よかった、よかったよ、ネプギア...ありがといーすん。ほんとにありがとう!」

「発案は影さんですよ。私には到底思い付きませんでしたし。」

「うん...ありがと影...!」

 

「礼には及ばない...及ばない、さ...」

 

やばい、俺もぐらりときた。

多分...精神の限界だろうな...

 

そして、今度は俺が倒れた。




何回影君は倒れるんだろうか。

次回、「麒麟/終焉の前の退屈」

感想、評価等、お待ちしてます。

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