暗い部屋の中、俺はずっと座って動かなかった。
ブランを助けに行かなきゃならないのに、体が動かない。
誰も信じられない。
イストワールもギアも、茜ですら、俺は今信じられない。
俺は、暗い部屋の中でただそこにいた。
「行かないんですか、ブランさんを助けに。」
ドアを開けてギアが入ってくる。
「ほっとけ...〈Odin〉と〈Cherudim〉はどうした...」
「完成しました。敵襲も無いです...多分、影さんを
待ってるんだと思います。」
虚夜はやはりそういう奴だ。
「だったら...行かない。もう、戦いたくない...」
「助けないでいいんですか、ブランさんは...影さんの大事な人でしょう!?」
「助けるためにまた戦って...誰かが死ぬかもしれない...誰かを殺すかも
しれない...あげくブランを助けに乗り込んだら目の前でブランを殺される
可能性すらある...!だったら、今ここでうずくまってる方がいい...
何も起こらないなら...その方がいい。」
葛藤が俺の中でのたうちまわる。ブランを助けなければいけないのに、
血と涙と喪失感、罪悪感に苛まされるのは嫌だ...
...これは、葛藤ではなく矛盾か。
「...貴方は誰ですか、影さんなんですか...?そんなのあり得ないです。
影さんは...ブランさんの事になると絶対に自分を犠牲にしても
ブランさんを大事にするのに...今の影さんは...それから逃げてる...
そんなの...影さんじゃないですよ...!」
「逃げてる...か。いいじゃないか。逃げたって逃げたって...
逃げたところで、現実はいつも目の前に佇んでいる。
俺は逃げてるんじゃない。立ち止まってるだけだ。」
もう、心身共に限界なんだよ。
「......私の憧れだった影さんはどこいったんですか...
私達のお兄さんだった影さんはどこいったんですか...
...私の好きな...私の好きな影さんはどこいったんですか!?」
ギアの魂の叫びが聞こえる。
けど、俺の心には到底届かない。
「憧れだろうと兄だろうと、好意の対象だろうと...
俺はそんなのの対象とはかけ離れている。
もう、俺は嫌だ。嫌なんだよ、羨望や期待や喝采とか...
そんな形のない名誉なんて...苦痛でしかない。」
「-に物事を考えないで下さい。そう考えるから
そうなるんですよ...!もっと+に考えて...」
「出来もしないことを言うな...!常に、最悪のことを考えろ。
楽観視は...身を滅ぼす。」
ギアはそれでも食い下がる。
「影さん...なんでですか、どうして目の前の希望すら否定するんですか!」
「希望なんか...幻想に過ぎないだろ!」
論争が続く。
もう何分も、何分も続いている。
だが、ギアが一つの行動に出た。
「ギア...っ...!?」
いきなり、そして涙と共に、その両腕を俺の背中に回したのだ。
「影さん...影"お兄ちゃん"...明ちゃんに...今のお兄ちゃんを
見せることは出来るんですか...?」
この一言は痛い。明は...どうしてるだろうか。
多分、明ならこういうだろう。
『お兄ちゃん、無茶しすぎだよ。』
と。そう思うとまた涙が溢れてくる。
けど、もう誰も失わずに奴を倒すことはもうできない...
だけど、もし、もしもそれならば...
俺が、犠牲になる。
...細くか細い希望が、俺に見えた。
これぞギア式影君の治し方。
三日月式オルガの焚き付け方も参照にしつつ。
次回「烏/光に向かう翼」
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