女神科高校の回帰生   作:Feldelt

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カシオペヤ/悪意の象徴(後編)

「星の力を纏っても、すぐに終わるというのにね、

 何でこうも君は私の思い通りに動いてくれないのかな?」

 

虚夜はさっきから全く動いていない。

サジティックアローの矢やビームは全て彼女の左手にある武器、

対プロセッサユニット用多段型貫通槍、《ファランクス》によって防がれてる。

 

「だって...それが、私の意思だから!」

 

ハッタリでもなんでも、心だけは負けてはいけないと思う。

そうでないとすぐ、死んでしまいそうだから。

 

--虚夜は、そういう奴だから。

 

「そ、じゃぁ生かしても意味ないね。」

 

虚夜はそう言った。言い終わった瞬間には、私の右腕が吹っ飛んでいった。

 

「ひっ...あぁぁぁぁぁ!?」

 

一瞬の出来事だが、激痛どころではない痛みが私を襲う。

叫んで、有るべきものがない右肩を押さえる。

 

もう、終わった。虚夜への反抗は、やはり無理だった。

 

「いい声だね...ねぇスコルピオ...どう?止め刺すの譲ろうか?」

 

「え...?マス、ター...?」

 

「いいよー、もっとも、止め刺さなくても失血死だろうけど。」

 

紅奈は逡巡する。震えている。恐れている。

 

だからだろうか、数刻後、虚夜はファランクスを手に取った。

 

死を覚悟した私は、もう、目を瞑るしか無かった。

けど、生暖かい液体...さっきまで体内を流れていたであろう、

()()()血が私に降りかかって来たら、話は別だった。

 

「この程度の事で逡巡など戯けた事をするからだよスコルピオ...

 全く、世界再編のエネルギーが9割がた溜まっていなければ

 まだ利用価値もあったのに...残念だね、そうでしょサジット。」

 

...紅奈だった少女の遺体が私の横に転がる。

首から上のない、血が流れ出るだけの遺体。

 

目を背けずにはいられない。涙、いや、反吐が出そうだ。

 

「はぁ、やっぱり使い物だけ残す主義の方が効率的かもね...

 じゃあねサジット、凍月君によろしく。」

 

転化...その選択肢に気づいた時には遅く、虚夜の

ファランクスが降り下ろされた。

 

...最期に見えたのは、ここに向かってくる緋色と蒼色の輝きだった。

 

--さよなら、みんな...

 

 

----------

 

 

「えー君!なんか明がヤバい!」

 

茜はそう言って、意識が戻ってすぐだというのに血相を抱えている。

当然、ギアやユニやその他整備組はポカーンとしている。

何せ、意識を失ってからまだ20分ほどしか経ってないからだ。

 

だが、その言葉は俺を動かすには十分であり、

 

「明が...!?何故分かる...!?」

「それは私の固有だからだよ!知ってるでしょ!?」

「いや、知らん。」

 

ポカーンとする茜。

 

「...ともかく、説明は後でするから明を!

 マスター...虚夜が明を襲ってる!」

 

「わかった...ギアはビームサーベルを作っててくれ。

 〈sevensword〉、出るぞ。」

 

「え、あ、はい!」

 

背中に二本の片刃剣·、腰に混影、腿にスラッシュバレットを装備する。

本来ならそれに両袖にビームサーベルを一本ずつ装備することで、

文字通り7本の剣を持つのだ。

 

「はいはいわかったから、出るよ!」

 

地の文を読んで突っ込みを入れてくるなど茜くらいのものだろう。

あ、ネプテューヌもいるか。

 

蒼色の輝きを纏わせ、俺は戦場に舞い戻る。

心の底から頼りにできる、紅の少女と共に。

 

「で、私の固有の説明だけど、えー君、知ってる?」

「知らん。だから教えてくれ。」

「うん。私の固有は領域捕捉(エリアチェイサー)。私が把握している場所

 ならば、その地点にいる人の状況がだいたいわかるの。

 明が危ないって言ったのは、ちょーど私が寝かされてる部屋の窓から

 見える範囲に、明がいたってだけだから結構範囲は広いけど...

 これがあれば、索敵、連携、自由自在!ってね。」

 

「そうだな...虚夜は?」

「視界範囲にはいないね...そろそろ窓から見える限界の距離だよ。」

 

「明...どこだ...」

 

焦り、と言えばいいだろうか。ブランやネプテューヌは大丈夫だろうが、

明はいきなりボスに遭遇したのだ、勝てるはず...

 

「えー君...見つけたよ、明と、紅奈を...」

「そうか...どこだ?」

「君は見ちゃいけない。事実だけ伝えるなら、明も紅奈も、

 もう生きてなんては無いね。」

 

茜は淡々と、淡々と事実だけを告げた。

茜の視線の先には、見るも無惨な二人の少女の亡骸。

 

片方は首がなく、もう片方は銀髪が赤黒く染まっている。

 

「嘘、だろ...明...ッ!」

「えー君!回収したところで意味は無いよ!」

「ふざけんな!虚夜の話だ、またアリエスに蘇生させる可能性だって!」

「無いよ!アリエスは...遺体のそのままの状態で生き返らせる...

 私だって...再生カプセルの中で目覚めたんだよ...?私は失血死だった

 みたいだけど、それでもまともに動けるまで2ヶ月はかかったって、

 虚夜は言ってた。私のあれでそんな時間がかかってるんだから、

 こんなの...生き返らせる筈がない...それに...私だって、女の子だよ?

 シスコンのえー君よりも、心は、ちょっとばかし弱いんだよ...」

 

茜は今にも泣き出しそうだった。

お陰で頭が冷えた。茜の嗚咽を受け止め、少々思索を巡らせた。

だけど、俺も涙が出ない筈などない。

 

二人分の苦しみの嗚咽が、ただただ、そこにこだましただけだった。

 

 

 

 




やっちまったぜ。

茜復活の代償?いえいえ、計画通りですよ。(黒笑
なんだろう、このネプテューヌシリーズにあるまじき鬱っぽい展開。

ま、まぁ救世の悲愴に比べれば、ね、うん。

次回、「祭壇/捧げしもの」

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