榛名さんが本気になってアンダーなプルンプルンが提督を危機に陥れる。
それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
2017/09/22
本文内言い回しがおかしかった箇所を一部修正致しました。
ご指摘頂きました謎のピカチュウ様、バートリー様、有難う御座います、大変助かりました
大坂鎮守府に居る黒ツナギの妖精さん。
その小人は他のサイズの妖精さんと同じく性別は存在せず、また艦娘と同じで自然死に拠る死とは無縁の存在である。
ただ他の妖精さん達とは違い、肉体に何か壊滅的なダメージを負うとその存在が消えてしまう、他の妖精さん達は消えても何時の間にかまた現れるが黒ツナギの妖精さんは艦娘と同じく消えてしまう。
「何か君ら最近暇になったら自分の肩とか膝に乗って
吉野が昼休憩の合間に訪れた電ガーデンでのへーとダレていたら、いつの間にかワラワラと沸いてきた黒ツナギの妖精さん達が体のあちこちによじ登ってきてはダラーとしている。
仕方ないのでダラけつつも、最近ポケットに常備する様になったタブレットケースから金平糖をジャラジャラと取り出しては妖精さんに配布する。
そんないつもの風景になりつつある様を横で見て時雨はクスリと微笑んでそれを眺めている。
「もしかして餌付けに成功しちゃった? 何か
だらしない相の吉野の肩に居た妖精さんの一人が明らかにムっとした表情でペシペシと頬を叩く。
それを見る時雨は妖精さんの言葉にうんうんと頷き、何度か相槌を打っていた。
「提督、妖精さんは金平糖も魅力的だけど、それだけで一緒に居ると判断されるのは心外だとカスンプしてるみたいだよ?」
「あー、そーなんデスネー」
「もう……ちゃんと聞いてあげなよ」
妖精さんのペシペシに頬を膨らませた小さな秘書艦が参戦して膝にペシペシとチョップを繰り出し始める。
何でもないいつもの午後の一時、そこに居るのは一人のヒョロ助と、寄り添う少女、そして10人の黒いツナギを着た小人達。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人類が初めて艦娘と邂逅した時、それと共に現れた妖精さんは100人程存在していた。
その妖精さんは艦娘と同じく様々な形で人々と関わってきた。
人が戦う為の船に乗り、共に海へと消えていった妖精さん。
防衛施設の手伝いとサポートをしていて迎撃の際炎に消えた妖精さん。
そしてあの日、少女達が居なかった為に彼女達が帰る場所を守ろうと警備隊と共に戦って散っていった妖精さん。
元来妖精という存在は喜怒哀楽という感情の振れ幅が極端に狭い存在として知られていたが、何故か黒ツナギのその存在はその常識からは外れた精神構造を有していた。
それは後に現れ始めた"人型サイズ"の妖精さんと酷似した物だったが言葉を発する器官が存在しない為に喋れない、そしてこのサイズの妖精さん故か、記憶の関連付けに難がある様で行動に一貫性が無かった。
そんな妖精さん達は、誰も居なくなった死の人工島に残って山となった瓦礫をせっせと片し、僅かに生きていた地下設備を拠点にして復旧できる設備を細々と直し、地下に移動させた小さな小さな工廠で毎日様々な物を試作していた。
いつか皆が帰ってきてもいいように、家を片付けて、留守番をすると決めていた。
100人は居た妖精さんは数々の戦火に散っていき、最終的にはその数を10人にまで減らしていた、その為手掛ける作業も片付けも気が遠くなる程の時間を要したが、時間の概念から切り離された存在であった小人達にとってそれは苦痛にはならなかった。
記憶の関連付けが不得意な肉体は、何の前触れも無く昔の記憶を呼び覚ます時があった、それは思い出と呼べる物。
その中でも強烈に印象に残るのは白衣を着たある女性に関する事が多かった。
その女性は妖精さん達からは"ボス"と呼ばれており、何かにつけて妖精さん達とは行動を共にする機会が多く、またお互い影響を与え合う関係でもあった。
その女性の印象を述べれば正直だらしないの一言に尽きる物だったが、不思議と妖精さん達とウマが合う存在であり、時折小人達も驚く程の結果を見せてはその信望を集めていた。
何度も言うが基本的に妖精さんから見ても、適当が白衣を着た様なその女性はダメな時はとことんダメ人間だったという。
それでも妖精さんは知っていた、あの時ここに居た人間の中で、そのダメダメな女性は一番少女達の事を思っていた人間だった事を。
誰も居ないラボでクダを撒いて物に当たっていた時も、書類に埋もれて頭を抱えていた時も、そして少女達が傷を負って帰って来た時も、いつだってその"ボス"は全力で少女達の事をどうにかしようともがいていた。
一度漏れ出した記憶は連続はせずに途切れ途切れに頭に思い浮かぶ。
"ボス"と少女達と、その家族と共に過ごした時間を。
研究施設に忍び込んで"ボス"の娘達と研究設備に悪戯をして尻ペンを食らった時を。
"ボス"の大切な人の大きな手の乗り心地がとても心地良かったと知った時を。
自分達と一緒に陽だまりで昼寝をしていた小さな人間の暖かさに癒された時を。
あの日の事は忘れない、辛かったがそれ以上に楽しいと思う事が多かったこの家が、興味と好奇心の中毎日何かを作っていた工廠が、いつも誰かが笑っていたこの場所が
───────── 一瞬で瓦礫の山となったあの時を。
誰も居なくなった人工島で小さな工廠に篭り、ひたすら何十年も掛けて作り続けては失敗を繰り返して完成したそれは、帰って来ると信じていた者達を、あの時の様な理不尽から遠ざける為の物だった。
誰も居なくなって久しいそんな場所に、ある日明らかに海風の物とは違う音が聞こえてきた。
その音に誘われて久々に地上へ出れば、自分達と同じ風体の小人に紛れ、作業服に身を包んだポニーテールの娘が何やら機械を操作して作業に勤しんでいる様子が見える。
久々に見た自分達以外の者を見て戸惑いつつもここで一体何をしているのかとこっそり観察していると、それは明らかに建造物を建てる為の基礎を作っているのだという事が理解出来た。
急いで地下の工廠へ走り
そして地上で作業している少女にそれを見せ、家を作るなら使ってくれと懇願する。
黒ツナギの妖精さんが少女──夕張に託したそれは、赤茶色の小さな固まり、一枚のレンガ。
それは見た目も手触りも、そして重さも通常の焼きレンガとなんら変わらない物だった。
しかしそれは数十年、地下の小さな工廠で延々と失敗を繰り返し続け漸く完成させたそれは、黒ツナギの妖精さんが作り上げた想いの結晶だった。
あの時の様に崩れはしない、何が来ても壊れない。
誰も泣かせない、誰も焼かせない、誰も死なせはしない。
理不尽に立ち向かったが結局返ってこなかった"ボス"の大事な人、一瞬で建物と共に消えてしまった一緒に悪戯をしたあの二人、黒こげになってしまった小さな者、数えるのも億劫になる程沢山居た筈の色んな人。
そして最後は泣き叫び、冷たくなってしまったボス。
フラッシュバックの様に時折浮かぶ悪夢と、同じ位に思い浮かぶ楽しかった思い出に突き動かされて時間の全てを詰め込んだそれは、たった一枚のレンガだった。
周りに居た妖精も
そうして出来上がった家々は、崩れる前の建物に良く似た形の物だった。
地下にあった工廠から道具を引き上げ新しい工廠へそれを運び込む、そんな作業をしていた時に夕張が搬入してきた大きな機械。
初めて見る様で懐かしいそれは、昔ボス達と共に作った部品が中央に据えられた物だった。
この日を境に黒ツナギの妖精さん達は 『ここを我々のキャンプ地とする!』 と宣言して根城にする事に決めた。
ある日、そろそろ新しい工廠にも慣れてきた時の事、一人の軍装に身を包んだ男が数人の人物を伴って妖精さん達のキャンプ地を訪れた。
それは久々に見る白い軍装、それを着た男が夕張の説明を聞きつつ頷いている。
何となく感じる違和感と、懐かしい色に誘われて近付いてみるとその男からはボスと同じ色と、あの時戦っていた少女達と同じ色が混ざったかの様な、そんな不思議な色を見せていた。
頭に浮かぶ朧げな景色。
ボスが必死に直そうとしていた小さな者、しかしそれは間違った手順でなされていた、しかしそれの何が間違いで何が正しいのか妖精さん達には伝える術が無い。
だからボスが疲れて眠っている間に自分達で間違った部分を少しづつ手直しする事にした。
ボスが作業して、それを妖精さん達がちょっとつづ手直しをする、そして起こる筈の無い奇跡は形となって命を繋いだ。
それはボスの色と、少女達の色が混じった不思議な色をした魂が宿っていた。
堪らず足元へ駆け寄った、そこに居たのはあの時の様に小さくも弱々しくも無い大きな人影だったが、見える色は忘れる筈も無いあの時見た色だった。
必死に手を伸ばすが判って貰えない、それでも必死に手を伸ばした。
そんな妖精さんを手に乗せる不思議な色の魂を持つ少女、その少女は目の前の男よりも更に複雑で不思議な色の魂を持っていた。
『何か言いたい事があるのかい?』
口にする言葉は不思議な響きがあり、人が口にする言葉よりも自然に、ストンと心に落ちてくる様な感覚があった。
この少女なら聞いてくれるかも知れない、判ってくれるかも知れない、そう思って男への思いを伝えてみる。
必死に伝えるそれを聞いてかその少女は何度か頷き、そして妖精さんは摘み上げられて男の肩に乗せられる
そして伝えられた、伝えたかった言葉、その為に留守番をして、その為に家を作って。
待たせやがってとペシペシと頬を叩き、その言葉にならない思いを男に伝える。
『お帰り、待ってたよ、だって』
その言葉に首を傾げる男。
ちゃんと留守番をしてたのに、家だって建てたのに判ってくれないのか、覚えてないのか。
もどかしさにふと思い出し、そこに誘導する。
そこにはあの二人と一緒に悪戯をした機械があった、あの時、ボスに尻を叩かれた時に悪戯をしたあの機械。
それに飛びつき、あの時書いた筈の、今は消えてしまった落書きをした場所をゴシゴシと擦って浮き上がらせる。
知っているぞお前の事は、ずっと待ってたんだ、名前だって知ってるんだぞ。
妖精さんの不思議な力が時を撒き戻し、あの時消えてしまった二人が書いた筈の落書きを再びそこに蘇らせる。
そこには娘の名前に続き、今そこに立つ男の本当の名前が落書き然とした平仮名で記されていた。
ペシペシとその名前を叩いて見上げると、それを見た男は泣きそうな、嬉しそうな、そんな複雑な色を見せつつも理解した様を見せた。
そんな男が軍装を纏う意味、そしてそれを着て工廠に来る事、妖精として存在している小人達にはそれらが何を意味しているのか本能的に判っていた。
お前がそれを望むなら全力で応えてやろう、それが自分達の本職なのだから。
久々に取り出した大槌を肩に担ぎ、気合のまま拳を男に突き出して声にならない思いを見せ付けた。
『まかせろ、だって』
そしうて黒ツナギの妖精さん達の長い長いお留守番の日々は終わりを告げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ねぇ提督」
「ん?」
「この妖精さん達ってさ、凄いんだよ」
「ん? 何が凄いワケ?」
「えっとねぇ、明石セレクションのお針子さんの変わりに、榛名さんのオーダーした複雑なデザインのメイド服をちゃちゃーっと仕上げたり」
「ん……うん?」
「電ガーデンの果物出荷用の自動システムをちゃちゃーっと整備しちゃったり」
「……うん」
「提督のスープラから変形ロボをちゃちゃーっと作っちゃったりするんだよ」
「ちょっと待って!? 提督の愛車がロボてどういう事!? そんなトランスなフォームしちゃう物作ってなにする気!?」
時雨がボショボショと黒ツナギ達と暫く何かを話し、うんうんと頷いて振り向いた、その笑顔は秋空と同じくとても爽やかでお日様の様に輝いていた。
「拠点防衛用ロボ、スプーだって」
「ナニその微妙に愛車の名称踏襲しつつもShowこおねーさんが産み出しちゃったモンスター風味な名前!? てかなんで提督の私物をロボにしちゃうの!?」
「夕張さんが持ってた設計図を見つけたから作ってみたんだって」
「メロン子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおうおうおう!!」
黒ツナギに黄色ヘルメットのちょっと変わった妖精さんは、色々な経験を積んだ結果、縫製工業システム開発なんでもござれなマルチエキスパート職人となって大坂鎮守府の技術面に大きく貢献する存在となっていた。
主に明石とか夕張とかに対して。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。