横須賀鎮守府から新たに着任した球磨を迎え、本格的な水雷戦隊を運用する事になった第二特務課、錬度も充分な駆逐艦を伴っての艦隊訓練に励むが色々同課特有の問題が元でその運用が危ぶまれる状況、その打開策として球磨はある提案を吉野にするのであった。
それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
2018/09/16
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました源治様、有難う御座います、大変助かりました。
大坂鎮守府内にある工廠 『夕張重工』 そこの作業区画ではピコーンピコーンと近未来を彷彿させる音が発生していた。
その音源を吉野は眉を顰め凝視し、隣に居る球磨は片手を顔に当て項垂れていた。
二人の前に居るのは陽炎型二番艦 不知火、この第二特務課水雷戦隊副艦にして、駆逐艦としては時雨に次ぐ古株となる艦娘である。
キャッキャキャッキャとはしゃぐ
固定された装備だけ見れば余り違和感が無い感じに聞こえそうだが、スロット3つの内全てを攻撃兵装で埋めるとなると、物理的に視界が取れない彼女の目となる電探・ソナー類が積めないという事になり、艦隊行動はおろか禄に航行もままならないという問題を抱えたまま海に出る事になってしまう。
しかし目の前に居る不知火は全ての武装可能ポイントに攻撃兵装を積んでいる状態、普通はどうしてそんな装備をしているのだろうかと確認する処であるが、そんな基本的な疑問よりももっと気になるブツが吉野の視線を釘付けにしていた。
鈍く輝く銀色ヘルメット、それは丁度彼女の鼻を隠す程に前に被さる形状をしており、更に格子状の湾曲したアンテナのミニチュアが頭頂部でクルクル回転しつつピコーンピコーンと音を立てている。
ビジュアル的に判りやすく説明すると、今不知火は某ロボなコップさん的なメットを被り、その頭頂部ではアンテナみたいなブツがクルクル回転しているという状態と言えば判るだろうか。
ピコーンピコーンを凝視する吉野、クルクル回るアンテナ、もはや何から突っ込んで良い物やら判らないという状況である。
「ぬいぬい……それって……」
「不知火に何か落ち度でも?」
いつものアレが不知火の口から発せられるが、そもそもロボなコップがアンテナおっ立ててピコーンピコーンしているのは落ち度とか何とか以前の問題なのでは無かろうかと吉野は乾いた笑いを口から漏らしていた。
「不知火さんはどうしても索敵兵装を多く積む関係上攻撃手段が限定されてしまいます、そこでそれをカバーする為に電探とソナーを仕込んだヘルメットを作成し、それをインカムを通して聞くという装備を開発してみました!」
早くもケツペシのダメージから回復した夕張が胸を張って装備の説明をする、いやに最近ケツの耐久度が上がってきたなと思いつつも夕張の横で佇む銀色メットの不知火を凝視する吉野。
鈍く輝くそのメットは確かに色々な装備を格納したブツかも知れないが、吉野には何故かそれに見覚えがある気がしてならなかった。
近付いて良く観察する、すると耳の辺りに見覚えのある特徴的なスリットが何本か刻まれているのが確認出来る、更に良く観察すると幾ら索敵機器を詰め込んだにしてもそれは不知火が被るにしてはやや大き過ぎる見た目のヘルメット。
何故か物凄く見覚えと言うか、それ以上の何かが吉野の脳裏に浮かんでくる。
「……メロン子」
「はい? 何ですか提督」
「このメットってさぁ、前に自分が装備してた初代耐爆スーツ(X)のメットじゃね?」
「エコ且つ無駄の無い装備開発、夕張重工は地球に優しい企業を目指しています」
「何か綺麗事並べてるけど今企業とか言わなかった? ここ軍事施設だよね? 企業ってナニ!? ちゃんと提督に説明してくれるかなぁ!?」
プイと横を向く夕張、その隣で何故だかハアハアと息苦しそうな素振りを見せるピコーンピコーン。
装備に何か問題でもあったのかと急いで不知火の傍に駆け寄ると、『ハアハア……司令の香りが……』というちょっと聞いてはいけなかった気がする呟きが聞こえたのでそのまま止まらず元の位置まで駆け足で戻る吉野。
もう色々ダメさが先行する状況にどうした物かと項垂れた吉野の前に誰かの爪先が視界に入る。
視線を徐々に上げていく。
黒に近いシューズ型の主機、黒のストッキングに包まれた腿の左右には61cm五連装酸素魚雷発射管が固定され、第二改装二段階目を終えて白いブレザータイプの制服になったそこから伸びる両手には61cm三連装酸素魚雷発射管を持つ腕が視界に入る。
「重雷装駆逐艦朝潮です」
魚雷発射管まみれと言うか埋もれてると言うか、そんな彼女と目が合うと、物凄く真面目な相でそう口にする朝潮、そしてそのまま無言で眉を顰める吉野。
「重雷装駆逐艦朝潮です」
無言の吉野を見てちゃんと言葉が聞こえなかったのだろうと判断した几帳面な彼女は再び同じ台詞を口にする。
何を言っているのか聞こえてはするものの、その言葉の意味をいまいち咀嚼し切れてない吉野は朝潮の顔を凝視する事しか出来なかった。
「司令官、重雷装駆逐艦朝潮です」
「じゅ……重雷装くちくかん? なぁにそれぇ?」
「普段前に出る三人のカバーをメインにする彼女は何かと敵と戦う時距離が開き気味になり打撃力が心許ないという悩みを抱えてらっしゃったので、ここはいっそ駆逐艦の最大火力装備になる魚雷装備を目一杯積んでみようという事になりまして」
「いやちょっと、駆逐艦って最大兵装搭載数って確か3じゃなかった?、これどう見ても4……って
「両腿と右手以外のは予備です」
「んなの魚雷の予備持たせればいいだけの話では……」
「提督は甘いです、戦場ではそのリロード時間が命取りになります、通常装備以外に予備をもう1セット持っていれば一斉射した後切り替えてもう一斉射出来ますから、単純に二倍の雷撃が短時間で可能になる訳です!」
エッヘンと胸を張るメロン、うんうんと頷く朝潮。
話だけ聞けば確かに短時間で倍の魚雷を射出できれば有用である事は間違いない、単純ながらそれは強力な武器になる可能性もあるにはある。
しかしそれは一旦打ち尽くせばリロードの手間も時間も二倍になるという結果が伴うのだが、果たしてこのメロンと真面目過ぎるくちくかんは理解しているのであろうか?
むしろ装備重量が倍になったお陰で駆逐艦の強みである速さが死んでいるのでは無かろうかと吉野は思ったが、それを指摘する前にツンツンと背中を何者かがつついてくる。
振り返るとそこには膝下だけベルボトム的な形をした何かを装備し、背中に鮫のヒレの如きデッカイ三角の板をくっ付けた陽炎がニコニコと立っていた。
その特徴的な膝下の何かは布の様な物では無く恐らく金属製な物で出来ている様に見え、更にそこから謎のチューブが腰に繋がれた金属製のタンクに接続されている。
「高機動型陽炎N型よ」
「ナニその真紅の稲妻っぽいネーミング、てか高機動ってドウイウコト?」
「陽炎さんは身体能力が極めて高い艦娘ですから、その能力を伸ばす為に両足に追加推進モジュールを装備して速度増を目指す装備を整えました」
恐らく足のラッパ状のそれは推進モジュールと言うブツなのだろう、見た目はちょっとアレだが手軽にそんな事が可能なら確かに装備としてはこの中では一番まともだと言えなくも無い。
「ふふ~ん、これで私には誰も追いつけないよ!」
まるでどこぞのハレンチな格好をしたスピードジャンキーくちくかんの如き台詞を口にしながらその場でクルクル回る陽炎。
ふとその腰に装備された鈍く輝く金属タンクを見ると、酷く見慣れたあるステッカーが貼っ付けてあるのがチラチラと見える。
そのタンクに貼り付けられた赤い矢印の意匠が特徴的な『NOS』という単語。
亜酸化窒素をエンジン内部に直噴して爆発力を増加させ、混合気のみで燃焼するエンジンに比べ2-3倍程の燃焼効率を搾り出す事の出来るシステムである。
そのシステムは空気を圧縮してエンジンに送り込むターボチャージャーやスーパーチャージャーと似た作用をもたらすが、機構の性質上ON・OFFの操作が容易であり、かつ軽量という事もあって大出力が必要な競技車両やチューニングカーに良く搭載されているブツである。
「……おいユウバリンコ」
「夕張です、ユウバリンコって何ですか提督」
「アレ……NOSて……」
「ああ、提督のスープラに組み込まれてたのをちょっと拝借しちゃいました」
再び生尻ペシペシが工廠内に響き渡る、もはやそれは様式美を通り越し誰も気に止めない日常と化しているのは夕張が頻繁にこんな事をしているせいかも知れない。
「流石にこう連続で致されるとちょっとお尻が壊れてしまいましゅ……」
「変に誤解を招く言い方は止めようか? てかいっっつも言ってるデショ!? 提督の私物分解したり材料にしないでって!」
「仕方ないじゃないですかぁ! 大淀さんに予算上げたら大幅カットされちゃったから色々ある物で何とかしないといけなかったんですってばぁ!」
「だからって酒保で売ってるブツをそのまま盾とか言い張ったり、提督の私物で兵装作っちゃったりマジでナニしちゃってくれてんのこのメロン子!」
因みに大淀は夕張が上げてきた予算を金銭面で判断して修正した訳ではない、要求された物をそのまま通してしまうと必ず暴走してとんでもない結末を迎える事を予想した故にわざと予算をカットしたのである。
しかしその大淀の頭脳を以ってしてもこのメロンは色々といらん能力を発揮し、盛大に斜め上方向に向かって暴走してしまったのである。
そして結果としてその最大の被害者は吉野である事は、いつもの風景的な物となりつつあるのは最早避けられない域にまで達していた。
「てかNOSなんか積んだら流石にヤバいデショ、攻撃掠っただけでも爆発しちゃうだろうし」
「当たらなければどうと言う事はありません、偉い人にはそれが判らんのです」
「むしろヤバかったら飛ぶし、大丈夫じゃない?」
「と……飛ぶぅ? 何がぁ?」
ピコっと自分を指差す陽炎と、うんうんと頷くメロン子、もう色々あって突っ込み疲れた吉野であったがモノがモノだけに命に関わる重要装備である以上無視する事は出来ない。
むしろ飛ぶという艦娘という存在から最も縁遠い単語を聞いて、ああそうですかと納得出来る程吉野の常識はメロン色に染まってはいなかった。
「……何をどうやってFly Highしちゃうワケ?」
「えっと波をこう……ジャンプ台に見立ててブースト全開で突っ込むでしょ、そしたら大空へ……」
「ナニソレただの大ジャンプじゃない!? てかそんな事したら空中でバランス崩して大惨事になっちゃうデショ!?」
「大丈夫、ちゃんと翼も装備してるし」
クリっと背中を向けて装着された大きな三角の板を見せる陽炎。
確かにそれは翼と呼べる類の物であるが、用途的に揚力を得て飛ぶ為の物では無く安定翼というか垂直尾翼というか、根本的に用途が飛ぶに直結する物では無いのではなかろうかと吉野は思った。
そしてその辺りの事を指摘しようとした吉野だったが何者かに肩を叩かれそちらを向くと、終始空気として振舞っていた球磨が何故か沈痛な面持ちで首を左右に振っている。
「……ナニ球磨ちゃん?」
「提督……時には諦めも必要クマ……」
周りには夕張謹製強化装備(仮)を装備しテンションMAXのくちくかん達、その顔はめがっさキラキラしておりとても何か口を挟める雰囲気では無かった。
「お……oh……」
「まぁあれクマ、取りあえず装備の慣らしも兼ねて演習しようと思うクマが、その前に長門達を呼んで欲しいクマ」
「長門君達を?」
「クマ、色々と打ち合わせをしたいクマ」
「あ~ うん、判った今からちょっと声掛けてみるよ、それでいいかな?」
「お願いするクマ」
クマクマと真剣な相でそう述べる球磨に同じく真面目な相で目を細めてそれに応じる吉野。
こうして新たな装備を身に纏った駆逐艦達は期待に胸を膨らませ、兵装慣熟を兼ねた演習の為準備を進めるのであった。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。