大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 週一投稿を努力目標とした場合、十日という結果は如何なものか。

 て言うかネタはあるけど執筆から遠ざかると文字に起こすのにグヌヌヌヌ。

 とりあえずドン! 多分投稿期間は徐々に改善される筈。

 筈!!(超遠い目)


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2020/
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました頭が高いオジギ草様、柱島低督様、orione様、orione様、有難う御座います、大変助かりました。


点が線になる時

 日欧資源環送航路連絡会の発足を前日に控えた英国。

 

 召喚された各国代表陣の母艦は、艦娘用設備を敷設した嘗ての大英帝国海軍の拠点、ポーツマス海軍基地に停泊する事になっている。

 

 

 西蘭島より来た吉野達はランプレヒト・ビルングとの会談と諸事の為、二日程ヴィルムスハーフェンにあるドイツ連邦海軍第2機動隊群内欧州連合技術研所へ立ち寄っていたが、現在は当初の予定であった日欧資源環送航路連絡会の発足に立ち会う為にポーツマス海軍基地へ母艦和泉(いずみ)で寄港し、明日の本番に備え色々諸々の準備中であった。

 

 一応は。

 

 

「ねぇあきつさん、あの、その、何故矢矧さんと夕張さんと提督はその…… ()()()()()()()なってるんでしょうか」

 

「秋月殿、その辺りはまぁ其々色々と事情を抱えているのでありますが、その辺りの説明をするのはちと時間が掛かるでありますよ……」

 

 

 母艦和泉(いずみ)内にある多目的ブリーフィングルーム。

 

 約三十畳程もある一部畳の一室に据えられた、ちょっと豪華な皮張りのソファーとマホガニー製ローテーブルを囲む三人。

 

 

 髭眼帯こと日本海軍西蘭泊地司令長官である吉野三郎海軍少将は二人掛けのソファーに深く身を沈め、天井を仰ぎ見ながら魂が抜けたかの如く虚ろな表情を表に張り付けたまま微動だにしない。

 

 その対面右側に座る、西蘭泊地外事課課長である矢矧はまるで死人の如くローテーブルに上半身を投げ出すように突っ伏し、やはり微動だにしない。

 

 更にその矢矧の右隣り、髭眼帯から見て左斜めに座る西蘭泊地工廠課"夕張重工"の責任者である工作艦夕張は、右にソロバン、左に何やら色々が書き込まれた図面、更には正面に置かれた関数電卓を順に睨みながらブツブツと…… 恐らく専門的な単語であろう謎の言葉を超真顔なままで呟いていた。

 

 

 それは世間一般的な雰囲気で言うと"お通夜"と呼ぶに相応しい空気が充満し、延々と続く夕張の呟きがまるで経文を垂れ流す的な状態になり、場の空気を更に"お通夜"状態にさせていた。

 

 

「秋月殿は現在西蘭泊地に着任していない種の艦娘が、此度世界中から一気に送られてくる事になったのはご存じでありますか?」

 

「はい。理由は聞いてませんけどその辺りはお昼頃に聞きました」

 

「矢矧殿はその対応を一手に引き受けつつ、明日の連絡会発足後に申し込まれている提督殿の会談の最終調整をし、更には以後関係するであろう多方面に対し根回しをしている最中でありました」

 

「え、それって…… 同時進行で?」

 

「同時進行で、であります」

 

 

 恐らくそうなるであろうという予想の元、出来る事前準備は全て済ませてきたデキる艦娘矢矧。

 

 それでも恐らくは相当な予想外は起きる筈だと構えてた矢先、ランプレヒト・ビルングが投げたビーンボールがいきなりクリティカルとなってしまい、外交関係の仕事から髭眼帯を脱落させてしまう事態へと発展させてしまった。

 

 更にはあきつ丸が言う"現在西蘭に未着任な艦娘を世界が寄ってたかって送り込む"という事が決定し、関係する主要七か国に対し受け入れの対応をする窓口も能力的に矢矧が担当するしかない。

 

 加えて今回は西蘭泊地外事課発足後初の外遊である。これを機に表も裏も繋ぎを持ち、今後の為の根回しもしておかなければならず。

 

 そんな諸々が集中した矢矧は、頭オーバーフロー状態のまま髭眼帯に諸々の報告をした後、静かにローテーブルに轟沈してしまった。

 

 

「それで夕張殿でありますが、何やらビルング何某(なにがし)から受け取った新造船(調査用艦娘母艦)の仕様がその…… どうしてもウチ(西蘭泊地)の守秘義務の範疇と言うか、ぶっちゃけ表にだせない技術抜きでは満たせないという事で、徹夜で色々やりつつ提督殿になんとかならないかと嘆願している最中でありますな」

 

「嘆願ですか。それってどれだけの技術開示をしてもいいかって事ですか?」

 

「そうでありますな」

 

「……それは、何とかなったんでしょうか」

 

「何ともなってないから、お通夜に経を挙げてるであります」

 

「あー……」

 

 

 夕張は現在欧州連合技術研所より依頼のあった、新型艦娘母艦と言っても差し支えない調査用艦艇の仕様書を受け取った後、現行の西蘭製母艦の図面に条件を落とし込んでみたが、結局秘匿するべき技術範囲と、欧州連合技術研所が要求する…… 主に人が関わるべき操船や維持等の総数上限がどうしても見合わない為、その差をどう埋めるかという問題に直面していた。

 

 細かな仕様はさておき、件の母艦は海洋研究を主とした船ではあるが、深海棲艦が跋扈する海に長期に渡り出航()なければいけないという特質を持つ。

 

 それは現状行われている軍の作戦行動と照らし合わせても特異な物と謂わざるを得ない。何せ主目的は戦闘ではなく調査、それも期間が限定されず、言ってしまえば目的が達成されるまではずっと抜錨した状態が延々と続くという有様である。

 

 そして関わる人的リソースは通常の艦娘母艦に比べ五分の一であり、船舶護衛に就く艦娘は約三艦隊相当ではあるがケアする人員がほぼ居ないという無茶振り。

 

 どう考えても条件的に叢雲をコアにした和泉(いずみ)と同等の母艦でなければ目的に則した運用は不可能と言える。

 

 

「で、諸々の報告や相談を受けてた提督殿でありますが…… まぁその……」

 

「ああ、そこで()()()が飛び込んできたので茫然自失に……」

 

「さもありなん、でありますなぁ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「えーっと、その、色々言いたい事はあるんですが、何でいきなりこうなっちゃってるのかの訳を聞いても?」

 

「え、うん? ちょっと前にオニーサンとこ行くって連絡したじゃん?」

 

「えぇ、まぁその辺は…… はい」

 

「で、オニーサンが何の用事でヨーロッパに来たか知んないけど、私的にはほら、ここでついでに便乗しちゃえばわざわざ泳いでそっちに行かなくてもいい訳だし? 丁度いいかなって」

 

 

 プルプルする髭眼帯の前にはちっこくて白い、ぶっちゃけて言うと幼女的な深海棲艦がオシャレにティーしつつにこやかに事の次第を口にしていた。

 

 それは嘗て人類を恐怖のズンドコに陥れ、ある意味最も凶悪というイメージを持たれ、現在北極海を根城にする海の大首魁である北方棲姫であった。

 

 

 当然そんなヤバい棲姫さんが大手を振って髭眼帯の元を訪れたとなれば大混乱を通り越し、現状主要各国の代表団が集結してる現在では深刻な国家間レベルの問題となる為お忍びでの襲来ではあったが。

 

 

「丁度いい…… まぁ、うん、距離的なもので言えばそうかもしれなかったりする事が微レ存かもしれなかったりするのかなぁ」

 

「まぁどっちにしてもオニーサンが巣に帰る時って、インド洋を通るんでしょ?」

 

「うん? えぇまぁそうですね」

 

「んじゃ取り敢えず私は一度そこで別行動って言うか、船渠棲姫のとこに行くから」

 

「……は!? え!? なにそれどういう事!?」

 

「んー、色々事情はあるんだけど、どうしても確かめたい事と調べたい事があってね。以前から色々と誘いはあったんだ、アイツ(船渠棲姫)からさ」

 

「えーっと? 色々と誘い? ちょっと話が見えてこないんですけど。どういう事ぉ?」

 

 

 突然の来訪という傍若無人っぷりに続き、船渠棲姫という名を口にするほっぽ(北方棲姫)の言葉に髭眼帯は怪訝な相を表に張り付ける。

 

 船渠棲姫とは原初の者でありインド洋の大首魁。髭眼帯との関係で言えば取り敢えずの縁はあっても味方とは言い難く、どちらかと言えば仮想敵に近い関係と言える。

 

 密約という形で一時の住み分けはしていても、油断のならない仮想敵。その大首魁の誘いにほっぽ(北方棲姫)は乗るという。

 

 

 確かにほっぽ(北方棲姫)と髭眼帯とはそれなりの関係を築いてはいるものの、それらは利害が一致するからという付き合いでもある。

 

 その前提のまま今回の話を聞いた場合、もし船渠棲姫が持ち掛けたという事案が吉野達の持つ諸々よりほっぽ(北方棲姫)の興味を惹いた場合、当然今の関係は崩れる事になるだろう。

 

 

 もしかしたら敵と味方、という形を伴って。

 

 

「あー、うん、まぁ予想は付いちゃうかぁ。まぁ私もオニーサンとはいい関係でいたいんだけどさ、それはまぁアイツ(船渠棲姫)の持ってる情報次第って事になるかなぁ」

 

「やっぱり…… そういう話になりますかぁ。そこまでほっぽ(北方棲姫)ちゃんが拘る情報って"例の話"に関係した物で?」

 

 

 吉野の言う"例の話"。ほっぽ(北方棲姫)が探し求め、解き明かそうとするモノ。

 

 深海棲艦という存在が人を憎み、心を焦がす程に憎んでいても、陸まで攻め立ててまで殲滅までしようと思わないという不自然な性質を持つ謎。そして"種の成り立ちを無視し()()()()()()()()()"という生物学的な謎。

 

 

 ──────自身がそうだから。

 

 ──────自身の内にある理不尽だから。

 

 

 なのにそれは"何故"という問いしか持たない。そんな理不尽と何故に気付き、我慢できなくなり、全てを放り投げ"何故"に答えを求めた引き篭もり。

 

 それが人類が最も恐れ、今も最凶と言われる原初の深海棲艦北方棲姫であった。

 

 

「聞いた話だけじゃ直接的に関係あるかどうか判んないんだけどさ、まぁ色々と興味深い事になってるって言うか、色々と…… ね?」

 

「そうですかぁ、まぁほっぽ(北方棲姫)ちゃん的に色々と興味が惹かれる話が船渠棲姫さんからあったと。うん…… なんと言うか内容は秘密だろうしその辺りはどうしようもないけど、そっかぁ、ほっぽ(北方棲姫)ちゃんが敵に回る可能性とか考えたくないなぁ」

 

「うん? 秘密? いやそんなのないけど、口止めされてないし。寧ろオニーサンにも関係してる話だからその辺り筋を通さなきゃって思ってたんだけど?」

 

「はい? 秘密じゃない? てか自分にも関係する話?」

 

「そそ。えっと今アイツ(船渠棲姫)とオニーサンの間で色々と密約っての? 致しちゃってるんでしょ?」

 

「えぇまぁ、そうですね」

 

「それってアイツ(船渠棲姫)の下っ端が…… なんてったかな、どこかに上陸するのにそっちの縄張り(制海)を通るから、それを見逃せって話になってるんでしょ?」

 

「……そうですね、その見返りとして一定期間船渠棲姫さんとは不可侵条約を密かに結ぶって事になってるんですが」

 

 

 ほっぽ(北方棲姫)が密約の内容を知っているという事実と、船渠棲姫から持ち掛けられた話が秘密じゃないという内容に、髭眼帯はポーカーフェイスを装いつつも訝しむ。

 

 

 船渠棲姫的には吉野達との関係上、北方棲姫を自身の陣営に引き込むというのは必須の筈である。なにせ現在確認されている原初の者五人の内、吉野と関係を持っている者は三人居る。

 

 麾下に置く戦力を換算すれば、言い換えれば吉野と事を構えた場合、現状船渠棲姫に勝ちの目は無いと言える。

 

 しかしここで北方棲姫が船渠棲姫と手を組んだ場合、純粋な戦力比は拮抗。更に言えば吉野自身は人間である為どうにかして始末してしまえば全てをひっくり返す事は可能の筈。

 

 故に船渠棲姫的に今回北方棲姫に渡りを付けた諸々は、吉野には知られたくない筈である。なのに北方棲姫はそれらの諸々は秘密でないと言う。

 

 

()()()、その、ほっぽ(北方棲姫)ちゃんが船渠棲姫さんから誘われた話って自分に知られてもいい話なんですかね?」

 

「ん? いいんじゃない? アイツ(船渠棲姫)には()()()()()()()()ってさっき言ったじゃん?」

 

 

 あっけらかんと、そして口角を不自然な形で上げた笑いを滲ませた北方棲姫を見て、吉野は色々な物を察した。

 

 

「成程、それがほっぽ(北方棲姫)ちゃん的な筋の通し方ですかぁ」

 

「なんの事か判んないけど、まぁそうかなぁ」

 

 

 利害のみを突き詰めた関係と冷めた口調で言いながらも、()()()()というには過ぎた思いを滲ませて。髭眼帯は苦笑を滲ませつつも北の大首魁と話を詰めていくのである。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……えーっと、ちょっと待って? 今のが船渠棲姫さんからほっぽ(北方棲姫)ちゃんに渡った情報だと?」

 

「そうだけど、何か問題が?」

 

「あーっと、話を要約すると、彼女(船渠棲姫)の縄張りで変わり者って言うか異常個体ですか、その姫なり鬼さんは縄張りとか仲間を放り出して陸に向けて突き進むなんて事を繰り返してると?」

 

「うん、稀にある事らしいけど、ソイツらって法則性って言うか目指す先はいつも同じらしいのよね。どんなに引き留めようとしてもそれを振り切って、いつも同じ位置に向かって陸を目指すんだって」

 

「深海棲艦の性質としては謎で、まぁ状況的に()艦娘であるのは間違いないけど、それでも毎度同じ状態になるのには何か理由がある筈と彼女(船渠棲姫)は思ってる訳ですね?」

 

「そね、深海棲艦が陸に興味を示すなんて前例は無い訳だし? 突発的な事案じゃなくて既に何回も同じ事が続くのには何か理由があるのは間違いはないと私も思うのよね」

 

「……ほほぅ? インド洋でぇ? 何度か陸を目指す()艦娘の上位個体さんが居るとぉ?」

 

「う……うん、で、まぁそれが何でなのかとかいう以前に、そういう事が頻発しちゃうと縄張りの維持的に良くないからってアイツ(船渠棲姫)はオニーサン達と裏取引した上で、下っ端を陸に送り込もうとしてるらしいんだけど」

 

「ほぉん? でぇ? ほっぽ(北方棲姫)ちゃん的にはその諸々に興味を抱いたと? ふぅん?」

 

 

 北方棲姫が船渠棲姫に伝えた話。

 

 深海棲艦の性質を無視し、陸を目指す上位個体が定期的に現れるという謎。

 

 それは確かに縄張りを維持していく上で問題となるかも知れない。今はそういう個体は極少数ではあっても、そういう存在が増えてしまえばやらなくても良い戦いが増える事になる。

 

 生態的に負けは無いという前提であったとしても、結局は自身に制御できない麾下の者が増えるとなれば船渠棲姫的には見過ごせない話ではある。しかもそういう事案は彼女が把握している範囲では自身の縄張りでしか起こっていないとなれば、猶更原因は究明しなくてはと思うのも仕方のない話ではあった。

 

 

「ねぇ、もしかしてこの話ってオニーサン的に何か情報掴んでたりする?」

 

 

 ほっぽ(北方棲姫)が言う諸々の話を聞く髭眼帯は、徐々に口角を上げニチャリとした例の笑いを滲ませ始めた。

 

 それを見たほっぽ(北方棲姫)は怪訝な相で眉根を寄せつつ、口を△にして髭眼帯のニチャリとした笑いの意味を口にして問い詰める。

 

 

 何せほっぽ(北方棲姫)は以前髭眼帯が日本を離れる切っ掛けとなった話し合いで、暴走の片棒を担いだ事があったりする。

 

 俗に"キレノン"と呼ばれ悪だくみを変な方向に拗らせた髭眼帯は、色んな意味でほっぽ(北方棲姫)の興味を惹く存在でもあった。寧ろほっぽ(北方棲姫)的には平時の髭眼帯より実は"キレノン"の方が好みだったりする。色んな意味で。

 

 そして()()()()()()()で突然髭眼帯が変貌したのには間違いなく裏があるとほっぽ(北方棲姫)が感じるのは自然であり、その予想はある意味的を射ていた。

 

 

「ふむん、情報と言うか何というか、実は答えを知ってたりするかも知れないと言うか、もしそうだとして何か問題があるのかねチミィ?」

 

「!? まさかオニーサンッ!? 答えを知っているッ!? そ……そんなバカなッ!?」

 

「フフフ…… そうかそうか、真実を知りたいと言うのかねチミィ、なら教えてあげようではないか。あきつ丸クンッ! 早霜クンをこれにッ!」

 

 

 こうして粛々と始まった話は危機的状況が、色んな意味で良い形に収まる事が確定したと判断した髭眼帯がそれまでの心因的疲れが裏返り暴走し急転直下、結果としてほっぽ(北方棲姫)とセットになったイミフなノリに周りが困惑しつつ話は収束に向かうのである。

 

 しかも他の諸々も巻き込んで。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「嘘でしょぉ…… マジでぇ……」

 

 

 引き続き母艦和泉(いずみ)の多目的ブリーフィングルーム。

 

 現在ちょっと豪華なソファーセットの傍ではorzの形でプルプルと項垂れるほっぽ(北方棲姫)と、ニチャリとした笑いを顔面に張り付けエラそうに足を組んでソファーにシッダウンする髭眼帯。

 

 その脇には相変わらず我関せずな空気を纏う早霜と、微妙な表情でそれせを見るあきつ丸と秋月。

 

 更にはローテーブルに突っ伏しゾンビ状態の矢矧に念仏(意訳)を呟く夕張という放置されたままのオプションという、とても筆舌に尽くし難い空間が出来上がってたりした。

 

 

「まあ…… 早霜クンは…… そう…… まあ…… そうねぇ……」

 

「結局アイツ(船渠棲姫)がドヤ顔で言ってた"貴女の求める謎に関係するかも知れない()()()()"って、全然イイ情報なんかじゃなかったッ!!」

 

 

 未だorzでプルプルするほっぽ(北方棲姫)は口を△にしたまま真実という無情に打ち拉がれていた。

 

 

 結局船渠棲姫の縄張りであるインド洋でたまーに起きていた、謎の行動をする上位個体とは何の事はない、ビルングから持ち掛けられた話の中心にあった()桂艦隊麾下の早霜、巻雲、朝霜の事であった。

 

 まさか船渠棲姫が吉野に密約を持ち掛けてきた裏にはそんな事情が絡んでいたとは。寧ろ全てを並べて考えれば繋がりを見出せたのではないか? そんな考えにフと至ってしまったヨシノンは急に賢者タイムに突入してしまう。

 

 

 ビジュアル的にそれらの様を説明すると、急にスンッと真顔になった髭眼帯の前では相変わらずorzのまま口を△にしてプルプルするほっぽ(北方棲姫)が居て、無表情の早霜がその前に我関せずと突っ立っており、奥では死に体でピクリともしない矢矧と共にブツブツと呪詛を漏らす夕張がお通夜を加速させつつ、それらをあきつ丸と秋月が怪訝な表情で見るという多目的ブリーフィングルームと言えばとても判りやすい絵面ではなかろうか。

 

 そんなカオスの中、超冷静(賢者タイム)になった髭眼帯は一度周りを見渡すように視線を巡らせ、この何というかぶっちゃけ色んな意味でメーな空気はどうしたものかと思案を始めた。

 

 寧ろこれらの責任的なアレは大体髭眼帯のせいと言えなくもなかったりする。

 

 そして小市民日本代表と称してもおかしくはない小心者の髭眼帯はそれらを放置できる程神経は太くなかった、寧ろ小心者という質が必死に思考を加速させた。

 

 人、それを必死のリカバリーと言う。

 

 

「……あー、ほっぽ(北方棲姫)ちゃん的に今回はザンネンな結果になりましたけど、それを加味した上でイイカンジにアレをソレしちゃったりできそうな情報に提督は心当たりがありまぁす」

 

「……イイカンジに? アレがソレ? なんの話?」

 

 

 orzのままほっぽ(北方棲姫)が髭眼帯に視線を送ると、何やらあきつ丸にコショコショと耳打ちする姿が見える。

 

 更に数分後、ソファーに座り直したほっぽ(北方棲姫)の前には山と積み重なったレポートの山が据えられていた。

 

 

「なにこれ…… えっと? 【人の記憶と魂の定義】?」

 

 

 それらはビルングから吉野達に渡された、嘗て異端とされ歴史に埋もれた研究者の足跡であった。

 

 当時は人類が地球を支配し、潜在的な天敵は存在しなかった。だが突然現れた深海棲艦、そして艦娘。それらの生態は、特徴は……

 

 時系列を考慮すれば、ほっぽ(北方棲姫)が求める"何故"に至る答えに近づける細い糸。そう思っても不思議ではない情報が目の前に積み上がっていた。

 

 

「オニーサン…… これ、どこで手に入れたの?」

 

「たまたまと言うか偶然と言うか、彼女(早霜)の事を発端としてその資料が自分に齎された感じかなぁ、説明は難しいけど。それでほっぽ(北方棲姫)ちゃんさ」

 

 

 食い入る様に紙束を見ていたほっぽ(北方棲姫)だったが、掛けられた声色が硬くなった事に反応し、吉野に視線を向ける。

 

 

「今見てる資料をこっちに寄越した人達なんだけど、その内容を再現する為近々海洋調査に乗り出すらしいんだよね」

 

「え、マジで!?」

 

 

 ほっぽ(北方棲姫)は吉野の言葉に目を命一杯見開き、△だった口がOになった。そして吉野は苦笑しつつ未だ念仏を唱えている夕張をつつき現実に引き戻した。

 

 

「で、どうだろうか。当然ほっぽ(北方棲姫)ちゃんはこの調査に興味はあるよね?」

 

 

 吉野の言葉に口をOにしたままほっぽ(北方棲姫)はブンブンと首を縦に振り、つつかれたまま放置されている夕張は怪訝な表情のまま二人を見ていた。

 

 

「んじゃ条件付きになるだろうけど、ほっぽ(北方棲姫)ちゃんが調査に同行できるように先方へ働き掛けてみるよ」

 

「じょッ、条件ってナニ? ナニしたらいいのッ!」

 

「取り敢えず調査期間中船の護衛をお願いできるかな? ほっぽ(北方棲姫)ちゃんならそれなり以上に戦えるだろうし、もしかしたら調査海域の深海棲艦をコントロールできるかもだし」

 

「流石に縄張り外の木っ端をコントロールする事はムリだけど、追っ払うくらいならワケないよ、うん!」

 

「だそうだよ夕張君。それなら母艦の防衛に同行する人員、若しくは艦娘さん達を操船や維持に充てれるんじゃないの?」

 

「……!? あッ、えと、ちょっとお待ち下さい! ええと……艦娘三艦隊分十八名とスタッフの数が…… これなら、うん、うんっ、ウチの秘匿技術を持ち出さなくてもなんとかなるかもです!」

 

「そんじゃ提督は先方さんに根回ししとくから、夕張君は母艦建造の件を詰めといてくれるかな? ほっぽ(北方棲姫)ちゃんは暫くここ(母艦)に待機で」

 

 

 偶然と縁が齎したほっぽ(北方棲姫)の来襲と船渠棲姫の事情。更にはビルングからの依頼も結局全て繫がった状態で何とか形になりつつあった。

 

 それらの話の落し処を頭の中で整理しつつも、髭眼帯は今もローテーブルに突っ伏した矢矧に視線を巡らし、そっちもどうにかしないとなと小さく溜息を吐くのであった。

 

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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