色々と補完するべき部分が多く、それを確認しつつの更新なので、ちょっと手こずってます、そして一話が短め。
カンベンしてつかぁさい…… 切に。
切に。
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2019/12/17
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きましたCB様、水上 風月様、有難う御座います、大変助かりました。
「バッテリー駆動をメインに航続距離を伸ばしたタイプと、航行速度のみを追求しガスタービン式を採用したタイプか。ふむ、共に艦隊戦を行う海域までの移動のみを想定した装備となれば、確かに取り回しは考えずとも良いから追加兵装としては利に適っている」
北海を望むヴィルムスハーフェンを拠点とするドイツ連邦海軍第2機動隊群。そこに居を置く欧州連合技術研所。
元々ドイツの艦娘運用に於ける一大基地であったそこは、現在欧州連合中の技術開発の中核であり、また北海を挟んで対岸はイギリスとあって欧州に於ける艦娘運用、試験が盛んに行われる海域である。また同時に軍事経済を行う為の中核とも言える連合本部が置かれたブリュッセルにも程近いという事もあり、防衛という面に於いても要衝でもあった。
現在西蘭泊地より欧州へ訪れている面々は、欧州連合技術研所の要請により兵装試験海域に設定された東フリージア諸島沖に於いて、ν夕張重工謹製艦娘用追加兵装(武装未設定状態)のお披露目と、それらの説明会という、研究者達のロマンと趣味性が溢れるアレな集いに参加させられていた。
武装を使用すると装備者の危険が危ないという事でそれらは別途展示という形がとられ、実演は専ら推進機構の見学という名の狂った走行会に終始するというカオス。
普通ならば嘗て髭眼帯が処したように全て封印されるべきブツ達であったが、そこはそれ。集っている者達はどれもこれも所謂技術馬鹿。横文字で表現すればマッドが頭に付くサイエンティスト達である。
ある意味メロン子が増殖したと言えなくも無いそこでは、普通の人では理解不能な質疑応答とアツいアレな談義が交わされ、傍では髭眼帯含む一般ピーポゥが怪訝な相でそれらを眺めるという異世界が欧州連合という組織公認の上で繰り広げられていた。
そんな髭眼帯の後ろでは数年振りに母国の土を踏んだグラーフが控え、脇にはこの狂った技術交流会を主導した欧州連合技術研所のトップであり、欧州連合の艦娘研究の第一人者と呼ばれるランプレヒト・ビルングがトンデモビックリメカに対し真面目かつ本気での評価を口にしていた。
「成る程、ガスタービンタイプの推進器には従来の化石燃料系を使用せず、例のメタンハイドレートを利用するか。燃料効率はこの際横に置いておくとして、最も使い勝手の良い物を燃料として転化するというのは成る程現地改修という見地では見事なものだと評価しよう」
「ウチは原油も採掘できますが、埋蔵量という点ではメタンハイドレートの方が潤沢ですから、どうしても消費という面になりますとそちら優先の装備をという流れになっていますね」
「技術研究というものはね吉野少将、要求された何かを作り出すために行われる物と、手元にある物を組み合わせ、若しくは効率化して何かを作るという二面性が存在する。軍の要求する仕様を満たしつつ装備を作るという行為は前者、そして現場の意を組み足りない物を手元に存在する物で補う行為は、君の泊地で作り出された装備、つまり後者と言えるだろうね」
「……ウチは基本その辺りを工廠に任せきりにしてますから、新規運用に至る装備は開発された物の内二割にも届きませんけどね」
「無駄の無い開発というのは、言い換えれば拡張性も革新性も持たない。それらは言い方が悪くなってしまうが技術の袋小路に至ってしまうやり方でもあるのだよ」
何かに対して思い当たる節でもあるのか、壮年の技術者は白い物が交じる口髭を撫でつつ苦い笑いを滲ませ、波を蹴って爆走していく榛名ONTHEミーティアを眺めていた。
ランプレヒト・ビルングという人物は、元々軍部筋に強い影響力のあった代々高級軍人を輩出する名家の出であり、血筋で言えばザクセン辺境伯を祖に持つ生粋の貴族である。
深海棲艦との戦争が勃発した時は現場で戦った時もあったが、軍部が政府より冷遇されていく事に危機感を抱き、技術畑に転ぶ。以後国内に於ける軍部の復権を悲願として数々の技術開発を主導してきた過去を持つ。
艦娘母艦を利用しての制海権維持の重要性を説き、周辺国との協調をもって一国のみならず、後方支援と武力行使という役割分担を各国に要請する事で周辺諸国との軋轢を減らすという「多国籍軍」の創立にも大きく寄与した。
また当事行き詰っていた移民政策を打破する為に艦娘を投入しての対人部隊の設立と運用、その為のカリキュラムの作成や組織設立という、研究者として艦娘と関わった技術や知識をそれらに注いできた。
人類側からすれば、深海棲艦相手のみならず、民族紛争という人対人の火種を解決に導いた立役者。
しかし艦娘という存在からしてみれば、人と人との争いに自身達を巻き込んだ男と言えなくはない。
艦娘という存在は守る為に存在する。人類を深海棲艦という存在から。艦という前世を背負う彼女達はある意味それを拠り所とし、そして存在意義を強めるという性質を持つ。
しかし守る対象である人間を相手取るという戦いは、徐々に心を損耗していき、一定の確率で自身を壊してしまう。
それらの指標も整わないまま投入された初期の艦娘達。その只中に居たのは、
「こうして対深海棲艦用兵装の開発に力が注げるのも、近年ヨーロッパでも新たな艦娘との邂逅機会が増えた為だ。それまでは我がドイツしか艦娘との邂逅はままならず、本来の運用ができなかった」
夕張と技術者の熱い議論を眺めつつも、自身を戒めるかの如く過去の話を男は口にしていく。
「私は現場では何も変えられないと思い技術畑に転んだ……いや、逃げたのだよ。あの当時の欧州戦線は先のない戦いだとね。そして政府と軍部に深く食い込んだ後は取りも直さず、国の為にと艦娘を贄に差し出した」
そこまで口にすると、ビルングは懐から小型拳銃を取り出し、銃身を握る形でそれをグラーフへと差し出した。
「私自身それらが間違いとは思ってもいないし、ここまで来る為には必要な犠牲だったと認識している。しかしそれを正義だと口にする気も、仕方が無かったと正当性を主張する気もないよ」
自嘲が浮かぶ男から銃を差し出されたグラーフは、顔色一つ変えず己を見る者の視線を真っ向から見据える。
そして隣に居る吉野も、立場的には止めるべき行動を眺めるだけで何も行動は起こさない。
「
ランプレヒト・ビルングドイツ連邦海軍准将。
嘗てグラーフが従事した対テロ部隊が創立された時、この男がまだ軍籍にあった時の呼び名である。
「まだ私を
「……その権利を行使して後に何が残るというのでしょうか。寧ろ貴方は理解している筈だ」
両者の間には銃という命を刈り取る凶器が存在していた。しかしそれを間にしても尚互いの空気に張り詰めた物はなかった。
「今の私には、
無言で二人のやり取りを見つつ何の反応も示さない髭眼帯のヘッドに、ものっそシリアスなセリフを吐きつつ自慢の胸部装甲をさも当然のようにセットしドヤ顔になるグラーフというカオス。
「今の飼い主は貴方ではない。御理解頂けただろうか?」
この時髭眼帯は思った。
過去の確執とこれまでの扱い。それらを清算する為にドイツの偉いさんが超真面目に打った一手に対して、何故彼女はチチを自分の頭にセットした上でドヤ顔をし、一体彼に何を御理解させようとしているのだろうかと。
そしてグラーフのチチを頭にセットされた髭眼帯は、怪訝な表情のまま銃を差し出したポーズで佇む真面目フェイスの研究者の顔を見るという苦行を強いられてしまったりした。
「ふむ、そうかね。確かに今君の飼い主は私ではなくそちらの少将殿であったね」
それだけ言うと何かに納得したのだろう、取り出した銃を懐に収め、何も無かったかの如くビルングは再び海を
こうして髭眼帯を間にINした嘗ての上官と部下との邂逅は終了し、色々とアレな技術交流会は粛々と進んでいくのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで? さっきの
「んー…… 初見の方から腹の内を読むなんて便利なスキル自分には無いんだけど、流石にあんなの見た他の人は後で彼に何事かと確認するだろうし、問われれば当然何があったか答えはするだろうね」
「私の事を含め、対テロ組織の事は彼らの間ではある意味汚点でもあったからな。それに当事者である私がAdmiralの傍に居るとなれば、根の深い問題を抱えたままで、それらを棚上げにしての技術交流は色々と不都合が出る可能性もあると思ったんだろう」
「その為に和解しましたよというのを、周りに見せる意味合いも含めたポーズであったと」
「ついでに罪悪感も幾らか払拭したいという理由もあったんだろうな。ここには当事ビルングに従っていた手駒も多数詰めているらしいし」
「面倒だねぇ、そういう立場に居るっていう事は。それで? グラーフ君的にはもう思う処はないの?」
「思う処もなにも、私はAdmiralの部下であり舟だ。それ以外の存在意義を見出せなくなった以上、過去というものは現在に至るまでの事象…… 通過点という認識しかないな」
清々しい表情でフンスと語るグラーフを見て、忠誠を誓ってくれるのはそれなりに嬉しくもあり、同時に少し考えが極端過ぎやしないかと相反する心情を抱え苦笑する髭眼帯の視界に、超巨大な水柱が映る。
すわ何事と眉を潜めそれらをじっくりと確認すれば、波止場で例のサイゼリスに装備されていた陽電子砲がウィンウィンと唸りを上げ、その周りでは
確かに武器としての性能で言えば、陽電子砲という未知の技術を形にしたという点は称賛されるべき物かもしれない。
ただ一射毎に砲身の交換を要するという手間もさることながら、数千万円/本というコストに加え、何故か撃つと一定範囲の者をボンバヘッにしてしまう等不可思議現象も伴う為実用性の欠片もない。
その向こうでは8.8cm FlaK 18(魔改造)を連射する大和を囲み、"アハトアハトー!"やら"ドイツの科学は世界一チィィィィ!!"と部族ダンス宜しく輪になって奇怪な踊りを見せる集団などが散見された。
それを見て髭眼帯は思った。コレアカンヤツや、と。
そうしてプルプルする髭眼帯の上着を、クイクイとする者が居た。
そのクイクイに反応して視線を巡らせると、大坂鎮守府で一時期流行したネココスメイド服を着用した叢雲が俯きつつ髭眼帯の軍服を摘んでプルプルしているのが見える。
「……叢雲君、なにしとん?」
「研究所のヤツらが母艦のシステムを見学したいって要求に、許可出したの、アンタって、マジ?……」
「ああうん……、ソフト方面の開示は断ったけど、操船システムの作りの方は真似だけしても無意味だから」
「なんでそんな余計なことするのよ…… て言うか、新しいオペレータースーツの開発許可を出したのもアンタ?」
「あー、なんか母艦との接続ロスが低減されるから、操船時に叢雲君の負荷も減るって言ってたし、それが?」
「確かに接続ロスは減ったわよッ! ついでにダイレクトに繋がるって理由でスーツの表面積も減ってネココススーツが採用されたけどねッ!」
「あー…… うん、そうなんだぁ…… 布面積が減っちゃったかぁ…… そっかぁ…… そうなんだぁ……」
西蘭泊地が運用する艦娘母艦は叢雲を意思を持つコアとして接続し、運用されている。
その為操船時にはいつもの制服とは違い接続端末がセットされた特殊な形状の、操船ポッドに収まっても不快にならない為にと考えられた専用のオペレータースーツが用意されている。
開発は当然夕張と、少しだけハカセが関わっているがそれは機能面だけであって、彼女達はデザイン方面で言えば素人であった。
故に外観に関しては明石デザイナーズカンパニーという被服関係に特化した新たな部署が手掛ける事になったのであるが、そこからロールアウトされた叢雲専用オペレータースーツは、突然決定してしまった欧州出張に合わせる為、以前着ていたという理由で例のネココスメイド服"黒猫のタンゴ"を踏襲した作りになっていた。
そして叢雲の場合他の者と違い、任務に求められる役割は母艦の操船に限定されていた為、準備する荷物は相当少ない。
元来艦娘の制服という物に関しては妖精さん技術でしか生成されない"特殊兵装"と位置づけられている為、準備には工廠課と事務方が大きく関係してくる。
そして平時の出撃や出張等に於ける艦娘の主兵装と装備は、通常艤装と、特主兵装である制服と定められている。
確かに私服等の持込は認められているものの、大抵は制服だけで事足りる為、艦娘達は通常下着の他にはタオルや歯ブラシ等のアメニティ的な物のみを手荷物として用意するが、着衣は支給品というのが普通であった。
そういう事情に当てはめた場合、つまり、ムチムチ叢雲にとって支給された着衣全般は新たに開発されたオペレータースーツ(黒猫のタンゴ)という事になるという悲劇。
「えっと…… その、叢雲君って私服は……」
「……持って来てないわよ」
尚も俯いたまま軍装の裾を摘み、プルプルしつつシッポの鈴がチリンチリンするムチムチ叢雲の様を見て髭眼帯もプルプルする。
そんなプルプルする二人をツンツンし、ふぅぅと溜息を吐く者が現れた。
「え…… なに、球磨…… ちゃん?」
髭眼帯が疑問系で返す先には、ヒラヒラのメイド服を装備し、頭がボンバヘッでありながらも何故か自己主張するかの如くモコモコから生えたアホ毛を一本海風にユラユラと揺らす球磨型一番艦の姿があった。
「なんで球磨ちゃん頭ボンバーヘッ……」
「夕張のヤツがさっき暴発させた事案に巻き込まれたクマ……」
「あー…… 球磨ちゃんあそこに居たんだぁ」
「ついでに制服が汚れたからって洗濯機に突っ込んだ後確認したら、予備が全部メイド服になってたクマ」
「え、なんで?」
「一航戦の青いのが、対外的にインパクトかつ存在を誇示するならコレだろうとか言って制服の予備は全部コレ系に差し替えたとか、狂った事をほざいてたクマ……」
「かぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!! なにしてくれとんじぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「あー、うんまぁ、ここまで来て球磨が求められてるポジは理解してるクマ、だから一応言っておくクマ」
そう言ってポンバヘッから生えるアホ毛を悲しそうに揺らしつつ、球磨型一番艦はプルプルチリンチリンするムチムチのネココス叢雲と、同じくプルプルが加速した髭眼帯の肩をポンと叩いてこう言うのであった。
「常々言ってるクマ。何事も諦めが肝心って」
いつもなら一言物申す的に突っ込みを入れる髭眼帯であったが、今回は被害者ポジであり、かつ痛ましい出で立ちで諌める球磨型一番艦の姿に妙な説得力と哀愁を感じ、ただ無言のまま首を縦に振るのであった。
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