大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 以前は大体週二ペースで更新していたという事が過去を振り返り判明しまして。

 で、前回と前々回は都合上分けましたが内情は一話だったのです。

 そんな訳で週二達成にはもう一話更新と言う事で。いや継続できるかどうかは別問題として。


 継続できるかどうかは別問題として。(大事な事なので二回ry)


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/08/22
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたCB様、水上 風月様、有難う御座います、大変助かりました。


西蘭脅威のメカニズムが世界を席巻する(仮)

 

 

「相変わらず件の泊地では面白い事をやっておるようですな」

 

 

 薄暗い室内では大型プロジェクターに映る艦娘達の演習映像が映し出され、それを見る数名の者と艦娘達が、何とも言えない相を浮べつつも映像に映し出される物についての感想を口にしていた。

 

 

 ドイツ連邦海軍に所属する第2機動隊群が本拠とするヴィルヘルムスハーフェン。

 

 国内第三の港を擁したそこは、北海全域の防衛を司り、同時にドイツ海軍の装備開発全般を担う第一兵器工廠もが設置された重要拠点である。

 

 

 欧州にあって北大西洋と北極海とも直接繋がってはいるが、大きく内陸側へ入り組んだ形で、更にはメラム島が蓋のように存在する巨大な湾は正に自然の要害となっている。また、それらの地形は兵器開発には必要不可欠にある実地試験や運用テストが容易な環境を作り出していた。

 

 特に欧州連合に於ける艦娘用の付帯装備や母艦関係の殆どはこの工廠が手掛けている関係で、同連合所属海軍系技術者の殆どはこの工廠と何かしらの技術研究で繋がっていると迄言われている。

 

 

 そんな欧州連合技術開発の中心で見られ、色んな意味で興味を惹かれている映像資料とは、西蘭泊地発、同泊地大工廠が開発したとされる艦娘用追加兵装と呼ばれる試作装備や母艦という独自の装備群であった。

 

 

「陸戦用砲装備を携帯火器に転用とか、基地の余剰電力を利用した光学兵器とか正気を疑う物ばかりで話にならんが……」

 

「ですなぁ、そもそも深海棲艦に対し通常兵装は殆ど用を成さない。幾ら現状の艤装に影響が無い兵装とは言っても、はっきり言ってこれらはデッドウェイトにしかなりませんぞ」

 

「しかし、このウォータージェット推進システムは中々興味深い。稼働時間如何では艦娘単体の移動用として使えるかも知れん」

 

「然り。それに独自開発したこの母艦も既存の艦艇に転用可能な技術が多い。特にこの艦内で一時加速を行って抜錨する方式は遭遇戦に於いて艦娘達の損耗を大幅に減じる効果が期待できる」

 

「ですなぁ。幾ら練度を上げた熟練の艦であろうとも、母艦からの抜錨はどうしても無防備になりますから。その辺りは仕方が無いと早々に割り切られてはいましたが、現在も現場から度々上申され続けている悩みの種でありましたし」

 

「この艤装を核として艦娘を母艦と繋ぐという魔改造は…… 再現可能なら、乗艦する人員を減らす事が可能となる訳か」

 

「乗員の数が減れば人の維持に関する設備も縮小できますし、そうなれば母艦単位で配備可能な艦隊を増やす事が可能になりますよ」

 

 

 西蘭泊地が開発した装備は殆どがロマンという、実用に即さない物が多数というか全てに混在してはいたが、それらを分けて評価していくと部分的には極めて有用、かつ道理に適った運用が見込める技術が随所に織り込まれている。

 

 それは無茶な仕様や夕張の趣味的部分を実現する為に、補助的な意味合いでセットされている物が殆どであった。だが皮肉にもその"趣味的部分"を廃してしまえば、既存の兵装と組み合わせる事で極めて有用に活用が可能だという評価に落ち着いてしまうのだ。

 

 

 例を挙げるなら。どれもこれも総ボツとなった艦娘用特殊追加兵装であるが、結局あれらはビックリドッキリ攻撃武装を艦娘が運用する事を目的にパッケージングされており、それを補助する為に大型の推進機構で補うというトンデモ兵装として仕上がっていた。

 

 しかし元からバランスを無視したと言うか、ロマン的武装ありきのブツであり、言ってしまえば手段の為に目的を設定したブツは当然ながら封印案件として処理されたものの、その原因である主武装を廃してしまえば残りは実に理に適った作りなのである。

 

 

 実際の巴戦等には使えないが、大型の推進装置はパージ可能な構造となっており、それらを前提に運用すれば艦娘単体の活動範囲が大幅に広がる。しかも艦娘本体の燃料は温存されたままにである。

 

 判り易く言うならば、戦闘機に対する追加増槽に安定した独自の推進機構が付帯している状態であると言えばいいだろうか。

 

 

 また母艦に関しても、元から西蘭泊地は大坂鎮守府の頃より艦娘のみでの艦隊運用を前提としていた為に、独自の開発という零からのスタートで苦肉の策を採っていたが、逆にそれらが他で転用可能であるならば、人員を補助に充てて運用している他拠点の母艦事情も大きく変化してしまう。

 

 

 何事に於いても維持という面では人という存在が大きな負担となっている。

 

 衣食住という基本的な、それでも不可欠な物は金銭的に、そして空間の確保にしても最大の負担になる。それらは必要なコストではあるが、もし廃する事ができると言うなら同じ規模の母艦であっても余剰という意味では大きな差になる。

 

 

 通常の艦娘母艦で言うならば、船の維持や操船、そして生活補助に対して相当数の人員を割かねば運用ができない。しかし現状戦闘を担っているのは艦娘であり、言ってしまえばこれらの人員は全て補助や維持のためだけに充てられた者達に過ぎない。

 

 確かに艦娘であっても生体の維持という面に関しては人とそう変わらない。しかし、それ以外の母艦の運用だけに関わる人員全てを艦娘として置き換えられた場合、それはつまり乗員の殆どが戦闘員に置き換わるという事になる。

 

 因みに現用されている艦娘母艦は嘗ての戦闘艦を転用している関係上、多少整理はされているものの航行だけでも数百人単位の乗員は必要になる。

 

 

 対して西蘭泊地の母艦は叢雲単体でそれら全ての仕事を賄っている。この時点で数百人単位で掛かるコストや生活空間が、別の物へ置き換える事が可能となる。つまり西蘭泊地の母艦は他拠点の母艦と排水量は同等であっても、運用可能な艦娘の総数には数倍から数十倍という格差が生じているのだ。

 

 

 確かに操船のコアになる叢雲の存在も、船として繋がる為に使用している彼女の艤装もある意味ワンオフであり、建造世代の艦娘と置き換える事は恐らく不可能だろう。その辺りの事情も資料を閲覧する技術者達は理解している。

 

 しかし、それらを成立させているハードウェアやソフトウェア、特に操船や機能を一極集中管理している部分は、多少デチューンした状態であっても転用できれば現行の母艦の効率化に大きな恩恵を与えるだろう。

 

 

「確かこれらを開発した者は…… うん? 夕張? 西蘭泊地の工廠責任者はあの死の商人(明石)ではなかったのかね?」

 

「どうやら明石は西蘭所属ではなく、軍部直轄のPX(主保)総責任者という肩書きのまま、件の泊地を生産拠点として利用しているようだ」

 

「日本のみならず、欧州連合の兵站に食い込むあの悪魔がそんな殊勝な地位に納まる筈はあるまい。恐らく西蘭泊地は死の商人(明石)すら取り込んだ巨大組織として認識した方が良いようだ」

 

 

 この瞬間、西蘭を遠く離れたドイツという地で、人知れず髭眼帯はまたしてもこの技術者会議という場に於いて誤解を前提とした脅威として認識されてしまった。

 

 

「確か……今度開催される日欧資源環送航路連絡会の発足会には件の泊地司令長官が出席予定であったね?」

 

「はい。噂の深海棲艦を麾下に置いた司令長官が欧州にやってくると言う事で、各国代表団も何とか接触を図ろうと現在は外交ルートや軍部の伝手(つて)をフルに回すなど、各所に伝わる醜聞も無視する程には躍起になっておるという事です」

 

「そうか、まぁ政治なんぞに何の興味もないが、これらの技術移転にはその拠点のトップと関係を持たねば先ず始まらんと私は思うのだが。諸兄方はどう判断するかね?」

 

 

 技術者会議というよりも、悪の秘密結社の幹部会議と称する方がまだ納得してしまったりする胡散臭い集い。そこに参加するマッドっぽい白衣の者やらテーレッテレーというバックミュージックが聞こえてきそうな魔女っぽい者達からは、満場一致で西蘭泊地との技術交流を推進するべきという意見が出揃い、悪の首領もとい欧州連合技術総研の会長である壮年の男は満足そうに一度頷き、こう宣言する。

 

 

「それでは日欧資源環送航路連絡会の発足に合わせ、我々欧州連合技術総研は西蘭泊地と技術交流を目的とした独自の外交ルートを構築する為これより全力で動く事にしよう。良いかね? 全力でだ」

 

 

 悪の首領もとい欧州連合技術総研の会長の言葉に後ろに控えていた執事然とした老紳士と、艦娘数名が恭しく頭を垂れ、音も無くその場から姿を消した。

 

 

 こうしてまたしても髭眼帯の与り知らない処で大きな勢力が水面下で全力の活動を開始する事となり、西蘭泊地初の欧州出張案件は別な意味で大袈裟なイベントとして推移して行く事になるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

『と言う事で、ランプレヒト・ビルング欧州連合技術研所総長より直接会談の要請が外事課に入ったわ提督』

 

 

 西蘭泊地奉行所(執務棟)執務室。

 

 髭眼帯は通信端末のモニターを睨みつつ、矢矧から聞かされた人物の名前と所属する組織の名称に怪訝な相を浮べつつ、脳内辞典から無理やり引っ張り出すという苦行を行っていた。

 

 

「ビルング…… ビルング? どっかで聞いた事があるような……」

 

『家系で言えば、まぁドイツのお貴族様ではザクセン辺境伯に連なる直系筋。軍閥で言えば深海棲艦との戦いが始まって以降技術開発系の総元締めに君臨する大物って事になるわね』

 

「あー…… かなり以前に英国貴族院相手にガチで喧嘩売った研究者が居たって聞いた事あるけど…… って、アレって結局どうなったんだっけ?」

 

『当事色々と不遇な扱いを受けて困窮していた研究者や企業連合を取り纏めて…… 経済的な殴り合いと言うか、当事の先端技術開発を一手に担ってた集団を結集しちゃった訳だし。それ押さえられちゃったら戦争が継続できないって事で、最終的には英国側が折れた形で手打ちにしたらしいわね』

 

「ナニソレ怖ッ!? 物理的な攻撃よりよっぽど性質悪いやり方じゃないそれ」

 

『そうね。ドイツって元々艦娘運用は他国より一歩抜きん出てた訳だし、そこから民生へ転化された技術自体インフラ関係に大きく食い込んでたから』

 

「まぁドイツ自体艦娘関係で周りからやっかみを受けてたらしいし、直接それに関わってた技術系の人達は相当ストレス溜まってたんじゃないの?」

 

『日本はほら、周りが海って事でそっち系を粗雑に扱うと国が滅ぶのに直結するから、随分厚遇されてきたのよね』

 

 

 日本は言ってしまえば海に囲まれ世界から孤立した島国であり、資源的に自立は不可能という国難にも見舞われた国でもあった。

 

 故にそれを打開する唯一の手段である艦娘に関係する各所は、取りも直さず第一とされ、現在も政策的には大きな変化はない。

 

 

 しかしドイツという国は日本と同じく資源を他国に依存してはいたが、陸続きで他国に接し、また極論で言えば海を放置しても成り立つ状態にあった。

 

 故に深海棲艦に対する武器(艦娘)を擁していても、地域的な事情から国策という面では周辺諸国からのやっかみが反映され、非常に微妙な立場に立たされていた。

 

 しかし艦娘先進国であった日本にとってドイツという国は色んな面で盟友という心境にあり、政治的に表立って手を結ぶという事は難しい状態にはあったが、軍部という範囲では極めて強固な繋がりを築いていた。

 

 

 後にドイツの周辺国でも艦娘との邂逅が進み、外交的圧力や軍事的配慮という物は徐々に緩和され、冷遇されてきた軍部の扱いは逆転するに至る。しかしそれでも直接的な戦力(艦娘関係)は妖精さん由来という事情から、サポートの面でしか貢献できない技術畑の人間は冷遇され続けてきた。

 

 

「その辺りは成るべくして成ったと言えなくもないだろうね。んで? そのビルングさんってウチに何の用があるの?」

 

 

 髭眼帯が疑問を口にしたその時、執務室の扉がズバーンと開かれ何者かの高笑いが室内に響き渡る。

 

 

 マイウェーイに乗り、例のオーキスを装備するという珍妙なフル武装のまま微妙な胸部装甲を張って高笑いする。それは今回のある意味主役と言えなくはない工廠課の総責任者、夕張であった。

 

 

「ファーハッハッハッ! 今まで作る端からダメ出しを受け! 力作は全て封印…… しかも乙女のシリを曝け出された上でのあろう事かペシペシという屈辱! そんな不遇の時を耐え忍び、この夕張を…… とうとう世界が認める時が来たのよッ!」

 

 

 怪訝な相になる髭眼帯と秘書艦達、そして休憩の合間に訪れていたグラーフの前では、高笑いする夕張がゴツい追加兵装をONした状態でミミミとマイウェーイで疾走するというカオス。

 

 

 その様に何か思う事があったのだろう、時雨がおもむろに襟首へ手を突っ込んで愛刀の関孫六をズルリと取り出し装着。スタスタと無言でマイウェーイを追走しつつ抜刀し、そのまま峰打ちで乱心状態のメロン子を制圧してしまった。

 

 

「アイッタァァァァァァァァァァァッ! ヒッドーイ時雨ちゃん! それ! それシャレになんないからぁッ!」

 

「ここは非武装を厳命されてる提督の執務室だよ? そこにそんなのを持ち込んで一体何をするつもりかな?」

 

 

 極めてにこやかに、そしてフレンドリーに。しかしズズイと刃を返したダンビラを突きつけられた夕張も頭が冷えたのか、アッハイ、ワカリマシタと呟きつつマイウェーイから降りてそそくさとオーキスを部屋の隅に持っていく。

 

 

 そんなある意味コント染みた様を見て髭眼帯は思った。

 

 非武装指定区画である執務室でブンブンとポン刀を振り回し武力鎮圧するのは果たして免責事項に該当しても良いものだろうかと。しかし艦娘にデフォで備わる例の謎収納が事に関わった場合、それは国家機密に触れるのと同程度に危険がデンジャーする案件なので突っ込んではいけないという事に思い至り、諸々をスルーする事にした。

 

 

「矢矧の報告からして、恐らくそのビルング(なにがし)というのはウチの技術関係に関心を抱いているんじゃないのか? Admiral」

 

「まぁそう言われればそうかも知れないけど、ねぇグラーフ君、真面目な意見を述べつつもさも当たり前の様に胸部装甲を提督の頭にセットするのは何故なのかという疑問を是非聞かせて欲しいんだけど……」

 

「仕様だ。気にするなAdmiral」

 

「……仕様ぉぅ? これがぁ? それってどういう意図と必要性があっての仕様なのぉ?」

 

 

 尤も過ぎる髭眼帯の正論ではあったが、既にこの辺りの仕様的事情は当たり前という認識がされているのであろう。秘書艦ズの響は一度だけ視線を向けた後は特に興味が無いとばかりに畳ゾーンに安置されている鈴谷の回収に向かい、補助机で事務仕事を進めているぬいぬいは新たな書類を手元に寄せつつ執務を続行。

 

 親潮はしぶしぶ武装解除し、執務机の前で正座をする夕張の為に茶を淹れている最中であり、時雨に至っては満足したのか愛刀を再び襟首へINした後は、定位置である髭眼帯の隣の席にシッダウンする。

 

 

 色々突っ込み処満載ではあるが、メロン子という存在を除けばこれがいつもの執務室であるのは間違いない。多分、きっと。

 

 

「あーそれで夕張君、君は何をどうしたいが為にあんな狂ったフル武装で執務室に来たのかね? そこんとこ提督が納得いくように言ってみたまえよ、あぁん?」

 

「あー…… えっと、今朝なのですが、大本営技本経由で工廠に欧州連合技術研所からの招致依頼というお知らせがきまして……」

 

『ドイツ筋は技本にも太いパイプを持ってるから…… この件に関してはウチだけではなく大本営も承知しているって体にしたいようね』

 

「……あぁ、他国との折衝に割り込む為の口実作りで? 成る程ねぇ」

 

『外交筋だけだとウチを通してしか提督には繋がらないけど、技本と欧州連合技術研所は元々繋がりがあったし、技本からなら大本営筋として提督を飛び越して工廠へ直接の接触は確かに可能ね。やり方の是非は別として』

 

 

 西蘭泊地の工廠は独自技術を擁し、泊地と同じく軍からは半独立状態ではあった。

 

 しかし経済的基盤を築く為に民生へ技術移転を行う関係上、パテント契約を結ばねばならない事が多く、またそれに最終的な許可を出すのは大本営、そして技術的な物が絡むなら技本が判断する部分が多い。

 

 また技術関係の面に於いて髭眼帯は門外漢であり、またそれらの価値や評価は基本事務方が査定を担当する関係で、手続きの簡略化という名目である程度の部分は報告義務は発生するものの、工廠独自での活動はある意味事後承諾を許可するという形で運営されていた。

 

 

「そんな訳で、先方からは今度の日欧資源環送航路連絡会の発足の際に提督同伴で、試作兵装の内覧をさせて欲しいと…… 連絡が来たんです」

 

 

 段々事の大きさを理解し始めたのか、尻すぼみになりつつ詳細を述べた夕張の報告に髭眼帯は無言で矢矧を見るが、モニターの向こうに映る矢矧は無言で首を左右に振る。

 

 

「そっか、矢矧君でも今回の件は感知していなかったとなると、これは防諜的に色々見直さないといけない部分が出てきた訳だ。まぁその辺りは怪我の功名という事で特務課と外事課双方に情報共有してもらった上で、宿題として対策を練って貰うとしようか。で、問題はメロン子謹製の諸々を外に持ち出すという問題がある訳だけど……」

 

『内覧という言い方をするって事は極秘って事でいいのよね? ねぇ夕張、相手からはどの程度の範囲でって申し入れがあったのかしら?』

 

「えぇっと、今封印している艦娘用追加兵装の現物を見たいと。後は和泉(いずみ)泉和(いずわ)の見学。出来ればそれらの設計段階のデータ閲覧も検討してくれないか…… と」

 

『お話にならないわね。それを許可するって事はウチの最重要機密が丸裸にされるって事じゃない』

 

「あ……あのぅ、別件で技本からは衛星通信関係の技術開示も要請されてるんですけど」

 

「技本からの要請は却下で。特殊暗号通信ありきのシステムで情報開示って、それもう全然暗号化の意味がないからね」

 

「デスヨネー……」

 

「で、追加兵装関係はまぁ使えるならばどうぞって感じなんだけど、母艦関係は叢雲君抜きじゃ殆ど有用性がないんじゃないの?」

 

「そっちは主にソフト面…… 艦の一極集中管理系に興味を示してるみたいですね」

 

『まぁ操船に関わる部分をどうにかすればガワ()を新造するだけで問題解決するんだろうけど、果たしてそんな事は可能なのかしら?』

 

「まったく同じ物を用意する事は不可能ですけど、現状の操船システムに関わる人的リソースをある程度減らす事は可能なんじゃないかなぁ、とか」

 

「……こっちの不利に繋がらない形で提供できる技術はある訳?」

 

「核心部分を抜いて…… だと、それ程劇的な効果は見込めないと思いますが、ドン詰まりにある現用兵器の転用という面ではある程度の指針にはなるかもですね~」

 

「んじゃぁ夕張君的な判断に於いて控えめに情報を抽出し、それを開示した後の反応や結果で都度判断しようか」

 

「え! それじゃ!」

 

「開示データの取り纏め。後は追加兵装の運搬と実演する為の人員の追加選定。当然ながら君だけじゃなくて他にも工廠課から人員を出さないといけないだろう、その間留守にする泊地の保守運用が滞りなく動くよう申し送りに段取りと…… もう出発まで一週間切ってる訳だけど、そっちは可能なんだね?」

 

「勿論です! こんな事もあろうかと色々と新たな装備や技術がっ…… ッ!?」

 

 

 話の流れにまたテンションUPしつつあった夕張の視界には、ニコニコとする時雨がおもむもろに右手を襟首に突っ込む姿が見えた。

 

 途端に真顔になりつつプルプルする夕張に盛大な溜息を吐きつつ、髭眼帯は言うのである。

 

 

「そんじゃこんな土壇場にする事じゃないけど、段取りを組み直す必要が出てきたし、また責任者を集めて全体部課所会議をしないといけないね。ぬいぬい、申し訳ないんだけど各課への通達頼めるかな?」

 

「不知火です。それではこれから各課を回って召集を掛けてきます。つきましては空いている電動自動車を使用させて頂いても?」

 

「うん、許可しよう。それじゃ頼んだよ。矢矧君も含めて他の子達もそういう訳で宜しく」

 

 

 

 こうして取り敢えずの方針は決定されたが、結局準備期間の短さから不安要素は完全に払拭される事が不可能という状況の下、髭眼帯達は欧州へと足を踏み入れる事になるのであった。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
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・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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