大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 恐らく平成最後になると思う更新。

 はい、多分。

 そして今回分からご感想返しイケると思います。

 はい、多分。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/04/29
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました水上 風月様、黒25様、有難う御座います、大変助かりました。


新たなる部課所立ち上げと、例のパラダイス

 

 

「それで結局ヨーロッパ方面にも伝手(つて)を広げる事は決定事項になった訳ね」

 

 

 西蘭島沖百二十海里。

 

 メルボルンでの諸々を終え泊地へ帰還中の母艦泉和(いずわ)指揮所では、吉野と矢矧が微妙な表情を表に滲ませ今後の対応について協議中であった。

 

 元々は取り敢えずの関係修復程度で考えていた話が、蓋を開けてみれば今まで疎遠だった複数の筋を繋ぐ秘密の連絡会という話に発展してしまうという事態に、早急に対応しないといけないという無茶振りが発生したというカオス。

 

 

 西蘭泊地が居を置く海域は海湊(泊地棲姫)のテリトリーにある為基本的に人の往来は不可能にある。そして秘匿事項を含む情報伝達は衛星回線が未だ整備が整っていない現状、何かしらの手段を用意しなければ関係各所との連絡がままならない。

 

 

「だねぇ、例の衛星回線は取り敢えずほっぽちゃんのテリトリーから整備を始めるから、ヨーロッパ方面へ向けての分は早くとも……十月以降って事になっちゃうかなぁ」

 

「という事は、どこかに直接連絡できる場を設けて暫くは対応しないといけないって事になるわね」

 

「うーん……色々考えたんだけど、こっちの拠点には実質人の出入りは不可能だし、これからの事を考えれば仮設じゃなくて、外事課をどこか泊地とは違う場所に置くべきだと思うんだよね」

 

「そうなると拠点とする場所は当然メルボルンの東部オセアニア海上護衛総司令部出張所(西蘭泊地出張所)にって事になるわよね」

 

「そそそ、んで外事課の課長は矢矧君に任せたいと思うんだけど、どうだろうか?」

 

「……やっぱりそうなるわよねぇ、まぁ引き受けてもいいんだけど、立ち上げの時は泊地から専任って事で何人か引き抜いてもいいかしら?」

 

「特務課のメインからは引っ張って欲しくはないんだけど、矢矧君としては誰が欲しい訳?」

 

「んー……そっちと被らないようにするとしたら、先ず衣笠、それに武蔵に木曽、後はプリンツにリシュリューと……ガングート辺りが欲しいわね」

 

「んはぁ、リシュリュー君はまぁ対フランス要員としては納得の指名だけど、ガングート君はどうなの? 色々とウチに来た経緯がアレだけど色々とヤバくない?」

 

「対ロシアって事を考えれば彼女は外せないわね。提督は知らないかもしれないけど、彼女、かなりロシア連邦海上艦隊に思う処があるらしくて、今はガッチガチの西蘭勢って言える艦娘になってるのよ?」

 

「え、マジで? 最近殆ど見掛けなかったから何してんのかなーとは思ってたけど」

 

「元々赤城さんにライバル心を燃やしてたみたいだったんだけど、何回かガチの演習でヘコまされて以来何か吹っ切れたと言うか……」

 

「あー……ベーリング海でガチの殺し合いしてたもんね彼女達。そっかぁ、まぁいい関係に落ち着いたってんならそれはそれでいいんだけど、本当に大丈夫なの?」

 

「えぇ、その辺りは保証するわよ? まぁ心変わりが過ぎて逆に心配な部分が無い訳じゃないんだけど」

 

 

 矢矧が選んだ艦娘達の役割としては、内務関係の差配を衣笠に、施設全般の防衛や要人警護に武蔵と木曽を、そしてヨーロッパ方面の繋ぎとして元々実務をこなしていたプリンツを筆頭に、フランスとロシアに対してリシュリューとガングートを充てるという布陣を固め、都度必要となれば人員の補充を泊地からしていこうという構想だ。

 

 

 外事課とは言ってしまえば外交面の表の顔という意味合いが強く、裏の顔である諜報面は特務課がある為考慮しなくとも良いという事情が絡む。つまり、実務能力は矢矧が中心として主導する関係上ある程度あれば十分で、より重要な相手の心情という部分に隙無く対応する為、相手国に関係した艦娘を充てる方が良いという考えがあった。

 

 

「一応外に対しての窓口だし、武蔵君と木曽は軍部筋に対する人事って考えていいのかな?」

 

「そうね、直近の()大本営第一艦隊の旗艦と副艦を並べるんですもの。下手な文官なら萎縮しちゃうでしょうし、あの二人を交渉の場に並べれば初手からイニチアシブは取れるんじゃないかしら」

 

「実務能力を見込むんじゃなく圧迫交渉の手段にあの二人を使うとか、随分と攻撃的じゃないかなぁ」

 

「わざわざメルボルンくんだりまで軍部の者が来るとすれば、ほぼ歓迎せざる筋の輩になるのは間違いないでしょ? それに西蘭の主力の内軍部に対して実績面でも納得させられる者と言えば、武蔵に木曽になるんじゃないかしら」

 

「あー……まぁ例のレンドリースが無かったら今でも第一艦隊は彼女達が張ってただろうし、その辺りでも軍部は負い目があるからなぁ」

 

「ウチは外事課を立ち上げても基本受け(・・)になるでしょうし、暫く彼女達には場慣れする為に終始して貰う事になると思うの」

 

「まぁ出向する事は無いと言うか、そこまで表立って活動するのはまだまだ先になるだろうし、それまでの教育もして貰わなきゃだから……その辺りも面倒だけどお願いします」

 

「了解、それじゃ西蘭に帰ったら調整に入るから、各所の調整はお願いね」

 

 

 こうして西蘭泊地は足場固めがほぼ終了に差し掛かると同時に、ある意味一番の懸案であった外部との繋がりという部分を急遽整備する事になった。

 

 本拠である西蘭泊地は実質渡航不可能な場にある為、直接的な窓口を現在オーストラリアのメルボルンにある東部オセアニア資源還送航路の拠点としている泊地の出張所に置く。

 

 現状太平洋を打通する航路が存在しないという環境下では、米国や欧州にとってそこは世界で最も遠い場所に存在(・・・・・・・・・・・・)する外交窓口(・・・・・・)となり、渡航する場合は欧州連合、日本海軍という組織の支配海域を経なければ辿り着けない拠点となる為、公式訪問の際は嫌でも関係諸国に知られる事となる。

 

 ここ数年国家間の関係が混沌としており、各国の立ち位置や目的を探る事が困難であった現状、ある意味この環境は西蘭にとって都合が良く、また相手方から強引な手法で秘密裏に接触を図るという事はこれで事実上不可能になるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「君知ってるか? 現在内地の八景島ではズイウンパラダイスという催しが開催されているという事を」

 

「……え、ズイウンパラダイスって? それ一体どんなパラダイスなの?」

 

「それはズイウンのズイウンによるズイウンの為のパラダイスという事だ」

 

「え、ちょっと待って、それって参加する提督諸氏の為のパラダイスじゃなくてズイウンの為のパラダイスなの?」

 

 

 メルボルンから帰投した髭眼帯は、例の外事課立ち上げの調整をする為奉行所(執務棟)へ急いでいたが、何故か同行していた師匠に拉致され、現在松浪港に居を構える夕張重工(工廠)前に停泊している『1/1航空戦艦日向』の甲板に連れて来られていた。

 

 

「因みに会場は八景島のシーパラダイスだけではなく、八景島一帯を一時泊地として徴発し、地域一丸となってズイウンを称える祭りを開催している訳だ」

 

 

 真面目な相の師匠が極めて個人的な所見を含む説明を口にし、脇からスススと寄ってきた夕張がパラダイスの資料的な物をズルリとヘソ出しスカートから取り出して髭眼帯に手渡す。

 

 因みにその資料的な紙束は結構な厚みがありどう考えても量的にスカートの中に納めるのは不可能に見えるのだが、艦娘には彼女達独自の収納的能力が存在し、またそれは人知を超えた謎とされている為突っ込みは厳禁という扱いとなっていた。

 

 

「えーっと? ねぇ師匠、これ(資料)には烈風パラダイスって書いてるんだけど」

 

「そう、一応作戦表題は以前から行われている一連の作戦(瑞雲祭り)の続きを意味する後段作戦となっていますが、今回の主役である航空機は瑞雲ではなく烈風なのです」

 

 

 ドヤ顔でズイウン片手にプルプルする師匠の対面斜め側には、どこから生えてきたのだろう一航戦の赤いヤツが烈風をプルプルさせつつデルモちっくにポージングしていた。

 

 

「いや、それはあくまでズイウンを称える祭りの一環であるだけで、祭りの主役がズイウンなのは間違いない。その証拠に祭りへ参加する為に必要なチケットには『提督専用「瑞雲/烈風改パラダイス」前売券』と記載されている。いいか? 『提督専用「瑞雲/烈風改パラダイス」前売券』だ、ズイウンの名が先にあってレップーはあくまで添え物だ」

 

「いやそれよりなんて言うか、こういう催しとかアイテム販売の時って何でもかんでも提督専用って銘打つのは正直どうなのって提督は思うんですが……」

 

「世の中『〇〇専用』とか、『××限定』という名称を付記した場合、モノがどうでも一部のユーザーには特別感を与える事になり売り上げが向上するものなんですよ。ほら、昔あったクソちっさいステッカーをちょこんと貼っただけで阪神タイガース仕様と言い張ってたダイ〇ツのミラ的な」

 

「随分昔かつニッチなブツを例に挙げるねぇ夕張君、てか結局このナントカパラダイスって祭りがなんで提督の拉致に繋がるのかを聞いてもいい?」

 

「いや、内地で大々的にそういうパラダイスが催されているとなれば、当然我が泊地も行動を起こさないといけないのではないかと思ってな」

 

「ですね、折角完全変形1/1航空戦艦日向も完成した事ですし、我が泊地でもパラダイスをやってみてはと思いまして」

 

「え、なんて? 完全変形ぃ?」

 

「寧ろ我々一航戦は、パラダイスのメインステージであるレッパラの為に色々準備をしたんだけど?」

 

「いや君らなに言ってんの? こんな僻地でパラダイス開催しても世間一般の提督諸氏は参加不可だし、そんな中で観客も無しにオンステージを慣行しちゃうつもりなの?」

 

 

 未だにレップーをプルプルさせる赤いヤツの対面には、何故か風にスパンコールをチャラチャラ靡かせた例のマイクロミニのイメージしちゃう的なメイド服を着込んだ一航戦の青いヤツがレップーをプルプルさせつつデルモ的なポージングをしていた。

 

 

「そこはそれ、1/1航空戦艦日向を変形させてですね、レッパラのステージをこう……マ〇ロスのミンメイ的なアレっぽく映し出し、それを記録した映像媒体を販売して泊地のイメージアップを図ってはどうかと思うんですよ」

 

「え!? マク〇ス的なロボに変形するのコレぇ!? てかそんな軍事的要素皆無な映像を世間に流してもウチのイメージはアップなんかしないと提督思うんだけど!?」

 

「しかもズイウンはファイター、ガウォーク、バトロイドと三段変形が可能になっているぞ」

 

「瑞雲は水上偵察機であってファイターじゃないから!」

 

「フフフ……その点レップーの属性はファイターなので、ファイター、ガウォーク、バトロイドに変形しても違和感がないのです」

 

「いやそもそもレシプロ機がロボになったり三段変形する事に提督違和感しか感じないのですが……」

 

「尚このズイウンはアクティブステルス機構搭載型であり、操縦桿を握らないと機体のシステムが起動しないグリップセイフティ機構という最新装備も実装されている」

 

「それを言うならこのレップーΩ1(オメガワン)はBrain Direct Imageシステムを解して操縦者と機体を神経接続し、脳波操縦を可能としていますよ?」

 

「何で無印マク〇ス的なパラダイスなのに、君らの用意した航空機はマク〇スプラス的な魔改造機になってんの? ねぇっ!?」

 

 

 何故か懐古ネタの割には超未来的な機構をINされたというズイウンとレップーを片手に、髭眼帯をプロペラプルプルさせつつ輪形陣と言う名の包囲網を敷く一航戦と師匠。そんなトライアングルを前に吉野の嫌な予感メーターはピコンピコンとレッドゾーンへ突入していく。

 

 

「そう言えば君、伊勢から聞いたが随分と運動不足らしいな?」

 

「え……なに師匠藪から棒に」

 

「いや、そんな君に提督基礎体力作りコースという物を用意していてな、その名も『青空クライミング艦橋』というものなのだが」

 

「いや今日は曇りで青い空は全然見えてないのですが。てかクライミング艦橋ぅ? なぁにそれぇ?」

 

「まぁ単純にこの1/1航空戦艦日向の艦橋をクライミングするだけの催しなんだがな」

 

「え、提督この艦橋登んないといけないの? てか良く見たら天辺に金剛君が待機してるんだけどナンデ?」

 

「いやこの前のヨミズイランド的に天辺に登った後はバンジーでもしようかという複合アトラクションとなっていてな。ほら、下では榛名が待機してるから大丈夫らしいぞ?」

 

「ちょっと待って!? また提督ヒモも装備せずに高所から突き落とされる訳!? しかも今回は自力でよじ登って!?」

 

「途中で落下しても榛名が下で待機しているから大丈夫だろう?」

 

「君らの大丈夫の基準と人類の大丈夫の基準の差を良く考えて? 普通死ぬから!」

 

 

 突っ込みを入れる髭眼帯の視界には、1/1航空戦艦日向の艦橋の頂上に金剛がバーニングラヴのポーズで待機している姿と、何故かセンベイフトンを敷いた上で正座している榛名が見えていた。

 

 当然その辺りにはロープやゴムの命綱的な物が確認されず、少し前奉行所(執務棟)で繰り広げられた高所から髭眼帯を突き落とすだけという雑なアトラクションを想起させる絵面(えづら)が再び展開されていた。

 

 

「ふむ……しかし提督の体力を考えると、艦橋をクライミングさせても背の高さ以上登る事は難しいと思うわ」

 

「そうですね、私も加賀さんの予想通りになると思います。なのでここは一つ『提督瑞雲乗員コース』を利用なさってはと思うのですが」

 

「提督瑞雲乗員コースぅ? なぁにそれぇ?」

 

 

 髭眼帯が怪訝な表情で不穏なコースの詳細を聞くと、例のスパンコールをチャラチャラさせたマイクロミニのメイド服を着た青いのがデルモポーズのまま指をパチンと鳴らし、メロン子がコクリと頷きつつリモコン的なブツのボタンをポチリとする。

 

 すると"ンゴゴゴゴ"という音と振動を伴い、後部飛行甲板の下から例のアイオワ牧場に駐機していた局地戦用陸上型瑞雲が現れた。

 

 

「……ねぇ、航空戦艦日向って確か青空駐機しかできなくて、内部格納庫とかエレベーターとか無かったんじゃないかなって提督思うんですが……」

 

「今回の変形改装を行った際IF改装を行い、飛行甲板下部には数機の局地戦用陸上型瑞雲の格納を可能としました」

 

「なんで局地戦用陸上型瑞雲に拘ってんの!? 寧ろ局地戦用陸上型瑞雲って存在するの一機だけなんじゃなかったの!?」

 

「そしてこれが今回『提督瑞雲乗員コース』で提督が搭乗する機体になります」

 

「いや搭乗って……確かこれ、飛べなくてブーンって走行するだけのズイウンじゃなかったっけ?」

 

 

 プルプルする髭眼帯の問いに対し、ニコニコする赤城は局地戦用陸上型瑞雲のコックピット脇に繋がれているロープを指差す。

 

 そして髭眼帯がそれを見れば、そのロープの端はてこてこと艦橋下のせんべい布団から移動してきた榛名が握り、何故か手にしたそれをブンブン振りつつニパーっと満面の笑顔を浮かべていた。

 

 

「提督が搭乗した後は、榛名がロープを握り例のムロフシもビックリな勢いでグルグルと回転させるわ、局地戦用陸上型瑞雲を」

 

「……なんて?」

 

「だから榛名がロープに繋がった局地戦用陸上型瑞雲をハンマー投げの要領で振り回すの、提督が搭乗した後に」

 

「なんでいつもズイウン的な祭りの時は榛名君の人力に頼ったアトラクションを用意するの!? てかいつも提督の安全性を全く考慮してないのはナンデ!?」

 

「そしてコースを終了した後はパラダイス限定の食事を用意しているからな。今回の目玉は提督垂涎の『涼月汁』だ」

 

「え……涼月汁て、ナニその物凄く不安を煽るネーミングの汁」

 

「そう言えば朝から厨房で涼月が目のハイライトをOFFにしつつ何やらやっていたわね」

 

「えぇ……何せ『涼月汁』ですからね」

 

「だからそれ何の汁なの!? 君ら涼月君にナニ作らせたの!?」

 

「はい、榛名は大丈夫です」

 

「榛名君は大丈夫でも提督の大丈夫はこのパラダイスの中には微塵も無いから!?」

 

 

 こうしてハードな会談から帰還し山積みとなってしまった仕事を片付けようとした矢先、謎のパラダイスに拉致された上精神をゴリゴリと削られた髭眼帯は、良く分からない謎のアトラクションに強制参加されられ心身共に疲弊していくのであった。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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