大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 定期的に投下されるオッサン対オッサンの誰得回。

 艦娘さんの欠片も出ません、書いてて辛い、血のションベンが出そう、でもやらないと以降の話がワケワカメになってお空の彼方に飛んでってしまいそうなので許して(震)

 次回は反動ではっちゃけ回の予想、多分、きっと、maybe……


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/04/29
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました水上 風月様、柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました。


メルボルンでの話し合い・弐

「いやいや幾ら仕事の範疇とはいえ、彼女を納得させるのは中々の面倒事でしたよ」

 

 

 オーストラリアメルボルンに居を構える西蘭泊地迎賓館の最奥。

 

 ネルソンの引渡しという本来の業務も終了し、本人は現在迎賓館から基地施設へ移動。引渡しに関しての責任者であるアイラ・クリスティーヌは矢矧に連れられ受け渡し業務の最終的な詰めの為別室へと移動していた。

 

 そして部屋にはアイラに同行してきたリチャード・シーカーと、それに吉野三郎がテーブルを挟んで差し向いの状態にあった。

 

 

「理解はしているんでしょうけど、納得はしていない……といった処でしょうか」

 

「ですなぁ、Mr.吉野が思いの他お優しい対応(・・・・・・)をしたお陰で、本人は裏どころか本来弁えていなければいけない自身の立場すら覚束(おぼつか)ない状態になってまして、まぁ……本国へ帰ったら暫く干される事は間違いないでしょう」

 

「艦娘や深海棲艦の研究に関しては資料のやり取りや、現場でしかできないたぐいの物はこちらが進めるという分業制でも良いとは思っていたのですが、まさかこちらの戦力を寄越せと言葉にされてしまってはああ返す他は無いというか……」

 

「良くも悪くも学究の徒と言うのでしょうか、熱くなり過ぎてそれ以外の事に考えが及ばなかったようで、本来そちらとしてはネルソンの受け入れは拒否、理由としては担当官自身の越権行為があった為と……国を通じて正式に抗議があってもおかしくはなかった筈ですが、内々で済ませてしまっても良かったのですかな」

 

「問題がなるべく起こらないよう……Mr.シーカーからはそういう気遣いが見えましたから、今回は話を大きくする事はないかなと。まぁ普通ならわざわざ庶民院の議員同伴というこの状況(・・・・)を考えれば、大体は察する筈なんでしょうけど、確かに研究職という事を考えれば腹芸は無理かも知れませんね」

 

「モーリス卿の体面を考慮すれば今回の結果は言い訳にすらならんのですけどね、寛大なご処置痛み入りますよMr.吉野」

 

 

 貴族院派筋であるアイラに庶民院の、それもロシア筋と関係のある者を随伴させる。

 

 それはアイラ自身が何か問題を起こせば国家間での問題となるばかりか、英国内に於いても自身のみならず関係する者達、特に対立関係にある庶民院からの問題追求という形で貴族院関係者は政治的不利に追い込まれる恐れがあった。

 

 わざわざそんな形でこのネルソン受け渡しのセッティングがされたのは、偏にこの受け渡しの形自体が貴族院として是とする物ではなかった事を吉野側へ見せる意図があった。

 

 そして、この受け渡し自体は中止させる事が適わない程度には力のある者達が絡んでいたが、これに対立派閥の者をわざと随伴させるという形で貴族院側の、言ってしまえばモーリス・ウィンザー個人が用意した、アイラという人物が問題を起こさぬ様牽制の意味を含めた人事で行われた。

 

 

 これは吉野ですら容易に情報を入手する事ができる程問題化している事案であるが、現在英国内では艦娘の戦力化に伴いある問題が発生していた。

 

 それは嘗て日本でも起こり、今も尚解決していない根の深い問題。

 

 

 艦娘とは、何か。

 

 人と同じく並び立つ存在か、それとも兵器としての扱いをするべき存在か。

 

 

 要するに、艦娘という存在に対して人類はどう向き合えば良いのか、という基本的かつ答えの出ない論争が、ドイツを除いた欧州各国で噴出していた。

 

 

 人ならざる者であり、人以上の力を有し、しかし人に対して極めて従順、いや、服従とも取れる形で寄り添う者達。

 

 深海棲艦に対し唯一有用な戦力であるならば、当然戦いに投じられるのは自明の理ではある。しかし、彼女達は独特の精神構造を有しながらも姿形は人の、それも少女から歳若い女性という見た目であり、性格もなんら人とは変わらない部分を持つ。

 

 兵器と一括りにしてしまうには乱暴で、しかし生き方は戦場にこそ在ると確固たる信念を持つ。

 

 

 そんな存在を前に、人と同じ権利を与えるべきか、それとも兵器として軍の麾下に置き運用すべきか。

 

 

 日本では深海棲艦との戦いが勃発した初期では、人であろうが艦娘であろうが必要ならば分け隔てなく戦場に投入され、磨り潰されていった。言ってしまえば艦娘が何者かなどと論じている余裕などなく、只々生き残る為だけに戦ってきたという過去があった。

 

 その過去があったからこそ、現在でも艦娘とは何者かという問いの答えは未だ出ていないが、『一般の市民とは違う』扱いはされてはいても『軍人としての艦娘』という存在が認知され、人との住み分けの形がなし崩し的に出来上がっていた。

 

 

 しかし、欧州を中心とした諸国では深海棲艦の発生から数十年の時を有用な戦力を持たないまま過ごし、そして艦娘の有用性と運用を十分理解した状態で配備が可能となった現在、研究機関はある程度の情報を握り、社会は艦娘という存在をある程度認識し、明らかに『人とは違う何か』という前提が固まった状態から艦娘の運用がスタートされている。

 

 

 共に戦い、死線を潜り抜け、それなりの月日を共にしつつ艦娘という存在を理解した者達と、深海棲艦に対する唯一の戦力としての存在というデータを先に手に入れ、効率的な運用を可能とした状態から戦力化した国々。

 

 これは後者に『艦娘という戦力』という一面を強く抱かせる素地となっており、乱暴な表現をすれば『艦娘兵器論』という言論を是とする者達が一定数以上存在する国家が誕生する遠因となった。

 

 

 そして王立研究所といえば、深海棲艦の出現以降二十数年艦娘という戦力を持たなかった関係で、主に対深海棲艦(・・・・・)を目標に研究を続けてきた機関である。その前提があるためか、艦娘に対しての認識は良く言えば『人類が深海棲艦に対して唯一持ちうる有力な存在』、所属する研究者達大半の言をそのまま述べれば『人類側が戦力化した深海棲艦と同等の存在』という認識になる。

 

 

 王立研究所深海棲艦研究室所属主査であるアイラ・クリスティーヌという人物は、言ってしまえばそういう認識(・・・・・・)を持つ者達の筆頭に位置する人物であった。

 

 

「我が王国の国民がどう思おうと、我が王国の軍がどう認識しようと、それを日本へ押し付ける形になれば少なくはない軋轢が生まれる、故にモーリス卿は自身の思想と国益は切り離して行動しておられる。国同士の繋がりとは滅私でなければ成り立たんのですよ」

 

「そういう考えができる人だったなら、そもそもこんな場(・・・・)をセッティングしようなんて考えないと思いますけどね」

 

「耳が痛い話ですが、そういう認識にある者がそれなりの数国政に関わっているとご理解頂きたい。だが、そういう人間が居たからこそ私はこうしてMr.吉野、貴方と接触する機会に恵まれた」

 

 

 自分は今回の場を無理やり設けた人物とは違うと十分アピールした上で、さて、と一言、英国庶民院議員という肩書きを持つリチャード・シーカーという男は居住まいを正した。

 

 

「今回 Mr.吉野に貴重なお時間を頂いたのは、私個人のお願いを聞いて頂きたいと思いまして」

 

「お願い……ですか、ふむ? まぁ先ずは聞くだけなら、と、お答えしますが」

 

 

 搦め手ではなくいきなりの切り込みに、やや面食らいつつも吉野は答える。この会談に先駆け様々なパターンは想定済みではあったが、恐らく必要ではないかと予想した前置きも、自身のバックボーンを出しての事前交渉も無しでの切り込みは正直無いと吉野は思っていた。

 

 つまり現時点では目の前の男は誰かの依頼ではなく、言葉をそのままの意味で理解するならば、あくまでこの場には自身の都合で赴いていると言っている。リチャード・シーカーという男の身辺調査はある程度進めており、そこから様々な都合や関係する物をある程度予想していた吉野は目の前の男に対し警戒度を一段上へ修正しつつ言葉に耳を傾ける。

 

 

「そちらではもう恐らく調べは付いていると思うのですが、我が商会は英国内で商いを行っておりますが、私個人の顧客にはロシア筋の方もおりまして、実は今回の会談にはそちらの顧客からの依頼も含んでおるのですよ」

 

「確か……あー……Mr.シーカーの奥さんの弟さんのお嫁さんのお爺様でしたっけ」

 

「ですなぁ、ウチのワイフの弟のワイフの祖父がロシアの要職に就いておりまして、その方からぜひMr.吉野に取り次いで頂きたいという話がありまして」

 

 

 何故ワイフだけネイティブなのかという心の突っ込みと、そのダラダラとした人間関係を口にするのは必要なのかと自身の言葉を棚に上げつつも、吉野は話を少しだけ突っ込んだ方向へ切っていく。

 

 

「で、この会談に同伴する為にモーリス卿へ渡りを付けて渡航してきた、と。英国下院議員でありながら国家公認のダブルフェイス(二重スパイ)とは中々……」

 

「いやいや、モーリス卿に於かれましてもロシア筋とパイプを繋げていた方が、何かと都合の良い面もありましてね」

 

「でしょうね。国の方針がどうあれ経済圏で言えばロシアは最も近い大国でしょうし、完全に切れる状態ではないでしょうから」

 

「それもあるにはあるのですが、今回の会談はモーリス卿としてもMr.吉野との繋ぎという意味も含みましてね」

 

「モーリス卿にとってはロシアとウチとの、アレクセーエフ参謀議長は英国……いや、モーリス卿とウチとのパイプが、そしてそれを繋ぐのが……」

 

「ですな、それが私となります」

 

「ふむ……確かに自分はモーリス卿とあれ以来(・・・・)疎遠になっていますし、ロシア筋とも拗れたまま関係は冷め切ってますから」

 

「国を通してしまうとどなたも国益という前提が邪魔をして関係の修復は難しい、しかし、個人としてならそれ以外の純粋に必要とする部分のみ手を取り合う……いや、綺麗事は止しましょう、互いの利の部分でのみ取引が可能になるのではと私は思うのですよ」

 

「成る程、それらを繋げる貴方は色々と……まぁ商人として美味しい部分にあり付けると?」

 

「当然リスクは計り知れない物になりますが、それに見合う儲けは当然ありますからな」

 

 

 其々の立場から表立っての行動は不可能であっても、秘密裏になら、ある程度のリスクは含んでいても結ぶべき縁。

 

 それは日本を遠く離れ、独立した拠点運用を選んだ吉野にとって喉から手が出る程欲しい物ではあった。

 

 

 英国に対してもロシアに対しても国という立場から見れば正直西蘭泊地とは関係が良好であるとは言えない。だが、国に対してそうだからと言ってその国に属する全ての者がそうだとは言い切れない。そして欧州連合に対しても共産圏の国家に対しても、関係を全否定しつつ軍務をこなせる程西蘭泊地の力は大きくはない。

 

 

 特に吉野が重要視する情報面で言えば、ユーラシア大陸の西側方面に限り現在殆ど伝手(つて)が存在しない状態にある。

 

 

「まぁ今回は取り敢えず何かがあってという話ではなく、純粋にパイプを繋げる事を目的とした話……と言う事でどうかなと思うのですがね?」

 

「ふむ、自分としては特に断る理由がない話なのですが……」

 

「何か、今の話に疑念がおありでしょうか?」

 

「いや、話にあった部分には特になにも、まぁ疑念があるとしたらこれから話に上がる筈のフランス関係の事でしょうか」

 

 

 吉野の言葉にリチャードの面に浮かんでいた薄い笑顔が固まる。そして吉野自身も愛想笑いを面に貼り付けたまま淡々と話の続きを口にしていく。

 

 

「そもそも、貴方の商社はとあるペーパーカンパニーを使ってロシアの望む品物(足の付かない武器)を日本国内へ持ち込んでましたよね? まぁ貴方自身それはロシアの要望に応えただけであってウチに敵対した訳じゃないので自分に思う処はありませんけど、問題はそのペーパーカンパニーの所在地がフランスであったと言うところでして。さて……自分は一応フランス対外治安総局との伝手(つて)は持ってますが、現在の処それらは不可侵的な関係に留まっている状態なんですよ」

 

 

 元々は経済的な面での諜報戦をフランス側が仕掛けてきた事で繋がった吉野との縁であったが、それは結局関係を持ったといっても双方これまで何かアプローチをした訳でもなく、努めて双方は不可侵という形での関係を延々と続けていた。

 

 欧州連合の中にあり、他の国々とはやや違う形で独立性を重んじる国、フランス。

 

 自国至上主義というのはある意味ヨーロッパ諸国其々に根付く基本的な思想と言えるが、他国を利用し、時には協力して国益を優先する国々に対し、フランスだけは一定の線引き以上の協調は例え国益が掛かっていたとしても踏み出さないという、特殊な立ち位置を貫いていた。

 

 ある意味強過ぎるプライドがそうさせていると言えなくはないが、それが却って経済・軍事双方それなりの域を出ないフランスという国を、灰汁の強い欧州連合の中で他国に侵食させない国家として存続させていた。

 

 

「かの国がわざわざ進んで自分と関係強化を望んでいると言うのは……まぁ英国、ロシアとウチが繋がると知ってれば動く可能性もあるにはあるかな程度しかないんじゃないかなと。それよりも可能性が高い筋としては……まぁ、()吉野商事社長だった人物の主導によるもので、貴方を通じてウチへ顔繋ぎしてきたのかなぁ、とか?」

 

「……成る程、確かにあの時使ったペーパーカンパニーは幾つか通したトンネルの出口(物流の最終窓口)でしたが、フランスに置いていたのを失念しておりましたよ……それで、そこからなぜMr.陽四郎という筋に繋がりますかね?」

 

「フランス対外治安総局の強情さは重々承知してます、そしてたまたま(・・・・)かの国には彼が居る……で、まぁ色々復権とか近道をと考慮すれば、もし彼の立場であったなら自分ならそうする(・・・・・・・・)、ただそう思ったので」

 

 

 リチャードは、ニコニコと愛想笑いの吉野を一瞬だけ何か恐ろし気な物を見る目があったが、そこは数々の大商いを成功させてきた狸といったところだろうか、すぐに気持ちを切り替え再び笑顔を滲ませつつ、頭の中で話の軌道を修正していく。

 

 

「正直な事を言うとですな、プライドに凝り固まったフランス……いや、対外治安総局をMr.陽四郎が篭絡した形で今回は話を整えた状態にありまして」

 

「ふむ? 確かに彼なら色々な腹案は出せるでしょうけど、オーストラリアから出奔してフランスに渡った時期を考えると、それ程政府筋に食い込める程の伝手(つて)も資金力も無い筈ですが……自分で彼の関与を仄めかしておいてナンですが、ここら辺りだけどうしても納得いかないんですよね」

 

「実はアレクセーエフ参謀議長から今回の話を持ち掛けられた時に色々と情報を精査する機会がありまして、そこからMr.吉野の身辺情報に当然至る訳ですが、その中には少し前の吉野商事を取り巻くM&Aの事もあった訳で、そこから彼がフランスに渡り色々活動している事を知ったのですよ」

 

「成る程、だから陽四郎君のパトロンになって対外治安総局の取り込みに利用したと?」

 

「取り込みと言うか彼自身が意欲的に動いた結果と言うべきでしょうな、まぁそれも都合の良いことに……と言うか、Mr.吉野は敢えて彼がヨーロッパへ出奔する様追い込みを掛けていましたな。と言うことは後で利用するか、若しくは利用できないまでも押し込んで身動きが取れない形にするか、あのやり方の裏にはそういう意図があったのではないですかな?」

 

「……さて、まぁそれは結果論でしかないので何とも言えませんけど、結果的には自分ではなくMr.シーカーが彼を利用する事になったようですけど」

 

「利用というのは語弊がありますな、一応はビジネスパートナーとして今回は動いて貰ってますよ」

 

「今回は……ですか」

 

 

 以前吉野商事乗っ取りを画策し、M&Aを仕掛けてきた吉野陽四郎という男。

 

 吉野自身の評価で言えば極めて優秀かつ組織運営に長けた者として、本来ならあの乗っ取り程度は問題なく、多少は手間を掛けたとしても以後は引き続き吉野商事を任せてもいいと思う程の人物ではあった。

 

 しかし結果的には吉野自身が譲れない、ある意味『虎の尾』を踏んだ事により、取り込みはせず追い込んだ末に意図的な形で欧州方面へ出奔させる事になった。

 

 元々は艦娘ありきの組織を抱える吉野にとって、彼女達の存在は優先度で言えば最上位に位置する。その辺りを当然の事と考慮して敵対的乗っ取りを行い、最終的には関係を継続する形であったならば、吉野自身の彼に対する評価は満点だった事だろう。だが肝心な部分を見落としたツケはそれまでの評価をゼロに等しい位置まで下げてしまった。

 

 その辺り詰めの甘さや認識的な物が矯正されればリチャードが言うように、吉野は陽四郎を再び取り込む事も考慮していたし、逃亡先は関係箇所を考慮すれば間違いなくフランスと踏んでいた吉野は、最悪そこに押し込んだままフランス共々監視をしていればいいという考えにあった。

 

 

「現在フランスに純粋な伝手(つて)のある商売人はヨーロッパでも少ないのですよ、何故かと言うと対外治安総局という鬼門がかの国には存在していますので。ウチも仕事を振ったり振られたりの際はその……まぁほとほと苦労させられておりましてね」

 

「あー……まさかダブルフェイス(二重スパイ)ではなくトリプルフェイス(三重スパイ)でしたか……」

 

「いやいや、今回の件がなければ私が純粋に伝手(つて)を持っていたのはロシア筋だけでして、まぁそれでも流石Mr.吉野の関係者、少しの資金とちょっとした口利きだけであの対外治安総局から好条件を引き出しましたよ」

 

 

 一貫してポーカーフェイスを貫く吉野だったが、欧州一腹黒い英国と資本主義圏とは敵対しているロシアを繋ぎ、あまつさえ国益すら凌ぐプライドで凝り固まったフランスとすら関係を結んだ手腕に驚愕していた。

 

 対して、リチャードも切り札として隠し持っていた諸々をほんの僅かな情報から核心の部分まで推察し、更にはそれを平然と言葉にして言い切ってしまう吉野の態度に内心そら恐ろしい感情を抱いていた。

 

 結局どちらも割と一杯いっぱいの虚勢を張りつつ、お互いイニチアシブを取ろうと画策していただけであったのだが、それが双方の誤解へと繋がっていく。

 

 かくして双方内心ガクブルな状態でありながらも、其々ポーカーフェイスで内心を隠したまま会談は進んでいく。

 

 

「まぁ私の出せる手札はこれで全部になりますな、まさかここまで手の内を晒さなければならないとは思いませんでしたが」

 

 

 別に全てを晒さなくとも話は進んでいたが、その辺りの諸々はリチャードが不必要に警戒し過ぎたのと、吉野のポーカーフェイスが生んだ誤解が齎した悲劇である。

 

 

「まぁそれはお互い様でしょう、自分もまさか数カ国に跨った筋との関係を考える事になるとは思ってもみなかったので」

 

 

 英国とロシア筋までは読んでいたものの、まさかフランスまで絡んでないよなと適当に投げたボールがビーンボールになり、それがクリティカルヒットになった挙句、粛々とフランスにまでパイプが繋がるという話になっている現状を、どうしようと吉野が焦っているのは割と秘密の話であった。

 

 

「我が商会としては其々のパイプの機能を果たし、足跡が付かないよう事後の工作も請け負う代わりに、其々の国、若しくは組織に色々と便宜を図って貰いたいという下心があります」

 

「下心……ですか、まぁ図ってもいい便宜は図りますが、無理なものは無理と問答無用でウチは突っぱねますよ?」

 

「当然それは承知しておりますよ、突っ込みすぎれば身の破滅ですし、正直便利使いして貰うだけでもウチの商会に箔が付くというものですよ……公にはできない方面にですがね」

 

「そういう事ならば、判りました、では繋ぎの仕方や諸々はおそちらに任せしますが……」

 

「今回はまだ様子見と言うか、調整前の意思確認程度という事でご理解頂けたらと、詰めはまだこれからと言う事で」

 

 

 

 こうしていつかは手を伸ばす予定だった欧州方面の情報網は、予想外の処から足掛かりを得る事となる。同時にこの伝手(つて)の繋ぎが後々深海棲艦と艦娘という存在の謎に吉野が迫る切っ掛けとなるのだが、それはまた数年後の事である。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
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・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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