大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 演習終了、色々と ヤ  リ  ス  ギ そして結局ムチムチが黒幕と言うか企んでたという感じ。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/01/25
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、皇國臣民様、pock様、有難う御座います、大変助かりました。


四面楚歌

「おい大丈夫かよ吉野のダンナ」

 

 

 大坂鎮守府執務棟地下三階。

 

 作戦指揮所脇に新たに設置された付属会議室。

 

 有事の際に使用する事を念頭に置き、作戦指揮所と同じく対電波、対衝撃構造の分厚い壁に囲まれたそこは、最終決戦に耐えられる様にと頑強に作られた、大坂鎮守府地下区画の中でも尤も要塞化された区画の一つである。

 

 中からは中継施設を通じ、軍事、及び一般回線へ接続は可能だが、逆のプロセスは内部からの接続許可が無ければ繋がらず、また電波遮断壁の為に盗聴は物理的に不可能な構造になっている。

 

 名目は有事の際の指揮付属施設となっているが、鎮守府の立地的に外敵からの襲撃が殆ど無い現在、実質そこは防諜を見越した会談、または会議に使用する為の部屋とも言える。

 

 

 時間は一六:〇五(ヒトロク マルゴ)、午前中には海軍大坂特殊兵学校の開校式及び教導生受け入れ式が行われ、午後からは鎮守府の者達が案内しての鎮守府内見学という予定となっていた。

 

 そして開校式に出席していた賓客、並びに各拠点司令長官はこの地下会議室へ集い、現在は外へは漏らせない諸々の話し合いの真っ最中にあった。

 

 そんな場には開校式に姿を見せていなかった髭眼帯が、プルプルしつつ会議に参加している。

 

 本来鎮守府の司令長官の立場にあれば、開校式には出席していなければならない筈であったが、ここ最近にあったあれこれ、と言うか、主に北方棲姫側から一方的に結ばれた形の関係に関する始末や調整に掛かり切りになり、特殊兵学校の開校式には出席出来ないという状態にあった。

 

 

 この特殊兵学校の開校式に関しては、参加表明をしていた関係各所、または各国関係者に対しては、以前発生したテロを理由に参列の自粛を要請するという措置が取られていた。

 

 それは表向きとしての理由としては充分機能し、また各国関係者との対話をした場合発生すると予想される手間や段取りを取り敢えず先延ばしにし、時間を稼ぐという裏の目的にも沿う状態にはなっていた。

 

 

 しかしその状態にあった大坂鎮守府が北方棲姫と関係を結んだという情報が公に流布されてしまった。

 

 

 タイミング的にそれは最悪である、危険性を謳い部外者の参列自粛を要請した上で鎮守府に近しい関係者のみを集めての開校式。

 

 それを見計らった上での北方棲姫との関係樹立。

 

 例えそれが偶然であったとしても、外から見ればこれらは全て始めから計画された行動と取られてもおかしくはない。

 

 

「いやマジヤバい事になっちゃってると言うか、欧州側からのアプローチも大概なんだけど、それ以上に米国側からのプレッシャーもハンパなくてねぇ……」

 

「まぁそうなるの、米国はここ最近やっと奪還したベーリング海のド真ん中を、今度は一方的に北方棲姫らの航路が打通すると言うんじゃ、それを認めてしまうとアラスカ近海の利権は根こそぎ潰れるのと同義じゃからの」

 

「えぇ、その件に付いてはウチではノータッチと言うか、関われないと言うのが本音なんですが……」

 

「向こうにしてみれば、北極海から大坂鎮守府までの航路という話が出ていて吉野さんがまったくの無関係と言うのは、言い訳としては確かに通りませんね」

 

 

 日下部の言葉に髭眼帯は口から魂が混じった溜息を盛大に漏らし、背もたれに体重を預け天を仰いだ。

 

 現在北方棲姫側からは北極海から大坂鎮守府へ至るまでの航路を確立する為、独自に関係各所へ接触を計り、諸々を調整と言うか通達と言うか、ぶっちゃけ脅している最中という物騒な話があちこちから苦情交じりに吉野には伝えられていた。

 

 当然それは人類側からしてみれば断る事も、話し合いの場を設けるという事も難しい状態にある。

 

 最近の情勢で言えば、少し前に北方棲姫自身の再侵攻をしないという宣言を受け、主にベーリング海付近の制海権奪取、維持の体制を米国が敷き、それらが漸く整いつつある状態にあった。

 

 対する北方棲姫としては、今回航路打通を予定している海域は、元々彼女が嘗て侵攻した際支配した海域であり、そこをどう使おうと彼女的には自分の縄張の事という事で、なんら問題が無いという認識にあった。

 

 寧ろその事でわざわざ通達してやっているのだから、逆に有難く思えという状態の為、この件に於いては益々状況がこじれつつあった。

 

 そんな事情と認識の差が両者があり、ぶつかれば当然米国が退かねばならない事になるが、それは情勢や面子の面で出来る訳も無く、しかしどうにもならないというジレンマが大坂鎮守府に向くという、ある意味とばっちりが及ぶのは最早当然と言えば当然の状況であった。

 

 

「なぁダンナよぉ」

 

「……はい? ダンナって誰ですか?」

 

「あー、なんつーか吉野さンって言い方前から気になってたっつーか、他人行儀だと思ってたンだけどよ、呼び捨てはし難いし、まぁそンじゃダンナでいいかって」

 

「いやその、輪島さんの好きな様に呼んで貰っていいんですけど……はぁ、あ、それでどうしました?」

 

「いや、今回のそれって北方棲姫が勝手にやってる事なんだろ?」

 

「えぇまぁそうですねぇ」

 

「ンなら連絡取って余計な事すンなって言うか、無理なら泊地棲姫ン時みたいに話し合って決めりゃいいじゃねーか」

 

「そうできればいいんですけど、実際こっちと北極海との連絡手段はヲ級さんが運ぶお手紙しか無い訳で、このままでの話し合いって形の解決は時間が掛かるから難しいんですよねぇ」

 

「あ? ンじゃ取り敢えず仮設でも何でもあっちと直通ライン敷設してだなぁ」

 

「先ずそれをするには米国の領海を通す必要がありますし、それがクリア出来たとしてもほっぽちゃん側が直通ラインを通す事に難色を示してまして……」

 

「はぁぁ? なンだそりゃ……」

 

 

 元を辿れば北方棲姫が大坂鎮守府に対して求めているのは、天草や電との技術交流にあった。

 

 物資のやり取りはそれのついでという事に過ぎず、基本的に彼女は人との過度な接触は好まない。

 

 吉野に対してもその有体、ぶっちゃけてしまえば特殊な体であったのと、脇には彼女が興味を惹かれる人間関係、そして技術があったから邂逅しただけで、吉野本人には研究対象という以上の強い何かを感じている訳では無い。

 

 海湊(泊地棲姫)との場合は本人の義理堅い性格があってか、それが元で吉野との関係は成り立ったが、そんな変わり者の彼女でさえ吉野との関係を心から結ぶ為にはそれなりの時間と、命を掛けての行動が必要であった。

 

 北方棲姫はあくまで深海棲艦上位個体である、そして気まぐれであり研究と言う興味があるからこそ大坂鎮守府と関係を結んでいるが、その内面は間違いなく深海棲艦、人類の敵には違いなかった。

 

 故に自身の縄張り内に人の手が入るのは良しとせず、技術交流程度なら連絡手段はヲ級を使者としてのやり取りで充分事足りるという考えがあった。

 

 つまり北方棲姫と大坂鎮守府の間には海湊(泊地棲姫)の様に融和に近い関係は築けず、また連絡の為に直通の機器を縄張りへ配置する事は出来ない状態にある。

 

 

「……つまりなんじゃ、今回の事はこっちで始末をつけんといかんって事かいの」

 

「まぁ……文通でのやり取りでは話がまとまるまでどれだけやり取りしなくちゃいけないか予想が付きませんし、結果的にはそうなりますね」

 

「の割には自分の配下である、しかも姫級を戦力として君の所へ寄越しているようだが、もしかしてその上位個体は一時的に大坂に所属してるだけなのか?」

 

「あー、飯野さんには説明してませんでしたっけ? 水晶(空母水鬼)君は元艦娘なんなんですよ、だから本人が希望したのでほっぽちゃんとこから大坂鎮守府へ所属を移すって感じになってまして」

 

「なんだと? あの空母水鬼が元艦娘!?」

 

「えぇ、彼女は元艦娘で、前世は蒼龍さんだったそうです」

 

 

 深海棲艦上位個体空母水鬼、その正体は前世が蒼龍型 一番艦蒼龍であり、元は中部海域で誕生したものの、気ままな性格が災いしてか一所に身を置く事無くあちこち流れ流れて、最後には極北の北方棲姫の縄張りに身を寄せる事になったのだという。

 

 

「ついでにこの際だからって、幾らか居る元艦娘さんの深海棲艦さんに声を掛けて、ウチに行きたい者が居ないか今あれこれしているそうです……」

 

 

 室内が一瞬で無言の状態になる。

 

 現状北方棲姫の件で吉野はあれこれ色々不味い立場に立たされており、またそれの調整の為奔走している真っ最中である。

 

 それだけでもかなり問題になっているのに、更にその北方棲姫側から深海棲艦が更に大坂鎮守府へ送られるとなれば、最早言い訳レベルの何かでは関係する諸国への対応が不可能になる。

 

 それは簡単に言ってしまうと、髭眼帯絶体絶命という状況であった。

 

 

「てかウチに所属してる深海勢の皆さんって自分とカッコカリしているじゃないですか……」

 

「あ……ああ、そうだな」

 

「実はカッコカリ出来る深海の人って、前世が艦娘さんだからなんだそうです……」

 

 

 タマスィーの抜け落ちかかった髭眼帯の何と言うか、真っ白に燃え尽きたあのジョーさんみたいな有様を見て、思わず飯野は目頭を押さえつつプイッと横を向いてしまった。

 

 

 因みにこの事実は、天草とほっぽちゃんが共同でしている研究の途上で最近発見された事実であった。

 

 ついでに言うと、特に本人は言う必要がないと思っていたので黙っていたらしいが、静海(重巡棲姫)も元は羽黒だったという、元艦娘の前世を持つ深海棲艦上位個体であった。

 

 

「まぁそんな訳で、もし今後ほっぽちゃんから深海の人達が来た際は、皆さんの誰かに嫁入りをして貰おうと思ってご相談してる訳なんですが……」

 

 

 真っ白に燃え尽きた髭眼帯の爆弾発言に、場の者は一斉に視線を逸らす。

 

 深海棲艦上位個体とは確かに戦力としては頼りになる存在ではある。

 

 しかしそれは戦力的に凡そ艦娘一艦隊か、若しくは連合艦隊規模と同等でしかない。

 

 確かにその存在は海域の首魁を倒し、復活する前にそこへ据えれば海域の支配そのものが安定すると言えるが、現在軍部ではその行為を認めていない、あくまで支配海域は日本国が主権の物であり、個人の裁量でどうにかなる可能性が出る行動はさせるつもりはない。

 

 朔夜(防空棲姫)の件は事情が判っていない頃の結果であった為例外的な扱いになっているし、冬華(レ級)が管轄していた縄張りも、日本から遠く離れ、また国益にも余り関係しない海域であった為、現在は海湊(泊地棲姫)の管轄という事にして対外的には誤魔化していた。

 

 故に現状軍の管轄下にある支配海域に鹵獲した深海棲艦を首魁として置き替えるという事は出来ず、またその存在を取り込む事は、純粋な戦力として考えたとしても対外的なリスクの方が大き過ぎる為、ぶっちゃけ関わらない方が吉という結論に至ってしまう。

 

 

 要するに、結局、またしてもそういう問題は、現状深海の人達を嫁として迎えている吉野に任せると言うか押し付けるというのが妥当という流れとなってしまってるという、そんな救えない事実が確定してしまった。

 

 

 プルプルする髭眼帯は場をグルリと見渡すが、誰も彼も明後日の方向へ向いた状態、しかしその中に只一人、吉野から目を逸らさない男が居た。

 

 それは舞鶴鎮守府司令長官であり、軍部では狂犬と呼ばれる男、輪島隆弘である。

 

 よくよく考えれば現在輪島の麾下には、今問題になっている元艦娘だったという深海棲艦は所属していないが、代わりに戦艦棲姫へトランスフォームが可能という霧島ネキが所属している。

 

 なれば深海の人の一人や二人、押し付けても問題は無いのではなかろうか。

 

 そう思った髭眼帯は心の友と言うか、一蓮托生的なナカーマを見つけた気持ちで満面の笑みを向け、そして縋る想いでお願いを口にしようとした。

 

 

「えっと輪島さん、その……」

 

「あ? ウチ? ムリだぞ? なンかあったら面倒くせぇし、そんな処理もできねぇし、な? ムリムリ」

 

 

 髭眼帯の一縷(いちる)の望みが無残にも一刀両断された瞬間であった。

 

 

 元々察するとか気遣いというデリケートな部分に鈍感な狂犬である、周りの者みたいにそれとなく態度で察してもらおうという腹芸は出来ない男なので、この流れはある意味仕方が無い事と言えよう。

 

 

 そんな訳で結局何が何でもこの問題はやはり髭眼帯が抱えるしかなく、結果としてもし深海の人達が大坂鎮守府に来る事になるとすれば、また爆弾を抱えた嫁入り騒動が勃発するという図式が確定してしまうという。

 

 そんな救えない不可避の未来があった。

 

 

 プルプルする髭眼帯。

 

 そんな肩をポンポンと叩く手があった。

 

 それに何事かと振り向いた髭眼帯の目の前では、今日のお茶当番である球磨が例のゴスロリメイド服を着込み、空調の風でユラユラアホ毛を揺らせながら静かに首を左右に振る姿が見える。

 

 

「……球磨ちゃん……ナニ?」

 

「提督、いつも言ってるクマ? 何事も諦めが肝心だって」

 

 

 それは彼女なりの慰めの言葉であったが、髭眼帯にしてみればデッカイお世話と言うか何と言うか、ぶっちゃけ死刑宣告以外の何物でもなかったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「えー……、現在吉野中将が多忙であられるのはお察ししますがその……こちらに軍令部総長より預かっている指令がありまして……」

 

 

 相変わらず燃え尽きて灰になった髭眼帯がセットされた会議室。

 

 山積する問題に答えも出せないそんな場に軍令部所属、田野代(たのしろ)芳樹(よしき)が軍令部総長、即ち大隅(おおすみ)(いわお)大将より預かってきたという書類をスイッと差し出した。

 

 プルプルしつつも髭眼帯はその封筒を受け取りつつ、ここで開封しても良いのかという意味で田野代に視線を送るが、それは別段問題の無い物なのだろう、それに対して田野代が頷くのを確認した髭眼帯は封筒から中身を取り出した。

 

 中身を確認すると、それは技本から上がってきた艦娘に関する論文が数枚と、そしてそれを基にした命令が記された簡素な書類が一枚という状態であった。

 

 

「え~っと、艦種間に於ける関係性と精神作用に於ける性能変化の傾向ぅ?」

 

「ふむ? なんじゃと? 姉妹艦で固めた艦隊での行動は、それ以外の艦で編成した時よりも僅かばかり性能の上昇が見られるじゃと? 何を今更こんな当たり前の事を研究結果として上げとるんじゃ」

 

「それが常識となっていてもちゃんとした数字として計上して、事実として周知させるのが研究機関としての勤めって事なんでしょうね、ウチもそういう現象があると聞いていたので駆逐艦は陽炎型で固めてますから」

 

「ああ確かクルイはそうでしたっけ?」

 

「まあ艦娘に心ってもンがあるンなら、姉妹の情ってヤツがあンのも当然だわな? ってかダンナ……どうしたよ?」

 

 

 技本の論文を回し読みする者達の前ではまたしてもプルプルを開始する髭眼帯。

 

 そんな姿にまたしても場の空気が微妙な物になり、室内はシーンとした無言状態にシフトしてしまう。

 

 そしてプルプルする髭眼帯が持つ書類をスイッと取り上げたゴスロリ球磨が、ふむふむとその内容に目を通す。

 

 それは最早髭眼帯のプルプルに慣れきってしまった為、気遣いという物が皆無になってしまっているのが大坂鎮守府のデフォになりつつあるという、悲しい現実が生み出した情景がそこにあった。

 

 

「えっと、技本から上がってきた論文結果が現場で如何に作用するか検証する為、以下の艦種を揃え実地検証せよ、と書いてるクマ」

 

 

 軍令部発、大坂鎮守府に下った新たな指令、それは巡潜甲型改二潜水空母と、暁型駆逐艦、そして妙高型重巡洋艦を揃えよという指令と、それに必要なら建造せよという許可が記された命令書であった。

 

 指定された艦は確かに姉妹艦が少なく、またどれも既に半数は大坂鎮守府へ着任済みの艦達であった為、命令自体は道理に叶っていると言えば叶っていた。

 

 

「……なぁダンナよぅ」

 

「はい……何でしょう」

 

「この巡潜甲型改二潜水空母の建造ってよ……」

 

 

 但し、その指定された艦の内、巡潜甲型改二潜水空母の建造は現在まだ軍部では確認されておらず、海での邂逅、所謂ドロップ艦という存在しか邂逅実績がない。

 

 しかもこの命令にある検証をするなら、指定艦が着任していない大坂鎮守府にわざわざ命じる事はせず、既に揃っている他拠点へ命じる方が効率的であり、またそちらの方が余程筋が通っている。

 

 そこから導き出される答えとは、つまり

 

 

「大隅め、今回の件で面倒事が舞い込んだからって腹いせに、意趣返しとして無茶な命令を発布しおったわい」

 

 

 そういう色々な諸々が、命令からは読み取れちゃったりした。

 

 

 ここでおさらいであるが、現状日本の海軍に於ける艦娘の数量は頭打ち傾向にある。

 

 この状態の現在建造を実施しても成功確率は凄まじく低く、成功するまでの試行回数は運が良くても最低二桁回は必要とされている。

 

 しかし大坂鎮守府では例の一番ドックを黒ツナギの妖精さんが使用した場合建造率は100%、しかもある程度の艦種を狙い撃ちも可能という状態にあった。

 

 但しそれは艦の狙い撃ちという事になれば話は相当シビアなものになり、幾ら髭眼帯が妖精さんへお願いしてもそれは難しい状況にある。

 

 

 因みに先日吹雪が介入した建造騒動では艦種はおろか、艦の狙い撃ちで建造を成功させてはいたので、技術的にそれが可能なのは間違いない。

 

 しかしそれは元々彼女を含む最初の五人という存在と黒ツナギの妖精さんとは共に人類と初めて邂逅した経緯からも判る通り、互いは特別な関係にあり、特に吹雪と妖精さん達は相性が良いと言う事で彼女が関わった建造はそういう無理がある程度効く状態にあった。

 

 結論としてあの時は吹雪の無理な"お願い"と建造参加によって、あの狙い撃ち建造は成功していたがその辺りは吉野へは秘密にされていた。

 

 故にこの建造の試行回数はある程度の数を覚悟しなければならず、更には巡潜甲型改二潜水空母という艦は建造不可の艦娘にあった。

 

 

 つまりこの命令は達成難易度が高く、コストもそれなりに掛かり、しかも事実上建造のみでは遂行不可能という無茶振りという状態にある。

 

 

「まぁ命令の発布内容は懲罰的な意味合いが殆どによるもんなのは確かじゃがのぉ、なぁ吉野よ、それでもこの命令、おんしならどう見る?」

 

「ふむ……そうですねぇ」

 

 

 吉野は一旦プルプルを停止し、思考をこの命令の内容へ集中させ始める。

 

 命令の発布は染谷が言う、この状態を招いた懲罰という物から来たものが確かに原因の一つにあるのは確かだろう。

 

 またこの手の事は対象が将官であった場合、ヘタに処分すれば体外的な目もあり、また関係する軍務が多い為おいそれとは公に処分が下せない分、代わりのペナルティとしてあてつけ的に無茶な命令が発布されるというのはままある話ではある。

 

 しかし大隅という男は感情論だけで公権を振るう事はしない男というのは、長く上司部下の関係にあった吉野は良く知っていた。

 

 ならば今回発布された命令に含まれる、懲罰以外の物とは何なのか。

 

 思考をフル回転させ、一連の出来事と関連事項を並べ変えては排除し、徐々に道筋を描いていく。

 

 

 そんな状態が暫く続くが、時間経過と共に何かを掴み始めたのか、徐々に髭眼帯の表情が怪訝な物から変化していく。

 

 

「……正直どう考えても、巡潜甲型改二潜水空母の建造は無理だと思います」

 

「そうだなぁ」

 

「そして今ウチにはイヨ君が着任していて、残りは確か……」

 

「ふむ、伊13じゃったかの」

 

「巡潜甲型改二潜水空母って言うと、大本営以外じゃ確か大坂に一隻、後は佐世保に一隻しか配備されてないんでしたっけ?」

 

「で、指令を遂行するには建造が不可能のもう一人をどうにかしねぇといけねぇって事はよ、後はドロップを見込んだ出撃をするしかねぇわな」

 

「その巡潜甲型改二潜水空母のドロップが現在確認されているのは確か……」

 

「日本海で一隻、後は北方領土近辺から北で三隻だったかよ」

 

「つまり、この指令を完遂しようとするなら、日本海若しくは北方領土近海から……最悪もっと北で(・・・・・)作戦展開をしないといけない事になる訳ですね」

 

「……あーそういう、なる程なぁ」

 

 

 髭眼帯と狂犬の渋い状態だった顔が、揃って歪な笑い、言葉にするとニヤリと表現出来そうな物へと徐々に変えていく。

 

 その笑みに他の者は怪訝な表情を浮べ、染谷だけが何かを納得したのか盛大に溜息を吐いていた。

 

 

「要するにだ、大隅のおっさんはよ、制海権の内ギリギリ北へ進出する事を公に認めてやっから、後は手前ぇらでどうにかカタをつけろって事でこの命令を出したって事か」

 

「で、この命令に対する期限は……ああ、切られてませんね、ていうか実地検証って事は艦娘さんが揃わなきゃコレ、始まらないって事ですから」

 

「そりゃぁ大変だ、なンせ伊13なンて幻の艦娘を鹵獲しなきゃいけねーンだから、一度や二度の出撃じゃあ到底無理だわなぁ」

 

「ですねぇ、でも軍令部直々の命令ですから、命令を拒否するなんて出来ませんからねぇ、多少無茶しても北へ行くしかないですかぁ」

 

 

 咥え煙草のまま煙をプカプカしつつ、椅子に身を預けて天井を睨む輪島は視線だけを吉野に投げて、ニヤニヤした表情を更に嫌な物へと変化させた。

 

 対する髭眼帯もプルプルが収まり、何かを考える様に腕を組み、同じく嫌らしい笑いを表に滲ませていた。

 

 

 こうして軍令部発の命令を遂行する為という大義名分を得た為、大坂鎮守府は当該海域を守護する拠点へ詳細を伝え、許可を得るという煩わしさも手間を心配する事が不要になると同時に、作戦内容説明の義務も免除(・・・・・・・・・・・・)される事となった(・・・・・・・・・)

 

 そして北方領土付近へ(・・・・・・・)幾度か抜錨する事になる作戦を実施する事になった為、暫くはその作戦と教導業務を回す為に鎮守府では慌しい日々が続く事になるのであった。




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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