大坂鎮守府教導施設開校、それに伴い深海棲艦艦隊と鎮守府選抜第一艦隊によるエキジビションマッチが開催、其々ぶつかり合う意地と意地、それが齎す結果と反応、彼女達がやってきた答えの一つが今形となって現れる。
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2017/12/23
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました坂下郁様、リア10爆発46様、じゃーまん様、有難う御座います、大変助かりました。
片肺を潰され、
つい今しがたまで居た辺りは既に双方入り乱れてのキルゾーンへと変貌し、そこへ足を踏み込む者が居るならば、それが誰であろうと命を刈り取る鎌の餌食になるのが充分予想が付いてしまった。
例え救難の為であろうとも、近付く者には漏れなくそんな危険に晒されるだろう。
しかし自身のダメージもそうだが、頭部に重篤なダメージを負った榛名をそのまま放置する事は出来ず、例外的に轟沈判定を解除して貰った
開幕から間を置かず脱落した二人以外の者は、現在
「貴女にしては、随分と、強引に、踏み込んできますね、珍しいじゃ、ありませんか」
「……こちらにも、退けない、理由が、ありますので」
平時では攻め手の殆どをカウンターに頼る大和だったが、今は
技量だけで言えば大和の方が一枚上手と言うのは、恐らく誰にでも判る様な攻防。
それが証拠に
しかしそれをするのが天下の大和型と言えど、相手は深海棲艦の、しかも戦艦棲姫である。
本体のみで大和の耐久値の倍、艤装を含めれば四倍の頑強さを誇る。
そして対する数が実質二になると言う事は、その差は数字以上に厄介な物になる。
一応
故に密着して砲撃を無効化し、尚且つ己の倍は頑強な
「赤城さん、申し訳ありませんが、後はお任せしてもいいでしょうか?」
「どうぞ、こちらの事は気にせずに、貴女は貴女のやるべき事を成して下さい」
第一艦隊後方で、
空は鬼二人が放つ艦載機で埋め尽くされ、数の比で言えば考えたくない程の差がそこにはあったが、それでも極限まで集中力を高めた赤城の艦載機運用は辛うじてそれらを押し止め、その隙間を縫う様に加賀の艦載機が援護に回る。
「さて……ここから暫くが正念場ですね、タイミングを誤ってしまうと立て直しは不可能です、頼みましたよ……加賀さん」
『
「くっ……ずるいですね、幾ら貴女にダメージを負わせても艤装には影響ありませんから、こちらは得意の間合いでは戦えない」
「なら貴女も沈んでみますか? そうなれば私と同等か、もしかしたら更なる上位の存在に成れるかも知れませんよ?」
「ごめんなさい、そのご提案には魅力の欠片も感じません」
「……でしょうね」
大和の奮闘により
それでも流石鉄壁という処であろうか、これだけ派手な戦いを繰り広げていても尚、今暫くは
「うっわ~ なにあれ戦艦棲姫の猛攻を単艦で凌いでるよ、信じらんない」
「確かに凄いっちゃ凄いけど、真正面の削り合いならこっちに分があるわ、でも……あんな無茶をするって事は何かを企んでるのは確かね、その前に何とかアカギとカガを潰してしまうわないとね、ほら、ボサっとすんな」
「はいはい判ってますよ~だっ、て言うか随分
この海戦に参加する者達全てを並べれば、性能という面では艤装を独立運用可能な
しかしこの混戦という状態に限って言えば、小回りが利き、更に戦艦棲姫本体より頑強な
具体的には
それでも
吉野と邂逅してから今まで、第二特務課の古参組の者よりは僅かに時間が短いが、それでもこの大坂鎮守府所属の者達と比較するなら、それなり以上に同じ時間を共有したのがこの
彼女が生きてきた時間の中では決して長いとは言えない、寧ろ短いとも言える程にしか時間を共にしていない。
それでも濃密で退屈しなかった日々は、前世が艦娘だったというのも何かしら関係しているのだろうか、いつしか深海棲艦でありながらも、
そこから更に掘り下げていけば、結局彼女の立ち位置は深海棲艦だの人だのという場所には無く、極端な話、吉野三郎側かそれ以外かという考えに辿り着くものになっている。
故に今回の演習に於いても提督からの指示だからという理由で参戦はしているが、積極的に第一艦隊を潰そうという考えには至らなかった。
取り敢えずは役目をこなしている、そんなスタンスで対空防御を回していた
「ぐっ……摩耶さん!」
「おうよっ! 任せろっ!」
『大和大破、行動不能』
「喰らい……やがれぇぇっ!」
大和が崩れ落ちた瞬間、対空防御に専念しつつもジリジリと前に出ていた摩耶が突如
その行動は、当然敵艦載機を阻む一角が消失する事になり、空からの脅威が増大する事になる。
現在
猛然と敵機が攻撃を仕掛け始める。
それは赤城の艦載機を蹴散らすかの如くの勢いで、絶望的な速度で周囲を侵食していく。
だがやはりそれでは相手を削り切るにはまだ足りない、しかも
それがまともに突き刺さり、轟沈判定が出た瞬間、崩れ落ちる摩耶の影から新たな影が躍り出る。
火を噴く20cm単装砲では戦艦相手には掠り傷程度しか負わせられない。
一当てされれば終わってしまうのは、航空母艦だから仕方が無い。
しかし最大火力である艦載機を無傷で押し込む為には、そんな賭けに出るしか手が無かった。
余りにも一方的に瓦解していく第一艦隊の航空戦力に対し、
単装砲片手に航空母艦が戦艦相手へ突出、その驚きは
「チェックメイトです、加賀さん」
「鎧袖一触よ、心配いらないわ」
流星からの攻撃を肩代わりし、それでも反撃の為砲を構えた時、
加賀の口元が笑いに歪む様を。
「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」
「なっ!?」
大和から摩耶へ、そこから加賀という順での間髪入れない連続攻撃。
最後は艦載機を伴い、あろう事か砲を片手に突っ込んできた加賀の奇策と、余りにも自然な砲扱いに注意が行き、未だ脅威として残っていた艦の存在を
そんな虚を突かれた瞬間、動きが止まった、いや、加賀に胸倉を掴まれそこに縫い付けられた
それは加賀諸共深海棲艦二人を轟沈へ追い込み、深海艦隊の前衛を一気に瓦解させた。
しかし第一艦隊の猛攻はここまでであった。
左右の酸素魚雷発射管からの、しかも五連装二基の斉射を成すには大きく
『摩耶、
ハウリングの耳障りな響きを伴って、五隻の轟沈判定を告げるアナウンスが海に響き渡る。
この時点で残っているのは
対する第一艦隊では赤城のみ。
全員ほぼ無傷という状態であったが、艦載機の数も、それ以前に戦力的な差も最早比較する必要が無い程に、それは絶望的な差という形で赤城の前に横たわる。
静かに赤城を見据え、
艤装に乗った4inch連装両用砲+CIC三基六門を赤城に向ける。
その意図を汲んだのだろう、
弓を脇に添え、そこが戦場だと一瞬忘れてしまいそうな程に
近付く
「艦載機のみなさん、用意はいい?」
呟く様な静かな声と、向けられた指先に誘われて
そうして見る先には真っ青な空と、そこに見える僅かな点がある。
目を細めて確認すれば、点だった物は徐々に輪郭を確かな物へと変えていき、それは自身に目掛けて落ちてくる艦載機だというのを
「……まだ艦載機を残してたのね」
逆落としを仕掛けるそれは、赤城が放った艦上爆撃機、彗星。
重力と自重、そしてアツタが搾り出す1200馬力を伴って、腹に懸架した500キロ爆弾を
ゆっくりとローリングしつつ落ちてくるそれを確認し、静かに狙いを定め、構えた4inch連装両用砲+CICを青い世界へ向けて放つ。
砲弾はまるで吸い込まれる様に彗星へ着弾、切り離す前の爆弾と共に空へと爆ぜる。
が、その爆炎からは、更にもう一機の彗星が落ちてくる。
「一の矢が駄目なら二の矢が」
その彗星もさっきの焼き直しの如く、空中に爆ぜる、しかしまたしてもそこから彗星が現れる。
まるで数珠繋ぎの如く、少しづつ海へ向けて爆発の火球が連なり始める。
「二の矢で駄目なら三の矢が」
流石に三機目の姿を見た
「そして
四機目、当然それも迎撃するが高度は低く、既に爆弾は切り離された後だった。
故に最後のそれは
『
赤城が放ったそれらは、四機連なりの逆落とし。
くるりくるりと回りつつも、一糸乱れぬ急降下、姿重ねたそれは、対空に秀でた
「くっ……くっくっくっくっ……あっはっはっはっ」
爆撃の直撃を喰らったというのに小破に留まった
それと同時に砲を斉射し、今度の今度こそ演習の幕を引いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
全てが終わり、スクリーンの映像が消えた大講堂。
そこに居る者達は誰も何も言おうとせず、演習とは名ばかりの戦場を、それも姫鬼を相手に艦娘が全滅するというショッキングな結末に唖然としていた。
「深海艦隊轟沈三、小破一」
そんな場に向け、叢雲の良く通る声が響き渡る。
「対して大坂鎮守府第一艦隊は全滅、これが嘘偽りの無い現実、姫や鬼と私達との間にある力の差よ」
壇上中央まで歩く叢雲の言葉は、つい今しがたまで見えていた映像を伴って、場に居る者達へ重く圧し掛かる。
「今回の演習は、敢えて逃げ場を潰し、正面から対峙せざるを得ない状況での戦いをしたって訳」
叢雲の言葉を聞く者達の殆どは言葉が耳に届いていないのか、何も反応を示さない。
しかしそんな中にあっても、僅かばかりの者は、その言葉に含まれた違和感に気付き叢雲へ視線を向ける。
そして僅かではあったが、返ってくる視線があった事に満足したのか、短く息を吐き出し、やや声のトーンを大きくした叢雲は言葉を続けていく。
「何も知らないバカなら真正面から突っ込んで、あっと言う間に駆逐されると思うわ、でもね、私達はバカじゃないわ、ちゃーんとした戦略と、それを実行する能力を持っている」
立てた親指をトントン、と己の胸に当て、ムチムチは不敵な笑みを滲ませる。
「私達がアンタ達より秀でているのは、明けても暮れても延々と姫鬼と戦い続けてきたという経験よ、そして積み上げてきた、勝つ為の戦略を見つける為と、能力を身に付ける為に」
勝つという言葉、そして不敵な笑みを見て、それまで押し黙っていた者達の口からは、まるで無理に押し込んでいた空気が漏れ出るかの如く、確かな息遣いが聞こえてくる。
「私達が時間を掛けて積み上げてきたそれを、アンタ達には集中して叩き込んであげるわ、勝つ為に、殺し尽くす為に、だから覚悟しなさい? こっちが年単位で見つけてきたそれを、アンタ達は
絶望的な力の差を、映像とはいえ目の前で見せられた。
恐らく自分達とは同じか、もしかしてそれ以上の力量を持つ者達が全力で当たっても尚届かなかった。
しかも相手は数も同じ、艦種も同じ。
そんな演習の最後に至った結果は、これから自分達が戦うであろう戦場を、未来を、それら全てが重なってしまい、先に待つのは絶望しかないと思い知らされる程には衝撃的な物だった。
しかしその結果を以って尚、壇上の駆逐艦は言った。
勝てる方法と術を与えてやると。
あれだけ絶望的な差があるにも関わらず、勝てるのだと言った。
一度は沈んだ何か、力なく垂れ下がった何かがジリジリと首を
「ようこそ地獄へ、我々はアンタ達を歓迎するわ、存分に堪能してって頂戴」
こうして限り無くガチに近い演習で厳しい現実を見せた挙句、ちょっとした希望と言う名の餌をチラ付かせ、集った者達のやる気と忠誠心をまんまと釣り上げるという企みを成功させたむちむちくちくかんは、この後宣言通り以上の地獄を教導生へ見せる事になるのであった。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。