大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 色々の後日談と新規艦娘さん着任予告があった、そして鎮守府も色々と整備しなくちゃというきな臭いお話が出てきてヨシノンがプルプルしちゃったお話。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/11/27
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、Nakaji様、有難う御座います、大変助かりました。


大坂鎮守府内政ターン開始

 

 

「色々とあった訳だけど、漸く一心地ついたって感じかねぇ」

 

 

 執務棟提督執務室の畳ゾーンではちゃぶ台の前で髭眼帯が座椅子にだらけた状態で座り、その周りではキャピキャピと数人の者が囲んでの寛いだ場があった。

 

 ここに至るまでの雪風を巡る問題はややこしい関係が絡み、少し強引な手で形は整えてはいたが、未だ不安要素を残した状態で一連の問題は未だ様子見となっている。

 

 次いでそれに関係して新規艦の着任という事になったが、その艦の内数名は訳ありという物が付帯している為そちらの処理もしなくてはいけない為、現在大本営では段取りをしている関係上、鎮守府への着任はまだ数日掛かる状態という事で受け入れ態勢のみ整えた常態にある。

 

 加えて今はまだ始まったばかりだが、海湊(泊地棲姫)との関係性が強固な物となり、元々取り交わされた約定が兼ねての物よりも人類側には都合が良い物となった為、鎮守府内でも南太平洋の航路に関わる人員の運用を今一度検討し直すという作業も必要になってきた。

 

 更には教導活動の本格化と免許取得施設の稼動と、内政に絡む大事が目白押しという事も重なり、吉野的には手を付けたい太平洋攻めの計画が少なくとも年単位での先送りになってしまったというのが現状であった。

 

 

「取り敢えず人員が増えたお陰で、現在オーストラリア航路の護衛任務に関わってる子達には、幾らか余裕が出来るのは有り難いのではないでしょうか」

 

「てか大淀君さ……そっち関係で欧州連合側からはまた色々面倒が持ち込まれる形になるから、ウチの負担としては逆に増えちゃう感じじゃないの?」

 

「かの航路が海湊(泊地棲姫)さんよりこちらへ完全譲渡されたと言う事で、船団護衛の縛りを無くして国際航路に充てるか、それとも今までと同じ運用でいくか、その辺りの差配で我が鎮守府の負担がどうなるかが決定するのでは無いでしょうか」

 

「うーん、航路は国際航路として開放して船団護衛は各国に任せ、こちらは航路の維持にだけ注力……てのが順当なんだろうけどさ」

 

「そうすると独占していた利権が崩れるという事で、経済界からは余りいい反応が返ってこない……ですか」

 

「まぁねぇ、その辺りは双方交えての話で決定するのが一番手っ取り早いんだけど」

 

「結局それがどう転ぶかというのは、極端な話提督の胸先三寸な部分がありますし」

 

「そそそ、バランスを間違えるととんでもない話になっちゃうしってイタタタ! ちょっと髭引っ張らないで!」

 

「ああこら由良、パパに悪戯しちゃダメじゃない」

 

「ぱぁぱゆらをムシしないで、ね?」

 

 

 世間話としてはやや重い類の物に難しい顔をする髭眼帯の髭を幼女が引っ張り、それを隣に座る五十鈴が慌てて諌めるという絵面(えづら)

 

 今回建造された艦娘は四名、伊勢に衣笠、鈴谷に由良という面々。

 

 それは滞りなく建造が終了した訳だが、結果として一つだけ問題が発生した。

 

 元々は旧大阪鎮守府でプロトタイプとして作られ、大本営では不可思議な建造結果を度々残してきた第一ドック。

 

 それは移設を経て現在大坂鎮守府唯一の建造ドックとなっている訳だが、今回の四名も当然そのドックで建造された艦になる。

 

 そして今回建造された艦の内の一人、長良型 四番艦由良であるが、度々そのドックでは確認されていた"例の幼女型艦娘の建造"という事案としての着任となってしまった。

 

 姿形は由良という艦娘をそのままに、園児程にスケールダウンした体躯の状態ではあったが、精神年齢も肉体と同じく園児的な状態であった為、暫くは姉妹艦である五十鈴と阿武隈預かりという事で彼女は世話をされる事になった。

 

 

「……ねぇ五十鈴君」

 

「なに? 提督」

 

「何故由良君が提督の事をパパと呼んでいるのかという辺りの事情をイッタァイ! 髭ェ! 引っ張っちゃメー!」

 

「えっとそれは、ほら、やっぱり子供には情操教育という物は大切でしょ?」

 

「たーいーせーつー!」

 

「アバババ……痛い痛い! うん由良君判ったから、うんわかったからぁ……」

 

「それでね、私が母親代わりって事で世話をするのはいいんだけど、子供にはやっぱり父親は必要だと思ったの」

 

「……それで?」

 

「で、この鎮守府には男性は提督しか居ないでしょ? 私としてはコレに特別な意味は無いつもりよ? でも由良の為に仕方なく」

 

 

 妙に目を泳がせながら由良を膝元に乗せる長良型のおっぱいツインテ、それを怪訝な表情で見る髭眼帯と、相変わらず元気一杯にジタバタするというピンク髪の幼女艦娘。

 

 幼体と呼ばれる未熟艦は幾らか個体差はあっても一月程で成体となり、ある日を境に性格や記憶は整合されてテンプレ通りの艦娘へと成長する。

 

 それを思えばまぁ現状は問題と言える事は殆ど無いと言って良いが、その幼女に「パパ」と呼ばれ、執務時間も含めある程度の時間が子育てに割かれてしまっている髭眼帯は、現在物凄く微妙な心持ちになってしまっていた。

 

 

「益荒男、第一子誕生、これは久々のスクープですね!」

 

「おいそこのパパラッチ」

 

「なんでしょう司令」

 

「提督の風評被害を垂れ流そうとするのはヤメロ」

 

「えーっと、五十鈴さーん」

 

「なに?」

 

「司令はちゃんと育児に協力とかなさってますかぁ?」

 

「そうね、お仕事が忙しいから仕方ないのかも知れないけど、もう少し家族の時間を大切にしてもいいと思うわ、ねぇ由良」

 

「んっ」

 

「家族の時間ってナニ!? だからどうして提督パパニナッテンノ!? 五十鈴君の子供が由良君て血統的におかしいデショ!?」

 

「はいはいはい、青葉も煽らない、ほんっともぅ相変わらずこういう事にだけは目鼻が効くんだから」

 

「あっ! ちょっとカメラ没収は止めて! 大事な写真が入ってるんですからっ!」

 

「ダメダメ、この衣笠さんが着任したからには今後そういうおバカは許しません!」

 

 

 今回の建造で着任した内の一人、青葉型 二番艦衣笠であるが、現在は教導を受けつつもまだ所属は保留状態となっており、青葉がその世話を主に受け持つという事になってはいたが、着任してからまだ三日目であったにも関わらず、既に立場は逆転した状態になっており、現在はどちらが先達か判らないという悲しい状態になっていた。

 

 

「ほんとココってさぁ、軍事拠点って割にはゆるゆるだよねぇ~、マジ大丈夫なの?」

 

「と言いつつも、君ずっと執務室に入り浸ってるよねぇ……」

 

「ん~なんて言うの? 居心地いいって言うかぁ、ここに居たらほら、座ってるだけでお茶出てくるしぃ、ソファーの寝心地もいいしぃ」

 

「……お仕事は?」

 

「ん? ちゃんと教導は受けてるよ? ね~ガッサ」

 

「アハハ……まぁ、うん確かに」

 

 

 最上型 三番艦鈴谷

 

 何と言うかJKをそのまま艦娘にしてしまった的な新規艦は、ONとOFFが極端な感じの艦娘であり、軍務ではそれなりに真面目に取り組む姿勢を見せてはいるが、プライベートでは極めて面倒臭がりでヘタをすると執務室に引き篭もる余り食事すら出前で済ませてしまうという、ある意味座敷わらし化という形で執務室の主に納まりつつあった。

 

 

「幾ら居心地がいいからってお仕事以外の時間をずっとココでとか、正直どうなのって提督思うんですが……」

 

「ん~ お風呂も台所もあるし、メイドも居るし、至れり付くせりじゃん? いゃ~ 当たりの鎮守府に着任できて鈴谷ラッキーってカンジ?」

 

「鎮守府で当たりとか外れって無いと思うんだけどねぇ」

 

「そんな事ないない、世の中には鈴谷に対して厳しい環境の鎮守府だってあるんだよ?」

 

「厳しい環境ぅ?」

 

「そそそ、ほら」

 

 

 ぐた~っと髭眼帯の後ろで寝そべるJKが、やたらとデコったスマホをついっと髭眼帯に見せる。

 

 その画面には『鈴谷の下克上日記』というタイトルのブログが映し出されており、そこには日々起こった赤裸々な出来事が延々と綴られていた。

 

 スマホを受け取った髭眼帯はそのブログに暫く目を通していたが、何故かプルプル震えて目頭をそっと押さえたまま俯き、無言でスマホを鈴谷へ返した。

 

 

「世の中にはこんなハードコアな日々を送る艦娘さんって居るんだねぇ、でも何か最近の日記だとその子、何と言うか……パブロフの犬的に異常が普通みたいなカンジになってる気がしないでも無いんだけど……」

 

「それそれ! なんでパンツ脱いだり脱衣土下座したりスネークバ〇トでお漏らしするのがふっつーになってんのって! ね、マジで!」

 

 

 吉野は思った、この座敷わらしJKの言う当たり外れとする比較対象はある意味極端過ぎて参考になっていないのでは無いかと、それ以前にブログの内容がハードコア過ぎてブログがサイトからR指定されている有様はどうなのかと。

 

 

「ま、そーゆーワケだから鈴谷ここから動く気ありまっせ~ん」

 

「あ……あぁまぁうん、何と言うかその……はい」

 

 

 ぐたーとした座敷わらしJKは徐に髭眼帯の背中へ自分の背中を預けると、そのままスマホを操作しつつ『あ~またディエゴじゃん、何度建造してもメイドファストちゃんこないしぃ~』とブツブツ言いつつ、何やらゲームに没頭し始めた。

 

 そして隣からは『パーパー』と連呼される為はいはいと相手にしつつ、背中に座敷わらしを背負って、髭眼帯はどうした物だろうと溜息を吐きつつドクペで喉を潤わせ、ワイワイとするちゃぶ台をボヘーと眺めていた。

 

 

「そう言えば提督、伊勢さんは武蔵さんが教導を受け持つと言ってましたが、お聞きになりましたか?」

 

「え、ナニソレ初耳なんだけど、彼女の教導って確か師匠が受け持つんじゃなかったの?」

 

「それなんですが、何でも日向さんの教育がこう……ある物に偏り過ぎてて教導にならないとかで……」

 

「偏り……ズイウ……ああ、うん、提督何となくその辺り判ってしまいました……」

 

「姉妹艦だからという事で折角提督が気を利かせてそういう形にしてましたが……」

 

「うん、それは仕方ないかな、うん、ズイウンだとどうしようもないし……」

 

 

 何となく何かを察してしまった髭眼帯は真顔で大淀の報告にプルプルし、その振動で「上手くスマホ操作出来ないじゃん」と座敷わらしJKにクレームを受け、また再び膝にINしてきた由良に髭を引っ張られるというアレな状態で休憩時間を過ごすという執務室がそこにあった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そういう訳で、今回の施設新築は基本に立ち返って質実剛健をテーマに、これまでの色々を集約した建築をしたいと思っています」

 

 

 座敷わらしが住み着いてしまった執務室を出た髭眼帯は、先日の会議に上がった鎮守府施設に付いての詳細な打ち合わせをする為、夕張重工内に設置された設計室を訪れていた。

 

 設計室と言ってもそこは夕張の縄張りと言うか私室染みた部分を多分に含み、CADや製図台等のブツに混じり、大型プラズマTVだのゲームだのAV機器だのコタツだの、オマケに妖精さんの住居らしいエリア等が周囲を囲む。

 

 そこは物凄く混沌としつつも趣味性が蔓延する魔窟となっていた。

 

 

「ふむ、確か現在施設群が建っている西側エリアじゃなく、東側エリアに宿泊施設を建てるって聞いてるけど」

 

「ですね、元々東側は空港建設当時は一期工事で竣工したエリアとなっていて、滑走路としては西側人工島よりも広かったものですから、要塞化する時は東側に地下施設を設置する計画になっていたんですよ」

 

「ああ、でもそっちは岸に近いから襲撃を受けた時陸側に戦火が飛び火しない様にって、西側エリアへ軍事施設は集中させたんだっけか」

 

「ですです、なので東側は地下施設は物資搬入用と緊急時に移動する為の通路しか設置されず、地上施設は空港施設を転用した職員の生活エリアとして使用されていたんです」

 

 

 現在の大坂鎮守府と呼ばれる人工島は、嘗て関西国際空港として建設された島であった。

 

 工事は一期、二期と分けられて施工された関係で、遠めからは一つの人工島に見えるそこは、二つの長方形を中央やや南側だけで繋げた形になっている。

 

 現在大坂鎮守府では、要塞化された時に施工された地下施設がある西側エリアに主要建造物を並べ、陸に近いエリアは物資搬入施設や備蓄倉庫を置き、その他の広大なエリアを教導訓練の為のグランド、屋内練兵場という訓練に必要とする施設を中心に配し、同時に余った土地は植樹等を施して、西側の主要エリアが陸からは見えない様にと目隠しとして運用していた。

 

 

「それで今回はですね、今までの様に必要時に都度チビチビと施設を拡張するよりも、これからの軍務に対応する為それなりの規模の施設を建設してみてはどうかと思ったんです」

 

「それなりの規模?」

 

「はい、拡張計画では宿泊施設がメインの物でしたが、それだけじゃなく教導に必要な座学や機器整備の実習、そして机上演習等も行える総合施設……判り易く言えば学校という感じの建物を設置してみてはと」

 

「あー、なる程、そういう意味での規模って事かぁ」

 

「我が鎮守府は機密的にはそれなりに気をつけないといけない物も扱ってますし、外部の者が頻繁に出入りする施設は執務施設とは分割する方がいいという事も考えまして」

 

「確かに、そういう形にすれば色々安心は出来るだろうけどさ、現在鎮守府の私生活を賄う施設は執務棟周辺に集中してるし、新たに教導施設を離れた位置に置くとなると、それを賄う人員がねぇ……」

 

「取り敢えず食堂や酒保は施設群から少し東の……出撃ドック近くに移設し、学舎の方は教導艦隊所属の方々が持ち回りで宿直するという形にすれば問題は無いかと」

 

「て事は、間宮を鎮守府の中心辺りに移動するって事になるのかな?」

 

「ですです、あそこは見晴らしもいいですし、周りには現在公園があるだけです、今の建物では収容人数が問題になりますから、どちらにしても改装をしないといけなくなりますし、いっその事と思いまして」

 

「ふむ……その辺り間宮君には相談したの?」

 

「はい、間宮さんは別に問題は無いと、と言うより寧ろ周りが遊歩道に囲まれていてオーシャンビューという立地が気に入ったみたいで……」

 

「ああそうなんだ、なら問題は無いね、後は教導関係の施設を建てる場所だけど……」

 

「東側エリアの北は物資搬入施設と備蓄倉庫群、そして陸との連絡橋と色々密集してますから、建築する場所は南の旧物流施設エリアという事で」

 

 

 今までは教導に関して受け入れ人数も、施す者の数も限定して考えていた為に執務施設を含む鎮守府の建物は、集中した形で建設した状態にあった。

 

 そして教導活動を本格化する段になり、軍内の拠点へアンケートという形で教導を受けたいかどうかという話を打電し事前調査を実施してみた処、本物の深海棲艦が仮想敵として存在し、施設が教導に特化しているという情報は他拠点にはある程度知られている状態であった事が判明した。

 

 またこれまで活動してきた実績や、現在の状況を鑑みた各拠点は大坂鎮守府という存在をやや特殊としながらも鎮守府という拠点として認めつつあるという背景があり、予想していたよりも教導に対しての希望数は多い状態ある事が判明する。

 

 そういう事情を鑑み、本来はある程度数を制限した形で教導活動をしつつ、施設も様子見しつつ都度拡張していこうかという計画は現在難しい状態になってしまい、それに対応した形の修正案を現在は進行していく形で髭眼帯は内政に手一杯の状態にあった。

 

 

「施設は江田島の旧海軍兵学校みたいな形にすれば、妖精さんの超強化レンガを使った建物が作れますし」

 

「ああうん、アレ使うならちょっとレトロな感じの建物が作れるねぇ」

 

「集中的に施設が並べられるなら、教導の効率化も図れますしぃ」

 

「受ける側も教える側にも面倒が無い……か」

 

そういう形(学校)になるなら校長は提督、教頭は大和さんが就任って事になるらしいですし」

 

「え、何で提督が校長? 叢雲君じゃないの?」

 

「叢雲さんは生涯現役主義とかで、海軍魂注入棒の増産を酒保に注文してましたけど」

 

「ナニソレ怖い、てか提督他に仕事あるから校長なんかしてる余裕無いんですけど……」

 

「まぁそこは追々話は詰めて貰うとして、取り敢えずは年末の一期生の受け入れの為に施設建築に取り掛かった処ですし、後は平行して付帯施設の建築……」

 

「おいメロン子」

 

 

 真面目な表情で図面を見つつ、夕張がブツブツと自分の世界へ没頭し始める。

 

 

「とするとここは実習室になるから……」

 

「……ユウバリンコ」

 

「夕張です、なんでしょうか提督?」

 

「今何と?」

 

「あ、いえほらここの辺り、座学の教室がココなら室内実習室は……」

 

「そうじゃなくて……建設に取り掛かったぁ?」

 

「え、はい一昨日から既に」

 

「ナニソレ提督聞いてない」

 

「えっと、こっちの関係は教導課で仕切ってもいいって提督から許可を貰ったとか、叢雲さんが……」

 

「ファッ!? それってカリキュラムの編成とかその辺りの事じゃ無かったっけ?」

 

「さぁ? 私は取り敢えず話を詰めて建築計画を進めてただけですし」

 

「え、じゃこの相談って何の為にしてるワケ?」

 

「相談? 何の事です? 今日提督ここに来る予定なんて無かったですし、茶飲み話に来たんじゃ無いんですか?」

 

「え」

 

「え」

 

 

 怪訝な表情の髭眼帯とメロン子が互いを凝視したまま固まる。

 

 互いの認識が違うまま進んだお話の場は一気に冷え込み、そこには何とも言えない気まずい空気が蔓延する。

 

 そんな無言の設計室の扉がキィィという音と共に開き、何者かが室内へ入ってくる。

 

 

 黄色の安全ヘルメット、グレーの作業着を上下に着込み、腰には少しゴツい安全帯と細々した道具を吊り下げた人物。

 

 

「……島風君?」

 

 

 まるで工事現場で働く現場監督染みた格好のぜかましは無言でトコトコとそのまま部屋にINし、そのままテーブルに近付くと髭眼帯の膝にシッダウンしてヘルメットを脱いだ。

 

 

「はふぅ」

 

「お疲れ様島風ちゃん、何か飲む?」

 

「ん、ラムネ頂戴」

 

「はいは~い、ちょっと待っててねぇ」

 

 

 何事も無く会話は交わされ、シッダウンしたぜかましはどういう仕組みになっているのだろうか、うさみみっぽいリボンをピクピクしつつ持って来た図面をテーブルに置いて寛ぎ始める。

 

 

「基礎はもう出来たから、明日からは躯体に取り掛かれるよ」

 

「そっかぁ、じゃ妖精さんに頼んでシステム機器の完成急いで貰わないといけないわね」

 

「うん、それと超電磁カタパルト用の電源設備、明後日搬入だって」

 

「……えっと島風君?」

 

「をぅっ?」

 

 

 違和感無く、それが当たり前の様に膝にセットされたぜかましは、首をクリっと捻りつつ髭眼帯の方を見る。

 

 テーブルの上は色々なブツでカオスな状態になっているが、椅子自体はまだ四脚程空きがあるという状態。

 

 その様を改めて確認した髭眼帯は、今も尚膝上で寛ぐぜかましに視線を戻し、ぜかましと同じく真顔で首を傾げる。

 

 

「えっと、お仕事ご苦労様」

 

「をぅっ!」

 

「で、えっとその、何で君は提督の上にシッダウンしてんの?」

 

「……をぅ?」

 

 

 労いの言葉にニコリとした表情は再び何を言ってるのか判らないという表情に変化し、首を傾げたままになるという反応が返っ来る。

 

 

 再び首を傾げた状態の二人。

 

 

 そんな髭眼帯の質問は夕張がラムネを手渡し、それを満足気に飲むぜかましという状態を経たが、結局髭眼帯に確たる理由が語られる事は無かった。

 

 

「そーいえば島風ちゃん、山風ちゃんが新人に心当たりがあるって出掛けてったんだけど、何か聞いてる?」

 

「んーん、全然、新しい子来るの?」

 

「あ、それそれ、今日工廠課の人員枠増の申請来てたけど、この規模で一人増やすだけでいいの?」

 

「実際三人でもどうにか回るんですけどねぇ、こうした新規作業が増えたらもう一人は欲しいかなぁって感じなんですよねぇ」

 

「ん、作業は全部妖精さんがしてくれるし」

 

「なる程ねぇ、まぁ大丈夫ならそれでいいんだけど……ところで島風君、何で提督の膝にシッダウンしてるワケ?」

 

「……をぅ?」

 

 

 引き続き膝上で寛ぐぜかましはどうしたのかと髭眼帯が質問を飛ばしてみるが、今度はメロン子も揃って首を傾げるという絵面(えづら)が設計室に展開される。

 

 そんなワケワカメな二人に超真面目な表情で髭眼帯が対していると、扉の磨りガラスの向こうにうっすらと人影が映るのが見えた。

 

 

「……あ、噂をすれば山風君が帰って来たんじゃない? おかえり山か……ぜ……」

 

 

 そういう髭眼帯の先では、キィィという軋んだ音を響かせてドアが開き、その前に立っていた人物の姿が顕になる。

 

 

 そこには溶接用のめんぽを装備し、ゴツイ皮手袋を装備した何と言うか、アイザックさん的な不審者二人の姿があった。

 

 

「……誰?」

 

 

 膝にぜかましをセットした凄く怪訝な表情の髭眼帯の前では、コーホーコーホーという息遣いをした二人が無言で室内へINしてくるというカオス。

 

 再び無言になってしまった設計室を、コーホーコーホーしつつテクテクと歩いて無言でテーブルに着くめんぽなエンジニア二人。

 

 

「おかえり山風ちゃん、新人勧誘って霰ちゃんだったんだ?」

 

「え、これ山風君に霰君なの!? てか良く判ったねメロン子!?」

 

「そう、ちょっとスプーの整備付き合って貰ってた」

 

「んちゃ……整備……手伝ってた」

 

「て言うか何で君達溶接面とか装備したまま寛いでるワケ? 何かそうしないといけない理由があったりするの?」

 

 

 髭眼帯の尤もなツッコミに、メロン子とぜかましはおろか、めんぽでエンジニアな不思議ちゃん二人までコーホーコーホーと言いつつ首を傾げる状態。

 

 場の視線が一点に集中しつつも全員が無言という、そこには何とも言えない空気が漂う事で髭眼帯のアウェー感がゆんゆんと増してしまうというカオスが設計室に展開されてしまう。

 

 

 プルプルとしつつも改めて確認すれば、夕張だけがいつもの姿で、膝上には現場監督なぜかましが、そしてコーホーコーホーとするめんぽ装備のアイザックさん的な二人が寛ぐという室内。

 

 何事も現場という場ではそれに適した装備をし、安全を考慮して行動する事が肝心である。

 

 そういう意味ではぜかましも山風も霰さえもそれに適した格好をしていると言えるのだろう。

 

 しかしここは設計室である、用途的に云々以前に室内である。

 

 鉄筋やコンクリートも無ければ変形合体するロボも無く、ましてやプラズマカッター等も存在しないのである。

 

 

 結局この後和気藹々とした面子の設計室という場があった訳だが、髭眼帯は終始プルプルしたままぜかましのチェアーとしてセットされたままになっていたという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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