鎮守府に帰ったら嫁が増えていたという事実にプルプルしちゃうヨシノン。
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2019/02/20
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きましたリア10爆発46様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。
「なる程、今んトコ要注意方面の動きは特に無いと?」
大坂鎮守府執務棟二階。
提督執務室とは逆の最奥に位置する特務課執務室には現在特務課所属の者全員と夕張が詰めていた。
ほぼ一ヶ月にも及ぶミッドウェー沖作戦へ吉野達が出撃していた間、残りの特務課メンバーは以前よりマークしていた企業、組織の洗浄作業を行っており、未だ全ての方面に対して枝葉を伸ばし切った訳では無いが、陸軍と大坂鎮守府双方が要注意と見ていた箇所は大まかな感じで調べ終わったという状態にあった。
「西日本方面の企業、組織の殆どはほぼ洗い終わった状態であります、ただ軍部が関わる下部組織はこれからでありますし、ここ最近は東北からきな臭い噂が流れてきてますから、本番はまだこれからと言っても良いと思うであります」
「あきっちゃんの言う通り、この前監査に来た一派が管轄してる企業がちょっと派手な動きしてるんだよねぇ、関ヶ原を超えた辺りから東に行くとその話しを良く耳にするよ」
「川内ちゃんとあきっちゃんは引き続き陸と連携してこのまま枝葉を東に伸ばす予定、っと、で、グラ子ちゃん達が帰ってきたら実働部隊の本格的な訓練、んでんで漣と青葉ちゃん、そして古鷹ちゃんは企業関係の監視と情報収集するとしてぇ、んねぇご主人様?」
「ん? なに?」
「例の雪風ちゃんの件、結構ヤバ目な感じになってますけどぉ? その辺りは大丈夫なのかな~って」
現状の大坂鎮守府を取り巻く環境を述べれば、特務課が新設された為に国内外問わず、軍部の情報機関との連携を強める為の段取りを進めつつ、陸軍中央即応集団特殊作戦軍と正式に連携しつつも、西日本周辺の地固めというのをメインに枝葉を伸ばすのを優先した活動に内務は当たっていた。
そして実務面では元々テロ鎮圧部署に居た経験のあるグラーフと、その補佐に就けたプリンツを内地に合わせた行動が出来る様、研修の名目で同じく陸軍の特殊作戦軍に派遣、それが終了した時点で正式に対人部隊としての訓練を開始する手筈となっていた。
更に現状急務とされている案件は二つ存在する。
一つはミッドウェーで鹵獲してきた雪風に対する処遇に関係する備え。
そしてもう一つは先日大坂鎮守府へ監査と称して訪れた一団の動きに備える事。
前者は既に大本営には作戦終了の報告は上げている状態であり、後者は今から本格的な情報収集に掛かるとあって未だ有益な情報は手元には無かった。
そして雪風の件は当該作戦に於いて轟沈、そしてそれらの書類と同時に送った月次報告にて元から予定されていた建造艦の中に雪風を登録する事によって、今大坂鎮守府に居る雪風はあくまで大坂鎮守府で建造された艦として申請する事になった。
「建造を含めた鎮守府の運営報告は月一回だし、幸いな事に前回から今回までの期間は一ヶ月まるまるあったからねぇ、錬度的な物は今までのウチの実績から言えば誤魔化すのは可能なレベルにある」
「艤装の登録情報に関しても、彼女が建造されたのが大本営一番ドックと言う事を考えれば、今回何かと都合が良かったですよねぇ」
夕張が手元の端末を操作しつつ其々の前にある端末へデータを送信する。
それには現在までに判明した雪風の詳細が記載されていた。
陽炎型 八番艦、雪風
七年前に大本営にて建造され、そのまま正規の登録はされず技術本部へ送られ、以後幾つかのプロジェクトの検体として使用される。
携わった計画の詳細は不明であったが、吉野達がミッドウェーに座礁していた特殊母艦から回収してきたデータには、彼女の身体的データや作戦投入前の二ヶ月程の期間記録されてきた詳細が残っていた為、それを元に工廠と医局が協議した結果、生体検査を受けたとしても彼女が大本営で建造された艦と証明できる物は恐らく無いという判断がされた。
嘗て大本営に設置されていた『大工廠一番ドック』、それは旧大阪鎮守府研究ラボにて製造、試験運用されていたプロトタイプを移設した物であり、更に現在大坂鎮守府にある唯一の建造ドックは、その大工廠一番ドックの機材一式を拠点整備時に夕張がかっぱらってきて設置した物であった。
建造時、艦娘の艤装に刻印されるのはどのドックで建造された艦かという情報だけである。
通常建造ドックとは移設を想定していない為、どのドックで建造されたかという事が判れば、後はそのドックがある拠点が判明する為最低限の建造データとしてそれは事足りる。
また建造とは元が妖精さんありきのシステムであった為、艤装に刻まれる刻印関係には人の手が介入する余地は無く、それ以上のデータ追加は現状不可能にあった。
故に建造された艦娘は拠点側にて建造記録を取り、それを大本営へ報告、登録し、何かあった際は艤装の刻印と大本営に登録された記録を参照してその艦娘の製造年月日や所属を照会すると言うのが現在の艦娘に対する軍の運用法になっていた。
仮にこのシステムがちゃんと機能していない場合、岩川基地で建造されたにも関わらず、当時担当技師が居なかった為に建造年月日が不明になってしまったという妙高の様な艦が出来上がってしまうという事になり兼ねず、建造記録は現在艦政本部にて厳重に管理される物となっている。
以上の前提からすれば、大工廠一番ドックで建造された雪風を大坂鎮守府建造艦として登録しても、登録検査を実施した際は艤装の刻印が現在大坂鎮守府にあるドックの物である=大工廠と同一という事になる為判別が出来ず、また回収されたデータにより雪風自身は、身体的な変異や計画による何かしらの変化がない
「でもでも、ご主人様呼び出されちゃったんでしょ? 雪風ちゃんと一緒に大本営へ」
「あーそれね? まぁもしも技本側にウチが知らない雪風君の何かが残ってたらアウトだろうけど、取り敢えずその可能性は考えずに話を進めてくるさ」
「今回は夕張さん、天草博士がオブザーバーとして、それと護衛に時雨ちゃんと神通さんが警護で同行する手筈になってますが、これに提督と雪風ちゃんを加えると
「だねぇ、最悪大和君のハマー辺りでも出して貰おうかと思ってるんだけど」
「提督、お待ち下さい」
「……ナニ? 夕張君」
「こんな事もあろうかと以前より大型の車両は作ってたんです、なので今回はその車両を使って頂く予定で準備は進めています」
室内は一瞬で無音になる。
その中心で端末の操作を止めドヤ顔な相の夕張と、超真面目な表情の髭眼帯の視線が交錯する。
何せ
「……大型の車両ぉ? 作ったのぉ?」
「はい、今回は私と鹿島さん、二人の技術を結集して全力で事に当たらせて頂きました!」
鹿島の名が出た瞬間、場の空気は幾らか弛緩する。
何せ夕張の作るアレはナニなのだが、鹿島と言えば一応車両関係に於いては鎮守府内で一目置かれる存在である。
そんな者が車両作成に携わっているという事を聞けば、取り敢えずではあっても安心だと周りの者は安堵したのである。
髭眼帯以外は。
夕張のアレやソレは取り敢えず置いとくとして、鹿島と言えば車・バイクフェチであり、例のロールスを預けた際は過剰な改造、またはノスタルジィ溢れる珍妙な装備をセットしてしまう様な鹿島モータースの主なのである。
ロボとそんなカーへの愛が行き過ぎるという者二人がコラボして、新たなマスィンが誕生したという事を聞き、吉野の嫌な予感メーターはこの時グングンとレットゾーンへ突入していく。
「……へ、へぇ、作ったんだぁ、それってどんなロボなの?」
「あ、今回は多人数が乗員する事を想定していますので変形機構は組み込んでいません」
「そうなの? んじゃ……ほら貝がボーボー鳴ったり、自爆装置が組み込まれてたり……」
「何ですかそれ、一応将官が乗り込む公用車なんですから、そんな戦闘用オプションなんて組み込む訳ないじゃないですかぁ」
吉野は思った、ほら貝や自爆装置を戦闘用機器として分類するのはどうなのだろうと。
寧ろそんな装備をセットする乗り物は、軍という縛りを外してみても普通存在なんてしない。
繰り返し言う、そんな戦国時代にリープしちゃったり、おしおきだべぇとかいう台詞が垣間見えるシステムを内包したカーは通常存在し得ない。
しかしそういうブツを平気でセットしてしまうのが、この夕張重工の主なのであった。
そしてこの鹿島・夕張コラボ作成車両は現在まだ調整中という事と、髭眼帯が執務に追われて製作途中のブツを確認出来ないという状況を以って後日完成してしまい、大本営へその車両で移動する事になるのだが、その際また自身の毛根に深刻なダメージを受ける結果となるのをこの時まだ髭眼帯は知らなかったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今度は雪風なん? どんどん陽炎型に侵食されてくなぁここも」
「何よ、姉妹が増えるのは良い事じゃない、ね~速吸」
「アハハ、私にそんな事言われても」
「この際ついでだからアンタも陽炎型名乗んなさいよ、私が許可するから」
「ちょい待ち、幾ら何でもそんな無茶通る訳無いやん」
鎮守府地下二階。
研究区画であったこの一角は現在医局管轄の施設が入り、艦娘お助け課からの要望で現在そこは寮の改築の際入院・リハビリ用の施設が増設された区画へと改築されていた。
その区画の談話室には髭眼帯と連れて来られた雪風、陽炎に、黒潮に速吸、そして浦風と電がテーブルを囲んで世間話という名の茶会に興じていた。
以前より暇を見つけてはここに措置入院していた二人へ会いに来てはいた吉野であったが、陽炎を始めとした姉妹艦達も何かにつけてここへは足繫く通っていたという事もあり、たまたまそれが重なった今回、いつもより人が多い状態での集いになっていたのであった。
「私に不知火、黒潮に親潮、天津風、時津風、浦風と磯風、それに今回雪風、ウチの一派は現在鎮守府の最大派閥に勢力を拡大したわ、ほらほらどうよ?」
「も~陽炎姉さん、速吸もどう反応してええか困っとるけぇ、大概にせんと」
「て言うか今九人? 確かにおおなったなぁ」
ニコニコと会話を繰り広げる者達。
本来であれば今頃はまだ黒潮と速吸は投薬治療の真っ最中である為、この様に多人数相手の会話は不可能な時期にあった。
しかし以前髭眼帯達が北方棲姫より預かり、ラボに持ち込んだ幾つかの情報がこの二人の治療に劇的な変化を齎した。
それは精神的不安や、ふとした時に出る発作は幾らか残るものの、常時精神を鈍化させての治療という期間を大幅に短縮する程の効果を発揮した為、治療プログラムは一足飛びに進み、最大の山とされていた部分は現在越えた状態にあり、今は他者との会話と場に慣れさせるという段階へ治療は移行していた。
ただその治療に至る迄の数々は当然前例が無く、また秘匿はされていたが深海棲艦の生体研究もそれらには多分に含まれる為に不安定であり、危険な状態にある黒潮と速吸へそれらを使用する事は出来なかった。
結果として電は無茶を承知で天草へ協力を依頼し、治験を己の体を使って行った。
元々艦娘よりも強固に作られた体躯は、恐らく艦娘では耐えられないギリギリをなんとかやり過ごし、新しい治療の糸口は掴む事が出来た。
しかしその代償は彼女の身体機能を著しく低下させ、現在電は人とそう変らない程に脆弱な体になってしまった。
加えて細胞活性化の影響もあってか、少女然とした体躯は20代前半の辺りまで成長し、現在は彼女自身も経過観察にある状態になっていた。
「んで? その雪風
「まぁねぇ、ちょっと事情があってこう……何て言うか」
「その辺りはもう説明してあるから、内緒にしなくてもいいわよ司令」
「え? マジで?」
「その程度の内緒話は大丈夫な位には、治療は進んでいるのです」
「じゃけぇ、うちも暇があったら面会に来るようにしてるんよ」
「うん、今は陽炎型の子だけじゃなくて、他の人達も良く会いに来てくれるかなぁ」
そーなんだぁと言う髭眼帯はニコニコとする二人の言葉に相槌を打ちつつも、黒潮や陽炎の前に置かれているジョーンズさんソーダをチラチラ見て、眉をピクピクしていた。
和気藹々としたお茶会、そう、これは姉妹愛を含む会話の場ではあったが間違いなく
そんな場でこの陽炎というお茶会テロリストが大人しくしている筈は無い。
流石に病人相手と医局という電の縄張り内と言う事もあり、自身のお勧めを強要するという行動は自粛してはいるがそこはそれ。
血は争えないと言うか何と言うか、長女がハマっているブツは、一定の確率で姉妹には伝播する事態へ発展していた。
それは陽炎型三女の黒潮へ顕著に現れていた。
現在ジョーンズソーダというネタ飲料に傾倒しているのは、吉野が知っているだけでも陽炎に時津風、そして磯風という三人だけであった。
しかし元は関西系という逃れられないネタ体質であった為か、それとも陽炎型の血が濃かった為か。
吉野が気付いた時には、黒潮もいつの間にかジョーンズソーダ教へ入信を果していたという驚愕の事実がそこにあった。
そんなニコニコとした姉妹の
そこには一種軍装の裾を掴むゆきかじぇ。
無表情にジッと見る視線に、何だろうと首を傾げて反応を待つと、何故かスイッと自然に一本の瓶が己の前にスライドされる。
それは陽炎がゆきかじぇにと用意した飲み物『Fish tacos』
透明の瓶に詰められるそれは、琥珀色をした炭酸飲料であり、フレーバーは米国サンディエゴではポピュラーな食べ物である魚のタコス味を忠実に再現したブツである。
キリッとスパイスを効かせた白身魚をカラッと揚げ、それをキャベツやアボカドと一緒にクリームドレッシングで和えて、柔らかいトルティーヤに挟んだという郷土料理。
そんな海風が爽やかな地域を彷彿させる味を、メキシカンなアレに挟んでパクつくという行為を飲料化したジョーンズさん。
魚の香ばしい風味にシャキシャキ野菜、そしてクリーミーかつサルサの辛さが後味を〆る、というプロセスが全て一度に味わえてしまうという狂気と、それらが液体であり、またALL IN ONEである為味覚が追いつかず、寧ろ拷問のレベルまで進化した飲料。
それがFish tacos sodaである。
無表情でスススとそれを移動させるゆきかじぇ、それを真面目な相で見詰め、ニコッと笑いつつ返す髭眼帯。
それが幾度も繰り返されるという醜い争いがテーブルに勃発する。
「提督さんに雪風、なんしよん?」
「ああいや……ちょっと其々の譲れないアレの攻防と言うか、命を掛けた攻防と言うか」
「その飲みもんがどしたんね?」
尚も続く髭眼帯と雪風の攻防に首を傾げ、キョトンとするオッパイ風。
因みに陽炎型には彼女と同じ属性の銀髪ボブなパイパイくちくかんも存在したが、あちらはパイ風と呼称されている為、浦風の場合はそのパイ風と区別する意味でオッパイ風と呼称するが、その呼称に他意は無い。
そんな攻防の最中、ゆきかじぇは何を思ったのか、ペイッと強めに瓶を叩いた。
絶妙な力加減で叩かれ慣性が乗ったそれはテーブルをシャーっと滑って移動していき、髭眼帯の隣に座るおっぱい風の前でピタッと停止する。
その瓶に何事かとゆきかじぇ、次いで髭眼帯という順で視線を流すおっぱい風。
ゆきかじぇは相変わらず考えが読めない無表情であり、髭眼帯に至っては暫く微笑んでおっぱい風を見ていたが、何を思ったのかそのまま一度、コクリと頷づくというカオスがそこに展開される。
世間ではそれをキラーパスと呼称する。
そんな微笑の裏に潜む汚い大人の思考と言うか、鬼の一面が含まれているとは露程も知らず、首を捻りつつもおっぱい風は蓋をもぎり落として瓶の中身を一口含んだ。
お魚フライの香ばしい風味、キャベツの瑞々しくも青臭さが残るシャキシャキ感、それらを纏め、後味を〆るクリーミー且つピリリとしたサルサのフレーバー。
それらが渾然一体と言うか一体それは何なのだ的に炭酸でシュワっとおっぱい風の口中で弾け、彼女は一瞬瓶を傾けたまま停止する。
周りでは引き続き姉妹艦達が談笑を交わし、冗談交じりの笑顔が咲いている。
そんな対面ではおっぱい風が瓶をコトリとテーブルの上に置き、俯きつつ髭眼帯の服を掴んでプルプル震えるというカオス。
「ヒュー……ヒュー……、て、提督さんこれ……」
その様はプルプルと言うか、一部をプルンプルンしつつおっぱい風はそのまま暫く二の句が告げず、おっぱい風の名を欲しいままにしていた。
結局この後、被害者おっぱい風の機嫌をなだめる為に色々苦心する髭眼帯という自業自得の場と、フルーツを供給する電の隣ではそれをモグモグするげっ歯類に、それを微笑ましく見る残りの面々という、ある意味いつものお茶会風景がそこにあったという。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。