老若白黒の髭と狂犬、そしておっぱいねーちゃんが割りとシャレにならないあれこれを話す異次元居酒屋というシリアスな卓。
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
「先に大阪から送られて来た資材はほぼ積み込みを完了したが、なぁ輪島君、今回の作戦は一体どうなっているんだ……」
クェゼリン基地貨物搬入用エリア。
環礁という立地の為に基地施設を置く島周辺が浅瀬の為、この基地を含め天然の要衝に設置されている海軍施設の多くは港湾施設周辺を人工的に掘り下げ、そこに船舶が着岸可能な港を施工、そこを中心に施設を集中させる事により物流が機能的に行われる様な設計がなされている。
そんな大型船舶が着岸する事を想定した港湾エリアの一角では、大坂鎮守府所属艦娘母艦
潜水艦という特殊な船体は係留時の物資積み込み作業が一般船舶よりも特殊になり、通常は
海が凪いでいればフォークリフトで船体側面の箱型コンテナへ直接物資を搬入する事も可能とあり、現在は数台のフォークリフトが資材備蓄庫と
「今回の作戦はちっと特殊らしくてよ、艦娘用の物資の他に、通常兵器用の弾薬も搭載しなきゃなンないんだとよ」
クェゼリン基地司令長官である
艦娘母艦
平時に於いては物資搭載用のコンテナとしてその区画は利用されるが、件の特殊兵装ブロックを組み込めば、展開式のVLS発射機構や艦娘用射出装置等にも置き換える事も可能としている。
今回
「トマホーク・ブロックⅢ、まさかウチでこの手の弾薬を扱う事になるとはな、君達は一体どこの国相手に喧嘩を売りに行くんだ?」
「あー、別にどこぞのヤツらを相手にするンじゃねーンだけどよ、まぁ……ちっと事情があって作戦の内容は言えねぇンだよなァ」
「秘匿事項か……それは中央からのお達しか、それとも大坂鎮守府が設定した物なのか?」
「一応中央が絡ンじゃいるけどよ、表向きにゃ吉野さンが緘口令を敷いてるって形になンのかねぇ」
シパーっと口と鼻から煙を暢気に吐き出す輪島に比べ、飯野の表情は不満を隠す事も無い、眉根を寄せた顰めっ面という物になっていた。
そんな如何にも文句がありますという空気に溜息を吐き、輪島は飯野には視線を送らず、今も搬入中の物資を眺めながら気の抜けた言葉で話を続ける。
「別に飯野さンをハブにしてる訳じゃねぇぜ? ただ今回の作戦は内容的にヤバい案件が絡ンじまってよ、詳細を伝えると迷惑掛けちまうからさ」
「……内容を把握していないからそっちの事情は判らんが、俺はこの海域を獲った時から大坂とは一蓮托生って覚悟は決めてある、だから今更中央と対立しようが関係無いんだがな、それに今回の作戦を含めてウチは太平洋方面の作戦では要衝になる筈だ、無理を言うつもりは無いが、モノを知っていなければいざって時にバックアップもままならん……違うか?」
「だよなぁ、ンでもよ飯野さン、あンたもし中央と揉めて罷免でもされちまったら下のモンはどうすンだよ、折角頑張って海域一つを自分の縄張りにしたってのによ」
「それは今も大坂からのバックアップがあってこそだ、現状そっちに依存してると言われれば否定は出来んが、俺は……」
「俺も吉野さンも何があっても自業自得だけどよ、誰かを巻き込ンでまで我を通そうって思っちゃいねぇンだよ、でもそりゃァさっきも言った様に飯野さンとかをハブにしようってンじゃなくてよ、あー……なンて言うのかなァ、俺ァ吉野さンみたく弁が立つ訳じゃねぇから何て言っていいのか判らねぇンだけどよ……」
言葉に詰まる輪島に、憮然としたままの飯野、結局この会話は先に進む事は無く、物資の搬入が終了するまでの間二人の提督は淡々と進む作業を眺め続けるのみであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
クェゼリン島より直線距離にして北北東へ約1450海里、サンド島とイースタン島という二つの陸地と数々の小島を環礁が囲むミッドウェー環礁、その海域へ向け抜錨した
何故ならその距離は単純に空を飛んで行くという事は叶わず、目標海域迄に存在する敵支配エリアの数によって索敵機が到達出来るかどうかが判断される。
通常は索敵する海域に空母が居なければ艦載機へ細かな指示が飛ばせず、また深海棲艦側が出す艦載機からの攻撃を受ける恐れがある為二式大艇の様な特殊機でもなければ通常長距離の航続は叶わず、彩雲で限定すれば本来5300km程の航続性能の内、大抵はその半分の範囲を飛行するのがせいぜいであった。
「周辺の海域に感無し、水上艦も幾らか確認されましたが、艦隊規模って数でも無いですね」
「ソナーにも今の処感無しです司令、もう深海棲艦の支配海域に入ってかなり経ちますが、こう静かだと逆に不安になってきます」
指揮所の中央に立ち、艦載機からの情報を俯瞰しつつ周辺海域の索敵を続ける翔鶴に、コ・オペレーターシートでソナー監視をするぬいぬいが其々微妙な表情で
母艦がクェゼリンの支配海域から出て既に20時間余り、距離にして予定の半分も進んだ現在は、対潜戦闘が一度、他に散発的な遭遇戦が幾らかあったのみで、予想よりも戦闘回数が少ない状態で航海が継続されていた。
「うーん、おっかしいねぇ、以前クェゼリン近海を獲る為に調べた時は周辺海域の深海棲艦の数はそれなりにあった筈なんだけど、それに比べたら今回遭遇した数は不自然な程少ないって言うか……」
「弾薬や燃料の消費も事前予測の二割に満たない状態ですね、その辺りは喜ばしい事ではありますが、流石にこれは極端と言うか何と言うか」
「翔鶴、通過してきたルートの状態はどうなってンよ?」
「水上艦の影も
「そっかぁ……ンじゃ包囲されてるって可能性はねぇか」
周辺は外洋特有の高波が作り出す光の散乱だけが続く世界があるだけで、他には陸が直近に無い為に海鳥の姿すら確認出来ない海が延々と続いている。
人類の仇敵と言われる深海棲艦が支配する恐ろしい海域、そんなイメージとは剥離した静かな海に指揮所に居る者達は溜息と共に、やや拍子抜け感が漂う状態で何も無い世界を眺めていた。
「夕張君、ミッドウェー海域の索敵可能距離まであとどれ位?」
「距離にして400海里弱、後15時間程でしょうか」
「現状じゃ何が起こってるのかの判断材料が足りなさ過ぎるねぇ、んー……しくったなぁ、こんな事なら秋津州君も連れて来るんだったか」
「あー……なぁ千歳ぇ、これってよぅ」
「はい、西沙諸島の
「やっぱお前もそう思うか?」
思案顔の輪島の隣では何か思う事があるのか、舞鶴鎮守府筆頭秘書艦の千歳が目を細めて紺色が続く海を見詰めている。
そんな意味深な会話を交わす二人の言葉に場は集中し、弛緩していた指揮所の空気がやや緊張した物へと変っていく。
「輪島さんは現状に何か思い当たる節があったりします?」
「ああ、三年程前なんだがよ、まだ俺が南シナ海の資源還送航路の防衛に就いてた時によ、ちくっとした事件っつーか騒動があってなァ」
フィリピンより西側に広がる南シナ海、その海域は当時艦隊本部が掌握する直轄海域であり、そこでは大隅を筆頭とした派閥に対抗して、インドネシア以外からの資源を得る為の海洋プラントを建設するという計画が推し進められていた。
当時はまだ第二特務課が
しかし第二特務課と
「連合艦隊二つ、工作隊に民間企業の作業員を先に送って取り敢えずの施設設営をする予定だったンだけどよ、西沙諸島にそいつらが上陸して二週間程経った辺りだったか、プッツリと連絡が取れなくなっちまってよ、ンで当時そこに近いとこに居た俺の艦隊に様子を見て来いって命令が来てなァ」
大本営からの命令を受けブルネイ近海に展開していた輪島の艦隊はそのまま転進、北東に位置する西沙諸島へと進む事になったのだが、この時それまでに確認した事の無い変化に遭遇する事になった。
進む海は不自然な程穏やかで敵影も殆ど無く、稀に見えるそれらは艦隊と呼べる規模の行動はしていなかった。
そんな海を進み、目的海域に近付いた輪島の艦隊は、先遣隊が居るであろう海域へ到達する前にその艦隊が既に危機的状況にあると知る程の事態に飲み込まれていった。
「あれァ目標海域に近付いた辺りだったか、それまで不自然な程にナリを
「あれは艦隊規模と言うには生ぬるい数でしたね、取り敢えず掃討は成功しましたが、下位個体を含めると50近い深海棲艦がそこに集結していました」
「50って……それは……」
「後の調査で判明したんですが、目的海域に隣接する海域の深海棲艦が姫級や鬼級に引っ張られて来た様で、結局その計画は民間人の犠牲者も多く出してしまった為に頓挫する事になりました」
千歳の言う調査結果に、吉野は嘗てのアンダマン沖で戦った時の状況に思い至る。
姫級では無かったが、有象無象を扇動し、膨大な戦力を第二特務課艦隊へ差し向けた『金のヲ級』
当時波状的な攻勢を受け続けた為に今回の様な嵐の前の静けさを感じる事は無かったが、極限られた上位個体の中にはエリア内の深海棲艦達を指揮し、『軍団』と呼べる規模で組織的な戦いを展開する事があるのは吉野とっても既知の事実だった。
そしてその指揮官が姫、若しくは鬼だった場合海域という深海棲艦が超えない筈の縛りは限定的に無視され、下位個体であっても進軍してくる場合もある。
嘗ての
「夕張君、この辺りの深海棲艦の平均分布数は?」
「クェゼリン及び
「ここからミッドウェーまでは海域を一つ挟んで向こう、んで後ろにはクェゼリンとの間に一つ、もし姫級がその辺りの深海棲艦を目的海域まで引っ張ってったとするなら……」
「おいおい150匹近く深海棲艦が集結してる可能性があるってか? 冗談じゃねーぞ」
「流石に海域に潜む全部丸をごと引っ張ってった可能性は無いと思いますし、集結海域がミッドウェーと決まった訳じゃ無いですが、最悪を想定すると現地では姫か鬼を含む三桁数の深海棲艦と対する可能性がありますね……」
最悪の予想が噴出し、指揮所の空気が冷えた物になっていく。
今予想立てた敵数は恐らくアンダマン沖で第二特務課が対した敵数に匹敵する規模である。
そして当時は第二特務課から選抜した艦隊に、大本営第一艦隊、更にはそこに深海棲艦艦隊も加える事で漸く戦艦棲姫姉妹の鹵獲に漕ぎ付けたのである。
対して今回は大坂鎮守府及び舞鶴鎮守府選抜の艦隊が其々一に、予備兵力として一艦隊。
数はあの時と同じだが、深海棲艦艦隊が居ないという部分では現状は戦力的に大きく劣ると言えなくも無い。
しかもその内一艦隊は防衛と哨戒に割り振っていた為戦力として計上するには心許なく、最悪という面を予想した場合ここから先に進むのはどう考えても無茶と謂わざるを得なかった。
「……どうするよ吉野さン、このまんまじゃかなりキッツイ事になっちまいそうだけどよ」
「ですねぇ、かと言ってこのまま帰還しても作戦を仕切り直す時間は残されてませんし」
「つーかそんだけバケモン共が集結してんならよ、今回叩く筈の目標はほっといてもヤられちまうんじゃねーの?」
「確かに……しかしそれを確認しなくちゃどっちにしても作戦の終了は宣言出来ませんし、ある程度ミッドウェーに近付かないといけないのは変りませんね」
「あー……ンじゃ取り敢えずはだ、索敵可能範囲までミッドウェーに接近して、暫く様子見って事で作戦を進めるしかねーンかなァ」
「いやいやいや、その考えは甘ぁいですよぉ?」
今後の作戦方針が固まり掛けた時、指揮所にやたらと間延びした声が木霊する。
艦娘母艦の中枢という場所にそぐわない白衣を腰の回転でブワッとはためかせ、力の入れ具合で臀部のお肉がキュッっとした事が嫌でも判ってしまうピチピチスパッツを見せ付け、そしてもう説明不要な布地の少ないボンテージで上半身を武装したへんたいがそこに降臨し、真面目な相で作戦を練っていた面々に否と大きく声を上げる。
それまで命懸けの作戦を真面目な相で進めていた面々は、別な意味で真面目な表情のままヒップをクイッとしたへんたいへ視線を集中させると、その視線に満足したのか、またしてもへんたいは逆方向に腰を捻って白衣をブワッとさせて、再び臀部の肉をキュッとさせつつポーズを取った。
「まだそのエリアで活動している個体の正体は判明していませんが、事と次第に拠ってはとんでもない事になる可能性がありますよぉ?」
「……とんでもない事ってどういう事だよ」
「状況を聞けば現状は多勢に無勢、その個体が厳守する命令と性能次第になりますが、その組み合わせが速度に優れる第三世代で、更に目的がワイハへの到達となるとぉ、戦闘を回避して目的を果す事を優先した行動をする事も考えられます、もぉしそうなったら……さて輪島クン、ファイナルアンサァ?」
「何がファイナルアンサーだバカヤロウ! 一々ムカ付く言い方しやがってぇっ、結局どうなるってんだよっ!」
「んむむむ、なぁにをそんなに興奮してるのです? まぁ輪島クンにこの辺りの話題は難し過ぎましたかね? ふむふむ、ではお答えしましょう」
額に青筋を立てた舞鶴の狂犬は腰の刀に手を添えつつ殺気をぶつけるが、それを不思議な踊りでクイクイと受け流しつつ連続して白衣を左右にブワッブワッとしながら、へんたいさは自身が立てた最悪の予想を口にする。
「先ずミッドウェーに居る個体は私が知る限りでは、戦艦級であろうと駆逐艦であろうと航行速度は破格の40ノット近くを叩き出すバケモノの筈、そんな個体に肉薄可能な深海棲艦が存在すると思いますかぁ? いぃやその可能性は限り無く低いっ!」
「くっそまた後出しでとんでもねぇ情報出しやがって! なンだよ40ノットで巡航する戦艦ってよっ、島風涙目じゃねーかっ!」
「おやおや折角作戦が失敗しない様に情報を出してあげたのにそんな言い方は無いでしょぉ? それとも輪島クンはアレですかぁ? このまま日和ったまま行動して作戦が失敗した方が良かったとでもぉ?」
何かを言う度にブワッブワッとするへんたいに対し抜刀寸前の狂犬というカオスを尻目に、髭眼帯はずっと無言で何事かを考えていた。
現状はアンダマン沖海戦と酷似した状態で推移しつつある。
保有戦力という面ではその時より数段劣る状態。
しかしあの時と今とでは決定的に違う部分が幾つか存在する。
その部分を精査し、へんたいさからの情報を当てはめ吉野は思考をフル回転させる、現状をマイナスからプラスへと傾ける為に。
「輪島さん、ちょっといいです?」
「アンッ! 何だよっ!」
「これからの行動ですが、我々はさっきの様子見から変更してミッドウェーに突貫しましょう」
「……はぁぁ? 何言っちゃってンの吉野さンよ、正気かよ?」
「えぇ、その前にはやはり索敵してから幾らか判断する必要はありますが、もし自分が予想する状態がミッドウェーで起きているなら、作戦を完遂する事は充分に可能な筈です」
「……マジかよそれ」
「はい、その作戦なんですが……」
結局指揮所はへんたいが巻き起こしたへんたいの空気を蔓延させつつ、髭眼帯が半ば賭けに近い作戦概要を説明するというカオスが広がる事になった。
そしてこれより約10時間後のミッドウェー沖では、深海棲艦と件の個体、そして大坂・舞鶴混成艦隊との三つ巴となる戦いが繰り広げられる事となるのであったが、それは新たなる混沌を生み出す事になるのであった。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。