大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 ついに揃った平たい胸族、結成フラット5、これで彼女達は無敵の存在になると思われたが、人員の補充をし、新たなる組織を形成したのは彼女達ではなかった。
 往けフラット5! 負けるなフラット5!


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/05/02
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、皇國臣民様、orione様、じゃーまん様、有難う御座います、大変助かりました。


往訪

 大坂鎮守府執務棟応接室。

 

 そこはちょっと見栄えのいい黒い皮の湾曲したソファーが円形のローテーブルを中心に囲む様に配置され、迎賓と長時間の会談を想定してか、室内だけで大抵の事が完結する様諸々の設備を整えた部屋になっている。

 

 中心にはソファーセット、北側の巨大な木製の仕切りをスライドさせればカウンターバー、その隣にはそれなりの大きさのキッチン。

 

 またモダンな作りのローテーブルは天板が稼動する仕組みになっており、スイッチを入れれば各種端末や、情報処理用の機器がせり出してくる。

 

 

 そこは単に何もかもを内包し利便性を向上させるのが目的では無く、室内で何もかもが出来ると言う事で招き入れた者を室外に出さない作りにする事で、相手の行動を制限させ防諜の効果を最大限に、かつ自然に成立させる目的で設置された部屋であった。

 

 

 そんな部屋でソファーに腰掛け、背後に榛名と時雨を控えさせた状態で髭眼帯は真顔になってプルプルし、左側に座る白衣の女性を見ている。

 

 

 ぴっちりとした黒いタイトスカート、そこから伸びるスラリとした足は同色のストッキングに包まれ、たわわな胸を内に押し込んだ為にパッツンパッツンになったグレーのシャツ、そしてそれらを包む様に羽織った白衣。

 

 栗色の髪はセミロングで、淡く施した化粧はスッピンでは無いが限り無くナチュラル、端から見ればその女性は美女の類と呼べる存在に違いない。

 

 

「ん? どうしたのですか三郎ちゃん?」

 

 

 それでも髭眼帯がその美女を見てプルプルしているのは、単にその女性が知らない美女では無く、ほんの数日前に会った時はチンチクリンのくちくかんであった大坂鎮守府医療部門、兼研究ラボ責任者である暁型四番艦のすでのなであったからである。

 

 何故彼女がちんちくりんからナイスバディのなのですになったのかは髭眼帯的に驚愕に値する出来事であったが、それと同じ程に彼をプルプルさせる存在が対面のソファーに存在していた。

 

 

 二種軍装に身を包み、小指を立ててティーを飲む細身の男、それの右隣には鎮守府にも居るので割と見慣れた艦娘である大鳳、そして左隣では鎮守府に居ないので見慣れない艦娘であるГангут(ガングート)という訪問客。

 

 先程から見えるこの一団のちぐはぐというか異質と言うか、そんな佇まいに髭眼帯の嫌な予感センサーはピコンピコン反応していたのだった。

 

 

「ん~ fantastic! これはいい茶葉ですねぇ、アッサムでしょうか? 最近はトロピカルドリンクばかり飲んでいたのでこうやって本格的なティーを口にするのは久々ですねぇ」

 

「大佐が望まれるのでしたらこの大鳳、いつでもどこでもティーのご用意を出来る様ティーセットを携帯していますが」

 

「いやいやいや大鳳、ティーは味だけでは無くウィットな会話と雰囲気もセットで楽しむ物なのです、ですので貴女がいつも用意してくれているドリンクもこのティーに負けず劣らず私には極上の飲み物と言えるでしょう、それは何ぁ故か……言わなくても判りますね?」

 

「あっ……はい、その……有難う……ございます……」

 

 

 ティーカップを指でピーンと弾きつつ、これはいい物だと呟く刈り上七三の男と、その隣では頬を朱に染めクネクネする大鳳。

 

 そこから視線をスライドさせればやたらと殺気の篭った視線を投げてくるロシア艦娘がおり、髭眼帯はヤンキーに絡まれたパンピーの如く視線をプイッと逸らし、どうしてこうなったとこれまでの経緯を思い出していた。

 

 

 それは例のテロ紛いの襲撃を受け、それの後始末と関係各所への処理を行っていた時、大本営所属のあの吹雪から連絡が入った。

 

 

 随分と久し振りに珍しい者から連絡が来た物だとそれに対すれば、彼女の話はテロ時にあった話の再確認から始まり、その後の関係各所の動きに及び、更にはそこから何故か世間話や髭眼帯のプライベートへと、まるで一人暮らしを始めた子供に電話するカーチャン染みた内容でそれは推移していった。

 

 そんな髭眼帯的に何とも言えない会話がそろそろ終わろうかという時、最後に彼女は思い出したかの如く『技本の関係者で技術者の一人が近々大坂鎮守府へ来訪します、電へは既に詳細を伝えてありますのでその辺りの調整は宜しくお願いします』と、ちゃんと毎日野菜を食べているかという寸前にしていた話よりも余程重要と思われる話を最後っ屁の如くサラリと吐き出して、一方的な通話は終了したのであった。

 

 

「お久し振りなのです仁科大佐、確か太平洋で作戦実行中行方不明になったと聞いていたのですが、復帰なされたのですね」

 

「いいえ電殿、ちょっとそれから色々ありましてね、今は軍籍には無いのですよ」

 

「そうなのです? でもその格好は……」

 

「あぁこれですか、これはまぁアレです、日本であれこれするにはこの格好は実に都合がいい、そして急な国外移住と言う事で着衣という類の物はアロハだの海パンだのという実用品しか揃えてませんでしたから、取り敢えず手持ちで失礼の無い格好をとこれを選んでみたのですよンッフッフッ」

 

「移住……ですか、なる程、でも軍籍に無い者がそれを着るのは余り良い事ではないと思うのです」

 

「ふむ……確かにコレ(・・)はある意味軍籍を持つという証になり得る着衣、そうでない者が着るのは聊か問題がありましたね、では……失礼して」

 

 

 徐に立ち上がる仁科、ふんっと両手で軍装を引っ張ると、どういう作りになっているのか白い軍装がスパーンと左右に吹っ飛び、その下に着込んでいた例のピチピチスパッツが目を惹くホットリミットスーツが現れる。

 

 

 無言になる室内。

 

 

 そんな中、ストンと再びソファーに座ると、踵落しでもするのかと言うほどにピンと振り上げ足を組み、ニヤリと笑いを浮かべる仁科。

 

 それは正にへんたいさの名に恥じぬ所作であった。

 

 

 そんな訳で現在応接室はピチピチボンテージの男と、それをキラキラして見るへんたいほう、殺意の波動を垂れ流すロシア艦に、ムチムチになったなのですという混沌とした場がローテーブルを囲む形で出来上がっていた。

 

 因みに諸々の事情で髭眼帯の身辺警護に就く榛名はニコニコしたままの表情で()る気満々のファイティングポーズを取り、それを時雨が必死に押さえるという姿があった。

 

 

「しかしなる程……貴女のその様(・・・)を見れば、北の暴君(・・・・)から得たという情報はかなりの物だった様ですねぇ」

 

「色々と気付かされる事が多かったのは確かなのです、ただそれを実証する手段がありませんでしたから……自分を使うしか無かったのです」

 

「それならそうと検体(・・)を申請すれば良かったのでは? 貴女程の方ならば技本も首を縦に振る事も(やぶさ)かでは無いでしょうに」

 

「自分の欲望を叶える為に、誰かに犠牲を強いる事は出来ないのです」

 

「……技術の革新と真実の探求を己が欲望と言いますか」

 

「知りたいと思う欲求も、誰かを助けたいと思う心も全部自分の中にある物なのです、ならそれはどういう結果を伴うとしても全ては自分の欲求から出た物でしか無いのです」

 

「随分と達観したお考えですねぇ、そうやって色々と考え、自分を追い込むのは余り勧められたやり方では無いと思うのですがねぇ」

 

「研究という言葉を免罪符に、非道を常道とするよりはましなのです」

 

「ふぅむ……電殿の言葉は私には聊か耳が痛い話ではありますが、それが無ければ今の軍は存在していない事もお忘れなく」

 

 

 技本という組織に身を置き、非道と言われる事に手を染めても探求し続けてきた仁科。

 

 あくまで全ての救済という無謀な物を背負いながら、それでも研究という分野で目的を果たそうとした電。

 

 

 両者の間には互いに相容れぬ思想があったが、どちらもこれまで己が信じる道を歩んできたという、ある意味純粋と言える行動は、探求に対する姿勢だけは共感する部分もあったが為に其々は相手の思想を否定しつつも、話はある程度割り切った物になっている。

 

 

「おい……」

 

「はい、どうしましたガングートさん」

 

「そっちの話はいつまで掛かるんだ」

 

「あぁ~ 駄目ですね、研究関係の話になるとつい熱くなってしまう、まだ時間はたっぷりありますし、この続きはまた後程で宜しいですか? 電殿」

 

「……それは別に構いませんが、場所を変えるのは貴方にとって出来れば避けたいのではありませんか?」

 

「天草女史にリーゼロッテ嬢ですか、確かにあのお二人を並べられると厄介ですが、まぁそれはその時にでも考えましょう、さて吉野さぁぶろぅ中将殿」

 

 

 電の言葉に一瞬眉根を寄せつつもすぐに口角を上げた物へと表情を戻し、髭眼帯へ向けた手をワキワキしつつボンテージのへんたいは漸く鎮守府の主へ水を向ける。

 

 

「今回は色々と貴方ともお話があるのですが……そうですね、先ずそちらがお好きな政治に絡む部分から始めようと思うのですが、如何でしょう?」

 

「政治的絡み……ですか? ふむ、取り敢えず伺います」

 

「現在私はちょ~っとした事情でワイハに居を構えて研究をしているのですが」

 

「ワイハ……え、ハワイですか? 仁科さんはハワイから来たと?」

 

「ふぅむ、その反応だとやはりあの辺りの情報に疎いと言うのは本当みたいですねぇ」

 

「……ハワイ周辺は未だ人が手を付けてない深海棲艦のテリトリーにあります、敵の分布や海域のデータは観測していますが、そこにある人の生活圏に於ける内情と言う面では情報の入手は困難な状態にありますので」

 

「クックックッ、情報の入手が不可能(・・・・・・・・・)と言わないのは流石情報将校と言った処ですか、まぁ今の情勢で言えば貴方は自分の足場固めに奔走しなくてはならない為外に目を向ける余裕は無いでしょうしねぇ、しかしこの手の話は日を置けば想像も出来ない程に変化するのは日常、貴方ならばそれは理解出来るでしょう?」

 

「……えぇ確かに、それで、そちらは自分に何の取り引きを持ち掛けるつもりで?」

 

「おやおやいきなりですか? 折角お互いこうしてお話する機会に恵まれたのですから、もうちょっと……こう、話の盛り上がりなんかを楽しむ事は出来ませんか?」

 

「仰る事はご尤もだと思わなくは無いんですが、生憎と自分は相手が訳知りの者であるなら搦め手は用いないと決めていますので」

 

「なる程ぉ、確かに予想が付かない情報を扱う時は、だらだら話を進めてると相手に手の内を晒す事になり兼ねませんからねぇ、ふむふむぅ」

 

 

 両手を広げて指をワキワキとするへんたいと、何も感じさせない空気を纏いつつも淡々と相手に対する髭眼帯。

 

 それが互いのやり方であったが、その対比は奇妙な物でありながらも周りの者達が口を挟めない程度には空気が張り詰めていた。

 

 両肘をテーブルに付き、口元を隠す様に組んだ手の上には睨み上げる様な眼を置く吉野、顎をしゃくり見下ろす様に薄ら笑いを貼り付ける仁科。

 

 

 そんな無言の睨み合いが暫く続いた後、何かに納得したのかボンテージのへんたいさは隣のロシア艦に一度目配せして、再び交渉を再開するのであった。

 

 

「そう言えばそちらが北極海へ調査(・・)に向った時にですが、何やら北の大国と一悶着があったそうで」

 

 

 へんたいさの言葉と、一瞬目配せした先に居る艦娘を見て、髭眼帯の表情が硬い物へ変化する。

 

 それを見たへんたいさは満足気に口元を歪め、更に話を進めていく。

 

 

「あ~ いいですねぇ~『一を言って十を知る』、面倒な説明を挟まなくていいのはとてもとても好ましくありますよぉ?」

 

「……ロシア、いや米国と貴方は繋がっていると?」

 

「はい、どういう縁でどんな筋を辿って私と米国が繋がっているかという部分はそちらのご想像にお任せしますが、私は現在かの国(米国)と協力関係にあります、そしてここに居るガングートさんは貴方の想像通り、ベーリング海峡でそちらの艦隊と対峙した艦娘です」

 

「……その艦娘さんがあの時のガングートさんだという証明はできますか?」

 

「私と戦ったのはアカギという艦娘だ、ヤツは最後に司令長官から相手を無力化しつつも殺すなと命令を受けていた為に止めは刺さないと言っていた、お前がヤツにそう命じた者か」

 

 

 殺気を纏いつつ少し身を乗り出すガングート。

 

 僅かばかり動いただけの彼女の額には、次の瞬間榛名が展開した51cm連装砲の砲口が突きつけられる。

 

 

 それは巨大な鉄の塊であったにも関わらず、音も無く、また一瞬で起こった為に場の空気は緊張というよりも、呆気にとられるという間抜けな空気に包まれ、続いてガシャンと響く給弾音で場の空気は剣呑な物へと変化する。

 

 睨むと言うには異質な、どこまでも濁った色をした眼で見下ろす榛名に対し、それでも特に驚いた様子も無くガングートは人差し指で砲口を突き、真面目な相で目の前の艦娘に対する。

 

 

「……お前の動きは見えていたんだがな、肝心の体が追従しなかった、なる程、錬度が上がればこういった場合対応する事が出来ると聞いた話は納得するしかあるまい」

 

「いやいやいやぁガングート君、流石にそのお嬢さんレベルになると早々相手取るのは容易な事じゃありませんよぉ?」

 

「榛名君」

 

「……はい」

 

「ご苦労様、どうやら彼女には実力行使に出る気は無いみたいだからさ、艤装を仕舞ってくんない?」

 

「宜しいのですか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「……判りました」

 

 

 この一連の出来事に反応という面では殆どの者が出来なかったが、恐怖や驚きという感情を抱いた者は皆無であった。

 

 時雨や大鳳にはそれが見えていた上に、その気になれば対応は出来ただろう。

 

 電は能力こそ失ってしまったが潜ってきた修羅場が相当な物であった為に、この手の鉄火場程度では心を乱す事は無い。

 

 吉野にしても反応こそ出来なかったが、榛名を護衛に就ける時点でこんな事態は想定済みの範疇にあった。

 

 

 そんな中、ふぅぅ~と大袈裟な溜息を吐き、両手をクイクイと挙げながら首を左右に振るへんたい。

 

 元大本営技術本部配属 仁科良典(にしな よしのり)という(へんたい)

 

 

 技本へは医官として配属され、研究に従事する傍ら艦娘の運用を学び、最終的には艦娘を人為的に深海棲艦へと堕とす為の研究を推し進め、オカルトと科学の両面で組織の中核を成した科学者である。

 

 その考えは一環して研究の結果にのみ注がれ、狂気はある意味革新的な技術を技本に齎す事になった。

 

 

 元々ナルシスト傾向にあったその精神は、研究結果を自身へ反映させる事は厭わず、結果として自分自身へ実験と称して陸奥の魂魄を移植、自身を41cm連装砲を含む艤装を顕現する事を可能としたCHW=Chemerical Humanoid-Weapon(異種配合人型兵器)という存在へと作り変えるに至る。

 

 艦娘に近い能力を有するが為にこの(変態)には榛名の動きは見えていた、そして場に居る他の(艦娘)と同じ程度には対処が可能であった。

 

 

 ただ反応が出来、対処に移っても至近で艤装を展開した榛名に対し切れるかどうかは別問題であるが。

 

 

「それで、何故あそこで戦っていた彼女が仁科さんの処に身を寄せ、どうして今ここに同伴しているのかという理由を聞いても?」

 

「私はあの後大破状態で身動きが取れず、海域に進軍してきた米軍に鹵獲された」

 

「で、一応治療を受け拘束されていた訳なんですがねぇ、どうにも色々と、あちらさんでまぁその、やらかしたみたいでしてねぇ」

 

「……しかし彼女という存在は米国に取ってロシアを追い詰める手札になる筈ですが、米軍は何故彼女を手放したんです?」

 

「それは政治的取り引きというヤツですかねぇ、実際ロシアは証拠を突きつけてもしらを切る筈ですし、一度表に出せば彼女の利用価値はそれしかなくなる(・・・・・・・・)

 

「ふむ、トカゲの尻尾切りをされてしまえば存在が微妙になるという使い方をするよりは、より有効的な使い方をする方を米軍は選んだと?」

 

「正にそのとぉ~り!」

 

「それで? 国家間の折衝に使えるカードよりも有効とされる、仁科さんと米国の間で取り交わされた政治的取り引きと言うのは?」

 

「それは秘密です、何せ今私は寄る辺も無い一介の研究者に過ぎません、そこから色々と自由にやりたい事をやるにはほらぁ、使える物は何でも使いませんと」

 

 

 おどけて見せるへんたい、言う事成す事軽く見えるそれは、吉野をして追及を諦めさせる程には得体が知れない何かを感じさせた。

 

 こうして米国とはそれなり以上の繋がりを見せつつも、大本営を通じて正規に会談の申し入れを可能とする一介の研究者(・・・・・・)は、大坂鎮守府に暫く滞在する事になり、主にラボの関係者と情報交換を密にしつつも、思いも寄らない化学反応を起こしていくのである。

 

 

「それでガングートさんがウチに来た目的は……もしや赤城君との再戦を希望してとか?」

 

「最終的にはそうあれば理想だが、今の私は圧倒的に経験と練度が足りない、この状態で再び戦いに挑んでも結果は変らないだろう」

 

「まぁそれは確かに……そうかも知れませんねぇ」

 

「しかし米国に居ても、この変態と行動を共にしていてもその辺りが改善されるとは思えない」

 

 

 ガングートの言葉にへんたいほうは何かを言いた気に睨むが、それを無視して彼女は髭眼帯の後ろに控える武蔵殺しを見る。

 

 

「そこのお前、今私に砲門を突きつけた艦娘」

 

「……何でしょう」

 

「お前はあのアカギと対して、勝つ事は可能か?」

 

「……どうでしょうか、正直()ってみないと答えは出ません」

 

 

 相変わらず殺気と言うよりも感情の篭らない視線で睨む榛名の言葉に、何故かどんどん愉し気な表情を滲ませ、最後には噛み殺した笑いをガングートは口から漏らした。

 

 

「クックックッ……そうか、そうか、()ってみなければ判らないか、それだけあのアカギは強者という訳だ」

 

 

 本当に愉し気に笑いを噛み殺し、黙って見る榛名の視線を真っ向から浴びつつもそれを物ともせず。

 

 そうして何かに満足したのだろう、北の海で大坂鎮守府艦隊と戦ったロシア艦は、柔らかくも凛とした笑いを浮べ髭眼帯に改めて向き合った。

 

 

「ここは艦娘を鍛える環境が整っているとそこの変態から聞いた」

 

「えぇ確かにウチは教導に特化した設備を要した拠点になってますね」

 

「なら私を鍛えてくれ、その間は好きに使ってくれて構わない」

 

「鍛えた後……貴女はどうするつもりです?」

 

「ふむ、そうさなぁ……取り敢えずは倒さねば収まらんヤツが居るのは確かだ、あのアカギというヤツと、そして」

 

 

 一度言葉を切り、視線を髭眼帯から後ろに控える榛名へと投げる。

 

 

「そこの艦娘にも勝たねばな、ククク……まさかここまで血が(たぎ)る事になろうとは、中々どうして退屈ばかりの日々だったが、生まれ変わって良かったと今は心底思うぞ」

 

 

 冗談交じり染みた言葉を吐きつつも、軽い口調とは掛け離れた獰猛な視線を投げる銀髪のロシア艦を見て、始めて武蔵殺しと呼ばれる艦娘の顔にも感情が滲む。

 

 

「今の貴女だとウチの駆逐艦達にも劣るでしょう、鍛えるのはいいですが現状を見るに相当キツい事になると思いますが、それでもやりますか?」

 

「上等だな、私は最強になるなんて傲慢な考えは無いが、目に見える者に勝つという程度になら労苦は惜しまんぞ」

 

 

 犬歯を見せて獰猛な笑いを浮かべるガングート、対して顔に(ひび)が入ったかの如く口角を上げて(わら)う榛名。

 

 

 脳筋達が織り成す恐ろしい殺気、それに挟まれる位置に居る髭眼帯はプイッと視線を逸らし、プルプルと生まれたての小鹿の様に震えるしか無かったという。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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