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2016/11/30
誤字脱字箇所修正反映致しました。
ご指摘頂きましたSERIO様、テリオスZ様有難う御座います、大変助かりました。
辞令を受けた日
「おう、来たか、入れ」
白い軍装を身に着け、少し豪華な椅子に深く腰を掛けている大柄な男は、部屋の入り口に立つ同じ格好ではあるが少しくたびれた雰囲気を持つ男に対して開口一番、軍施設内の、それも高官執務室で投げ掛けるにしては少しどうなのであろうかと云う言葉を発し腕を組んだ。
「先程報告書を提出した際、事務方にて
投げっ放しな言葉を苦々しい表情と溜息で流しつつ、入り口に立つ男はやる気の無い雰囲気一杯の海軍式敬礼を取りながらそう答える。
大隅と呼ばれた男は腕を組んだまま暫く何かを考える素振りを見せた後、入り口に立つ男に対し傍にある来客用のソファに座る様勧めながら傍に控えていたおさげの少女に声を掛けた。
「おい吹雪、すまんが茶を頼む、ついでに朝
吹雪と呼ばれた少女は軽く頷くと、給湯設備があるのであろう資料棚脇の通路奥へ向かっていった。
「まぁナンだ、長々と地方の調査ご苦労だった、吉野大尉」
吉野と呼ばれた男は勧められたソファーに腰掛けつつ
「いえいえ自分も軍属の身ですから、例え24時間無休の三ヶ月間勤務であろうと、帰還後休暇も無く報告書を作成し、提出した後即出頭を命じられようと、それが直属の上司である大将殿のご命令であればそれに従うのが義務でありますので。」
〔義務〕と云う言葉のイントネーションを多少強めに吉野は返事を返す、心無しその目が相手に対して非難めいてるのは恐らく気のせいでは無いであろう。
その言葉を受け、ばつが悪そうに頭をかきながら大隅も吉野の向いにあるソファーに移動しながら、一応フォローの言葉を考えていた。
「お、おう、三ヶ月だったか、それはご苦労だったな、で、帰還したのが……」
「昨日の1500であります大将殿。」
「う、うむ、ご苦労、で、報告書は……」
「急ぎとの事でしたので無休で仕上げ、本日1015に提出致しました大将殿」
言葉を重ねる度に空気の質量が増す気がするのは気のせいだろうか?、繰り返し返答の最後に〔大将殿〕と付けるのはどういう意図なのだろうか?
気まずさ故その部下の顔を直視するのを避けた大隅の視線の先、そこにある柱時計の時刻は午前10時30分を指していた。
「うむ、ん、ご苦労、報告書は後で目を通しておく」
とは返したものの、大隅の向かい、ソファーに腰掛ける吉野の目は眠気の為かうっすらと目の下に隈が張り付いており、その相は某三つ編みの重雷装ハイパーさんとお揃いのヘソ出しルックな片割れがキャッキャウフフ中、横から無遠慮な声を掛けた時に向けられるアレに勝るとも劣らない雰囲気が醸し出されていた。
「何か問題は無かったか?」
「特に口頭にて報告する様な〔緊急の物〕はありません、詳細は報告書をご確認下さい、大将殿」
念の為に繰り返しておくが、冗談抜きでヘソ出しの片割れである非三つ編みのアレは、戦場で大破の時にエリレに遭遇した際に感じるソレに勝るとも劣らない。
目の前のくたびれた男が今出している空気を判り易く言うなれば、ヘソ出しのエリレがジト目で冷たい酸素魚雷を半笑いで磨きつつ 「死にたい船はどこかしら~」 と虚ろな目でどこぞの二番艦ばりの台詞を吐くアレを連想させる程の空気の重さを醸し出しているのである。
特に〔緊急の物〕辺りの言葉を強調する辺り、緊急の事案でも無いのに何ケツに蹴り入れて働けって言ってくれちゃってんのコンチクショウと、上司に向けるそれでは無い相を隠す事もせず目の前の男は無言の非難を浴びせているのである。
一応報告書を急かした事も、出頭を命じた事もちゃんとした理由があるのだが、それを説明する為の物が現在大隅の手元には無い。
場を繋ぐ為に何か会話をと模索するも、そんな相を浮かべる相手に何か言っても余り愉快な返事が返って来そうに無い雰囲気をどうしたものかと思案していた処…
「どうぞ」
奥から現れた吹雪が応接テーブルに茶を満たした来客用の湯飲みを置きつつ、これも来客用であろう茶菓子が入った器をその傍に置く。
とりあえずではあるが幾らか場の空気が軽くなった気がする、多分。
吉野は一つ溜息を吐くと出された茶を静かに
「有難うパンツさん……美味しいです」
「私だって本気を出せばやれるし……」
「んんん?」
重苦しい空気から一転、人の秘書艦をパンツさん扱いする部下も部下だが、パンツさん扱いされたにも関わらず、何食わぬ顔で三女の台詞を使い返事を返す我が秘書官の行動に、思わず間抜けな声を出す大隅であったが、直前の重苦しい空気を引きずるのもアレだと流す事を決め込み、茶を啜った。
「そう言えば司令官」
「何だ?」
「提督?ご連絡があるみたいです」
吹雪はそう言うとA4大の茶封筒を物理的にはとても収まりそうにないスカートのポケットから取り出し大隅に手渡す。
封筒を手渡された大隅はうんと頷きながらそれを受け取った瞬間、どこぞのコメディアン宜しく秘書艦の少女を綺麗に二度見した。
「おい吹雪、今しれっと何処からコレを取り出した? って言うか何で急に提督呼び?」
「大将殿、吹雪さんが少し垂れ目になり、髪が三つ編みになったら司令官から提督呼びにシフトするらしいです」
「磯波か? 磯波の台詞かそれ!?」
思わず突っ込んだ大隅の言葉に、口角を少し上げサムズアップをする吹雪と、何も無かった様に茶を
嗚呼そうだった、三ヶ月間地方調査と云う名目で国内よりも更に南方に放り出していたので忘れ掛けていたが、この吉野と云う男は良く言えばマイペース、悪く言えば慇懃無礼が服を着たまま唯我独尊を地で行き、更にはこの男に関わった艦娘は何故かおかしな行動を始める。
普段は少し無口な処が他の個体とは違う以外は概ねまともである我が秘書艦吹雪も、漏れなくこの男が近くに居るとおかしな行動に走る。
先程とはベクトルの違う意味での心労を感じつつ大隅は吹雪から手渡された茶封筒に視線を落とす。
だからこそ、この任務はこの男が適任だと上が判断し、自分もそれに同意したのだと手にした封筒を目の前で茶を
「吉野三郎大尉、辞令だ、この度新設する第二特務課々長の任に就く為現時刻を持って特務課主任の任を解く」
「第二特務課ですか? 今の特務課と何が違うので?」
「それの説明を含め、任務内容・人員・装備等この書類に記載されている、着任は明後日0700だ、それ迄に資料に目を通し確認しておけ、問題がなければ辞令書に署名・捺印を行い事務方へ提出せよ、尚、同課へ着任したと同時に貴様の階級は艦隊指揮権の関係で大尉から中佐へ二階級特進する事になる、以上だ」
大隅から辞令と共に差し出された茶封筒を左脇に抱え立ち上がると、これまた入室した際見せた、やる気がなさそうな海軍式敬礼をしつつ吉野三郎は
「了解致しました、吉野三郎大尉、特務課主任の任を離れます、以後明後日0700新しい課へ着任の為準備に入ります」
直属の上司から新たに発せられた任務内容を復唱した。
手直しに伴いサブタイトル等も変更しております。
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