大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 趣味嗜好という物は個人という括りの内に存在し、他の者からすれば理解されない部分がある。
 一般的や普通と称される基準は存在するが、趣味嗜好という観点に於いてはその範疇に収まらなくても変えようとする者は少数派と言えよう。
 それは理性では無く本能から来る部分であり、理屈では説明できない部分であるからこそ、他人からは理解され辛い物では無いだろうか。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/07/01
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、京勇樹様、坂下郁様、110様、有難う御座います、大変助かりました。


艦娘さん達の好みと言うかそんなお話

「これが北極走破用局地装備、S(スプー)ファイターです!」

 

 

 梅雨明け宣言もちらほら天気予報で聞く大阪湾、どんよりとした空の下、鎮守府最南端のコンテナヤードでは怪訝な表情をする髭眼帯の前で夕張が拠点防衛ロボスプー改修型の前でドヤ顔をキラキラさせて、その機能の説明をしていた。

 

 例のスープラ的なフォームのブツは前輪部分がソリ、後輪がでっかい三角のキャタピラ、ついでにスープラに縦に刺さったスープラという、もうそれは更に某ガン○ンクに近付いたデザインとして完成されており、ドヨーンとした空の下、ウミネコがヒャァヒャァ鳴く大阪湾をバックにアレな存在感を盛大に醸し出していた。

 

 

「……メロン子」

 

「はい、何でしょう?」

 

「うん北極圏を走破するのにソリとかキャタピラ的なアレはいいんだけど、このスプーの後ろの何と言うか……くっ付いてるデカい犬小屋的なオプションはナニ?」

 

「ああそれは人員輸送用キャリアも兼ねた移動拠点ですね、ちょっと手狭ですがスプーの乗員を含めるとこれで六人は収容可能になってます」

 

「いやそうじゃなくて、どう見てもコレ、ガ○タンクにス○ーピーの家連結しちゃった的な適当さが漂ってんだけど……」

 

「キャリアを普通の箱型にしちゃうと屋根に雪が積もってしまい色々と不都合が出るんです、ですから必然的に屋根はこんな形になってしまいます」

 

「うんそれはいいんだけど、この煙突みたいなブツとか、オレンジとか黄色基調のカラーとかのやっつけ感はどうにかなんなかったの?」

 

「今鎮守府にある電波吸収塗料の在庫の関係で色はこうなってしまいます、その辺りは我慢して下さい」

 

「電波的にステルスすんのはいいんだけど、色がデーハー過ぎて見た目のステルスをむっちゃ損なってないかなぁと提督思うのですが……」

 

 

 ガンタ○クの後ろには全長5m、幅3m程の犬小屋染みた物体が連結されている訳だが、それは屋根がオレンジ、壁が白、扉が黄色という色々目に優しくない配色がされており、更に屋根には取って付けた様な煙突状の何かが生えていた。

 

 

 それは言ってしまうと一昔前の女の子向け玩具の如き物体染みたブツであり、側面には何故かはめ殺しになった小粋な窓まで配置されていた。

 

 

 北極という極限の地を走破する事を想定し、工廠が開発した装備がガンタン○がキュラキュラと引っ張るシルバ○アハウスという、軍にあるまじき形状をしているのを見た髭眼帯は怪訝な表情のままプルプルしつつ、そのハウス的な部分をチェックしようと内部に足を踏み入れた。

 

 

「あ、内部はまだ調整中なんで、壁面のボタンとか触らないで下さいね?」

 

「え、そうなの? えっとこのキッチンとかのヤツも?」

 

「えっとそれは湯沸かし器のボタン、そっちのは換気扇のボタン、その間のはVLS作動装置の……」

 

「おいメロン子」

 

「はい、何です?」

 

「……何でキッチン器具の操作ボタンのど真ん中にVLSの作動ボタンが混じってるのかの理由を聞いても?」

 

「それはキャリアの設計上どうしても機能面を簡素化する必要があったので、電装系統はある程度共用する事になってしまいまして」

 

「だからってミサイルシュバーしちゃうボタンをお湯沸かすボタンと換気扇ブォーンするボタンでサンドするってナニソレ危険極まりないデショ!」

 

「その間違いが無い様にボタンはデンジャーカラー(虎縞)になっていますから」

 

「色分けじゃなくてせめてカバー付けて!? 危険だから!」

 

「艦娘の力でポチリしちゃったらカバーの強度なんて意味ないじゃないですか、なら少しでも簡素化して重量を軽くした方が効率的ですって」

 

「だったらボタン配置位どうにかしようよ!?」

 

 

 髭眼帯の前にあるキッチン横の操作基盤には様々なボタンが処狭しと並んでおり、それは虎縞だのドクロマークだのととてもシャレにならない見た目のブツがゴチャっと混在している危険な仕様になっていた。

 

 

「因みにVLS発射機構はスペースの都合上あの煙突周りに集中してまして、セル(発射体)は煙突の中に格納されていますから強い衝撃を与えないで下さいね?」

 

「煙突の中にセル(発射体)格納してるって構造上丸裸と一緒じゃない!? ナニシテンノまじで!?」

 

「大丈夫、北極圏の極寒でもちゃんと作動する設計になってますから」

 

「何が!? 提督が心配してんのそっちじゃないからね!?」

 

 

 メロン子の言う事を考慮すると、ちょっと小腹が空いたからとカップメンに湯を注ごうとして湯沸かし器のボタンを押そうとした際、間違えて隣の虎柄ボタンをポチッてしまうと、ガ○タンクに引っ張られたシ○バニアハウスの煙突がパカーと開き、シースパローやトマホークが飛んでいってしまうという危険性を孕んでいるという事になる。

 

 

「ねぇ……このドクロマークは?」

 

「ニトロです」

 

「え、ニトロて……このシルバニアハ○スって自走出来るの?」

 

「非常脱出用の物ですから、ちゃんとスプーから切り離した状態で使用して下さいね、でないと連結したままだと追突した状態で燃料が尽きるまで突っ走ってしまいますから」

 

 

 メロン子の言う事を考慮すると、ちょっと小腹が空いたからとカップメンに湯を注ごうとして湯沸かし器のボタンを押そうとした際、間違えて隣の虎柄ボタンをポチッてしまうと、ガ○タンクに引っ張られたシ○バニアハウスの煙突がパカーと開き、シースパローやトマホークが飛んでいってしまい、それに焦ってドクロボタンを押してしまうとガンタンクにシル○ニアハウスがニトロブーストを掛け追突した状態で北極の原野を突っ走ってしまうという危険を孕んでいると言う事になる。

 

 お台所でカップ麺やコーヒーを入れる際、ちょっとした間違いで大惨事が勃発したり、非常脱出用のシステムが作動してしまうという北極移動用装備、それがS(スプー)ファイターという物体の正体であった。

 

 

「因みにスプー自体後輪をキャタピラへ換装した事で直進安定性が更に増しましたし、エンジンもチューンして無限軌道という構造でありながら時速120キロを出す事が可能となってます」

 

「いや確かスプーって元から直線番長で、曲がると横転するって致命的な欠陥があった気がするんだけど」

 

 

 髭眼帯の質問に何故かプイッと横を向くメロン子というある意味いつもの絵面(えづら)がそこに展開される。

 

 因みに北極圏は人の手が入っていない大自然、地面は雪や氷に覆われ起伏が激しく、更にクレバスや氷が薄い部分も点在する関係上、普通に直線を行けるルートは殆ど存在しない。

 

 そんな場所でニトロだの時速120キロ走行などしてしまうと、当然の結果として横転不可避となってしまうだろう。

 

 

「電探で周囲の地形を走査しつつ、ある程度オートで走行ルートを割り出して機体が進む機構になってますからその辺りの事は……」

 

「これ……まさか70スープラですか?」

 

 

 メロン子が髭眼帯にシルバニ○ハウス内で必死に色々と説明している時、表で誰かの何と言うか押し殺した感じの震える声が聞こえてくる。

 

 そんなちょっと尋常じゃないカンジの声に何事かと二人が様子を見に行けば、例のロー○ンの尖兵と言うか、童貞絶対殺すガールの異名を持つ練習巡洋艦の鹿島がプルプルしてスプーを見上げている姿が見え、その後ろでは姉のカトリーヌが凄く微妙な表情で苦笑していた。

 

 

「うん? 香取君どしたの?」

 

「ああ提督、お疲れ様です、ちょっと夕張さんに用事があったので工廠に行ったら今こちらで新装備のチェックをしてると聞いたので」

 

「あーそうなんだ……って鹿島君が何かプルプルしてるみたいだけど」

 

「提督さん、これ……スープラ、何でこんな酷い事に……」

 

「え? ああいやそれは色々とあって何と言うか……」

 

「酷いですっ! もう今は生産していない希少なリトラクタブルスープラを! それも片方はターボAじゃないですかっ! 何でこんなぶっさいくなロボになっちゃってるんですかぁ!」

 

 

 シ○バニアハウスから出てきた髭眼帯の前にツカツカと詰め寄ってきた鹿島は両拳を握り締め、何故か涙目になりつつ胸の前でブンブンと両手を上下させている。

 

 その予想外の訪問者と、やたらとヒートアップした様にこれはどういう状況なのかと視線を姉に向けると、カトリーヌは困った様な表情のまま「実は」と鹿島激オコの理由を説明し始めた。

 

 

 曰く、鹿島は無類の車・バイクマニアである事。

 

 大本営時代から髭眼帯の愛車には並々ならぬ興味を持っていたが、艦隊本部付けという立場上対立派閥に属していた吉野に接触する事は出来ず、ずっとヤキモキしていた事。

 

 大坂鎮守府への異動の話が出た際、割と艦娘が所有する私物(車両や装備)関係の制限が緩く、またそこの司令長官が吉野であった為にその辺りの趣味的部分が自由になると判明し、異動の件は実は姉より積極的であった事。

 

 

 そんな話を聞かされ髭眼帯はああなる程と納得して鹿島を見るが、その車マニーな練習巡洋艦はほっぺをプクーさせ涙目で睨んでいるというのを見てハハハと取り敢えず乾いた笑いを口から漏らす事しか出来なかった。

 

 

「教習所関係の整備が忙しくて提督さんのスープラとかCBX見せて貰う時間が無くて……今日やっと時間が出来たから、車の整備道具借りるついでに見せて貰おうと思って工廠に行ったのにぃ……それがこんなヘンテコな物に改造してるなんてあんまりですぅ……」

 

「あーうん、えとそれね? それ自分じゃなくてメロン子が勝手にやっちゃった事だから、因みにCBXもバラされて改造されちゃってるからもう無いのよ」

 

「ちょっ!? 提督!」

 

 

 髭眼帯のキラーパスを受けてビクリとしたメロン子に鹿島は三白眼を向け、そのまま無言で肩を掴んだと思うとツカツカとスプーの裏側に引き摺っていく。

 

 兵装実験艦という側面もあり、他の艦よりも重いとされていた夕張であり、史実では駆逐艦の二割り増し程度しか出力が無い香取型の彼女では不可能なのではという勢いでズルズルとする様に回りは固まってその様を見送った。

 

 そんな彼女であったがそこはそれ怒りに任せた全開運転でもしたのだろう、その姿はあっと言う間にスプーの向こうに消え、暫くするとメロン子の「ゴメンナサイゴメンナサイ」という念仏の如き声だけが聞こえてくるというカオスに髭眼帯はプルプルし始め、カトリーヌは苦笑したままというコンテナヤード。

 

 

 結局この新装備と言うかロボとシルバニア○ウス的なブツのお披露目会は香取型姉妹と言うか、主に妹が怒りの乱入をした為に地獄と化し(主にメロン子的に)、髭眼帯が予定していたバケツ正座の刑は執行されなかったが、それ以上の精神的損耗を受けたメロン子は暫く鹿島を見るとカタカタ震えるという色んな意味でカオスな日々を過ごす事になってしまったのだという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「しかしこの鎮守府は本当に色々と他の拠点には無い運営をしていますね」

 

「あーまぁ、単に自分がその辺り疎い部分があるから、皆に丸投げしてるってのが原因だってのは自覚してるんだけどねぇ」

 

「いえいえ苦言を述べている訳では無く、提督が将官になられた経緯は聞き及んでいますが、それでもこの鎮守府運営は他の人が同じ立場となっても出来る形態では無いと思いますよ?」

 

 

 あのカオスな装備のお披露目を終えた後、髭眼帯と香取姉妹は色々な話をする為に間宮へ移動し、着任してから互いに仕事で時間が取れず、ちゃんとした話し合いの場が取れなかったこれまでの業務に付いての意見交換と、互いの個人的考えの摺り合わせを行う為に茶休憩を利用したちょっとした茶会を行う事になった。

 

 そんな建前の割には結構緩い雰囲気となった場でカトリーヌはわらび餅を上品に口へ運びつつ、ニコニコと大坂鎮守府の運営は好印象だという意見を口にしていた。

 

 現況の軍にあって、育成や訓練という物は場所や状況によってまちまちであり、体系化するには様々な問題を抱えていた。

 

 基本的に簡単な基礎訓練は指針として纏められてはいたが、それから先の本格的な物は結局現場に則した物を各拠点が実施するしか無く、その多くは訓練と言うよりも実戦へ参加させる事によって経験として積ませるというのが現状であり、結果としてそれは戦力の平均化、汎用的運用は難しい状況にあった。

 

 艦娘という元々テンプレート化された存在は本来どこの所属に於いても強さは同じと言うのが理想であったが、現実は戦闘回数や拠点規模でその部分に大きな差が生まれるのは仕方が無いというのが軍の考えであったが、それを仕方がないと切り捨てる状況はいつか軍という組織を危機に陥れるとこの眼鏡の練習巡洋艦は危惧していた。

 

 

「新規に就役した艦であれば教練は艦種ごとに則した物を用意すれば事足ります、しかし既に幾らか経験を積んだ艦に教導を施すとなれば先ずは矯正から始めて、その後個別に求められる能力の向上に適したカリキュラムを組む必要があります」

 

「まぁねぇ、現状建造が安定してないから新規艦の教育は各拠点に任せる事になっちゃってるし、中央と前線じゃ環境や求める物も違うからどうしてもカリキュラムを一本化するのは難しいかなぁ」

 

「その点ここはある程度の経験を積んだ艦を対象にした教練を始めから想定した設備と、そしてその筋のエキスパートを教官として充てているので教育という観点で言えば理想的だと思います」

 

「まぁある意味個人単位のメニューを都度教官の皆が組んでる状態だから、その代わりに一度に教練出来る人数は限られるんだけどね」

 

「それは仕方の無い事だと思います、でも教導内容は現場の判断に委ね効率的な運用をし、仮想敵は本物の姫・鬼級が努める、軍は大坂鎮守府の存在を懐疑的に見ている面がありますが、戦力の底上げという観点で見れば、ここはもっと規模を拡大しても良いと私は思います」

 

「それが出来る程組織という物は単純な作りにはなって無いよ、拠点の規模や設備は軍内では権力とイコールという事になっちゃうし」

 

「派閥的な事情、理想と現実……ですか」

 

 

 元々練習巡洋艦という前世を持つ香取から見れば、大坂鎮守府という拠点はほぼ理想の場所という認識を持っていた。

 

 一元化した軍の規範や教導方針は最小限であり、それら以外の方針は実際現場で戦ってきた艦娘が作り上げる、そしてそれは潤沢な資金と資材を以って後押しされ、しかも戦うべき相手その者が教導に携わる、正に教導という事に特化した環境がこの鎮守府には内包されていた。

 

 全てを実行する為に必要な資金や資材の確保、そして艦娘が自由にその運営に関われる環境。

 

 それら全てはこの軽い口調で空気なイメージを漂わせている髭眼帯があっての物なのだと鎮守府入りして改めて認識し、同時にこの香取という練習巡洋艦はそれ程付き合いも長くは無かったが、今軍内では不可能と思われる規模の事をやってのける司令長官に対し絶対的な信頼を寄せつつあった。

 

 

「そう言えば提督」

 

「ん? 何?」

 

「こちらでは艦娘が独自にコミュニティを作って、色々な活動をしている様なのですが」

 

「コミュ? あー……うん、何と言うかまぁ、うん、そんな色々はあったりなかったりと言うか……」

 

「私達艦娘のプライベートという物は軍務に於いて軽視されがちな部分ではありますが、その部分を重要視して戦意高揚へと繋げる運用はとても素晴らしい事だと思います」

 

「別に重要視した覚えは無いと言うか、勝手にそうなっちゃってたと言うか、戦意高揚……ああうん、まぁ高揚しちゃってるのかな」

 

「個人的にはこの前耳にしました『ムチムチ同盟』というコミュに物凄く興味がありまして」

 

「む……ムチムチ同盟ぃ? 香取君が何でそっち系に興味があるのぉ?」

 

「それはまぁ、普通ムチという器具は色々と誤解を招くアイテムでありますし、一般的に使用している者も少ないですから」

 

「え、ムチというアイテム? 非一般的?」

 

「はい、一般的には紐状の物が有名ですが、それでも素材や束ねる数で用途や威力は変化しますし、それに棒状の物や二つを組み合わせた物などそれこそムチという物は一括りにするには千差万別だと言いますか……」

 

「紐ぉ? 棒ぉ? 束ねるぅ?」

 

「私が普段携帯しているのはこのウィップと呼ばれる革製の牛追いムチと、こちらの馬上ムチと呼ばれる棒の先端に平板を組んだ形状の物の二つだけなのですが」

 

 

 ムチムチとした制服の胸に手を突っ込んでそこから鞭を二つズルリと取り出し、それを説明しつつも何故か恍惚な表情をしたカトリーヌと怪訝な表情で首を傾げる髭眼帯という、双方にある認識違いから醸し出される微妙な空気が甘味を挟んだテーブルに漂っていた。

 

 

 カトリーヌが言う大坂鎮守府に潜むムチムチ同盟と言うのは、チチシリフトモモがムチムチとした身体的特徴を有した艦が集うムチムチとしたコミュであって、ピシーンパシーンする器具に特殊な嗜好と言うか特別な感情を抱く者達の集いでは無い。

 

 ムチムチとムチは発音としては似ているが、ムチムチと鞭と書いてしまうとそれはまるっきり別物になってしまうのである、寧ろ相容れないという関係性まで生まれてしまう。

 

 

 そして吉野は思った、ムチムチ同盟でもどうかと思う集団なのに、鞭鞭同盟だと更にそのコミュはヤバい集団になってしまうのでは無かろうかと。

 

 

「ムチムチと言うからには更にもっと凄い……多鞭的なモノや、リボン的な物なんかも……」

 

「いや香取君、君の言う鞭とムチムチは恐らく違うブツと言うか、存在とアイテムという種という括りじゃ超えられない壁があると言うか……」

 

「ムチムチとムチを重ねてまでコミュ名を表現する位ですから、フレイルとかも常備している可能性が……」

 

「ちょっと現実世界に戻ってきてカトリーヌ!? ムチムチってカタカナだから! 漢字じゃないからね!? 何フレイルて!? あれ武器じゃないの!?」

 

 

 結局この後髭眼帯は鞭に並々ならぬアレ的拘りを持つカトリーヌにムチムチ同盟という組織の説明と言うか、ムチムチとは何を指しているのかという説明をしなければならないという苦行を味わい、甘味を口にしているにも関わらず何故か苦い思いをする結果になってしまったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで提督さんは今愛車が一台も無いんですか?」

 

 

 姉の鞭鞭好きなカトリーヌが何故かテンションダウンしてしまったテーブルでは、今度は妹である鹿島がパフェを突きつつ髭眼帯へ個人的な話題を振っていた。

 

 

「ああまぁスープラとかCBXの後に何台かバイクは購入したんだけど、まぁそれも何と言うか……」

 

「え~ それも夕張さん改造しちゃったんですかぁ? 因みに提督さんは何買ったんです?」

 

「んーと、Z1000-RとRZV500」

 

「うわぁぁ!? 無茶苦茶レア物じゃないですかぁ! なんでそれ改造しちゃうかなぁ」

 

「まぁ彼女的には価値感とかその辺り色々こっちとは違うだろうし」

 

「でももう生産されてない希少な車とバイクなんですよ? もーほんっと信じらんないですっ」

 

「あーまぁねぇ、でもその辺りは仕方ない部分もあるんだよね」

 

「……仕方ない部分、ですかぁ?」

 

「そそ、ウチは見ての通り拠点規模が大きく人員の装備も割りと特殊、おまけに急かされては無いけど新装備の開発・検証もしなくちゃなんない、その業務は妖精さんが協力してるとは言え、基本夕張君が一人で回してる状態なんだよね」

 

「あー……うーん、改めてそう言われてしまうと、工廠が担当している業務はもの凄く多いのかも」

 

「んで自分も含め彼女に色々と掛けてる負担とか、指示する装備の仕様とかも特殊でね、その辺り色々と無茶な部分があって掛けてるストレスは相当な物だと思うんだ」

 

「……だから色々やっちゃってる事に対しては、ストレスの解消だからって提督さんは色々と大目に見ていると」

 

「やらかした時はそれなりにペナルティは与えているけどね、それでも厳罰を与えるつもりは無いよ、まぁやってる事が自分に対してで納まっている限りは、だけどね」

 

「うーん……じゃぁ提督さん、一つご提案があるんですけど」

 

「ん? 提案?」

 

「次からもし車とかバイクを買ったら、その管理とか保管は鹿島にお任せしてくれませんか?」

 

「管理とかを君に?」

 

「はい、鹿島は車やバイク大好きですし、今度自分用のバイクも購入するから教習施設の脇にガレージスペースを確保したんです」

 

「あーそうなんだ、んー……じゃもし次何か買ったらその辺りお願いしちゃおうかな」

 

「やった! 約束ですよ? 楽しみにしてますからね?」

 

 

 彼女的にメロン子に対する色々な事に納得したのか、それとも大好きな車いじりの予定が現実味を帯びてきたせいなのか、横に並ぶ姉の微妙な雰囲気とは違い楽しげな空気を醸し出していた。

 

 

「それで提督さん、さっき言ったと思いますが鹿島バイクを購入しようと思ってるんですけど、どこかにお勧めのショップとか、部品の購入ルートとかご存知ないですか?」

 

「あーバイクなら行き着けの店があるにはあるけど、君的にどんなバイクが欲しい訳?」

 

「え~っとメーカーは特に拘りは無いんですけど、排気量は大型で、80年代から90年代の物がいいかなぁって」

 

「バブル期のバイクかぁ、部品の供給を考えると維持は厳しいけど、あの頃のバイクはメーカーが性能に全力を注いでいた物が多いからねぇ」

 

「そうなんです! 今時のバイクは人に合わせた軟派な物ばかりで全然楽しくないんです! でもあの頃って本来の目的である"速く走る為"だけにメーカーが頑張って作った究極のバイクが沢山存在するんですよっ!」

 

「あ……あぁまぁそうだねぇ」

 

「それ以前だとそこそこの物もあるんですが、技術が追い付いてないからロマンだけが先行しちゃって肝心の走りが物足りないんです」

 

「うんまぁ……うん」

 

「レプリカマンセーとか言う人も居ますけど、鹿島的にそれはバイクの正当進化の究極点の一つであり、機能美と性能が高次元で融合した美しい機械だと思うんですっ!」

 

「ああうんちょっと鹿島君落ち着いて、て言うかスプーン提督に向けてブンブンしないで?」

 

「個人やショップビルドじゃなく、そんなバイクや車をメーカーが真面目に! 本気で作ってたんですよ? これって凄い事だと思いませんか提督さん!」

 

「いや判ったからって冷たっ!? ちょっ!? もーアイス提督の顔面に飛んできてるから! カトリーヌヘルプ!」

 

「申し訳ありません、この子ったらスイッチが入ってしまうと周りが見えなくなってしまうと言いますか、そうなってしまうと私ではどうにも……」

 

「それじゃ提督さんっ! 鹿島の部屋には当時物のパンフとか資料沢山ありますから! どれが良いかとか予算的な相談とか! むしろ車とバイクのお話をもっとしましょう! うふふふ……これは色々期待できそう!」

 

「待って! ちょっと待って! 君提督をどこに連れていくつもりなの!? ねぇっ!?」

 

 

 

 こうして割と髭眼帯は常識枠だと安心していた練習巡洋艦姉妹であったが、蓋を開けてみればスイッチが入ってしまうと色々と特殊な趣味と言うか性癖が露出してしまうという、ある意味大坂鎮守府に居る他の艦娘にも負けず劣らずというカオスな一面を持つ艦娘であった事が露呈してしまった。

 

 

 その後拉致されてしまった髭眼帯は夜通し車だのバイクだのの話に付き合わされ、翌朝漸く開放された時は目の下に隈を貼り付けゲッソリした状態であり、鹿島は正反対にやたらとキラキラツヤツヤした状態であった為、その様を見た事情を知らない者達からは余計な誤解と物議を醸し出す結果となってしまうのだが、それはまた別の機会に語られるという事は無い、多分。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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