大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 何事も事象は積み重ねの先にある結果であり、それを無視して結果には至れない。
 一足飛びでそれを無視して至ったとしても、必ずその意味を知る時は来る。
 時間を掛けてそこに至った者はどんな形であれ結果を受け入れ、そしてそれを自分の一部とするが、そうでない者には理解が及ばないという壁が存在する。
 歪で突発的な事象で現在を生きる吉野三郎は、己の心を真っ直ぐに出したが、それは正解ではあったが、不正解とも言えた、それは覚悟の違い、そして軍の指揮官としては持っていて当然の、艦娘を取り巻く現在の"理"に触れる部分でもあった。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/05/27
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、ワタソンティウス様、有難う御座います、大変助かりました。


認識不足と後始末

 春が終わり、初夏を迎える寸前の僅かな期間、世間では梅雨と呼ばれる頃、大坂鎮守府にもしとしとと降る雨が顕著に見られる様になり、今夜も静かに空からの露で外壁を濡らす艦娘寮。

 

 その一階に入る居酒屋鳳翔は入り口を入ってすぐのロビーに居を構え、昼・夜の二部制で営業をしている。

 

 昼は11:00(ヒトヒトマルマル)から14:00(ヒトヨンマルマル)と昼食を意識したメニューが出されるお食事処として、夜は17:00(ヒトナナマルマル)から24:00(フタヨンマルマル)迄の間、アルコールも提供する大人の店として店主の鳳翔と二番に入る龍鳳の二人が切り盛りしていた。

 

 (くつろ)ぎと癒しを提供するという事を旨とした営業スタイルは、基本和食がメインでありながらも求められれば多種多様な料理が出され、少しアレな大坂鎮守府の嗜好が過ぎた飲み物や食品にすら、営業に支障が無い範囲なら対応するという状態にあり、一種異様な部分も含んで、店に訪れた客の組み合わせによっては『異次元居酒屋』という物にも変貌してしまう、そんな店であった。

 

 

 そんな居酒屋鳳翔は、今夜は暖簾を出しておらず営業はしていなかったが、店には明かりが灯り、そして店内では店主の鳳翔と吉野がカウンターを挟んで差し向かいにあった。

 

 カウンターの上にはふきの煮物や筍とワカメの煮物、そして吉野の好物の鳳翔特製手作りコロッケが並び、その横には髭眼帯が愛して病まないもとい、愛して止まないドクペの缶という、大坂鎮守府居酒屋鳳翔らしい風景が展開されている。

 

 アツアツのコロッケを頬張りウマウマと呟く髭眼帯、だらしない相を表に貼り付け、それを店主の鳳翔があらあらとにこやかに眺めているのがいつもの絵面(えづら)であったが、今日はそれとは違う絵がそこにあった。

 

 

 ウマウマと言いつつも怪訝な表情でコロッケを齧り、目の前を凝視する吉野。

 

 そしてカウンターの向こうに居る鳳翔はいつもと変わらずの割烹着姿で料理をちょこちょこと小鉢に盛っている姿があったが、何故か頭にだけいつもとは違う、何と言うか、ぶっちゃけバニー的なブツが乗っかっていた。

 

 それは例のタケゾウが着るバニースーツにセットとして装着されていた物と同じタイプの、原理は謎であったが装着者の感情に反応してピクピクと色々な動きをする、明石セレクション謹製のアレである。

 

 よいしょっとと声を漏らしつつ、背後の棚へと振り向く鳳翔のヒップには、ちょっと小ぶりの毛玉と言うかウサちゃんのシッポがいつもの服に装着され、それも心なしかピクピクと動くという不思議仕様。

 

 

 いつものオカンTHE割烹着スタイルにうさちゃんシッポ&耳という趣旨が良く判らないスタイルと、吉野が来店すると暖簾を下げ、そして龍鳳にも休みを出しての貸切という異常事態に色々と考えずにはいられない髭眼帯、もはやその状態で何も考えるなと言う方が無理と言うものであった。

 

 

「……コロッケ美味しいです」

 

「それは良かったです、お代わりもありますよ」

 

「はい……」

 

「大盛りもできますよ」

 

「あ、はい」

 

 

 オカンの言葉に視線を脇に走らせると、カウンターの向こうにはうず高く積み上げられた揚げたてコロッケの山頂部分が僅かに確認出来る。

 

 もしやアレを全て食わねばならないのか、幾ら好きと言っても空母盛りとか戦艦盛りは人にとって致死量なのではと髭眼帯の額から冷や汗が流れ落ちる。

 

 

「きょ……今日は何故貸切に?」

 

「はい? ああそれは気分で」

 

「気分ですかぁ、そっか気分なんだぁ……」

 

 

 気分で店を貸切にして差し向かいとか、先日の会議を発端とした話をする為店を訪れた髭眼帯にとって、オコ状態と聞いていた鳳翔の「気分」の意味を考えた時には更に嫌な汗が噴き出すという状態になっている。

 

 

「えっとその、鳳翔さん」

 

「……さん?」

 

 

 髭眼帯の一言に反応し、振り向いた鳳翔は肩越し状態の三白眼で睨む状態で、頭にセットしたうさちゃんイヤーが忙しなくピクピクとするという、どうにも反応に困る姿でカウンターの向こうに居た。

 

 

「……さん(・・)?」

 

「あーうん、えっと鳳翔()

 

 

 敬称付けに反応するオカンにそれを訂正すると、ニッコリと表情を変え、ついでにうさちゃんイヤーがピコンと立つというのを見た髭眼帯は小さく溜息を吐き、ドクペで口中のコロッケを胃に流し込んだ。

 

 空いたグラスにキンキンに冷えたドクペが酌によって注がれ、空いた皿にコロッケがヒョイヒョイと自動装填されるという、居酒屋で繰り広げられる大人の風情と言うには程遠いカオスがカウンターで繰り広げられる。

 

 

「えっとその……鳳翔君、その……何と言うかその耳と言うかシッポと言うか、それは一体……」

 

「はい? ああこれは気分で」

 

「気分ですかぁ、そっか気分なんだぁ……」

 

「似合いませんか? やはり明石さんが言う様にその……水着と言うかあの感じのスタイルと言うか、そんな服もセットにした方が……」

 

「イエ、ソノママデイイトオモイマス」

 

 

 オカンスタイルINうさちゃんセットと言うのは珍妙なスタイルであったが、まさか鳳翔と話をする際にバニーだったらどうなのかという想像をした髭眼帯は、癒しの空間がそっち系に侵食された状態を想像してプルプル震えた。

 

 

「鳳翔会ではこの辺りの衣装や小道具が流行と聞き、明石さんにお願いしてコーディネイトして貰う者も居るみたいで」

 

「えぇ~……鳳翔会ぃ? なぁにそれぇ?」

 

「はい、主に居酒屋を切り盛りしている"鳳翔"達の集いと言いますか、坂田元帥の秘書艦をなさっている鳳翔が音頭を取って活動している会があるんです」

 

「あー……あの(・・)鳳翔さんですかぁ」

 

 

 髭眼帯は、以前大本営で元帥と会談した際に相対した鳳翔を思い出し、なる程と首を縦に振った。

 

 

「今回の件でもその鳳翔が提案し、明石さんをアドバイザーに迎えて色々お知恵を拝借したそうですよ?」

 

「アドバイザー……知恵を拝借……」

 

 

 あの鳳翔さんにピンクのモミアゲがアドバイス、その結果がカウンターの向こうに居るうさミミの鳳翔と言う事は、現在の鳳翔界の惨状はもしかして危機的状況にあるのでは無いかと髭眼帯はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

「えっとそのあの……その会長の鳳翔さんもその……君みたいにうさちゃんイヤーとシッポを?」

 

「え? いえ私はその……余りあの辺りの格好と言うか、露出度はちょっとという感じで遠慮したのですが、確か坂田さんの所の鳳翔はオススメのセットをフル着用していたと思います」

 

「元帥さんチのぉ……鳳翔さん、フルセットなのぉ?」

 

「はい、今度執務の際着用してみようかと言ってましたが」

 

 

 うさちゃんフルセット、それは確認する迄も無くタケゾウやキャプテンが着ていた類のアレだろうと言う事は髭眼帯には容易に想像が付いた。

 

 それはつまりうさちゃんでは無くバニーガールであり、割と脱いだらエロいボディ系と評判の鳳翔と言う女性がプレイ○イトばりのあはんうふん系な格好になっていると言う事であり、それがあの大本営の鳳翔さんが入手したと言う事は、現在元帥の執務は大和という秘書艦を吉野へ譲った関係で執務補佐は鳳翔さんが殆どしていると言う状態であって、つまり元帥さんの執務室はプ○イメイト状態の鳳翔さんが執務補助をしていると言う事になる。

 

 

 判り易く表現すると、海軍元帥大将坂田一秘書艦鳳翔(バニーガール)という事であった。

 

 

 そんな色々な惨状を想像してプルプル震える髭眼帯の前では、ウサミミの鳳翔が次の料理を出そうと何かを準備していた。

 

 そろそろ蒸し暑いという表現が出来る状態の大坂鎮守府、冷房では無いが除湿運転でエアコンを回す店内でクツクツと煮える様を見せる鍋。

 

 

「提督はおでん、お好きでしたよね?」

 

「き……嫌いでは無いですが、また何と言うか……季節的にそろそろおでんと言うのはどうなのかなぁとか提督思ったりするのですが……」

 

「何でも関西ではおでんの事を『関東炊き(かんとうだき)』と呼ぶそうで、お好み焼き店やたこ焼き屋さんでは年間を通して供されるソウルフードでもあるらしいですよ?」

 

「へ……へぇ、かんとうだきかぁ、そうなんだぁ……」

 

 

 眉をピクピクしてうさみみのオカンの話を聞く髭眼帯の前に、スっと差し出されるガンモ。

 

 アツアツに煮え、汁をたっぷりと含んだブツと、ニコニコとしてそれを差し出す鳳翔を交互に見る髭眼帯、それは絵面(えづら)としてはアーンというカンジでパクリしろというシチュエーションにも見えるが、箸で摘まれカウンターの向こうから差し出されているのは鍋直で出荷したてのがんもである。

 

 それにそのまま齧り付くと言う事は、アツアツの汁がジュワっとしちゃい大惨事と言うか、色んな意味で危険行為である。

 

 

「あ……あの鳳翔君、それ小鉢か皿に入れて出して貰うと言うか、鍋直じゃない状態でないと色々提督口に入れるのはキケンなのではとか思ったりするのですが……」

 

「関東炊き、美味しいですよ?」

 

「いや美味しいのは理解していると言うか待って! 何で君提督の肩掴んで固定してるのアッツッ! 待ってガンモ顔はアッツウゥゥゥイ!」

 

「今日は奮発してコロ(鯨皮肉)も入れてますからね、沢山食べて下さい」

 

「コロがぁぁぁぁぁ! プルンプルンしててアッツゥゥイ! ヤメテーー! マジヤメテーーー!」

 

 

 こうして大阪のある意味ソウルフードのおでん改め関東炊きをカウンター越しで供するうさみみの鳳翔が、うさみみをピクピクさせてアツアツの鯨のコロで髭眼帯の顔面をビタンビタンするという事が暫く続き、往年のリアクション芸を彷彿させる世界が観客も居ない店内で繰り広げられたという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「えっとその、ぶっちゃけ今日は鳳翔君のご機嫌伺いと謝罪の為来店しました、色々とサーセンシタ」

 

「はい、店に来ると言う事は龍驤から連絡を受けていたので色々と好物をご用意させて頂きました」

 

 

 関東炊きによるガンモ→コロ→ゆで卵というコンボでピチュンされた髭眼帯はギブアップ宣言と謝罪をし、色々と思う処もあったが、その言葉に一応何かを納得した鳳翔は素直にそれを器に盛り付け、はいどうぞという流れでカウンターへ並べた所でリアクション抗争は一応の幕を閉じた。

 

 鳳翔がオコ状態なのは知ってはいたが、何をどうして事を収めた物かと思い悩んでいた吉野は、長門の薦めによって事前に龍驤へ相談していた訳だが、その辺りは色々な騒動があったせいで殆ど話している時間が無かった。

 

 また龍驤自体鳳翔の強情な一面を知っていたせいか、『とりあえず変に捻った事せんと、素直に話をした方がええんとちゃうかな』とだけアドバイスし、裏ではそれとなく鳳翔へ連絡を入れるという行動で髭眼帯の手助けをした訳だが、その結果が関東炊きの仕込みと、店を貸切にするという結果に結び付いていた。

 

 未だジト目のうさみみ鳳翔の前では、椅子に正座の髭眼帯がコロをモグモグしつつ謝罪するという微妙な絵面(えづら)を生み出し、異次元居酒屋の夜は更けつつあった。

 

 

「提督、貴方は以前大本営へ送られた妙高に何て言ったのか覚えていますか?」

 

「……はい、覚えてます」

 

「染谷司令の元から離され、全てを終わりにしようと覚悟していたあの子に対し、貴方は体を張ってその考えを変えさせ、「居場所を作ってやる」と言ったのでは無かったのですか?」

 

 

 第二特務課へ三番目に着任した艦娘、岩国基地でそれまで秘書艦として勤めていた艦娘妙高は、当初第二特務課へ異動してきた際は全てに絶望し、己の命を絶つ事で当時岩国基地司令であり、軍を離れつつあった染谷へ殉じる覚悟を固めていた。

 

 それは艦娘という者の生き方と、長きに渡った親子にも似た関係の末に至った彼女の生き方から出た行動であり、誰にも触れてはならない心の傷でもあった。

 

 染谷文吾という老将が吐露した本音を聞き、妙高という頑なに全てを終わらせようとする艦娘との関係と絆を見た吉野は、当時強引に、そして自分の考えを基にした思想を彼女へぶつけ、そして生き方を捻じ曲げさせた。

 

 それは彼女の前に赴任してきた時雨と榛名という二人に触れた際垣間見た理不尽と、歪な生き方に対し己なりの覚悟を固めた吉野の矜持がさせた行動であり、後先考えない物ではあったが、妙高という艦娘にはそれでも残りの全てをこの髭眼帯と共にという考えをさせる切っ掛けとなり、今も尚その心は変らずに強く、彼女の行動原理となっていた。

 

 

 あの吉野が会議室で己の考えを述べた際は、榛名が激高して吉野へ噛み付いていたが、その後ろに座る妙高はそれに隠れる様に俯き、歯を食いしばって涙を流していた。

 

 

 居場所を与えてやると、一緒に居ると、命をやるから命をくれと。

 

 

 嘗て吉野が言ったその言葉を胸に、共に死線を往く覚悟をしていたのにどうしてだと、何故『次の誰かと共に在る為に』なんて言うのかという悔しさを噛み締めていた。

 

 

「あの子に"次"なんて言葉は無かったんです、それなのにあの子の心を染谷司令(父親)から自分へと向けておいて、ここまで引っ張ってきておいて、何故貴方はあの子を置いて逝くなんて言葉を言ったんです?」

 

 

 静かに淡々と、それでも責める色を含む鳳翔の言葉は、妙高だけでは無く、岩国に居られなくなり、それでも全てを引き受けるという言葉に寄り掛かり、信じてきた己の心情も幾らか含んだ物になっていた。

 

 

「艦娘と言うのは戦いしか無かった前世を背負って生まれてきます、そして人型として生きる今も戦いしか知りません、人を守護する事に自分の存在を依存するという歪な生き方しか出来ませんが、その中でも……提督という存在は特別なんです、前世も今も、私達と深く関わり、そして私達を私達と認めてくれて、常に接してくれる提督という存在は……ある意味私達以外の……世界の全てとも言えるんです、人を守るという言葉を口にしても私たちが言う人というのは見たことも無い誰かなんかでは無く、提督と言う人間……貴方達の事なんですよ?」

 

 

 元々艦娘は提督には基本好意的な心情を持つとされている。

 

 それは"提督に惚れ易い"という俗っぽい言葉として揶揄される状態にあったが、ある意味それは女という肉体を持って生まれ、戦いという世界しか知らず前世と今世を生きる存在にとって、唯一心の拠り所となる、一番身近な存在である提督に対して生まれる感情として、それは起こり得るのが当然とも言える状態であった。

 

 人と同じ精神構造を部分的に持つ状態で、選択肢の限られた者達の生き様は、戦いにのみ向けるには残酷な程多感であり、そして純粋であった。

 

 故に一番身近で、そして殆ど唯一関わりを持つ人間である提督へは絶対的に近い上司部下の関係を築き、恋慕、若しくは親兄弟に近い親愛の情を持つに至る。

 

 

「あの子が人前で涙を見せるのを私は初めて見ました、岩国では全てを取り纏める任に就き、弱みを見せられないと軍務を忠実にこなし、己を律していたあの子が……鎮守府の司令長官の言葉に対し"悔しい、何故"と漏らして涙を流したんです」

 

 

 鳳翔の言葉に相槌も打てず、黙って言葉を聞きつつ真っ直ぐな視線を向ける吉野に、岩国からここ(大坂鎮守府)へと来た鳳翔という艦娘も真っ直ぐ視線を返す。

 

 

「私達は戦いで死ぬ覚悟はあっても、提督が死ぬという覚悟は持てません、提督が死ねば艦娘の心も死んでしまうんです、だから忘れないで下さい、例えそれが不可能でも、嘘であっても、一度私達を率いて提督となったなら、貴方は死なないと、生き続けると言い続け、私達を騙し続ける覚悟がいるのだと」

 

「騙し続ける覚悟……かぁ、随分とそれは、重い役目だねぇ」

 

「提督という存在が居れば私達は笑って戦場へ出れるんです、死ねという言葉も受け入れられるんです」

 

「君達の心は……うん、真っ直ぐ過ぎて自分には何と言うか……直視し辛いよ」

 

「だから長門さんも言ったんでしょう、提督はただ……手の届く処に居るだけでいいと」

 

 

 鳳翔の言う言葉は、本来戦場で叩き上げられ、経験を積んできた"提督"という者なら自然と理解する物であり、そして長い時間を掛けてそれらに対し覚悟を固める物でもあった。

 

 しかしその教育も受けておらず、戦いの場を内へ、人に対して行い、そして艦娘という存在とは縁があっても行動を共にした経験が無い状態で突然"提督"として多くの者を率いる事になった吉野には、海で戦う者達の間にある覚悟や常識が欠如していた。

 

 それは言い訳にはなるだろう、しかし現状でそれが認められるかどうかと言われれば明確に否と謂わざるを得ない。

 

 

 何故なら事情がどうあれ吉野三郎という者は多くの艦娘を率い、そしてその命を預かる事を受け入れ、自ら提督と名乗る道へと足を踏み込んだ。

 

 

 それはこの先もう逃げ場も何も無く、艦娘達を背負い、艦娘達を騙し、そして理不尽を艦娘達へ命じる義務と、それらを実行し続ける覚悟が必要な生き方であった。

 

 

「嘘でいいんですよ、私達もそれが嘘だと知っています、正直に自分の気持ちを言葉にする提督のお心は嬉しくもありますが、それを受け止めるには今の私達の在り方では余りにも……(むご)過ぎます」

 

「だから嘘を付き続け、そして嘘を真にする為足掻き続けるかぁ……確かにそれは、大変そうだ」

 

「良い男と言うのは、女に夢を与え最後まで騙し続けてくれる殿方の事を言うんですよ? 提督」

 

「ねぇ鳳翔君、それってジゴロって言うんじゃないの?」

 

「ふふっ、女はいつまでも夢を見続ける物なんです」

 

「あーうん、勉強させて貰います」

 

 

 うさみみをピコピコさせつつグラスへドクペを注ぐ鳳翔は、いつの間にかジト目の不機嫌な相から、いつもの如くニコニコとした表情に変化していた。

 

 並々とグラスへ注がれたケミカル炭酸を口にする髭眼帯はその様を苦笑で迎えつつ、目の前に今も過剰に盛られ続けるコロッケの山と、何故か一端カウンターの内へ戻された関東炊きの器の中身がアツアツの湯気を上げる物へと入れ替えられ、ゴトリとカウンターへ出されたのを見て、更にはまだ何かを作る為だろう、まな板の上でピチピチと跳ねる魚を捌き始めたオカンを横目に、料理の消費の為の援軍を呼び出そうとポケットからスマホを取り出したが、チカチカと発光するそれを見て首を捻った。

 

 

「ん? メールの着信?」

 

 

 取り出したスマホの画面は消えていたが、操作用のボタンがメールの着信を知らせる為にLEDの光で点滅しているのを見た吉野は、その内容を確認する為スマホを操作して着信しているメールを開く。

 

 

─────────

 

 

2018/05/○○ 19:37:41

From : 坂田一(元帥大将♡)

To : 吉野

SUB : 吉野中将へ

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吉野君、一つ聞きたい事があるのだが。

 

明石セレクションのバニーメイドという商品に何か心当たりは無いかね?

 

発送タグは大坂鎮守府明石酒保となっているのだが。

 

形状はこの様な物なのだが、もし心当たりがあれば至急連絡をくれ給え。

 

 

─────────

 

 

 それは海軍TOPである坂田一元帥大将からのメールであった。

 

 

 

 メールの差出人と文章を確認し、プルプル震える指で添付ファイルを展開した髭眼帯の目に映ったそれは、真っ赤な燕尾バニーというブツを着込み、ニコリとした笑顔でポーズをキメている元帥さんチの鳳翔さんのお姿があった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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