大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 ロボの被害にもめげず三度愛車を求め天王寺へ出陣した髭眼帯、色々マニーで濃い一時を過ごすもそれを堪能する暇も無く、大坂鎮守府という軍団立ち上げの総仕上げに着手しつつ、今日もまた精神的にゴリゴリと何かを削っていくのであった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2019/04/29
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました黒25様、MWKURAYUKI様、じゃーまん様、柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました。


おこたで繰り広げられるアレやコレ。

 大坂鎮守府艦娘寮大広間、総畳敷きのそこは凡そ40畳程の広さがあり、壮行会や宴会を行うのを想定して作られた部屋である。

 

 またそこは本来の用途で使われる事もあったが、それ程大人数が参加しての催しを開催する機会が無い事に加え、空き状態で放置するのは勿体無いという事情が絡み平時では一般開放されている関係上、艦娘達が其々私物を持ち込んで寛ぐというのが常態化しており、現在の大広間は一種のレクリエーションルームとしての位置付けで利用されていた。

 

 

 炬燵が中央に数脚密集しており、そこから方円状にゲーム用やビデオ鑑賞用の液晶TVが配置され、室内遊具が割りとそこかしこに散見する場は正に溜まり場という表現が正しい混沌とした空間になっており、業務外の時間になると大抵の者はここに取り敢えず集い、無目的にまったりとするのが当たり前になっている為消灯時間までそこから人影が絶える事は無い。

 

 そんな空間の中央に据えられている炬燵では、髭眼帯が書類の束片手に寝っ転がっての寝オチ状態であり、その周りにはみかんを頬張るでち公やら長門とか、提督の腹を枕に寛ぐ時雨と響やら、油性ペンでその寝オチしている提督のデコに『肉』と書き込んでいる加賀やらと、正にカオスの坩堝と化していた。

 

 

 元々その時間帯は吉野にとって自室でまったり過ごしていた時間なのであったが、自室を執務棟から艦娘寮に移してきて以来、それ程広くも無い部屋に艦娘達が遊びに来て色々とカオスと言うか鮨詰め状態で収拾が付かないという毎日が続いた為、自然とこの大広間で消灯までの時間を過ごすというのが日常となってしまっていた。

 

 そして今日もそこで過ごしていたのだが、ここ数日の件で忙殺され、やっと組織改変の為の人員整理に着手した訳だが、その件も色々と問題が山積されていた為に、比較的部署の関係を問わず人が集まり易い大広間で諸々の意見を聞きつつ考えを纏めようと仕事を持ち込んだのであったが、そこはそれ、業務外という緩い雰囲気と、連日の疲れからかそのまま寝オチして高いびきと言うのが現状であった。

 

 

「おい加賀、大概にしておかないと後でどうなっても知らんぞ?」

 

「大丈夫よ、元々髭とか眼帯なんかの顔パーツが多いから多少そこに何かを足しても目立たないでしょうし、筆跡はちゃんと長門の物に偽装してあるから」

 

「ちょっと待て、今何と言った!?」

 

 

 無表情でテヘペロ状態の青いヤツにナガモンが本気の突っ込みを入れる、そんな漫才が繰り広げられている脇ではたまたまだろうか昔の吉野を知る呉組と同期の艦娘という集団が苦笑いでそれを眺めている。

 

 

「加賀のフリーダムは相変わらずでちね」

 

「あははっ、響ちゃんが寝オチしてなかったらもっと酷い事になっていたかも」

 

「そうなんでちか?」

 

 

 ピンクのジャージのでちでちに片目を淡く明滅させつつ古鷹エルがそう答える。

 

 そんな大天使と言うか被害者ポジの彼女はボリボリとサルミアッキを噛み砕きつつドクペでそれを流し込むという、高度でカオスな寛ぎ状態である。

 

 

 色々と昔は周りからの被害を一身に受けていた彼女であるが、それが災いしてしまい加賀や吉野達の一種異様な好事に付き合わされるという日々を過ごした過去は、周りのアレで色々な好みをハイブリッドでインプットしちゃった奇跡の存在となって完成してしまっていた。

 

 

「しかしアレですよねぇ、三郎さんて本当にその……昔と比べて印象が随分と変っちゃったんですけど、呉から大本営に移った後に何かあったんですか?」

 

「ん~…… 変ったと言うか、何と言うか、まぁ仕事で色々あったんでち、呉の頃のてーとくってどんなのかごーやは知らないから何とも言えないけど、今のてーとくは猫被ってるとかそんなのじゃ無いのだけは確かでち」

 

「あの厨二病患者がどうすればここまで豹変するのかなぁ」

 

「私が提督と初めて逢った時は既にこんな感じだったから、逆に古鷹の言う昔の提督とやらの方が違和感を感じるな」

 

「あ~長門はそうかも知れないでちね、今思えば……二人のイメージを聞くとほんとてーとくはまぁ色々と……豹変し過ぎって言えるかも知れないでち」

 

「でもこの前の会議で色々やらかしたのでしょう? なら根っこの部分は案外昔から変ってないのではなくて?」

 

「まぁ人間早々変る事なんて普通は無いのだろうが、それでも提督の昔話を聞くと中々今とは繋がらんと言うのはな、何と言うか古鷹と同じく私も感じてはいんるだ」

 

「それは……まぁ」

 

 

 妙に弛緩した空気の中、ごーやは少し歯切れの悪い言葉で茶を濁しつつ、加賀の方をチラ見している。

 

 そんな視線に気付いたのか、いつの間にか筆ペンに持ち替えて吉野の顔面で○×遊びに興じていた加賀はピタリと動きを止め、一度何かを考える仕草をした後溜息を吐きつつ炬燵の中へ足を突っ込んできた。

 

 表情はそのまま、古鷹の持つダークマターを二つばかり口に放り込んでボリボリとしつつ、それを噛み砕いて飲み込んだ後に多分、と一言呟いて言葉を切る。

 

 いつに無く真面目な雰囲気に首を傾げる周りと相変わらず気まずい雰囲気を滲ませるごーやという卓は、寝オチ状態で枕にされている髭眼帯が中心となったおかしな空間のまま、加賀の言葉を待つ状態になっていた。

 

 

「まだ提督が特務に就いて間もない当時、ある案件に関わったんだけど、多分それが原因で色々と……人格が変ってしまったんでしょうね」

 

「ふむ? ある案件?」

 

「ええ、まだあの当時は艦娘の安定した運用を模索していた時代で、色々な研究や検証も今とは違って軍の委託という形で民間でも広く行われていたの」

 

「そう言えばそんな時代もあったか……と言うか、今はその手の研究は軍の内部でしか行われていないな」

 

「そうね、今言った案件に色々と問題があって、それが切欠で基本的に艦娘や深海棲艦の研究……主に臨床試験や実験という形の物は民間では行ってはいけないという事になったの」

 

「へー……結構大事だったんですねその案件って、それって一体何かあったんですか?」

 

「とある企業が持っていた施設でね、艦娘の生産数を水増しする為の研究が進められていたのだけれど、それが表に出せない非人道的な類の物だったのよ」

 

「非人道的?」

 

「そう、艦娘の建造が頭打ちになって戦力を増やす事が出来ないなら、別の手段で艦娘の数を増やそう……そういう考えの下、人の手で艦娘という存在を模作しようとしたのよ」

 

「模作って……そんな事可能なんですか?」

 

「さぁ? 私もその辺り調査結果の一部しか聞かされて無いから詳しくは言えないのだけれど、その研究は人間を素体として艦娘並みの戦闘力を持つ何かを造り、私達の代替にするつもりだったみたいね」

 

「人間を素体に……だと?」

 

 

 弛緩した空気が一瞬で凍り付く。

 

 元々艦娘とは人型をした肉を持つ存在であるが、容姿が人と同一というだけで生物学的特徴はまったく別な生命体である。

 

 その存在と同等の能力を人間へ持たせるという事は、つまり目指す先は『人を捨てた存在を作る』という行為に他ならず、論理的にも人道的に於いてもそれは認められる物では無い禁忌と言える。

 

 そしてそんな研究へ自ら進んで協力するという被験者が居るかと言えば、それは常識的に考えるまでも無く答えは出る話でもあった。

 

 

「まだまだ成人していない戦災孤児が多かった頃、人が踏み込んだ事が無い分野の研究が始まったばかりでどこの研究機関も躍起になってそれを行っていた時代よ、それなりに無茶を通して研究をしていても特に不思議ではないわ」

 

「それで……その研究内容というのは」

 

「建造で出た艤装をそのまま改修素材として流用せず、それに適合する肉体を用意する、その為の研究……だったかしら」

 

「無茶だ……艤装には艦の分霊が入ったコアが格納されている、それを魂を持つ人が背負うなど……」

 

「本当にね、資料によればそれを可能にする為の人体の強化から始まって艤装自体の改造、更には最適化したクローンの培養とか、思いつく限りの研究が大規模で行われていたみたいよ」

 

「正に非人道的研究というやつだな……それで、提督が携わった特務というのは」

 

「その研究施設の内定と家宅捜索時の水先案内」

 

「そこで何があったと?」

 

「そこの辺り詳しくは知らないわ、でもその件があった後、何故か提督……三郎さんは私に侘びを言いにきたの、唐突にそんな事されてもこちらとしては訳が判らないでしょう? それで知りたくも無かった案件を調べるハメになったのだけれど……」

 

「侘び?」

 

「ええ、その研究施設では既に各研究の集大成に当る段階の物が既に作られていたらしくて、その試作されたモノというのは既存の艤装をベースに更なる強化改修を施した、未成艦(・・・)と言う物だっみたいなの」

 

「未成艦? 何故そんな物が」

 

「現存している艦とは別に、艦種を増やす事で艦隊編成の選択肢を増やすのが目的だったそうよ、ほら、一艦隊には同一艦は配備出来ないでしょう? それに対応しようとしたのでしょうね」

 

「なる程……それで、それがどうして三郎さんが加賀さんに詫びを入れるという事になるんです?」

 

「家宅捜索で踏み込んだ先に居たのは、私と瓜二つの戦艦(・・・・・・・・)、未成艦……加賀型二番艦の土佐と呼ばれていた者だったらしいわ」

 

 

 嘗て八八艦隊計画が進んでいた頃、まだ戦艦として建造されていた加賀には姉妹艦とも言うべき二番艦が存在していた。

 

 その艦は当時の三菱造船所にて建造中であったが、後のワシントン海軍軍縮条約の締結により建造を中止、八割方完成していた土佐はそのまま軍へ引き渡される事になったが、結果から言えば武装は解体され他艦へと搭載、若しくは陸の要塞へと流用され、船体は標的艦として実験に使用される事となり、最後は曳航中高知県沖にて自沈しその生涯を終えている。

 

 そんな時代に翻弄され、戦場へ出る事も無かった加賀の姉妹艦だったが、皮肉にも今加賀と会話をしている長門にはこの土佐の三番砲塔が受け継がれていた。

 

 更にそのまま八八計画が進んでいたなら長門、陸奥と同じく加賀と土佐も戦艦として就役する筈であった為、加賀だけでは無く長門にとっても土佐という名前は普通に聞き流せる程縁遠い存在でも無い。

 

 未成で終わったその存在とは、長門型よりも砲数が多く、更に高速艦として設計されており、本来ならばビッグセブンという言葉は生まれない筈であった。

 

 

 艦娘という存在は必要とあらば未成艦という存在も生み出されるという性質を持っていた、その可能性を鑑み、長門型よりも高性能、且つ既存艦と存在が重複しない存在として当時の研究者は対象を定め、系譜的に近い加賀と長門型の艤装を掛け合わせ、生み出そうとしていたのが試作段階の加賀型戦艦二番艦 土佐であったのだという。

 

 

「土佐……だと?」

 

「えぇ、無茶な艤装改修をやって、無理にそれを人間へ充てたからでしょう、その子は自分が土佐という自覚……と言うか、無理に刷り込まれたと思われる人格(・・・・・・・・・・・・・)はあったみたいだけれど、ソレ(・・)は実用に耐えない出来損ないだったらしいわ」

 

「それで、その艦はどうなったんだ?」

 

「そこに居た研究素体は全て拿捕して大本営へ連れ帰れという命令だったらしいけど、三郎さんはその命令に従わなかった」

 

「それって……つまり……」

 

「人なのか艦娘なのかあやふやなソレ(・・)は、三郎さんが生かしておけないと思った程に哀れで、悲惨な状態だったのでしょうね」

 

 

 目を細めて吉野を見る加賀の顔は相変わらずのポーカーフェイスだったが、口から出る言葉はやけに柔らかく、そしていつもよりも感情の乗った物だった。

 

 

「勝手に哀れんで、勝手にドツボにはまって……最後に何も知らない私に頭を下げに来て…… その日以来徐々にだけれど、目に見えてこの人は性格が変わっていったわ」

 

「それからただの丁稚が影法師って言われるまで一年も掛からなかったでちね、確かてーとくが……初めて誰かを殺したのはその子だったらしいでち」

 

 

 それまで見てきた世界とは違った、自分の知ってる世界とは違う、それでも確実に存在する理不尽は、只の世間知らずを打ちのめすには過ぎたる物であり、人格を変質させるには充分な現実であった。

 

 その出来事を境に自分という存在と艦娘を重ね合わせ、軍という組織では己を道具と位置付け、長らく特務仕官として立ち回ってきた数年間、それはある艦娘と出合うまでずっと感情を殺して軍務に就いてきた日々だった。

 

 第二特務課設立の命を受けた時もそういう組織として立ち上げ、艦娘にその仕事を仕込むのだと思っていたが、初めて持った部下から己にぶつけられた抜き身の感情と涙は、自分が向き合おうとしなかった艦娘の本当の姿を嫌でも知る切欠となると同時に、特別な感情を抱かせ、後に世界を変えようとさえ思わせる事となる。

 

 

「古鷹が知ってた三郎さんも、特務課の頃の三郎さんも、そして今ここに居る三郎さんも、全部吉野三郎には違いないわ、でも……」

 

 

 奇しくも同じ大隅の麾下に属し近しくあった加賀は、全ての吉野(・・・・・)を見ていた数少ない関係者であった、そんな一航戦と呼ばれた者は、あの日ただ黙っていつまでも頭を下げていた男の姿を思い出しながら、今自分の提督として生きる髭眼帯のだらしない寝顔をそれ(・・)と重ねて最後はポツリと言葉を漏らした。

 

 

「今の提督(・・)が多分、一番見ていて飽きない人物だと言うのは確かよ」

 

 

 そんな言葉で話を締め括り、再びサルミアッキをボリボリと咀嚼するのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「加賀君、ちょっと提督聞きたい事があります」

 

「……何かしら?」

 

「何故提督が君に膝枕されているのか聞いても?」

 

「 五航戦の子なんかと一緒にしないで 」

 

「いえ提督五航戦の方達に膝枕された経験は皆無なんですが、て言うより何故か目が覚めたら顔面が落書きまみれになっているという謎も説明して欲しいんだけど」

 

「やりました」

 

「何を!? て言うかやっぱコレ君がやったの!? むしろ何で提督の周りの人達が妙に並んで正座しているワケ!?」

 

 

 ついうっかり寝オチした後まどろみから覚醒した髭眼帯は、腹に時雨と響の頭を装備し、更に頭が一航戦の青いヤツの膝に乗っている状態になっている自分という謎状態に首を捻っていた。

 

 更に周りでは正座状態の数名、不自然且つ妙に迫力のある存在感を滲ませながらこちらを見ている者達という、ある意味理不尽且つ謎な状況にも首を捻っていた。

 

 

「一人五分という密約があるの」

 

「何が五分なの!? て言うかカミングアウトした時点で密約でも何でもないからねソレ!?」

 

「提督……」

 

「だからナニ!?」

 

「ここで少しでもアッピールしておかないと、私達の今後の関係と言うか、序列に影響があるから色々大変なの」

 

「何その全然嬉しくない生々しい理由!? 膝枕ってそんな殺伐とした行為だったっけ!?」

 

 

 髭眼帯の突っ込みを全スルーしつつ青いのは次の者へ膝を明け渡すと、スススと離れた位置のコタツへ移動して髭眼帯の観察を始めた。

 

 

 妙に何かを含んだ生暖かい微笑みをニヤリと顔に貼り付けて。

 

 

「……摩耶君」

 

「電にジャンケンで負けたんだ、仕方ねーだろ」

 

「提督久し振りにそのネタ聞いた気がします」

 

「ネタって言うな!」

 

 

 艦娘ヘソ出し枠の一角を成す高雄型三番艦はいつもの制服で膝枕をしていたが、それはいつぞやのビキニメイド榛名のローアングルを思い出すプルンブルンな状態となっており、髭眼帯が現実逃避をするに充分なアレが視界に入っちゃう状態となってしまっていた。

 

 そして視線を横に向けると何故か待機状態の正座の列、現在その先頭に居る龍驤はにっこりと微笑みつつ、膝をポンポンと叩いて何かをアッピールしていた。

 

 

「持たざるべき者でも膝枕やったら関係あらへんからな、これで、赤城や加賀に負けないかな? って……そりゃ~無理か~…あははははは……」

 

「止めてよぅ、提督心が痛くなっちゃうから止めてよぅ……」

 

 

 そんな平たい胸族筆頭の自虐行為に心を痛めつつ、全然癒しの無い膝枕のひと時を過ごした髭眼帯は数十分動けないままされるがままであったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ところで提督よ、このリストにある人員配置だが、いつからこの体制で業務を開始するつもりなのだ?」

 

 

 小一時間程膝枕のベルトコンベアで精神を削った髭眼帯は、死んだ魚の目の様な視線を彷徨わせながら炬燵に突っ伏した状態で長門と今後の事に付いて打ち合わせを行っていた。

 

 一応業務時間外と言う事で其々は私服であり、話の内容もちゃんとした打ち合わせというより軽い雰囲気という空気で、更には何故かぜかましと子犬(時津風)をオプションにした状態と言うカオスで話は進んでいる。

 

 

「ん~一応残りの艦娘さんが着任してからって考えてるんだけど、予定じゃ確か瑞鶴君は明日、そしてアブゥが明後日、後は……誰が残ってたっけ?」

 

「三日後に呉から愛宕さんと熊野さんが、同じ日に阿賀野さんが宿毛湾泊地から、後は……例の」

 

「あ~…… 外務省から通達のあったアレ?」

 

「そうなりますね」

 

「外務省?」

 

 

 眼鏡をクイクイする大淀の言葉に首を傾げる長門、ついでに吉野はマーキングをする子犬(時津風)にグイグイと背中に張り付かれ、ぜかましは何故か炬燵に体を格納しつつ髭眼帯の股間に頭部をセットしてリボンをピクピクさせている。

 

 長らく続いた人員調整は漸く一週間以内に終了の予定となっていたが、それらは途中で起こった事案により国外からの着任という色々な方面からの思惑の元、ターゲットとなってしまった大阪鎮守府は、現在人員が予想以上に増すという結果に頭を抱える結果になってしまっていた。

 

 

 ヨーロッパ連合主導の艦娘供与という直接的な行動は日本国内に影響を及ぼすだけでは無く、他の国に対してもプレッシャーとなって行動を起こさせる原因となり、その結果が更なる人員の追加という形で大坂鎮守府に齎される。

 

 

「ん、ホントこんな時だけ足並みが揃ってると言うか、フットワークが軽いなぁって言うかねぇ」

 

「今度はどこから誰が送られて……おい待て、米国だと?」

 

「ある意味予想はしてたんだけど、こんなに早期に、しかも虎の子の二隻をわざわざ大西洋経由(ヨーロッパ)で送り付けてくるってもぅね、完全に色んな方面への当て付けだと思うんだよねぇ」

 

「ですよねぇ、大人気ないと言うか米国らしいと言うか……」

 

 

 吉野から長門へ手渡された外務省発の書簡にはUnited States Department of Stateという文字が記されている。

 

 日本語に訳すと米国国務省から宛てられたその書類には長々とした文が綴られており、その末尾にはIowaとSaratogaという文字が確認出来る。

 

 

「書簡は米国国務省からとなっているけどさ、一緒に同封されていた親書が国防総省からのって事は、もうこれって米軍主導で行っちゃいましたって宣言しちゃってるよーなモンだよねぇ」

 

「まぁ筋で言えば国外へ何か行動を起こすなら外務省に当る国務省経由と言うのは正規の手続きと言えなくもありませんが、こんな親書をわざわざ添えてくると言うのは……」

 

「日本にもヨーロッパにも釘を刺す意味を込めて、か、これはどうして中々面倒な事になってきたな」

 

「しかも新造艦じゃなく限界練度の艦娘さんと言うか、着任したら先ずカッコカリをさせてくれとか、無茶振りにも程があるデショって提督思います」

 

「ふむ……では一応新規部署の立ち上げと人員配置はその着任後という事で進めるとしてだ、提督よ」

 

「うん? どしたの?」

 

「色々とゴタゴタがあって放置状態になっているが、異動してきた者達とのカッコカリ手続きはどうするつもりなのだ?」

 

「……はい? 何の話?」

 

「何の話も何も、異動してきた者達は殆ど限界練度に達している者ばかりなのだが、まさかその辺り何もしないつもりなのか?」

 

「いやちょっと長門君、ウチがカッコカリを義務付けてるよーな言い方はどうかと思うんですが」

 

「そうは言ってもな、異動してきてすぐその話は本人達にしてみれば口にし辛い話題だぞ、それにウチは重婚の数が他拠点より多い現状、放置するというのは彼女達のプライドにも関わる重要な問題でもあるのだが」

 

「あるのだが……じゃないよ!? 元を辿れば君達がノリノリでやらかした結果がそれデショ!? 提督にその責任押し付けるつもりなの!? ねえっ!?」

 

「む、今ノリノリとかやらかしたとか聞き捨てならん事を言ったか? 仮にもカッコカリという神聖な行為を提督はネタ扱いするつもりなのか?」

 

「だーかーらぁぁ、そんなデリケートなシステムを第三者がホイホイと触れていい訳ないデショ!」

 

「そんな悠長な事を言ってたらヘタレの提督では話がちっとも前に進まんから我々が主導しているのではないか!」

 

「ヘタレ!? 今提督の事ヘタレって言った!? ちょっとナガモンそれ言い過ぎじゃない!?」

 

「ヘタレをヘタレと言って何が悪いと言うのだ! このヘタレ眼帯!」

 

「ナニその安易かつ珍妙にストレートな名称! 提督今ちょっとカチンときましたよっ!」

 

 

 こうして数ヶ月を掛けて進められた増員計画は終了の目処が立ち、鎮守府機能の拡充と業務の開始を目前に控えるという状態にまで漕ぎ着けたのであったが、その中核に居る髭眼帯と艦隊総旗艦は感情的な言葉をぶつけて醜い争いを繰り広げ、最後は武力によって打ち合わせが終了される事になったという。

 

 

 そうして後日、着任してきた艦娘達と色々なカオスを経て業務が開始される事になるのだが、その時に於いても少なからず色々な騒動が勃発するという事になるのは、最早大坂鎮守府では珍しい事では無いという、そんな悲しい未来がヘタレ眼帯には待ち受けていたのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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