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2017/02/12
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました物数寄のほね様、有難う御座います、大変助かりました。
逝こうよ! 動○の森
場所は日本海軍大本営2F、第二特務課リビングルーム。
吉野三郎中佐(28歳独身梅干は塩分20%以上の物しか認めない)は、部屋の真ん中で固まっていた。
部屋の明かりは消えているが、雲の薄い空には下弦の月が浮かんでおり、少し目を凝らす程度で部屋が一望出来る程は明るくなっている。
差し込む月明かりは幻想的で、窓際に設えたソファーの上に佇む物体を柔らかく照らしている。
「く…… 熊?」
ソファーの上には熊?が正座で、ゆっくりと首を前後に揺らし船を漕いでいる。
熊? が正座でソファーに鎮座している、熊では無い、熊? だ。
その頭は某メロン熊ばりにリアル不気味系ではあるが、頭部に比べ首から下が妙にちんまい。
誰がどう見ても例のメロン熊の頭部を乗せたピクミンがそこに居た。
人は突発的な出来事に遭遇するとパニックを起こし、思考が停止する。
たれバンダのパジャマを着た吉野三郎第二特務課々長(28歳独身かつぶしオクラ牛丼がジャスティス)も例に漏れず、熊?を凝視したまま由緒正しい重雷装巡洋艦のポーズで固まっていた。
その何とも言えない異空間が30秒程続いたであろうか、熊?がビクリと痙攣すると、のろのろと頭を持ち上げた。
「ッヒ…… んぅ…… ふぁ……」
良く見るとメロン熊っぽい頭部の下部には穴が開いており、そこから見知った顔が覗いている。
「え~っと、時雨、くん?」
「あふ…… ん、てい……とく? おはよう?」
「いや…… 今超夜中なんだけど……」
「……いい雨だね?」
「……うん、その、めっさ晴れとるし」
正体不明のメロン熊みたいな何かは、日本海軍大本営第二特務課秘書艦、白露型二番艦時雨であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「で、こんな時間にどうしたのかな?」
「んと、ちょっと寝付きが悪くてね、気分転換のつもりでリビングに来たんだけど、そのままうたた寝しちゃったみたい」
「そっかぁ、うたた寝しちゃったかぁ、寝付けないのは仕方ないけど、まだ夜は寒いから気を付けないとねぇ」
「それなら大丈夫、このパジャマ寝袋の代わりにもなるから」
結局あの後、熊? 改め時雨と二人で深夜のお茶会(炭酸飲料)に突入したのはいいのだが、いつもの距離で時雨が隣に座ると、主に頭部のゴワゴワとした感触が二の腕に当たるので妙にこそばゆい。
そっちに視線を向けると本物より物騒チックな造詣がより際立って見える。
「ああ…… うん、それパジャマなんだ? 何と言うかその、うん」
「カワイイでしょ? これインナーも蒸れない素材になっててね、結構スグレモノなんだ」
「え、カワイイ?…… うん、カワイイ…… のかな?」
古今東西、年頃の乙女が言う〔カワイイ〕は、某ガンダム世界のミノフスキー粒子並みになんでもアリな表現ではなかろうかと思ったりもするが、そこはそれ、本人がカワイイと言うなら他人がどうこう言う事では無いのだろう、多分、そう納得しておく。
おもむろにリアルベアーヘッドを撫でてみる。
ゴワゴワしている、そして前言撤回、どう見てもやはりキモい。
吉野が思案顔で着ぐるみの頭を撫でくり回していると、ゴソゴソと頭部のそれを脱いだ時雨が頭をこちらに寄せてくる。
「んぇ? な…… 何かな?」
「えっと、撫でるなら直に撫でて欲しいかな?」
そう言われてしまうと、特に断る理由は無いので差し出された頭を軽く撫で付ける。
東山三十六峯草木も冥る丑満刻、熊の着ぐるみを着た少女の頭を無言で撫でる三十路前の男、異空間の層が厚くなった気がした。
「あら? お二人共こんな時間にどうしたんです?」
廊下からそう声がしたのでそちらへ振り向いた。
「と…… 虎?」
そこには某東洋の黄色い悪魔の様なリアルタイガーヘッドから顔を覗かせた、全身余す処無く虎柄の着ぐるみを着込んだ、日本海軍大本営第二特務課所属金剛型三番艦榛名が首を傾げてこちらを見ていた。
因みに榛名の方が時雨より身長があるので、等身的には違和感が僅かばかり緩和されてはいるが、やはりそれは虎では無く虎?、である。
「や…… やぁ榛名君、おはよう?」
「あの提督…… おはようと言うかまだ夜中だと思うのですが……」
くどい様だが東山三十六峯草木も冥る丑満刻である、夜明けまではまだ遠い。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ジュルジルジルジル……
ッパ
「あまいです」
深夜のお茶会にまた一人メンバーが加わった。
吉野三郎中佐(28歳独身実はパジャマだけじゃなくパンツもたれパンダ柄)の左には秘書艦時雨、リアル球磨もといクマ頭は後ろに転がっている。
右には高速戦艦榛名、かのタイガーマスクな頭装備は首の後ろに垂れ下がっている。
そして何故か両手で其々の頭を撫でながら、時雨にドクぺを飲ませて貰っている。
どうしてこうなった?IN東山三十六峯草木も冥る丑満刻。
「ナニ?、なんなの? 今時の艦娘界隈はアニモーなパジャマ流行ってんの? ねぇ?」
「これですか? 何でも最近の出来る艦娘のナイトウェアは獣系と聞いたので……」
「明石?」
「うん」
「……」
吉野の貧乏揺すりが残像を残す程の速度に達した、最早人間業では無い。
「えっと君達、その、何だ、余りピンクのモミアゲの言葉に踊らされない様にね? いやマジで」
「確かに明石さんに勧められたから買ってみたけど、これはこれで良い物だと僕は思うんだけど、カワイイし」
「ですよね! 皆さんの評判もいいみたいですし」
「……皆さん?」
「はい!」
「他に誰かその、アニモーなパジャマ買った人居るの?……」
「僕らは第一艦隊の皆と買いに行ったけど」
「第一艦隊って…… 利根ちんとか?」
「え? 全員とだけど、ね?」
「はい、結構バリエーションがあるので皆さんと被らないように一緒に買いに出掛けましたが」
「ぜ…… 全員…… 第一艦隊が全員着ぐるみ……」
吉野の記憶が正しければ、大本営麾下第一艦隊と言えば、泣く子も黙る武闘派集団だったハズ。
旗艦 大和型二番艦 戦艦武蔵
副艦 球磨型五番艦 重雷装巡洋艦木曽
伊勢型二番艦 航空戦艦日向
加賀型一番艦 正規空母加賀
利根型一番艦 航空巡洋艦利根
秋月型一番艦 駆逐艦秋月
利根と秋月辺りならまぁ判らなくもない、百歩譲って木曽もまぁ、利根に無理やり押し切られて仕方なくと云う可能性もあるかも知れない。
しかし…… しかしである、残りのメンツが途方もなく、壊滅的に着ぐるみとイメージが結び付かない。
「……因みに他の人ってどんな着ぐるみ買ってたの?」
「着ぐるみじゃなくてパジャマなんだけど…… ん~と、確か利根さんはキツネだったかな」
キツネか、まぁ妥当か? いや着ぐるみの時点でもう何か間違ってる気がしないでも無いのだが、そうか、利根がキツネなら筑摩は緑な狸とか買いそうだなと吉野は思った。
「秋月ちゃんは確かワンコでしたね」
ワンコか、どっちかって言うと時雨辺りがそっち系だと思うのだがまぁ当たり障りはないなと吉野は頷いた。
「木曽さんは……鳥? だったと思うんだけど……」
「ああ、オウムでしたっけ?」
「オウム?…… オウム……ああ、キャプテンクック…… うん、キャプテン繋がりかぁ……」
何故自ら自虐方面に走るのか木曽よ、そう思っても口に出せないのは自分だけではないハズだと吉野は遠い目をした。
「個人的には加賀さんのが一番可愛かった気がするけどね」
「ですよね~」
「加賀さん可愛い系なんだ…… どんなの?」
「青いペンギンさん」
「……はい?」
「ペンギン、青いの」
「ん…… んん~ 加賀さん開発失敗でもしちゃったとか?」
「提督、あっちのペンギンは黒ですよ?」
「ああうんこの際色は余り関係ない…… いやうん、そっか、そっかぁ……ペンギンさんかぁ、結構冒険したねぇ……」
「パーソナルカラーの青が入った物で、空母だから鳥系かしらって言ったら明石さんがこれどうぞって渡してたね」
確かに鳥類だし青いなら顧客の要望は満たしているのだろう、しかし肝心の部分が根本的に駄目なのは気のせいだろうか、空母と鳥は関係性アリだと思うが、飛べないペンギンというチョイスはどうかと思わなくは無い。
「武蔵さんはピンクのウサちゃんですね」
「うわぁ、ものっそファンシー路線、武蔵さん桃色ウサギなの? うわぁ……」
ピンクのウサギの着ぐるみを着た戦艦武蔵…… 何故だろう、とても不安な気分になる、何と言うかもう、表現に困るがテトリスで初手で1コマずれて、そのまま一番下でずっと開いたままのの隙間を見てるみたいな……
「榛名のパジャマを選んで貰ったので、お礼に武蔵さんのは榛名が選ばせて貰いました」
物凄くいい笑顔で榛名はそう答えた…… 善意が時として人の命を奪う、その瞬間を吉野は垣間見た気がした。
しかし榛名だが、ついこの前まではニコリともしなかった人物と同じとは思えない程明るくなったと思う、それが何故だか判らないが何か思う処があったのだろう。
そう物思いに耽る吉野の肩に時雨は手を置いて、黙って首をゆっくり左右に振っている。
「え? 何かな時雨君?」
「それ以上言っちゃうと武蔵さんの覚悟が無駄になっちゃうから……」
「覚悟しないと着れないパジャマって……」
吉野がそう言うと、時雨は物悲しそうな表情で目を伏せる。
それを見た吉野は自然と心の中で、ピンクのウサちゃんの着ぐるみを着た大和型二番艦に向けて敬礼をしていた。
暫く
あともう一人着ぐるみを買った第一艦隊の艦娘が居た様な気がするが、それは聞いてはいけない気がするので聞かない事にする、むしろ聞きたくない、聞くと危険が危ない。
「日向さんは瑞雲だったね」
「ええ、凄く瑞雲でした」
「…………何て?」
気のせいだろうか? 今着ぐるみとは酷く剥離した物の名称を聞いた気がする。
「え? だから日向さんは瑞雲かなって」
「はい、瑞雲でした」
「いや君達、主語と述語というか、何かこう…… 言ってる事おかしくない?」
思わずそう突っ込んだ吉野の肩を誰かが掴んだ。
嫌な予感がして恐る恐る振り向くとそこには……
「そうだ、艦載機を放って突撃。これだ……」
「!? クッソ出やがったなこの妖怪コーメラン!!」
「四航戦、出撃するぞ!」
「出撃しなくていいから! 帰って!」
「航空戦艦の真の力、思い知れ!」
「その右手の瑞雲で何する気だうわヤメロやめて下さい死んでしまいます!」
助けを求めようと周りを見渡すが、既にそこには吉野と瑞雲(ガチ)の二人以外の姿は無かった。
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「瑞雲、それは~、君が~見たひかり~、ボクが~み~た~きぼおうおうおうおう」
早朝、何故か朝日に向って某線香の替え歌を虚ろな目で口ずさむ、吉野三郎(28歳独身(瑞雲))の姿があったが、何故そうなったのかと云う話は後に語られるかも知れないと言うか語れない。
再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。
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