ドイツより新たに艦娘二人が着任する、プリンツ・オイゲンとU-511、その二人を同郷出であるグラーフが気遣い、そしてドイツ艦娘グループ(仮)が誕生する。
それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
2017/01/31
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました坂下郁様、リア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました
ローカルルール
一般的に定められた決まり事が、極限られた場所や関係性の中で独自の改変や解釈がなされ実行された上で生まれた、限定的な場所でのみ有効となったルール。
親戚には地面に落とした食べ物でも三秒以内に拾い上げればセーフという根拠の無い秒間ルールもあれば、特定箇所に毒飲料を持ち込んでしまうとその身に良くない事が起こってしまう京言葉ルール等も存在する。
大坂鎮守府執務室では現在昼休憩真っ只中、そこには部屋の主である吉野と秘書艦時雨、そしてフレンチクルーラーこと金剛と居酒屋の女将である鳳翔がソファーに座って何かを中心に集っていた。
テーブルの上には折りたたみ式の厚紙で出来たカラフルな双六、脇には白緑黄色に色分けされた紙幣を模した束。
そして双六の中心にはサイコロの役目を担うルーレットが鎮座するという状態、それは日本のボードゲーム史に燦然と輝く存在であり、現在も知らぬ者の方が少ないと称されるブツ、人生ゲーム。
食休憩の暇つぶしとして供された卓を囲む者は其々初期資金である数枚の紙切れを自身の前に置き、盤上のスタート地点には其々の駒である色とりどりの車を模した物を並べ終えた状態であった。
「んじゃ皆準備は整ったかな? っと始める前に大坂鎮守府人生ゲームのローカルルールの確認をしとこうか」
人生ゲームにありがちな特徴、それはゲームの仕様上ルーレットの目が幾つであっても強制的に止まらなければいけないイベントマスが幾つか存在するという不可避の掟。
しかしこのローカルルールでは単純にその仕様を廃し、ルーレットの出た目だけ駒を進める、時間的制約がある場合のプレイを考慮して考えられた大坂鎮守府独自の単純なルールである。
「ふっふ~ん、こういうゲームに関してワタシは負けた記憶は皆無ネ、今日もパーフェクトにキメて景品の間宮券はイタダキマース」
一番手である金剛が軽快にルーレットを回す、この人生ゲームはスタンダードバージョンであり、進む先は数々の分岐を経てゴールへ向かうタイプの物であった。
故にここでも大坂鎮守府独自のルールとして、その分岐点へ突入する前に予めどちらのルートに進むか宣言してルーレットを回すという行為を経て、ハプニングやハラハラを楽しむという事にしている。
金剛が選択したのは『専門家コース』サラリーマンの様な安定した収支は得られないが、それを大きく上回るジョブが数々配置され、運良くそれを引き当てればウハウハなドリームが選択出来るという、一発逆転好きな金剛の性格にマッチしたコースでもあった。
ルーレットの出目は3、派手に回した割には地味な数字であるがまぁその辺りはスタート直後の物である為ご愛嬌といった処か。
赤い駒を3つ進め、そこに書いている文字を確認する。
『クレジットの支払い。$1.000払う。』
定職にも就いてない矢先の借金返済イベントである。
それを見たフレンチクルーラーはややテンションを下げてハハハと乾いた笑いを漏らしつつ、手元の資金から$1.000を銀行へと支払った。
「それじゃ僕の番だね、よいしょっと」
二番手である時雨、彼女も金剛と同じく専門家コースを選択しており、ルーレットで出た出目は5 それは可も無く不可も無い数字であったが、金剛の出した3よりはマシであろう事は口にしてはいけない。
青い駒をトントンと5つ進める、そこに書かれているのは『ダンスコンテストで優勝。$1.000もらう』という文字、一応就職活動をしている筈が何故ダンスコンテストなのだろうと言ってはいけない、世の中にはプーであるにも関わらず身に覚えの無いローンの返済を迫られるフレンチクルーラーも居る事を考えれば、収支がプラスなのは行幸であろう。
「それでは失礼して、それっ」
鳳翔がルーレットを回す、彼女が選択したのは堅実な性格がそうさせたのかビジネスコース、ルーレットの出目は4
白い駒をそのまま進めると、それを置いた位置には『サラリーマンになる。月給$8.000 職業カードを取る』という文字が見える、居酒屋の女将という経営者的立場から故か安定したコースを狙い撃ち、見事リーマンになったオカンは例の
ゲームの中でわざわざリーマンなんて夢の無い職を選択をするのはどうなのかなんて言ってはいけない、世の中には就職活動をしている筈なのに踊りに没頭してしまう者が存在するのだ、それに比べれば安定した人生では無いかと胸を張って言える事だろう。
「そんじゃ次は自分だね、よっと」
髭眼帯が回すルーレット、選択したのは専門家コース、普段手堅い行動を常とする吉野がそっちを選択したのは単に職業マスの数が多く、プーになる確率が低いからである、実の所大坂鎮守府ルールでビジネスコースへ進むとなるとリーマンになるには鳳翔が止まったマスを狙い撃ちする必要があり、そこを逃せばアルバイターとして社会に放り出されるという危険がある。
出目は9 初動としては中々の数字であり、一躍トップに躍り出た髭眼帯はフンフンと鼻歌を歌いつつ黄色の駒を進める、そして止まった場所に書かれているのは『サラリーマンになる。月給$8.000 気に入れば職業カードを取り7マス進む』の文字、様々な可能性を模索して進んだ道で結局リーマンになるという地味さは、吉野という人物の人生の縮図という悲哀を帯びていた。
尚ローカルルールは時短を主眼に置いた物の為、強制的に進めと指定されている部分は素直に従わなくてはならない、よって吉野は続いて7マス進んで給料マスへ、これでリーマン二人に踊り子一人、プータローのローン持ちという面々の人生がスタートした。
「fm...それではそろそろ本気出しマスか! 撃ちます! Fire~!」
気合一閃、金剛が回すルーレットは7の数字で停止する、ラッキーセブンきたネー! と喜びつつ金剛が進めた駒の先にあったのは、『自動車を修理に出す $1.000支払う』という記述。
プータローのフレンチクルーラーはローンを組んで車を買った挙句、それをどこぞにぶつけてしまい修理代を捻出しないといけないという、とても世知辛い就職活動を展開している様である。
Die,fucker! と叫ぶ金剛の悶絶を尻目に時雨がルーレットを回すと出目は9 スススッと駒を置いた先には『弁護士になれる。月給$30.000.気に入れば職業カードを取り、2マス進む』と書かれていた。
就職活動に出掛けノリノリでダンスをしていたら何時の間にか弁護士という勝ち組に納まるくちくかん、正に幸運艦の名に恥じない人生であろう。
そんな人生の格差に苦笑しつつオカンがルーレットを回す、出目は控えめな4 堅実な彼女の出目も堅実な物になってしまうのかと皆が見る中で停止したマスには、『羊がパーティに乱入。ごちそうを食べられる。$500払う』と書かれている。
プルプル肩を震わせる女将、彼女は料理人である、周りから軽空母という艦娘とちゃうんかいと突っ込みが入りそうだが基本ジョブは軽空母であり、サブジョブは料理人なのである、因みに比率はメイン10%にサブが90%なのは触れてはいけない事実である。
そんなサブジョブ90%の女将が無銭飲食を匂わす記述を無視出来る筈も無く、『
そして吉野の番であるがこれはそのまま順当に駒を進め、『健康管理の為人間ドックに入る。$1.000払って1回休み』という、なんともリアルが身に詰まされるマスに止まってしまう。
因みに続く金剛は、ルーレットで10を叩き出しそのまま専門家コースをぶっ千切って快進撃、結果飛ばしすぎてアルバイターにもなれず『生命保険に入る時は$5.000支払う』と書かれたマスへ軟着陸を果す。
尚支払いは任意の為に保険への加入は拒否し、結果ここにプータローでローン持ちのフレンチクルーラーが世に放逐される事になった。
フンフンと勝ち組弁護士の時雨はルーレットを回し給料日のマスにIN 隣で嘆く社会不適合者の紅茶戦艦を尻目に着々と財産の備蓄をしていく。
続く女将は先程取り乱した事に頬を赤らめながらもルーレットを回し駒を進める、出目は9 どうやらパソコン通信を始めた為に$2.000を散在した模様、しかし今時パソコン通信という名称は如何な物かと思うが、何故かそう言うのがオカンであった為に違和感を誰も感じなかったという不思議な現象がそこに発生していた。
そして吉野は1回休み、続くプーの金剛は気合を込めてルーレットをぶん回す、出目は6 そこには『ハネムーンにヨーロッパ一周。$10.000払う。火災保険に入る時は$500払う』と書かれている。
「oh! ハネムーンにヨーロッパ一周デスカ! $10.000は正直痛い出費デスがロマンチックなイベントは外せませんネー!」
「あの……金剛さん?」
「うん? 何シグシグ?」
「えっと結婚マス飛び越えてハネムーンに出るって事は、相手も居ないのに一人でヨーロッパを回ったって事なのかな?」
「……why?」
人生ゲーム大坂鎮守府特別ルール、繰り返し内容を述べれば、ルール上強制的に止まらねばならないマスを無視してルーレットに出た目の数を進まねばならない。
それは時短効果は確かにあった、しかし同時に人生ゲームのある意味節目、一大イベントである結婚のマスに止まり伴侶を得られるかどうかも
運良くそこに止まれば良し、もし神に見放されればこのフレンチクルーラーの様に結婚もしていないのにハネムーンと豪語した挙句、ヨーロッパ一周という狂気の旅に出なければいけなくなってしまう。
そして結婚マスに止まっていないというのは仕様上持ち家が持てないという状況であるが、何故か家なき子の筈なのに火災保険の勧誘まで食らうという苦行。
言葉にしてみれば、この金剛型一番艦はゲームの人生の中で、就職活動の為に車をローンで購入するも職にあり付けずプータロで世に投げ出され、車をぶつけて散財したり執拗な保険加入の勧誘に悩まされた挙句、何故かたった一人のハネムーンでヨーロッパ一周を敢行するという波乱に満ちた人生を歩んでいるという事になる。
why? why? と混乱するフレンチクルーラーを横目に苦笑いの時雨はルーレットを回し駒を進める、停止したのは結婚の文字が記された赤いマス。
続けて回して出た出目は1 数は最小だがそれは周りの者から貰う祝儀を決定する数字であり、1という出目は最高額である$1.000を決定付ける数字でもあった。
方やシングルハネムーンに興じるプータロー、それに対し踊る弁護士が見事にゴールインという格差と言うには余りにも余りな人生模様。
そんな阿鼻叫喚をあらあらと眺め、ルーレットを回したオカンの先に待ち受けた物は、『男の子が生まれる。車に乗せみんなからお祝い$500づつもらう』と書かれた現実。
エアブライダルからのハネムーンに比べ、未婚でありながらの出産という生々しい現実、どちらを選べと言われても
凄く微妙な表情になったオカンはじっと吉野の顔を凝視する、その視線に気付いた髭眼帯は何事かと首を捻って視線を返す。
「えっとその…… 無理に認知しろとは言いません、私は日陰の華で充分です……ただ時たまで良いので子供に会いに来て頂いて、夕食などを共にして頂けたらなって……」
繰り返し言うがこれは休憩時間の戯れに興じた双六ゲームである、決してドロドロとした愛憎劇が展開される要素は皆無の筈である。
そんな擬似シングルマザーの本気かどうか判らない雰囲気の鳳翔を何故か直視出来ず、髭眼帯は乾いた笑いを口から漏らしていた。
時間は刻々と過ぎ、気がつけば一男一女を設けた弁護士時雨が何故が社交界デビューを果し、東京ドームでワンマンショーを開いたりプロ野球チームのオーナーになりつつも一位でフィニッシュ。
次いで双子を出産しまくったり、養子を貰ったりを繰り返し、駒に乗り切れない程の子供を乗せたオカンがユニセフからお金をむしりまくりつつという感じで二位にランクイン。
そして吉野は人間ドックやらスキーをしては骨折したりと入退院を繰り返しながらも、可もなく不可も無いという面白みの無い状態で三位に入賞する。
因みに金剛は最後まで定職に就く機会は訪れなかったにも関わらず、途中何故か給料を貰ったり、無断欠勤をしたのでクビを言い渡されたりという不思議な人生を歩んでゴールしたという。
余暇を過ごす為のアイテム、運のみで挑んだ擬似的人生プレイ。
本来ならワイワイと楽しく興じる筈であった休憩時間は、時間が無いからと軽い気持ちで追加したルールによってとてもカオスで世知辛い時間を過ごす事になってしまった。
後にこのルールは変更され、普通に興じる姿が見られる様になったが、一部の者がこのルールを用いてプレイをする場がこっそり設けられ、それは影で『闇遊戯』と称され鎬を削る事になるのだがそれは語られる事は恐らく無いだろう。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。