大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 駆逐艦叢雲の最後と始めの一歩のお話。

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。

2018/10/09
 表現でおかしな箇所を一部修正致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、K2様、柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました。


寒い一月、大坂鎮守府執務室の風景

「例の上申の件で早速返答……と言うか、大本営と横須賀から増員の者が送られてきた」

 

「随分と早かったねぇ、確か書類送ったの一昨日でしょ?」

 

「うむ、この感じだと以前大隅殿達と打ち合わせをした直後にはもうこの人事は決定していた、という事で間違いは無いだろうな」

 

 

 苦笑の色を浮かべ手元の資料に目を通す長門を見る吉野、その髭眼帯は怪訝な表情を浮かべた状態で前を見たまま固まっている。

 

 場所は大坂鎮守府執務室、艦隊総旗艦長門が新規に着任してきた者の報告に訪れていた、そう、その着任して来た艦娘達を連れて(・・・・・・・・・・・・)

 

 艦娘の増員に関しての希望は上申書として大本営へ送られてはいたが、増員数が多く処理や交渉に時間が掛かるとあって返答は随時着任が決まった者毎に知らせさせるという事で、予想ではその交渉にも参加、全ての手続きが終了するには数ヶ月の長丁場を想定していた。

 

 施設自体は整ってはいたが、人員で言えば警備府と泊地の中間辺りの規模である大坂鎮守府、その体を成すには艦娘が後倍程は必要であり、着任する者も即戦力でないといけないとあって、吉野はその調整の為他拠点との折衝に日々追われていた。

 

 

 その為新規の着任があるとは事前に聞かされてはいたが、それがどこからどの艦が来るという事は聞いておらず、本日着任となる艦娘の事は丸っきり頭の中に入っていなかった。

 

 

「金剛お姉さまの妹分、比叡です。 経験を積んで、姉さまに少しでも近づきたいです」

 

「マイク音量大丈夫? チェック、ワン、ツー…よし。はじめまして、私霧島です」

 

 

 そんな色々疲弊気味の髭眼帯の前では、例の武蔵殺しや妖怪紅茶オバケと同じ改造巫女服に身を包んだ戦艦が二人、長門の横でビシリと海軍式敬礼で着任の言葉を述べている。

 

 その横には金剛、吉野が視線をそちらに向けると何故かウインクをしてサムズアップ、一体これはどういう状況なのだろうか。

 

 

「戦艦の補充が必要だと聞いたので横須賀に打診してシスターズを引き抜きましタ」

 

 

 艦娘という存在は同名艦が多数存在してはいるが、その関係性は(いささ)か複雑な形になっている。

 

 史実を前世に持ち姉妹艦と呼ばれる者を持つ艦娘は多数存在するが、艦娘達側では全て姉妹という括りでは認識されていない。

 

 例え姉妹艦という種の者達であっても、それは同じ拠点の工廠で生まれた者同士でしか関係性は認識はされないという、艦娘の関係性は拠点という場所に縛られ、生まれが違う拠点ならば例え姉妹艦とされる者達でも"遠い縁者"、近しくても従姉妹程度にしか認識はされない。

 

 そしてこの場に居る金剛、比叡、霧島は大本営大工廠で生まれた者達であり、榛名を含めて純粋に姉妹という関係であった。

 

 

 つまりこの大坂鎮守府には現在姉妹と認識を持つ四人の金剛型が揃ったという事でもある、紅茶戦艦の陰謀によって。

 

 

「よ……横須賀からまた引き抜いたの? てゆか比叡と霧島って確か横須賀の第二艦隊でツートップ張ってたんじゃなかったっけ?」

 

「デース! ウチの比叡と霧島は百戦錬磨の戦艦デース! ですから即戦力としては理想的では無いデスカ?」

 

 

 大坂鎮守府としては確かに在り難く、そして力強い増員ではあるが、逆の視点で言えば金剛に続き比叡と霧島という柱を次々と吉野がぶっこ抜いたという形での着任である。

 

 カタカタと震える髭眼帯の前でサムズアップのフレンチクルーラー、もはやいつもの光景がそこに広がっていた。

 

 

「まぁそうなるな」

 

「って何で師匠までここに居るの!? 君第一艦隊所属だよね!? てか戦艦三隻とか予定より多いんじゃないの長門君!」

 

「他拠点との交渉に先立って、大本営と横須賀から看板に近い者がウチに着任したという事実があれば、後の話が色々やり易くなるだろうという大隅殿の心遣いだそうだ」

 

「何そのいらん心遣い!? だからナノ!? だから交渉する相手が何やら色々諸々気を使った話し方してたのは!?」

 

 

 横須賀に続き大本営第一艦隊からズイウンが着任した瞬間である、同時に色々と吉野に止めが刺された瞬間でもあった。

 

 これで大坂鎮守府所属の戦艦は計七隻、水上打撃艦隊が二組編成可能の状態になったがその内訳を挙げてみると。

 

 

 武蔵殺しと言われた榛名、元大本営第一艦隊旗艦長門、同じく大和、横須賀鎮守府元総旗艦金剛に比叡と霧島、更に大本営第一艦隊所属であった日向。

 

 因みに横須賀艦隊は大本営の戦力予備の側面もあり、第一艦隊がその任に駆り出された場合、大本営も併設される中枢の守りは横須賀第二艦隊が受け持つ形になる。

 

 つまり比叡と霧島はその艦隊の要であり、その名は当然他の拠点でも認知度は高い、加えて大本営第一艦隊所属の日向と言えば旗艦が大和の代からの生え抜きであった為、知名度で言えば先の金剛型二人よりも高いかも知れない。

 

 

「これで守りは生え抜きの金剛型で固められる、つまり前線からの助けに応じる時は私、大和、そして榛名で全力出撃が可能となった訳だ」

 

 

 武蔵殺しに鉄壁、そして人修羅が前衛を固めるドリーム艦隊。

 

 それは対する深海棲艦には悪夢を、そして資源を消費してその艦隊を送り出す大坂鎮守府にも同じく悪夢というドリーム艦隊。

 

 

「いや、いやいやいや艦隊総旗艦が拠点放置して前線にゴーとかちょっとどうなのそれ!?」

 

「うむ? 拠点防衛という点に関しては私より金剛の方が適任だろう? ならここは私が艦隊を率いて前線に出るのが効率的だとは思わんか?」

 

「まぁそうなるな」

 

「師匠話をややこしくしないで! てかその台詞言いたいだけじゃないの!? ねぇ!?」

 

 

 トチ狂ってしまった艦隊総旗艦の脇では着任の挨拶すらもしないで相槌を打つズイウンがサムズアップという、執務室のサムズアップ率が上昇した光景が広がっている。

 

 

「五航戦の子達なんかと一緒にしないで」

 

「いやどっから生えてきたのキミ!? てか五航戦達のお二人は影も形も無いんですが加賀さんはアレなの? その……何か幻影が見えちゃう魔法のアレとかキメちゃってるワケ?」

 

「ああすまん提督、加賀は私が呼び出したんだ」

 

「長門君が?」

 

 

 左右から向けられるサムズアップの髭眼帯に長門から一枚の書類が差し出される、それはラバウル基地から送られてきた一枚の通知であった。

 

 ラバウルからの通知と確認した吉野は長門の顔を見てああなる程と頷き、一航戦の青いヤツに長門から渡された書類をパスしつつニヤリと笑う。

 

 

「航空母艦の増員に関しては、アチラさんとウチの建造する艦とのトレードでズイズイが着任する事になりましたんで、空母組の取り纏めは加賀君に任せてるからほら、ヨロシクね?」

 

「なん……ですって」

 

「これで幻の人達に心悩ませる事無く命一杯コミュニケーションが取れるネ! ヤッタネ加賀さん!」

 

「オイヤメロ!」

 

「他の増員に関してはまだ当たりを付けてる最中でまだ報告する段階じゃないんだけど…… 取り敢えず戦艦組は業務の引継ぎと必要ならば装備の更新を、空母組はズイズイの着任準備と他に予定している件をお願いします」

 

「軽空母の増員ね……そっちはどうにかなりそう?」

 

「誰が、という事はまだ言明出来ないけどそっちは何とかするから、まぁもうちょい待っててくんない?」

 

「ならついでにこの五航戦の人事を二航戦辺りに差し替えて貰えるかしら?」

 

「ムーリー」

 

「まぁそうなるな」

 

「頭にきました」

 

 

 頭痛の種が増えヤケクソ状態の吉野に五航戦病発症中の加賀が執務机を挟んでの醜い争いが勃発、そこにズイウンが追い討ちを掛けるというカオス。

 

 その混沌をスルーしつつ壁に掛けられている艦隊編成の札を鼻歌交じりに掛け替えるナガモン、彼女の向こう側では『支援艦隊』という箇所で長門と大和という銘が刻まれた木札がプラプラ揺れているのが見えている。

 

 因みに執務机の横には何時の間にか小粋なテーブルセットが据えられており、そこでは金剛を中心に比叡、霧島、そして加賀と同じく亜空間から生えてきたのだろうか榛名が座ってのどかにティータイム真っ最中、人口密度が増大した執務室はやりたい放題の坩堝と化していたという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「くっ……まさか前線へ出る事が禁止されようとは」

 

「いや長門君、艦隊総旗艦がいの一番に前に出てヒャッハーしちゃ駄目だと提督言いましたよね? なにしてんのアレ!」

 

 

 憮然とした表情の長門の向こうを指差す髭眼帯、そこでは時雨が苦笑いのまま木札を定位置に戻すという処理を行うという昼下がり。

 

 午前中は新たに着任した者達への対応や打ち合わせと言う名のカオスに追われ、雑事をこなした時点でタイムアップ、昼食後の現在は再び執務室に篭り事務仕事に追われる髭眼帯。

 

 机の上には書類で建設されたサンシャインやマリンタワーが林立し、補佐を時雨が、雑務を(潜水棲姫)が、それに加えぬいぬいが事務に参加という布陣で事に当たっている。

 

 

 現在大坂鎮守府は国内の主要拠点として活動し、更に吉野の階級が中将になった事で関わる案件や処理しなければいけなくなった物が膨れ上がり仕事の量、主に事務的な物が凄まじい量になっているという事態に陥っていた。

 

 

 将官と呼ばれる者、それも国内鎮守府の長ともなれば括りは軍団の長と位置付けられている。

 

 そして鎮守府と名が付く拠点の中には大本営と同じく各部署が独立して存在し、該当する業務はその部署毎で処理された形で司令長官に上がって来るというピラミッドが形成され、効率的な運用がなされている。

 

 しかしその組織形態は人員を多数必要とし、また文官や事務の専門家が必要不可欠な事もあって、『鎮守府』と呼ばれる拠点には艦娘以外にも多数の人間が業務に就くというのが普通である。

 

 

 しかし大坂鎮守府では深海棲艦という存在を取り込んだ拠点故に対外的には職員の安全性を謳い、内情としては情報の漏洩を避ける為に司令長官である吉野、及び研究開発に深く関わりがある天草以外の人間を着任させる事は認められていない。

 

 つまり只でさえ少ない艦娘を内務関係に回さねばならず、業務の割り当てや防衛活動を考慮するとどうしても事務方及び吉野にその皺寄せが回ってくる事になる。

 

 事務関係は妙高と大淀という事務特化の二人が切り盛りしている為に回ってはいるが、それでも認証や決済が絡む事案は吉野がしなければいけない為に日々奮闘してはいたのであったが、その体勢で数週間回してみた結果、流石の髭眼帯もオーバーワークでどうにもならないという結論に達し、苦肉の策として通常の秘書艦に加え持ち回りで事務が出来る者を『日替わり秘書艦』として別途補佐に付ける事で様子見している状態であった。

 

 

 そして本日の日替わり秘書艦はぬいぬいが勤め、書類のビル群解体の為朝から執務室に詰めてずっと書類と格闘中という状態で午後を迎えている。

 

 

「司令、至急扱いの上申書はこれで終了しました、次は処理待ちの稟議書関係を片付けますのでその間にご確認と決済をお願いします」

 

 

 そんな今日のぬいぬいは何故かOLちっくなブレザーとスカートを身に纏い、ほぼ見えない視界をカバーする為に夕張謹製超ビン底眼鏡という出で立ちでシパシパと書類に立ち向かっている。

 

 淀み無く仕事をこなす様はキャリアウーマンを彷彿させ、更にくちくかんでありながらOLファッションという色んな意味で特定の提督諸氏が属性HITしちゃう様な姿は中々凛々しい感じに見えなくも無い。

 

 

 しかし手元に回されてきた書類を見る吉野の顔は優れない、処理内容や記述されている物は完璧と言えるレベルの仕上がりとも言えるそれ。

 

 そこに書かれている文字は何と言うか少しファンシーなモノと言うか、ぶっちゃけ乙女が書いてしまいそうなキャルーンとした丸文字の羅列。

 

 

 軍部に深く関わる重要書類の為(いかめ)しい文章で書かれた文字に混じって、それらと同じ(いかめ)しい内容で書かれた乙女文字。

 

 そしてその書類の最後には当然決裁した者の名前、つまり吉野三郎という文字もぬいぬいが気を利かせて記入済みであり、後は捺印をするのみと言う状態。

 

 

 繰り返し言うがその書類内容は極めて精度が高く完璧に仕上げられている、そしてそれを提出しても用途的になんら問題が無い内容になっている。

 

 しかしそれをそのまま捺印して大本営、若しくは所轄の拠点へ送付した場合、乙女文字が記入され、更に同じ丸っこいファンシーな文体で署名された中将の書類が公文書として行き交う事になる。

 

 

 内容の不備が無い為にそれはすんなりと通ってしまうだろう、そしてそれは各拠点や大本営の事務方を通り担当部署、若しくは軍の中枢へと至るだろう。

 

 以上の結末から予想される未来は吉野の二つ名が『髭の丸文字中将』、若しくは『ファンシー髭眼帯』という辺りで確定してしまうという緊急事態。

 

 

 吉野は怪訝な表情のまま視線をぬいぬいから処理済になっているバビロンタワーへ移す、そこに積み上がっている紙束は恐らく50cmはあろうかという高さの物が3つ程、当然それらは全て乙女文字で処理を終えている。

 

 視線を再びシパシパと書類整理をしている眼鏡のぬいぬいに戻す。

 

 その精度の高さや処理能力は事務方の者には及ばない物の、そこいらの事務員顔負けの仕事っぷりである、丸文字以外は。

 

 

「……えっとぬいぬい?」

 

「不知火です、何か落ち度でも?」

 

 

 いっそ落ち度まみれなら書類のやり直しや差し替えも指示出来るが、残念ながら彼女の仕事には落ち度が見当たら無い、むしろ完璧である、丸文字以外は。

 

 

「えっとそのこの書いてあるアレと言うか字と言うか何と言うか……」

 

「誤字か脱字がありましたでしょうか?」

 

 

 誤字も脱字も無い、しかし今無作為にタワーの中から抜き出した一枚は大本営、それもよりにもよって元帥である坂田宛に提出しなければならない書類であった。

 

 内容は鎮守府に於ける防衛計画の草案と、それによる周辺海域に於ける内閣への承認願い、それも原書であるその書類はそのまま複写され提出される仕様の物となっている一枚。

 

 もしこれをそのまま送った場合、丸っこい乙女文字で書かれた重要機密書類が軍のトップと政府中央機関へ出回ってしまうという恐ろしい事態が予想される、主に吉野的に。

 

 他の書類も不味い惨状ではあったが、取り敢えず手にある一枚だけは是可否(ぜがひ)でも提出を阻止しなければいけない、でないと今後色々不味い事になる、主に中将という立場的に。

 

 

「こ……この書類なんだけど」

 

「これは……すいません不知火とした事がついうっかりしてました」

 

「うん? うっかり?」

 

 

 書類の修正の件をどう切り出した物かと悩んでいた吉野の手からぬいぬいは書類を取って、そのまま机横のシュレッダーに放り込む。

 

 ジョリジョリジョリという音と共に細切れになる重要書類、吉野が見た感じだと内容に不備は見当たらなかった筈であったが、何か見落としでもあったのかと首を傾げる。

 

 しかしその謎を詮索するよりも人生の一大危機をすんなり回避出来た事に少し気分が軽くなる髭眼帯、それに対して失礼しましたと頭を下げ、再び仕事に戻るぬいぬい。

 

 

「あーうん? えっと、そっち色々忙しそうだから今の書類こっちで作成しようと思うんだけど、あれって書式何番だったかな?」

 

「え? いえあれは至急の案件でしたので、取り敢えず大淀さんに確認を取ってこちらで仕上げ、既に関係部署へ電送しています」

 

「……なんて?」

 

「緊急案件でしたし、司令は着任手続きで手が離せない状態でしたのでどうしようかと事務方に相談した所、内容は把握済みで決定された案件との事でしたので、取り急ぎ不知火が書類を作成し送付しておきました」

 

 

 軍部では元帥へ至る事務手続きのルートと、加えて内閣という執政機関内で、大坂鎮守府司令長官はファンシーな丸文字を駆使する中将であるという認識がされたという事を吉野が知った瞬間である。

 

 

「他にも2件、至急扱いの物限定ですがこちらで出来る物は既に処理しています」

 

「……それってドコ辺りの案件なのか提督とっても気になります……」

 

「鎮守府前島整備計画の返答書を経団連へ」

 

「経団連んん?」

 

「後は支援艦隊の編成表を前線の拠点へですが」

 

「前線んん?」

 

「はい、該当拠点が多かったのでそちらは事務方へ書類を渡して電送して頂きました」

 

「送ったのぉ?」

 

「はいそれも滞りなく終了したと先程事務方より連絡がありましたのでご安心下さい」

 

 

 色んな意味で吉野が諦めて現実逃避をした瞬間であった。

 

 ついでに乾いた笑いを浮かべる吉野の前では何故か先程より微妙にクネクネしているナガモンが居る、その視線はチラチラとぬいぬいと時計の間を彷徨いとても不審に見えると言うかキモイ。

 

 これは触ってはいけない案件だと判断した吉野はそのままスルーする事にして書類の処理に取り掛かろうとする。

 

 

 時間はヒトゴーマルマルになり柱時計からは軽やかなオルゴールの音が聞こえてくる。

 

 

 それと同時におやつの準備に取り掛かる時雨と(潜水棲姫)に一端作業の手を止めるぬいぬい、吉野はその様子を見てもうそんな時間なのかと溜息を吐く。

 

 執務室の奥、元吉野の私室を改装した炊事場より物音が聞こえ甘い香りが漂ってくる、これも既にいつものという表現になりつつある風景。

 

 

「そう言えば提督」

 

「ん? 何かな?」

 

「夕張が明日工廠へ来て欲しいと私にも念押しがあったのだが、そちらの都合は大丈夫なのか?」

 

「あー、こっちの処理が忙しくてそっち関係確認してなかったなぁ、確か業務連絡のメール着てたっけ、えっとなになに?」

 

 

 執務机に据えられている端末を操作し、該当する業務連絡の内容を確認してみる。

 

 

─────────

 

夕張重工(meron@oosaka.Navy.ne.jp) 2018/01/※※

宛先:niceguy@oosaka.Navy.ne.jp

 

提督お疲れ様です

以下の業務に於いて現況の進捗確認及び打ち合わせの為

明日一月※※日工廠にて視察及びご確認をお願い致します

 

(1) 新型艦娘母艦「泉和」操船及び火器管制システムの起動実験

(2) 拠点防衛兵装「スプー弐号機」評価試験

 

予定では各業務に要する時間は二時間程を想定しております

 

上記業務に加え、当鎮守府に配備予定である駆逐艦建造の件もご相談させて頂き

詳細も詰めたいのでその分のお時間も頂けたらなと思います

 

それではご予定がお決まりになりましたらご返信をお願い致します

 

装備施設課:夕張

 

─────────

 

 

「……スプー弐号機ぃ?」

 

 

 吉野の記憶が確かなら、スプーと言うのは髭眼帯の私物であったスープラを夕張が魔改造したロボだった筈である。

 

 因みにもう一台存在した愛車のCBX-1000はスープラと同じく魔改造され、現在は緊急脱出艇『松風ルプス』として改修後、新型母艦に搭載する予定である。

 

 つまりもう大坂鎮守府には吉野の私物である乗り物は存在せず、昭和臭漂うロボの素体になるようなブツに心当たりが無い。

 

 

「提督、どうしたの?」

 

「あっと時雨君、夕張君がまたロボ一台作ったって言ってるんだけど……」

 

「あー、もしかしてアレかな、ほら前ウチに査察で来た槇原さんって居たじゃない?」

 

「……うん居たねぇ」

 

「随分前だけど、その槇原さんから提督が乗ってたのと同じ車が一台届いてたと思うけど」

 

「え……提督それ初耳なんだけど……まさかスプー弐号機って」

 

「多分、それなんじゃないかな」

 

「メロン子おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 こうして春まだ遠い大坂鎮守府に戦艦が三隻着任すると同時に、丸文字ファンシー中将が知らぬ処で拠点防衛ロボが増産されていたという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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