大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 そして再び訪れた日常、そんなカオス開幕。

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/12/29
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、orione様、有難う御座います、大変助かりました。


大坂鎮守府居酒屋鳳翔

「いやぁ、司令官はんがここに来るんはいつ振りやろなぁ、前は酒飲む練習言うて乾杯した後ずっと便器と友達やったし、まともに席に着くの久し振りとちゃうん?」

 

 

 大坂鎮守府艦娘寮1Fに入る『居酒屋鳳翔』

 

 鎮守府と呼ばれる規模の軍事拠点では『甘味処間宮』と並ぶ率で存在する艦娘の為の慰安施設である。

 

 その多くは屋号が示す通り軽空母である鳳翔が女将を勤める居酒屋であるが、中身はと言えば拠点毎に色が違い、出してる料理や飲み物、またはその拠点の運営形態により営業時間も異なるという特色がある。

 

 大坂鎮守府では鳳翔が女将であり、二番と呼ばれる副女将を龍鳳が勤めて店を切り盛りする。

 

 営業時間は昼はヒトヒトマルマルからヒトゴーマルマル、夜はヒトナナマルマルからフタヨンマルマルの二部制で回し、取り扱う料理は和食がメニューを占めるが、基本客が要望すれば材料の在庫次第だが何でも出てくるというタイプの店となっている。

 

 

 現状鎮守府内の人員数で言えば昼の営業時間を持たなくても事足りてはいるが、間近に控えた教導任務によって鎮守府内の艦娘が増えると食堂だけでは賄うのが厳しいという事情があった為、余裕がある内に営業のノウハウや仕入れルートの開拓の為、現状試験的に二部制の営業を行っている。

 

 

「いや何と言うかほら、手術で埋め込んでる諸々を新しいのと交換したから酒が飲めるキャホーイてこの前はしゃいだ訳なんだけど、結局自分は下戸でしたというオチで……」

 

 

 深海棲艦との関係を公表するという事に備えての鎮守府改革、それに伴い吉野は前々から話にあった自己の体質改善の一環として、体内に埋め込んであった医療機器を電が開発した新型へと更新する為数度の手術を受けていた。

 

 元々汎用規格のそれは成人用として作成された物であり、幼少の頃無理矢理埋め込んだせいで様々な弊害を生んでいた、更に研究用の試作品とあって不良とはいかずとも色々問題のあるそれは、結果として激しい運動が出来ず、頻繁なメンテが必要とされる形でずっと吉野を蝕んでいた。

 

 新型機器自体は前からあった物のそれと交換する時間が取れず、また手術をするにも麻酔が効かないという事情があった為にずっと先送りにしてきた諸問題、それを今回の鎮守府改革を機に行い全てを片付けた、そして現在はそのリハビリの為に毎日医局へ通い、杖をついてヨボヨボとしているのが吉野の毎日であった。

 

 

「まぁその手術のお陰で色んなモン食べれるよーになったし、リハビリ終わったら肉体改造とかしてムキムキマッチョになるんやろ? ええ事だらけやん」

 

「……ムキムキ? 誰が?」

 

「ん? 何か長門とか榛名が率先してやな、大鳳とか朝潮が嬉々としてトレーニングメニュー作っとったで?」

 

「……うそやん」

 

 

 手術によって色々な制約からは解放される形にはなった物の、それは常人並みかそれよりまだ劣る程度である、幾ら頑張ってもムキムキマッチョになるのは不可能という事実は電より説明があり、それは艦娘達にも伝わっている筈であった。

 

 なのに今吉野が知らない水面下では提督ムキムキマッチョ計画という、長門&榛名のブートキャンプが出来上がりつつあるという。

 

 

「……龍驤君」

 

「無理やで?」

 

 

 ある意味艦娘達のプライベート部分を取り纏めるポジションに納まっているこのフルフラット関西弁、それを頼った吉野の言葉はたった一言の返しでにべもなく霧散し、地獄のシゴキが待ち受ける未来が確定してしまった。

 

 人並みになったんやったら後は根性や言うとったで、そんな彼女達らしい無謀理論を聞かされた吉野は深い溜息と共にカウンターへ突っ伏した。

 

 

「まぁ無理はいけませんが適度な運動は体に良いですし、龍驤がやり過ぎないか責任を以って監視すると言ってますから暫くは付き合ってあげてみては如何です?」

 

「ちょっ!? 待ってーや、うちそんな事一言も言うてへんで!」

 

 

 カウンターの向こうからグラスに注がれたケミカル炭酸、ドクペとブリ大根という、ある意味どうなのと思われる組み合わせの物をカウンターへ置きつつ鳳翔は含み笑いでフルフラット軽空母に微笑んでみせる。

 

 大坂鎮守府の居酒屋鳳翔、そこは鎮守府内の人員が最大限(くつろ)げる様にという方針で女将が切り盛りする店になっている。

 

 鳳翔達の後ろにあるキープされた飲み物の数々は日本酒からウイスキーは元より、カウンター下にはワインセラーが完備され、更には明石酒保で取り扱っている諸々のそっち系飲料すらストックされている。

 

 因みに吉野と(空母棲鬼)が愛飲するドクペ等は1ガロン容器、つまり3.8リットル分は常に置かれているという風な狂った心遣いがこの居酒屋を人気店として存在させていた。

 

 物静かにブリ大根をつまみつつドクペを呑む、そんな異次元スタイルはこの大坂鎮守府の居酒屋鳳翔では極当たり前の風景なのである。

 

 そして異次元を醸し出す髭眼帯の隣では、(カレイ)の刺身をつまみカレーソーダをそれで流し込むというまな板というカオスがある、何かもう全てが台無しであるが女将がそれでいいと言うなら仕方が無いのかも知れない。

 

 

「う~寒いであります、鳳翔殿、何か暖かい物はあるでありますか?」

 

 

 そんなカオス居酒屋にまた闖入者(ちんにゅうしゃ)が一人、病的に白い肌、おかっぱ頭に陸軍特有の喋り方、情報部の実務を一手に引き受けているあきつ丸が寒い寒いと連呼して店内に入ってきた。

 

 

「おや、提督殿ではありませんか、これはラッキーであります、普段から激務を押し付けられている見返りをして貰うチャンス到来でありますな!」

 

 

 ニコニコと白い顔で吉野の隣に腰を下ろす揚陸艦娘、その表情とは対照的に吉野の表情は固まっている、いや吉野だけでは無く他の者も全ての動きを止め、店内は鍋が煮立つコトコトという音だけがする異空間へとシフトする。

 

 

「……どうしたのでありますか?」

 

「いやその……あきつ丸君」

 

「何であります?」

 

「その、それは……その格好は……」

 

 

 吉野の隣に腰を降ろしたあきつ丸、それはいつもよりもややピチっとした黒の詰襟の上着を着込み、その上着は袖が無い。

 

 更にいつも履いているスカートは股の部分が浅い角度でカットされたローライズ状の黒いホットパンツに変貌し、その下に履くのはガーターベルトが付属した黒いレースのニーハイソックス、そして頭にはいつもの帽子では無く黒いベレー帽が乗っかっていた。

 

 

「潜入調査を行う際はなるべく身軽でと言うのは提督殿の教えでありましたな、それを自分なりに考えて明石殿に相談したところコレが」

 

「それ根本的に身軽の意味が違うから! それ布地減らしただけで全然意味無いからね!? てかあかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃまたお前かあぁぁぁぁぁぁぁぁあかしいぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「ダメでありますか?」

 

「そんな格好で潜入したらこっそり感がぶち壊しデショ! てかそんなボンテージ着てどこに潜入しちゃったりするの!? ねぇっ!?」

 

 

 因みにこのあきつ丸は大坂鎮守府の例の建造施設から生み出された為か、見た目他の個体とは異なりやや長身で、しかもムチムチとした揚陸艦であった。

 

 例えるならモデ○ーズ-ハイの有志が作っちゃったボンキュッボンフィギュア然としたアレと言えばいいのであろうか、兎に角エロボディなのである。

 

 

 そんなむちむち揚陸艦であるが、(かつ)て大本営には眼鏡三銃士と呼ばれる艦娘が存在した様に、大坂鎮守府ではムチムチ三銃士なる者が存在しており、このむちむちはその一角を担う存在であったりする。

 

 一人はむちむちくちくかんこと叢雲、次にむちむち潜水艦の伊58、そしてこのあきつ丸三人でムチムチ三銃士。

 

 

 そんなむちむちを横目に対照的なボディのまな板が乾いた笑いを口から漏らして視線をさ迷わせ、丁度酒保より戻った龍鳳が目のハイライトをやや薄くしてその様を眺めていた。

 

 

「ううむ、これでダメなら榛名殿の様に上着の面積をもう少し切り詰めるしか……」

 

「いやダメの基準が間違ってるから! 布地を減らすという思考からちょっと離れた方がいいと提督は思います!」

 

 

 突っ込みを入れる吉野はぜいぜいと肩で息をし、ドクペを煽って心を落ち着かせる。

 

 そんな髭眼帯を尻目にむちむちのあきつ丸はおでんを注文し、鳳翔はにこやかにその注文を受けている、流石大坂鎮守府で異空間居酒屋を取り仕切っている女将である、多少の事では動じないという胆力を有している。

 

 眉根を寄せつつおかわりのドクペを注文し、このエロい潜入服をどう矯正すればと悩む吉野の耳に、微かに音が聞こえてくる。

 

 

 チリンチリンという鈴の音、それはゆっくりと、次第に大きくなりこちらに近寄ってくる。

 

 

 怪訝な表情で入り口の方向を確認すると、曇りガラスの向こうには黒い装束の、何やら形容し難い人影が吉野の視界に映り込む。

 

 

「あ~寒っむ~! 鳳翔、熱燗一本付けて~!」

 

 

 ガラガラと引き戸を潜って現れたのは、ネココスメイド服を着込んだ叢雲、大坂鎮守府むちむち界の親玉にして、貧乳ロリから改二で下克上を果したむちむちくちくかんである。

 

 

「あら三郎もサボリなの? ふ~んこっちは大掃除でヘトヘトになってるって言うのに、あそうだ、ここの払い、時雨に黙っててあげるから何か奢りなさいよ」

 

「いやサボリと言うか何と言うか業務は一応ひと段落して昼ごはん食ってただけなんですけど……」

 

「そうなの? まぁ何だっていいわ、今は兎に角何か暖かい物お腹に入れないと凍えちゃうわほんと」

 

「えとその……叢雲さん……」

 

「何?」

 

「何でまたそのメイド服とか着てラッシャルンデショウカ……」

 

「ああこれ? 電のラボを大掃除するのに制服汚す訳にもいかないでしょ? だから着替えて作業してたのよ」

 

 

 さも当たり前の様にまな板を押しのけ髭眼帯の隣に腰を下ろすネココスメイド服の叢雲、左右をむちむちに挟まれるという惨状に怪訝な表情のまま固まる吉野。

 

 自然な流れで端に追いやられた龍驤も同じく魂の抜けた表情で固まっており、女将の鳳翔は相変わらずにこにことむちむちくちくかんの注文を受けるという珍妙な絵面(えづら)がそこに出来上がっていた。

 

 因みにその奥でおでんを盛り付けている龍鳳は無言であったが、目のハイライト率が更に低下しているのは言うまでもない。

 

 

 軍事拠点で営業する居酒屋、そこでは毒飲料片手に和食をつまむ変態二人と、むちむちとコスプレ染みた姿の艦娘が二人(くつろ)いでいる。

 

 厨房側はどこにでもありそうな風景で、逆側がどこにも無さ気なカオス空間、それはカウンターという境界で線引きされたそれぞれ別の世界が出来上がった瞬間であった。

 

 

 おでんを食うボンテージむちむちと、熱燗を引っ掛け満面の笑みを(こぼ)すむちむちネココスくちくかん、それに挟まれた髭眼帯の耳にまたしても何かの物音が聞こえてくる。

 

 

 ペッタラペッタラと湿った何かが近づくかの如き妙な音、それに怪訝な表情のまま曇りガラスの引き戸を見れば、そこには肌色と濃紺二色で構成された人型が淡く見える。

 

 

「ほ……鳳翔さん……何かあったかい物ないでちか……」

 

 

 潜水艦娘伊58、何故か寒空の下濡れネズミでスク水一丁の彼女はガタガタ震え、遭難者が助けを求めるが如く異次元居酒屋の暖簾を潜ってきた。

 

 

「あらあらどうしたんですかそんな格好で、今暖かい物を用意しますからこれで体を拭いて下さい」

 

 

 女将から受け取ったタオルで体を拭き、ガタガタ震えるでち公はそのまま当然とばかりに寒い寒いと呟きつつ吉野の膝の上に腰を降ろす。

 

 事情を聞けば哨戒の為に海に出た彼女であったが、途中で艤装の調子が悪くなり体温調節機能が働かなくなってしまったのだという。

 

 しかしそのトラブルが発生したのは丁度折り返しに差し掛かった時であった為、結局彼女は長時間寒い海の中をそのままの状態で帰還し、出撃ドックからフラフラと自室を目指したが寮の入り口に差し掛かった辺りで限界を迎え、暖簾が出ていたこの居酒屋に助けを求めたのだという。

 

 

「し……死ぬかと思ったでち」

 

「ああいやそれは大変だったねぇ……時にでち公君?」

 

「何でちか?」

 

「慌てて帰る途中だったからスク水のままだったと言うのはまぁ判る、寒さが極まって居酒屋に飛び込んだのも仕方ない事だとは思う、しかし何故君は自分の膝の上で暖を取っているのだろうか?」

 

「寒いからでち」

 

 

 髭眼帯の疑問を一刀両断にするむちむちスク水。

 

 

 現状のおさらいをすると左右をむちむちに挟まれ、更に膝の上にはむちむちのスク水である、ある意味むちむちフェスティボー状態。

 

 そんな大坂鎮守府むちむち三銃士に囲まれた髭の眼帯は助けを求める為に視線を巡らすが、カウンターの隅では虚空を見つめ何やらブツブツと呪いの言葉を吐き出す幼児体形の元一航戦。

 

 その様に見切りを付けて、(かつ)てまな板と一航戦を組んでいた片割れの女将を見ると、ニコニコしつつもそれと判る空気と言うか、ぶっちゃけ不可視で不可侵の強固なバリアーがそこに展開されている。

 

 因みに奥に居る龍鳳を見ると、既に目のハイライトが完全に消えた状態で鍋の中身をぐ~るぐ~るかき回している状態であり、とても援軍として用を成さないという惨状。

 

 

 食べ物を扱う店舗が営業をしているのだから人の出入りがあるのは当たり前と言えよう。

 

 しかし何故よりにもよってむちむち三銃士なのだろうか、どうしてフェスティボーなのだろうか。

 

 

「提督殿、おでんお代わりいいでありますか?」

 

「何でそれ自分に聞くの?」

 

「え、奢りだというので一応お聞きした方が良いかと思ったのでありますが?」

 

「鳳翔~ ぬる燗追加~ 三郎のツケで」

 

「あ、じゃゴーヤは天麩羅うどんとおでんお願いするでち、てーとくの奢りで」

 

「え、何でそんな流れになっちゃってるの!?」

 

 

 いつの間にかむちむちの財布となっていた髭眼帯、唖然とその様を見ていると後ろでガラガラと引き戸の開く音がしてポンポンと肩を叩かれる。

 

 何事かと後ろに視線を巡らせると、そこにはアホ毛をゆらゆら揺らしたゴスロリメイド服を着込んだ球磨がゆっくり首を左右に振っていた。

 

 

「提督、いつも言ってるクマ、何事も諦めが肝心クマ……」

 

「え、何いきなり、てか何でクマちゃんメイド服……」

 

「提督知らないクマ? 今鎮守府は大掃除真っ最中だからみんなメイド服着てるクマよ?」

 

「はい? 今何て!?」

 

「ちなみにその後は餅つきとかおせちとかの準備でメイド服のままクマ」

 

「それって今日明日ずっとメイド服って事なのぉ!?」

 

「正月もおさんどん状態だからメイド服ローテが組まれてるクマ」

 

「いや元旦くらい着物とかその……ねぇ、もっとこうさぁ……」

 

「少なくとも三が日はそんな感じクマ」

 

 

 驚愕の事実を告げた球磨はそのまま『とりあえず生中と煮込み』とどこぞのオサーンばりの注文を告げてまな板の隣に腰掛ける。

 

 肩を落としたまな板を気遣うアホ毛という絵面(えづら)は、どこかくたびれたリーマン的な雰囲気を醸し出し、妙にその一角だけ悲哀が漂う独特の世界を作り出していた。

 

 

 

 大坂鎮守府居酒屋鳳翔

 

 そこは何事にも動じない鉄のメンタルを持つ女将と、豆腐よりも脆いメンタルの副女将が切り盛りをする、日々仕事に疲れた艦娘が集う癒しの空間であった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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