大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 大本営選抜艦隊と第二特務課艦隊との演習がスタートした。

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/09/22
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました皇國臣民様、鷺ノ宮様、有難う御座います、大変助かりました。


緒戦

「旗艦金剛よりHeadquater(本部)、現在当艦隊は大下島北沖合いに差し掛かりマシタ、これより小大下島を南に迂回し岡村島との水路に入りまス」

 

『こちらHeadquater(本部)了解、敵偵察機(彩雲)との接触位置から考えると何時敵航空部隊と接触してもおかしくない状況だから、現着を急いで』

 

Absolutely(了解). 以降は作戦に傾注する為報告は敵航空隊との接触時と緊急時にのみ行いマス、Is this OK?(いいですか?)

 

Headquater(本部)了解、貴官の武運を祈る』

 

 

 演習開始から30分程、第二特務課艦隊は現在演習海域の中央付近、大崎上島南部の諸島にて敵航空隊迎撃のポイントとして予定している場所へと航行中。

 

 点在する浅瀬と多数からなる島が密集している為潮が複雑で、横に展開するのが難しい為に陣形は単縦陣、先頭を行く金剛は現状の報告を終え目の前に見える島と、頭の中にある海図とを照らし合わせ航路の確認をしている。

 

 先程叢雲が言った様に、上空を旋回する彩雲を確認してから10分少々、敵艦隊の展開位置にもよるが時間的には航空戦力が視界に入ってもおかしくはない時間帯に差し掛かっているとあって、目下少し危険ではあったが速力を上げて正面に見える島影へ艦隊は移動中であった。

 

 

「これなら予定通り迎撃ポイントに到着しそうだな」

 

「Yes. 大横島周辺で狙われたら面倒な事になってましタけど、ここまで来れば取り敢えず一安心ネ」

 

 

 大本営艦隊が出撃地点と定めた柏島の凡そ20km程東、とびしま街道と呼ばれる街道の東端、岡村島の東に向け第二特務課艦隊は進み、隣の小大下島と100mも離れていない狭い海路に滑り込むと、金剛を中心に摩耶と榛名が並び、更にそれ以外の者はやや離れた位置に待機するという変則的な輪形陣で展開、配置に着いたそれぞれは対空警戒の為に頭上に広がる青に向かって視線を走らせる。

 

 急いで布陣し体勢を整え、互いの声が届くようにと出力を最小限に絞った機関の低い音と波が立てる音以外は何も聞こえない。

 

 そうして暫く、耳鳴りが不安を煽るかの様な静寂が辺りの全てとなり、もうすぐ来るだろう空からの猛威に対しての集中力を高めていく。

 

 

「それじゃおさらいデス、我が艦隊はココで敵航空部隊を迎え撃ち、可能な限り敵機を叩き落しマス、敵は恐らく第一波で全ての航空戦力をぶつけて来る筈だとテートクは予想していましタ、その予想が当たりなら第一波を凌げば我々は即西進、敵艦隊と直接の艦隊戦へ移行シマス」

 

「変に波状攻撃を受けるよりも、今回に限ったら纏めて来てくれる方がこっちとしたら楽だよな」

 

Exactly(その通り). 予想される敵機の数を考えるとこっちの携行弾薬は少し心許ないデスから、なるべく効率良く立ち回らないと後に繋げるのが困難になりマス、なのでこの対空戦はマヤ、そしてハルナ、貴方達二人には負担を掛ける事になりますがお願いしますネ」

 

 

 金剛の言葉に左右に展開していた番長と武蔵殺しが空を見つつ無言で頷く。

 

 

「今回は大口径主砲から三式での精密射撃……そっちの砲のが射程距離があるからな、あたしは撃ち漏らしを処理する事に専念させて貰うぜ……まぁある意味様子見だけど、イケるんなら久々に散らすんじゃなくて()とす立ち回りでもいいかも知んねぇ」

 

「散らす……ってどういう事ぉ?」

 

「ん~そっか、ポイヌ(夕立)子犬(時津風)は対空はあんま経験が無かったんだったな、んじゃ簡単なレクチャーしてやっか」

 

 

 相変わらず空を睨みながらも子犬(時津風)が口にした疑問に口元を緩め、対空番長は己の得意分野、即ち対空に於いて自身が常としている防空時のキモを伝授する事にする。

 

 

「対空ってヤツはな、ぶっちゃけると敵機を()とすのが目的じゃなくて、今言った通り"散らす"のが肝心なんだ」

 

 

 番長の言葉に駆逐艦二人は空を監視しつも首を傾げ、番長の青空対空教室の生徒として先生の次の言葉に耳を(そばだ)てる。

 

 

「艦載機がうちらに攻撃を加えようとすれば雷撃か爆撃しかない、そしてそいつを狙って当てようと思えば必ず"当てる為のコース"に自機を乗せないといけねぇんだ、魚雷であれ爆弾であれ誘導装置なんて上等なモン積んじゃいないからな、それを切り離すコースとタイミングは極限られた"点"でしか成し得ない……昔と違って艦娘っていう的がちっさくなった今なら尚更それはシビアになる」

 

 

 淡々とした説明に生徒はカクカクと頷いて、それでも語る側も聞く側も空を仰ぐという珍妙な絵面(えづら)に周りは笑いを噛み殺していた。

 

 

「で、ここからがキモなんだけどよ、大抵ヤツらは編隊を組んで突っ込んでくる、それは数を稼いで魚雷の散布界を稼ぐ為や回避し辛い状況にする為なんだけど、その先頭で飛んでる機体は大抵隊長機かエースって技量の高いヤツが勤めてて後ろのヤツを引っ張っている状態なんだ、だから対空射撃をする時は相手の突っ込んでくるコースを読んで、そこに対空砲撃を"置く"様にして撃ってやる、そうすればコースを潰されたヤツらは一旦回避をする為攻撃を中止しなくちゃいけなくなるし、(先頭)を潰してやりゃ後続のヤツらも散っていく」

 

「ん~でもそれって結局相手の邪魔してるだけでまた攻撃を仕掛けて来るっぽい、その時はそれでいいかもだけど繰り返しで手間にならないっぽい?」

 

「いや、さっきも言った通り雷撃も爆撃もデリケートなモンなんだ、ちょっとした波で魚雷は外れるし、そよ風程度で爆弾は逸れて行っちまう、そいつを確実に当てようとすればここぞってコースに乗らないといけないし、一旦離脱してその体勢に戻すまでには時間も精神力も消耗する、更に標的は常時移動してるからその手間はヤツらにとっちゃ考えたくない程面倒事になるだろうぜ」

 

「成る程~」

 

「で、そうやって時間を稼げれば他の艦隊員が相手の艦隊をどうにかしてくれるだろ? だから対空をする時は一々精密射撃なんかせずに相手が来ると予想するコース、敵が嫌がる所に弾をばら撒いてやるんだ」

 

「でも秋月とか照月なんかはポンポン敵を()としてるっぽい」

 

「それができるから"防空艦"なんだ、お前達が真似しようとしても対空じゃ無理があるからな、素直に今言った事をやっとけ」

 

「判ったっぽい」

 

 

 わんこズが納得したのを横目で確認し、番長は再び空へ集中する事にする。

 

 再び訪れる静寂、雲が少ない空は相変わらず青を広げていたが、それのお陰で視界を遮る物が少ないのは第二特務課艦隊にとっては有難かった。

 

 

「来ましたね……」

 

 

 そんな空を見る内の一人、榛名が青に紛れた砂粒程の違和感に目を細める。

 

 始めそれは見間違いかと思われる程に小さい物であったが、徐々にその数を増し、更に点が大きくなっていく。

 

 

「対空戦闘用意! ハルナ、射程に敵機が入ったら即砲撃してクダサイ、マヤはフォローを!」

 

 

 空から直下に向け落ちてくる艦載機に榛名は狙いを定め、大口径を誇る主砲からは三式弾が青に向けて撃ち出された。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「すまん瑞鶴、もう一度報告をしてくれないか?」

 

「……はい、先程翔鶴、サラトガより発艦した艦爆隊が敵艦隊へ爆撃を実施、現在は第一波の爆撃を終了して補給の為母艦へ向け帰投中……ですが、現存が確認されている艦爆の数は発艦数152に対し未帰還機102、それらは全て撃墜されたものと思われる……そうです」

 

 

 瑞鶴の報告に岩川基地司令長官は肩を震わせ机に突っ伏し、艦隊本部から派遣された大佐は眉根を寄せて海図に目を落としている。

 

 爆装を施した艦爆の一団が第二特務課へ攻撃を開始して凡そ一時間弱、時間にして正午に差し掛かろうかといった辺りで大本営指揮所に入った一報は、出撃した艦載機の未帰還数の異常なまでの多さと、与えた被害の少なさという予想外の物であった。

 

 

「発艦した艦載機の七割が喪失……それで与えたのは旗艦と重巡がそれぞれ小破だと……」

 

「報告では対空射撃は主に戦艦による物と思われる三式弾が、艦爆が爆弾を切り離す前の高度を狙って撃ち出された為にこの様な結果になったのでは無いかと……」

 

「パージポイントよりも高々度に対する精密射撃……35.6cmではその高度に対して有効な砲撃は与えられない筈、だとすれば榛名が51cm連装砲で迎撃をしたという事が考えられますね」

 

「……今は何があったか等という事は問題ではない、今我が艦隊に残されている艦載機の数は相手の艦隊が残している機数と変わらない数となった事だ」

 

「いえ、報告では帰投した艦載機の内再び攻撃に投入可能な物は、翔鶴及びサラトガ合わせて20にも満たない物だと報告が……」

 

 

 言葉が消えた指揮所では海図を囲む指揮官二人と、報告をした随伴艦が余りにも予想外の惨状に動けずにいた。

 

 そしてそれを見る呉から派遣されてきた艦娘二人も反応は同じく、何が起こったのかという事を頭の中で整理するので手一杯の状況にあった。

 

 

「伊勢、どうにも演習前に予想していた事とは違う状況になっている様だが……一体何が起こったのか判るか?」

 

「対空をした艦娘が凄く精度の高い砲撃をした……だけにしては、結果が異常よね」

 

「うむ、幾ら戦艦用三式であっても100機の艦爆を一時間足らずで()とすなぞ私も聞いたことがないな」

 

 

 小声で意見を交わす呉の二人、この数々の作戦をこなしてきた猛者達をして経験した事も無いという結果に場は放心という状態ではあったが、その中で一人だけ違う反応を見せる者が居た。

 

 その者は改めて海図とそこに乗せられた駒の位置を確認し、目を細めて何事かを考えている。

 

 現況大本営艦隊は初期展開位置からは動いておらず、対する第二特務課の駒は岡村島付近に置かれた状態である。

 

 

「東野司令」

 

「何かね江角君」

 

「艦隊を前に出しましょう」

 

「……何だと?」

 

 

 言葉少な気に提案をする艦隊本部所属の大佐は、海図から目を離さず眉根を寄せている。

 

 対する岩川基地司令長官はその大佐が言う案に思考が付いていってないのか、疑問の言葉を出すだけで二の句が継げないでいるという醜態を晒している。

 

 

「状況的に航空隊を撃滅したのは大口径主砲による対空射撃、つまり榛名がそれを行ったと見て良いと思います」

 

「……うむ、それで?」

 

「敵艦隊の最大火力、最大射程はあの榛名が装備する51cm連装砲です、それが三式弾を用いて爆戦100機を落とす程に弾薬を消費した、ならば残弾は僅かであると予想されます、結果として現状砲撃に関して警戒するは金剛の持つ35.6cm砲だけです、幸いこちらは航空戦力は壊滅しましたが、戦艦三隻は無傷、ならば射程も威力も勝る我が艦隊は突出して大崎上島から出てくるであろう敵艦隊を海路から出て展開する前に叩く事が肝心かと、それに」

 

 

 江角は海図の上にある駒を動かし、自艦隊は呉前海域の中央やや西側に、第二特務課艦隊の駒を大崎上島と大崎下島に挟まれた場所に移す。

 

 それを見る他の者は黙ってこの艦隊本部所属の大佐の言葉を待ちつつ、その男が薄く口角を上げて笑うのを怪訝な相で見つめていた。

 

 

「射程距離はこちらの方があると仮定して、この位置に艦隊を突出すれば"引き撃ち"の為の距離は稼げます、現在位置では演習海域の端に居る関係上後退する距離が稼げない、更にここに展開しておけば、万が一予想外の事が起きても大崎上島の北側へ退避するルートが確保可能になります」

 

「敵を近づけさせなければ脅威は無いと?」

 

「はい、万が一榛名の主砲に残弾があったとしてもそれは三式弾です、射程距離一杯での威力は小型艦ならいざ知らず、こちらは戦艦がメインの艦隊編成です、多少の損害は受けても致命的な結果には繋がらないと思います」

 

「成る程……それを見越しての"もぐら叩き"からの引き撃ち、もしその当てが外れても北側に退路を確保しておけば次策を練るまでの時間を稼げると言う事か」

 

 

 冷たい空気が支配していた室内に、一転活気が戻ってくる。

 

 緒戦の航空戦は予想外の結果となり痛手を被ったが、残存戦力で言えば依然大本営艦隊の方が優位であり、選択肢も当然大本営側が多く残されている。

 

 

「相手はあの大坂鎮守府です、予想外の手で何を仕掛けて来るか判りません、ここは慎重に立ち回り余裕を以って対処するに越した事はありませんよ、東野司令」

 

「……了解した、ではすぐにでも艦隊を前に出し布陣を敷こう、瑞鶴、艦隊に指令だ、我が艦隊は現在位置よりも8km西へ展開、大崎上島付近海路から進軍してくると思われる敵艦隊を迎え撃つと伝えてくれ」

 

「はい、判りました」

 

 

 こうして大本営選抜艦隊と第二特務課艦隊の緒戦は終了し、其々は次の段階へと進む事になる。

 

 それは大本営艦隊が腰を据えて迎え撃つという形から、狭い海峡から出てくるであろう第二特務課艦隊を抑えて撃滅するという攻撃的な動きへと変化するに至る。

 

 状況は依然大本営側に有利な展開を見せ、演習はまだ序盤の域を出ない印象をこの時豊島に設けられた指揮所に居る面々は感じていた。

 

 

 そこは大本営の艦隊が展開する予定の海域を双眼鏡越しにではあるが見渡せる位置であり、この後起こる壮絶な戦闘風景を艦隊本部所属の大佐と岩川基地司令長官は目の当たりにする事になる。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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