パチュリーって黒魔法使いのイメージがあるのはちゃるもんだけでしょうか?
では、どうぞ!!
―――まだ死なせられないわ―――
―――貴方には期待しているのだから―――
□■□■
パチリッ
勢いよく開かれた瞼。
驚きの表情で此方を見る二つの影。
そして―――
―――激痛
「あアアアアあぁぁぁああああああぁぁアアアア!?!!??!!!アぢゅい"!!アヅュいぃいいいいいい!!?!???!!!」
『え、ちょ、ちょっと!?こあ!!暴れないように押さえ付けて!!早く!!』
『は、はい!!』
『まったく……ッ!!大人しくしてなさい!!』
■□■□
「まったく……ッ!!大人しくしてなさい!!」
可笑しい……一体何が起こったの?確かに私は彼の意識を奪う昏睡の魔法を掛けた……はず。効果が無かった?いや、それはないわね。だとしたら今魔法が掛かっているのが可笑しいことになる。だとしたら、彼に能力が……?そうだと仮定して、耐性……解毒?除去と言う可能性もある。なら一体何処までなら大丈夫なのか……気になるわね……。こうなっていると言うことは肉体的な物への効果は、恐らくない。魔法には何かしらの影響が出ている。ふむ……。情報がすくn―――
「パチュリー様?」
「何かしら小悪魔」
私の名前を呼ぶ声に思考を一時中断し、声の主に返事を返す。
彼女は小悪魔。私が契約した未熟な悪魔だ。俗に言うインキュバスに部類される悪魔だ。ただ好んで男は喰わないらしい。理由としては、現在は契約により強制的に魔力の供給をしている。これが、彼女たちの食事、つまりは『精』の代わりとなっている。そして、彼女いわく『インキュバスにだって襲う人を選ぶ権利は有ります!!』とのこと。
「いえ、深く考え込んでいたようでしたので」
「ええ、ちょっとね。そうね、折角研究対象に出来そうなのだから死なせるわけにはいかないわ。続けるわよ。さっきみたいな事態にならないように、しっかりと押さえておきなさい」
「はい」
小悪魔が彼の肩を押さえ付ける。両手両足を拘束しているとはいえ先程のようにいきなり目を覚まされ、暴れられたら堪ったものではない。いっそのこと首と胸の部分にも拘束具を付けたいところだが、首は純粋に危ない。かといって胸の部分に付けたら作業がしづらい。
魔理沙も厄介な者を連れてきたわね……。
小悪魔が頷き、私は彼に向き直った。そして、手首から先がない右腕に触れる。
そこから、二の腕、肩、心臓、脳へと魔力を循環させていく。これは血管、毛細血管の修復作業。と、同時に彼の霊力を強制的に引き出す作業だ。先程彼が熱がっていたのは魔力への拒絶反応のようなもの。吸血鬼を流水に浸けるようなもの。人間なら熱した鉄板で焼かれているような感覚だろうか?なんにせよ、かなりの激痛なのは間違いない。
だが、その作業ももう終わり。次の作業に移ろう。
「ふぅ…………次に移るわよ」
そうして夜は更けていった……
■□■□
「…………ん………………あ、れ?」
目が覚めたと同時に目の前に広がったのは赤一色。その赤色が一つの部屋だと気づくのに少し時間が掛かってしまった。そして、それと同時に『アノ』出来事を思い出した。
ゆっくりと右腕を持ち上げる。なんの問題もなく持ち上がった右腕の先には、あの見慣れた肌色は一切なかった。
「……なんだこれ」
そして、右腕の先には金属で出来た手のようなものがあった。そして、その現実味のない事を前にしてか異様に冷静に右手が無くなった事。アリスさんの事がすんなりと受け入れることが出来てしまった。これが俗に言う一周回ってと言うやつだろうか?
「……………………もう、右手で物を掴むことも出来ないのか」
小さく呟いた。言葉では簡単に現せれる現状に、体が鉄の塊になったが如く重く感じられた。冷静な頭とは裏腹に心には傷を負っている。表すのならこんな所だろうか?
『こんにちは。不思議な人間さん』
「うわ!?」
唐突に声を掛けられ声を荒げてしまった。
目の前には一人の女性。薄紫色の服に身を包んだ、どこか病人のような儚さを醸し出す美女。
『声を掛けただけなのにそこまで驚かなくても良いのではないかしら?』
「す、すいません」
『まあいいわ。私はパチュリー・ノーレッジ。貴方は?』
「あ、えっと、佐々木松です。しょうは松って書きます」
「松ね。覚えたわ。早速で悪いんだけど右手を見せてもらえるかしら?」
おずおずと右腕を持ち上げ、金属と化してしまった右手を見せる。
正直見せたくはなかった。しかし、これからはこの右手で生活をしていかなければならない。なら、こんなところで恥ずかしがっていてどうする!!と、半ばヤケクソになっている。
「ちゃんとくっついているわね。どう?違和感はないかしら?」
「えっと、動かせない以外は……。えっと、あれ?気持ち悪くないんですか?」
「気持ち悪い?自分がやった事の成功に対して気持ち悪いもなにも無いでしょう?寧ろ美しいわ。うん。この様子だと大丈夫そうね」
パチュリーさんは満足げに頷くと、俺の右手を手に取った。
待ってほしい、ただえさえ理解が追い付いていないのだ……。これ以上訳がわからなくなったら―――
「何時もの様に手を動かしてみなさい」
「…………うご、く?」
親指が、人差し指が、中指が、薬指が、小指が、動く……。握り拳も作れるし、逆にその握り拳を開くことだって出来た。まるで、自分の手のように、生まれ持った右手のように……。金属の手は動いてくれた。
「問題ないようね。詳しく話をしたいところなんだけど、その前にレミィ、この館の主に会って貰いたいの。いいかしら?」
「館の主に会えば良いんですよね?分かりました」
「そう、ありがとう。それじゃあ外に私の使い魔がいるから、その子に案内してもらって」
「分かりました。その、この手ってパチュリーさんがしてくれたんですよね?ありがとうございます」
「喜んでくれたようでなにより。さ、主が待っているわ。早く行きなさい」
俺はベットから起き上がり、パチュリーさんの横を通ってドアへと向かう。そして、ドアノブに手を掛け、押し開いたときだった。
「銀色のメイドに気を付けなさい」
部屋から一歩踏み出した俺の耳に届いた小さな声。
「どういう意味ですか?」
「行けば分かるわ。それと、そこは何も聞き返さず出ていくところよ」
振り向いた俺に、パチュリーさんは笑って答えてくれた。しかし、その妙に優しげな笑顔に対して、異様な不安が心のなかを渦巻いた。
ドアを開け、外に出る。そして、目の前の光景に驚きが隠せなかった。図書館。一言で表すのならこれにつきるが、その埋蔵量、図書館の形状に対して、一言に図書館と表して良いのか……。
『ふふ、すごいですよね。ここに来られた方は大体その様な反応をするんですよ。あ、申し遅れました』
いつの間にか隣に立っていた女性は、スカートの両端を摘まみお辞儀をした。
『私はパチュリー・ノーレッジ様の使い魔。小悪魔と申します。こあでも小悪魔でも、ご気軽にお呼びください』
こあくま?それって最早名前ではないのでは?
「えっと、よろしくお願いしますこあくまさん。俺は佐々木松です。松って書いてしょうって読みます」
「よろしくお願いしますね。松さん。それでは、レミリア様の所までご案内致します」
こあくまさんは小さくお辞儀をし、歩き始めた。その後を追うように俺も彼女に続いた。
この先に、なにが待ち受けているのかも知らずに―――
お読みいただき有難うございます!!
小悪魔って紹介されて、バカ正直に小悪魔の字を当てる人は少ないと思うの。
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあればよろしくお願いします。
次回はおぜう様です。
では、また次回〜