いやー
早いね!!
では、どうぞ!!
目が覚める。
そこは部屋だった。どこか見慣れた木製の部屋。だが、どこかもの寂しい。家具が置いていないからだろうが、どうもそれだけでは無い気がする。何故だろうか?それに窓も無いようだ。天井にはランタンの様なものが青白く部屋全体をぼんやりと照らしているのも寂しく感じる原因だろう。
「取り敢えず出口を探した方がいいか?いや、あれ?そもそも俺何してたんだっけ?」
右手を額に持っていく。が、可笑しい。額に持っていた筈の右手がどれだけ近づけても額に届かない。
可笑しいな?と右腕を動かし右手を確認する。
「…………………………………………へ?」
弱々しい声が部屋の中を木霊した。
「え?あれ?な、なんで?どうして?なにがあっt―――――ぁ、ぁあ……ああぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁああああああァァアァアアアアァァァァァァ!!」
頭を駆け抜けるアノ記憶。それが激しい頭痛となり襲い掛かってくる。
まるで、金槌で殴られ続けているようなそんな激しい痛みの中で濁流の様に流れてくる記憶。ボトボトと零れていく涙をぬぐうことも出来ずただただ頭を抱え痛みが去るのを待つことしか出来なかった。
そして、痛みが引き始め、涙も枯れ果てた時―――カツンッカツンッ―――と誰かが歩く音がぼんやりと耳に入ってきた。その速度は一定で、固いものが床に打ち付けられる音からヒールの様な女性物の靴だろうとも推測できる。
さっきまで痛みに悶え苦しんでいたのに、今は何故だか痛みを忘れられていた。
恐怖
痛みを忘れられていたのが何故か……。俺はこのあと、当然現れた扉から入ってきた女性を目にして文字通り痛感する事となる―――
美しい金色の髪。暗い深海のように酷く澄んで、酷く濁った、サファイアのような青色の瞳。その奇抜な服には所々に赤黒い斑点が浮かび上がっている。西洋人形のようにかわいらしいその顔は、頬が赤く上気しており、美しさの中に隠しきれていない不気味さを漂わせている。
彼女の名はアリス……アリス・マーガトロイド。俺の右手を……握り潰した女。
理性が、本能が、願望が、動こうとしない体に逃げろと命令を下すも、蛇に睨まれた蛙の如くビクともしない。今俺の体で動いているのじは、目とそこから流れる涙のみ。
彼女はゆっくりと、ゆっくりと、怒りとも歓喜ともとれる濁った瞳で俺のことを見つめながら近付いてくる。
そして、そっと伸ばされた量腕が俺を優しく押し倒す。抵抗することもせず、なされるがまま押し倒された俺は、後ろのベットに倒れた。ポフンと間の抜けた音が奇妙に部屋に響く。
『………………』
彼女は何も発しなかった。代わりにピィーと甲高い音が耳につく。
それは糸だった。細い、細い、タコ糸よりも細いであろう糸であった。彼女は糸を俺の右肩に巻き付けた。
もう、この後起きることなんて想像出来ていた。しかし、抵抗できなかった。抵抗してはいけなかった。
そして―――
「ぁ―――」
―――右腕が切り離された。
「ミギャァアアアアアアアアアア!!!!」
意図も容易く行われた現実にのたうち回る。
熱い熱い痛い痛いいたい痛いイタイイタイイタイ痛いいたい痛いイタイ痛いいたい!!
のたうち回る体を彼女は力付くで抑え、今度は左の肩に血に濡れた糸を巻き付ける。
『大丈夫……スグにナオシテあげるかラ……アは……アハハハはははハ!!』
―――ブチンッ!!
そんな音が聞こえた―――
■□■□
深い深い森のなか……。そこには二つの影がある。
「それじゃあ行ってくるわね松」
「ああ。気を付けてね。いってらしゃい」
方や人形のように麗しい女。方や車椅子に座った男。
女と男は仲むつまじい夫婦のように挨拶を交わす。
それは、何も知らぬ者からすれば羨ましくもあり、そして微笑ましいものである事だろう。そう……何も知らない者からすれば……。
男には手足がある。しかし、その手足はピクリとも動かない。ただ重力従いぶら下がっているだけだ。
パッと見では手足が折れているのかと思うだろう。よく見ればそれがただ折れている事ではないことが分かるだろう。しかし、その手足がどうなっているかは分からないだろう。
何故なら、男自身も自身の体がどうなっているのかを理解していなから。いや、違和感を、疑問を持っていないからと言った方が正しいだろう。
『クソ……ッ!!どこだよここッ!!』
それ以前に感情と言うものを持ち合わせているのかすら怪しい。男は女が去った今も、出入口である扉を光を通さないその目で微笑みを浮かべたままじっと見つめ続けているのだから。そして、その表情すらも一切動かない。完璧に『作られた』かのような笑顔は一切動かない。
『出せ!!出してくれッ!!』
男の心は動かない。動くことを許されない。
たとえ、心の奥底で何かが叫び続けようとも、決して、けっして動くことを許されない……。
『なんだよ……俺が、何をしたって……クソッ……』
しかし、その心の奥底で叫ぶ存在は今の状況が一番良いのかもしれない。
だれしも……自身が―――
―――『人形』になった現実を受け止めるなど到底無理な話だから―――
「ただいま松。良いコニしていたカシラ?」
「お帰りアリス」
そして今日も、光を通さない、色を写さないその瞳は女だけを写す。
その手足は女の指と連動し女を抱き締める。
その口は女を満足させる為だけに声を出す。
そこには、一人の麗しく、狂った女性。方や良く作られた男の人形。
端からみれば、幸せな空間かもしれない―――
しかし、そこに女が望んだものは存在しているのか―――
『愛しテルワ松』
『アイシテルヨアリス』
「誰か……助けてくれよぉ…………」
―――それは、言うまでもないだろう―――
END1
人形
END
お読みいただき有難うございます。
END1 人形
いかかがでしたでしょうか?愛しい男性を得るために、男性の体と心の自由を奪う。そして、作られた愛に、歪んだ愛を絡ませる……。彼女は一体どこで間違えてしまったのでしょうね?
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
そして、どこか物足りない……
では、また次回。