フランとの別れです。
では、どうぞ。
階段を降りた先には一つの扉。
その扉を開く前に目を擦る。こんな顔を見せたら心配させてしまう。
何度か目元を擦り、もう大丈夫だろうと扉をノックする。
ココっン
手が震えていたのか、ノックの音が二重になって響く。
咄嗟に腕を引き、右手で抑え込む。
「はーい?だれー?」
ガチャっと扉が開き、その奥から見慣れた顔が出てくる。
「あ!!おじさん!!」
フランドールが抱き着いてきたので、それを優しく受け入れる。
「久しぶり、フランドール」
「うん!!取り敢えず入って入って」
フランドールに後押しされる形で部屋へと入っていく。部屋の中は綺麗なもの……でもなく、多くの本が散乱していた。
「私ね、知ってるよ。パチュリーと、お姉様が話してるの聞いたの」
唐突の告白。
ドクン。心臓が跳ねた。息がつまり、呼吸が出来ない。
「だから、勉強しようって思った。最初は、おじさんがいなくならなくても済むように、強くなろうって。そうすれば、おじさんも安心して此処で暮らせるだろうって……そう……思ってた……」
フランドールの瞳には涙が溜まり今にも零れ落ちそうで……でも、俺は何も出来なかった。
「魔法もいっぱい覚えたよ、治すのも、壊すのも、人がどんな生き物なのかも、悪魔との契約も……今ならおじさんを守り切れる。絶対に。でも、ダメ、なんだよね……おじさんは、それじゃぁ……辛いんだよね。私の自己満足だけが、残るんだけなんだよね……」
「……ごめん……ごめんな……」
目尻に溜まった涙が零れ初め、スカートに染みを作り消えていく。
「おじさんは……悪くないよ。勝手に私が依存していただけだから……おじさん、は……悪くないッ、から……う、ううッ」
目尻に溜まった涙は遂に決壊し、フランドールは嗚咽を出しながら泣き出してしまった。
それなのに、俺はどうすればいいのか分からなかった。
だから、そのフランドールの体を優しく抱き締めた。
「うぁぁぁ!!」
泣きじゃくるフランドールの頭を撫でてやることしか、俺には出来なかった。
□■□■
「……ありがとう、おじさん」
泣き止んだフランドールが離れていく。目は真っ赤に晴れていた。
「……あーあ、本当だったらおじさんが泣いてたみたいだから、慰めようと思ってたのになー」
フランドールは陽気な声を出しながら、くるりと回り、背を向けた。
「バレてたか」
だから、俺も陽気な声で返事を返した。
「バレてるよ。だって。おじさんとは繋がってるんだから。悪魔との契約でね。これを通して、私はおじさんが何を考えてるのかが分かるようになった。おじさん……女の子が泣いたからって戸惑ってるだけだとダメだよ?そういう時は優しく抱きしめて、頭を撫でてあげるのが一つの正解。おじさん、行動は正しいのに心の中では戸惑ってばかりなんだもん」
「あれで良かったのか……俺の苦労は一体……」
陽気な声に、陽気な声で返す。
「でも、これも今日でおしまい。おじさんとの契約は、今日でおしまい」
震えた陽気な声が耳へと届く。
「さようなら、おじさん。私がこうしていられるのは、おじさんが。あの時、私の手を握ってくれたから。そうして、私が今も今までも、そして、これからも……進んでいけるのは、おじさんが私を救ってくれたから。だから、本当にありがとう。さようなら、おじさん」
フランドールと、俺の間に現れた光の糸が消滅した。恐らく、今のが俺とフランドールを繋いでいた契約なのだろう。
「……フランドール。君と会えて、君を救えて、今、本当に良かったと思える。俺と出会ってくれて、本当にありがとう。どうか、これからも、俺の代わりに進んでくれ。ありがとう、さようなら」
背を向け、部屋から去る。後ろから聞こえる小さな声に振り返るなと、振り返るのは、フランドールを侮辱する行為だと。
『あ…………うぁ……おじさん……おじさん…………いやだ……おじさん……そばに、いてよぉ…………ぁ…………ぁぁ…………』
そう、自分に言い聞かせながら。
お読みいただき有難うございます。
契約は両者が了承している状況ですので、簡単に消すことが出来ました。
恐らく、フランからすれば、この契約は消えて欲しくなかったでしょうね。消えなかったらそれは……
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
アンケート結果が全部同数になってしもうた。どうしましょう……
では、また次回。