松くん……
ではどうぞ!!
「朝からうどんげの姿が見えないと思ったら、貴方を向かえに行っていたのね」
「はい。松さんはまだ竹林の道を把握していないと思いまして」
「その行動自体にとやかく言うつもりはつもりはないけど、せめて一言欲しかったわね」
「すいませんでした……」
「さてと……松、早速で悪いのだけれど今日は一人で行ってきて貰える?」
□■□■
流石に無理だと抗議した。里の中を把握していない、一回行っただけの素人、それ以前に右手は動かない。地図を渡され、お得意様の昨日行った所と同じ場所。新薬の宣伝に行くだけだから右手もさほど関係ない。いざとなればと言われ渡されたのは霊力を引き出す為の薬。これで右手も動くだろう。との事。実際三本用意されていた内の一本を飲んでみたが、問題なく動いている。言いたいことは沢山あったが、そこまでされてなお無理だと言えるほど俺の立場は強くないのだ。これで更に抗議してクビになったりでもしたら堪ったものではない。
そんなこんなで今大人しく新薬の説明を行い、次で三軒目なのだが……仕事とは辛いものである。
「すいませーん。永遠亭のものですがー」
「少し待っていてくれー」
玄関を越えて聞こえてきた声。正直二度と会いたくない相手ではあるがこれも仕事。永遠亭へ迷惑が掛からないように出来る限り愛想良く接客しなければ。
「待たせてしまってすまない。と、おや?佐々木松ではないか。鈴仙は一緒ではないのか?」
「はい。私一人です。今日は新薬の宣伝に来ました。今回の新薬は―――」
捲し立てるように言葉を紡いでいく。出来る限り上白沢慧音の顔を見たくはない。その一心で。
つまり、
「説明は以上です。購入される場合は次回の補充の時に言っていただければ追加で入れておきますので。それでは失礼します」
「いやいやいや、流石に全部は頭に入ってこなかった。急いでいるのかもしれんが、もう一度とは言わんからもう少し説明してくれ」
相手は不満で、引き留められるのは必然だと言うことだ。
「説明ならさっきしたではないですか」
「いや、だからな?説明が早くて聞き逃したところがある。そこをもう一度説明してほしいんだ」
―――ああ、苛々する。あの時は説明もさせてくれなかった、それどころか此方の話すら聞いてくれなかったのに今度は説明しろ?それも一度言ったことを?「随分自分勝手なくそったれだな」
「なに?」
「ああ、すいません。声に出てしまっていたようです。人の話を聞かないような方が偉そうに話を聞かせろと言ってくるものですから。そんなことで教師が勤まるなんてすごいですよ。あ、そうか反面教師と言うものですか。確かに、それなら貴女以上の存在は居ないでしょう。それでは、私は此で失礼させて頂きます」
後から気付く。自分は何て事をしてしまったのだろう。永遠亭へ迷惑を掛けないどころか、火種を作りに行ってしまっているじゃないか。
どうして、急にあんなに苛々したのだろう……疲れているのだろうか?分からない……。
その日は仕事を早々に終わらせ帰宅した。
そして、次の日、鈴仙さんと一緒に訪問販売。そこには勿論寺子屋も含まれる。
門前払いも覚悟していた。そして、帰った後、永遠亭を辞めようとも。
けれど、それ以上の事が起きた。
笑顔だ。上白沢慧音さんは笑顔だったのだ。まるで、昨日のやり取りを忘れたかのように。いや、実際忘れているのだろう。
永遠亭は辞めなくて済む。けれど、寒い。まるで、先の見えない暗闇を歩いているかのような錯覚。ただ、寒く、恐ろしかった。
そんな時、鈴仙さんはずっとソバにいてクレタ。
イマこうしテオレガイキテいられるのもカノジョのおかげだ。
今度キチンとオレイをシナければイケナいな。
『『フフフッ』』
お読みいただき有難うございます!!
慧音に対する好感度駄々下がり
鈴仙に対する好感度急上昇?
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
時間は進む。たとえ、それがどんなに理不尽な結果に結び付くとしても……