多少はスランプ直ってきた……気がする……。
では、どうぞ!!
入院三十二日目
今日で遂に退院。そして、同時に永遠亭に就職。基本的には鈴仙さんの補助として人里に出ながら、薬の販売を行う。ある程度慣れてきたら、俺一人で売りにも出るようになる。薬の販売を行わない日は、永遠亭で八意先生の手伝いをすることになるだろう。
「松くんは病み上がりだからあまり無理しないこと。鈴仙も松くんにはあまり無理させないように。それじゃあ行ってらしゃい」
八意先生に見送られながら、永遠亭を後にする。
右手と左手で背負っている荷物をしっかりと固定し、鈴仙さんの後を追うように付いていく。右手が使えるのは鈴仙さんの妖力供給のおかげだ。
荷物を背負い、歩くこと二十分程だろうか。漸く人里に到着した。
二人で里を歩き、先ずは、以前から薬を買って頂いているお宅へ訪問販売。その後は、まだ買ってもらったことのないお宅へ訪問販売。後は路上で声を掛けられたら薬を売る位だろうか。
薬を路上で売って良いのか疑問ではあるが、まあ、元の世界とは色々違うのだしきっと大丈夫だろう。
次は……俺が永遠亭に行く前の住居。宿、長屋と言うのだろうか、其所へ訪問する。恐らく俺の部屋は既に無くなっているだろうが。
なんて思いながらも、何事もなく長屋へと付いた。
此処で永遠亭の薬を買って頂いているのは大家さんと、俺のお隣さんだけのようだし、すぐに終わるだろう。
『おや?松じゃないか。久しぶり。一体ここ一ヶ月何してたんだい?』
「あ、お久しぶりです。赤さん。いや、色々ありまして、心配お掛けしました」
赤い髪に、口元まで隠す真っ赤なマント。そのマントの上からでも分かるスタイルのよさ。何かの妖怪であるらしく、このマントはそれをカモフラージュする為のものらしい。
「そんな畏まらなくても良いってば。どうやら仕事も見つかったみたいだし、隣人としては嬉しい限りだよ。あ、そうそう。松の部屋なんだがね?」
「別の誰かが入っちゃいましたか?もし住んでいる方が居なかったらもう一度借りようと思っていたのですが……」
「違う違う。実はね、知ってたんだよ。お前さんが怪我して帰ってこれなかったのは。隣の薬売りが教えてくれたよ。だから部屋はそのままだ」
「本当ですか!?それは良かった。また一からこんな手の奴を受け入れてくれる場所を探さなくてすみます」
「家賃は三週間分貯まってるがね。頑張りなよ?」
「はい。ありがとうございます」
「礼なんていらないよ。それは大家とそっちの薬売りに言っときな」
赤さんに薬を売り、大屋さんにお礼を言って長屋を後にする。
にしても、先程の赤さんの報告は本当に有難い。如何せんこの手では気味悪がられ門前払いの所も有ったほどだ。そんななか漸く見つけた安全な場所。多少ボロいとは言え、かなりの格安。三週間分とは言われはしたが、レミリヤさんから頂いたお金を全て出せば足りるだろう。
それと、鈴仙さんにも感謝しなければ。彼女が伝えてくれていなければ俺は今頃ホームレスと化していたのだから。
「鈴仙さん。ありがとうございます」
「それは先程の長屋の件ですか?だったら当然のことをしたまでですよ。ちゃんと約束しまシタからね」
約束?俺は彼女と何か約束でもしただろうか?覚えていないな……まあ、気にする必要なんてないか。
その時は浮かれていた。
そんな約束はしていない。
そもそも俺は何時、彼女に住所を教えた?
八意先生にも教えていないのに、何故?
疑問に思うべき場所は、不審に思うべき所は幾らでも存在したのだ……
■□■□
次の訪問場所は寺子屋。一番のお得意様らしい。
「すいませーん、永遠亭の者ですがー」
鈴仙さんが玄関前で声を上げる。すると、少し遅れて声が帰ってきた後、一人の女性が姿を現した。
『すまない、待たせてしまったな。と、おや?いつぞやの……名は佐々木松だったか?』
「ええ、合っていますよ。お久しぶりです上白沢さん」
真っ白な髪に、青を基調とした服。凛々しい雰囲気を纏ったたできる女。
そして、以前伺ったとき『子供たちに悪い影響が出る前に帰ってくれないか』と出会い頭早々、この右手を見ながら言い放った女だ。あの時の会話は全部覚えている。
『それじゃあ何時も通りの量を頼む。にしても佐々木松、職が見付かったのだな』
正直顔も見たくはなかったが、此方は店員、向こうは客の立場。無視すると言うわけにも行かず、仕方なく声を発する。
「ええ、おかげさまで」
『むっ、随分愛想がないじゃないか。それではこれから先やっていけないぞ?』
「言われなくても分かっていますので」
『……なあ、私が何かしたか?』
「ええ。とはいっても、その様子だと覚えられていないようですがね」
「慧音さん。補充終わりましたので、お代は此方ですね」
上白沢さんとの会話を断ち切るように間に入ってきた鈴仙さん。
ああ、やってしまったと内心後悔しながら、彼女の斜め後ろ立つ。
「ありがとうございました。また一週間後にうかがわせていただきマす」
『あ、ああ……またよろしく頼む』
そうして、寺子屋を後にした。
「すいません……商売の邪魔をしてしまって」
「いえいえ、構いませんよ」
鈴仙さんは笑って許してくれた。しかし、迷惑をかけてしまったのにはかわりはない。今度何かしらのお礼をしたほうが良いだろ。
『(子供たちに悪い影響が出る前に帰ってくれないか。
その右手、何かの呪いかなにかなのだろう?周りにどう影響を与えるか分かったものじゃない。
いえ、これは呪いとかじゃなくてですね
呪いじゃなかったらなんだ?お前自身が妖怪と言う可能性もある。ん?そう言えば、右手が可笑しな奴が職を探していると聞いたな。さてはお前か?
確かにそれは私ですが……
やはりか……帰ってくれ。私も半妖の身ではあるが、得体の知れない存在を雇うなど出来る筈がない。それに、お前は紅魔館から来たそうじゃないか。だとしたら、なおさらここには置いておけない。むしろ人里を守護する者としてはさっさと紅魔館に帰って欲しいところだ。何が嬉しくて吸血鬼の使いを雇わなかればならないのか。それでもなお、此処で働きたいのなら、その気持ち悪い右手をどうにかして、かつ、身の潔癖を証明してくるんだな。
……ッ!!結構です!!)』
「(こんな俺でも、家族だって言ってくれた、認めてくれた人達なんだ。上白沢さんが、生徒を大切にしていることも分かる。安全性が確保できていない相手ならなおさらだ。けれど、けれど……ふざけるなッ!!ああ、クソッ!!イライラする!!)」
「松さん。お気持ちは察します……けれど、今は抑えておいてください。帰ってきたら私が受け止めますから。ネ?だいじょうブデスよ。私はキチント理解シテいますカら……」
「すいません……ありがとうございます」
固く握りしめた拳を、鈴仙さんは優しくその両手で包み込んだ。
そのお陰か幾分か心が落ち着いた。
「ええ……それはヨカッたデす。それじゃあ、残りも一気にいってしまいしょう!!」
鈴仙さんは俺の拳をそのまま天高く伸ばさせ、オーッと言った。それに、俺は苦笑いを浮かべるしかなかったが、その姿に救われたのだ。
お読みいただき有難うございます!!
けーね先生がゲスに……なんでや……
いや、まあ、里の人や子供たちの平和を思っての行動だからね?その、ね?ごめんなさい……
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
次回作ではもっと出番を増やしてあげよう……
では、また次回~