歪んだ愛をアナタに(完結)   作:ちゃるもん

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投稿です!!

まだほのぼの……『まだ』ほのぼの……
……ヤンデレを……ヤンデレよこせぇえええええ!!!!

では、どうぞ!!


第3話 幻想郷

家主であるアリスさんよりも先に風呂を頂き、軽く汗を流す。流石に女性の使っている石鹸を聞きもせず使うのは躊躇われた。

 汗を流し、風呂から上がり、アリスさんが準備してくれたのであろう洋服に袖を通す。少しばかり小さいがそこは気にしてはいられない。あまり激しく動かなければ破れるようなことはないだろうし。生活に支障はでない。はずだ。

 そして、風呂場から出た俺は目を疑った。現代でもあり得なかったその光景に、口を閉じることを忘れていた。

 

「アリスさん。あがりまし、た……よ?」

「あ、もう上がったの?男性のお風呂は早いって聞くけど本当なのね」

 

 そう微笑みながらお茶の準備をしているアリスさん。そして、その傍らにはせっせと動いている人形。空中に浮き、戸棚からお菓子を取り出している『人形』があったのだ。

 そして、その人形には表情があった。楽しそうにお茶を出す姿は人形と呼んで良いものかと考えてしまうほど。しかし、その大きさは赤子ほどしかなく、もっと言えばそれ以外に人形と判断する材料がなかった。

 

「……どうしたの?」

「え、あ、いや……その人形は一体」

「ああ、上海(シャンハイ)のこと?」

「人形……ですよね?」

「ええ。自立型人形の完成形。今は人形と言うよりも付喪神の方が正しいけどね」

「付喪神?」

「ええ。付喪神。一応他の子達も居るけど成功したのは上海と蓬莱(ほうらい)だけなのよね。一体何が鍵となっているのか……。それで?他に質問は?」

 

 アリスさんは手を休ませることなくスラスラと簡潔に説明を済ませた。しかし、その興奮した声色やキラキラと輝く目は見た目相応の、こう言ってはなんだが子供らしさを感じた。もし、アリスさんに犬の尻尾が存在したのであればブンブンッと忙しなく揺れている事だろう。

 ふむ、アリスさんも色々話したいのだろうし、どうせだから色々と話を聞かせてもらうことにしようか。

 

 

■□■□

 

 

「つ、疲れた……」

 

 あの後魔法、魔術について永遠と語られた。晩御飯を作っている最中も食事中もずっと。その事自体は情報を得ようとしている身として有り難いことではあったが、如何せん専門用語らしきものが多すぎて分からないことの方が多かった。

 魔術回路やら神秘やら呪術について。魔法と魔術の違い。研究している完成形自立型人形について等々……。正直魔法と魔術の違いなんて細かすぎて良く分からなかった。あれだ、奇跡的なことは魔法~的な感じだ。他の事についてもそんな簡単な事しか分からなかった。

 

 ただ、同時に幻想郷と言う場所に付いても教えてもらうことが出来た。

 まず幻想郷と言う場所について。幻想郷とは忘れ去られたもの(妖怪や神様等といった存在の事)の最後の楽園らしい。なら、そこに迷いこんだ俺も忘れ去られたものに当てはまると言われると、一概にそうとは言い切れないようだ。幻想郷に訪れる。または、迷い混む方法は三つ存在している。

 

 一つ。外の世界で忘れ去られる。もしくは、必要とされなくなる。

 二つ。幻想郷を隔離する結界に綻びが生じ、偶々そこに居合わせる。自殺願望者等は自然と引き寄せられる傾向があるらしいが、幻想郷に迷い混む事は希らしい。

 三つ。八雲紫と言う妖怪の賢者に連れてこられる。もしくは、八雲紫の開いていた境界と言うものに落ちてしまう。

 

 この三つが幻想郷に迷い混む方法。これに当てはめるなら二つ目の偶々結界の綻びの近くに居て迷いこんだか、三つ目の八雲紫に連れてこられた。境界に落ちた。の何れかだろう。

 そして、さらにそこから絞り混むと、一番強い説は二つ目か。缶を拾って、振り返ったら幻想郷に迷いこんでいた。落ちていく感覚も、誰かに会った記憶もない。

 

「まあ、だからなんなんだって話だけどな」

 

 さっきまでの考えを簡潔に纏めてみたメモ帳をベットの上に放り投げ、自身も一緒にベットへと寝転んだ。

 

 両親とは仲が良いわけでも、悪いわけでもない。一言で言えば、冷めている。両親へ積極的に関わろうとしない。両親も同じく、俺に執念に関わろうとしない。だから、家を出て一人暮らしになって約六年。両親への連絡は右手の指で足りる程で、その内容も形としての引っ越しが無事終わった事を知らせるだけのものであった。

 その後はそこそこの企業に付き、寂しい生活を続けるばかり。女性なんかにも縁はなかった。それでも何不自由なく、誰にも邪魔されず生活できる。と言うのだけで俺は満足していた。それでも、あの夜のように寂しく感じることもあったのだが。

 

「ほんっと、悲しいことに帰る理由が殆ど無いんだよなー」

 

 強いて上げるとするなら……仕事が残っている事ぐらいか?

 それ以前に俺が居なくなった事に気付く人は居るのだろうか?いや、仕事場の誰かが流石に気付くか。

 

「さてと……幻想郷への無駄な考察は止めにして、次はこの森、魔法の森について無駄な考察を始めるとしよう。完全に暇潰しになってるな……」

 

 頭の上辺りに落ちているメモ帳を取り、ペンを持つ。

 

 この森は魔法の森と呼ばれている。

 その名の通り魔力と呼ばれる精神の源の様なものを多く含む植物が多く生息しているらしい。食人植物もせいそくしているとアリスさんは言っていた。

 そして突然変異種も数多く存在しており、長年住み続けているアリスさんでも把握仕切れていないとのこと。俺がアリスさんの家にご厄介になるきっかけとなったのも突然変異種の毒で死ぬ可能性がゼロではないからだ。一応解毒はしたと言っていたが。それでも、安心は出来ないとのこと。

 

「……こんなもんか?にしても俺が女と同居……ねえ。人生何が起こるか分かったもんじゃねえな」

 

 再度メモ帳をベットの上に放り投げる。対して俺はベットから起き上がり窓から外を眺めた。

 まるでおとぎ話に出てくるような深い深い真っ暗な森。空には満点の星空。その中でも一際目立つ半月。多分上弦の月だろう。現代日本でもそう見ることが出来ないであろう美しい世界がそこには広がっていた。  

 

「そう言えば……月の明かりで活性化する植物も有るとかなんと言ってたな」

 

 名前は忘れたが満月の日には青白く発光する魔法の森にしか生息しない植物で、確かな形を持たないらしい。キノコのようなのも有れば、蔦や雑草の形のモノもある。ただ、性質は一緒だとかなんとか。

 今研究している植物らしいので特に熱く語っていた。そりゃあもう、食べていた料理のソースが俺の顔に飛んでくるレベルで……。

 

「………………やることないし寝るか」

 

 子供のようにベットに飛び込み、襲ってくる微睡みに身を任せ、俺は瞼を閉じた。

 

 

□■□■

 

 

 眩しい光が瞼が越しに突き刺さり、俺は半強制的に目を開くこととなった。

 

「う……まぶし…………」

「シャンハーイ」

「………………うお!?」

 

 瞼を開けた俺の目の前には、俺の腹の上辺りをプカプカと浮いている自立型人形『上海』が居た。

 

「起こしに来てくれたのか?」

「シャンハーイ」

 

 上海は大きく頷いた。子供には縁がなかったが、もし娘が居たらこんな感じなのだろうか?

 ふよふよと回り始めた上海に癒しを感じ、俺は重たい体をゆっくりとベットから起こした。

 

 上海に先導され台所まで来た。そこにはこの家とは似つかわしくない和風な朝食が並んでいた。

 

「あ、起きたのね。おはよう」

「あ、えっとおはよう」

 

 少し詰まってしまったのはしょうがないと思う。助けて貰って、一日共に過ごしているとはいえそれでも他人であることにはかわりない。

 しかし……挨拶とは良いものだ。心からそう思った。

 




お読みいただき有難うございます!!

クソッ!!なぜ、なぜヤンデレが出て来ないんだッ!!

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

リレー式小説。今週はちゃるもんでした。
よろしければお読みください。

では、また次回~

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