……あれ?ここまでするつもりは無かった筈なんだけと……可笑しいぞ?
では、どうぞ!!
霧が掛かった竹の森。竹林と呼ぶには生ぬるいのではないか?と思ってしまうその場所は、里の者たちから迷いの竹林と呼ばれている。『一度目印を見失ってしまっては決して戻ることは出来ない。だから絶対に目印を見失うな。そして、道から逸れようとするな。分かったな』俺がこの迷いの竹林の奥にある永遠亭の話を隣人から聞いたとき、一緒に言われた言葉だ。
正直な話、そんなに警戒するような物でもないだろう。と、舐めていた。しかし、こうして目の前にしてみると……自分が景色の変わらない竹林を永遠とさ迷う様を鮮明に想像できた。
だが、つまりは道を外れなければ問題ない訳である。矢印を辿れば良いだけなのと、足元の雑草は人間が踏み潰しているからか回りの雑草との高低差があり分かりやすい。
天然の迷路を進むこと五分。小さな出店の様なものを発見した。地面に布を広げ、その布の上には赤や青、黄色といった色をした、得体の知れない液体が小瓶に分けられている。
それの持ち主であろう商人は箱にどっしりと腰を下ろしている小さな少女。怪しさ満点だった。
触らぬ神に祟りなし。その出店と呼ぶには質素過ぎる店の前を通り過ぎようとした時だった。
『あんた……見ない顔だね』
声を掛けられた。
「すいません。急いでますので、これで」
軽く頭を下げながら立ち去ろうとする。けれど、商人は食い下がってくる。
『まあまあ、少しぐらい見ていってもばちは当たらないと思うんだがねぇ?』
「だから、急いでいますので」
『しょうがない……本当なら同意の元にしたかったんだが……兎の娯楽のために犠牲になってね♪』
妙に弾んだ声。そして、目の前を覆う赤色。出店に並んでいた液体を掛けられたと理解するのは容易かった。
そりゃあ、俺だってこんなことをされて黙っておくほど非常識じゃない。目の前でニヤニヤと笑っている三人の……三人?
「―――」
視界がハッキリとせず、何故だか声も出ていない。頭が痛い。酔っている状況を極限までしたらこんな風になるのだろうか。と言った、金槌で頭を殴られているかのような酷い痛み。
『さぁて……人間はどんな行動を……チッ、鈴仙に感づかれたか。しょうがない。さっさっと退散しますか。それじゃあ、頑張ってね』
少女は何かを言い残しその場からいなくなった。しかし、どうしろと言うのか。こんな状況で何かを出来るはずもない。取り敢えずこの酔が収まるのを待つしかないか。
そう考え、地面に座ろうとした時だ。目の前に何かが現れた。
人形の……獣……?犬……?
ぼやける視界の中、それが人ではない。そして、味方とも限らない。つまりは、逃げた方が良い。
こんなときでもこの頭は機械的に、冷静に判断できた。
兎に角、相手が此方に何かをしてこない内に隠れよう。
そうして、俺はその場を逃げるように去った。
今思うと、何れだけ馬鹿な行動を取っていたのか……後悔が残るばかりだ。
■□■□
少しずつ視線が定まってくる。もう一時すれば酔いも覚めることだろう。
そして、幸いなことに、少し先に明らかな人工物が見える。塀……だろうか?なんにせよ助かった。
一歩一歩、転けたりしないようゆっくりと足を踏み出す。
そして、唐突に襲い掛かってくる浮遊感。
グキッゥ
「!?うグゥがあぁぁ……」
顔から胸に駆けて走る鈍い痛み。そして、右足から聞こえる嫌な音。
どうやら途中の出っ張りに右足首が強打したようだ。
鈍く痛む全身に加え、青白く腫れた右足首。右足以外は特に問題ないだろう。けれど、右足首に関しては……恐らく折れている。少しでも動かそうとしたら電気を流されたような痛みが流れてくる。
上を見上げ、この穴の外を見た。恐らく、まだ昼過ぎ位だろうが、そこには竹林が生み出す闇が広がっていた。
落とし穴。まさか、現実で自分が引っ掛かるなんて思いもしなかった。
落とし穴の深さは結構深く、大人が穴のそこから手を伸ばし這いずり出せる程度のはある。それは、俺だって同じ条件だが、この右手。それに加えさっき折れたばかりの右足。どう考えても這いずりでるのは無理だった。
どうしようか……と考え、壁に背を付け取り敢えず立ち上がってみた。そして、右足の痛みを堪えながら、両手を穴の外に出す。右手も一緒に外に出したのは、一緒に外にやっておいた方が楽だろうと考えた結果だ。そうして、左手に力を込めた。取り敢えず半身、いや、右腕を外に出すことが出来れば何とかなるかもしれない。
結果からして無理だった。
視界は安定しない。右手右足は使い物にならず、動かす度に激痛が走る。そんな中でどうこうしようとしたのが間違いだった。
今は穴の底で地べたに座り込み、無駄な体力を消費しないようにしている。
もしかしたら、このまま飢え死にするかもしれないな。
乾いた笑みが自然と零れた。
「……ごめん、なさい」
無意識に謝っていた。
そして、
「ごめん……なさい……」
さっきと違う理由で視界が歪み、俺は意識を手放した。
■□■□
『はぁ……てゐは何処に行った……こんなところに落とし穴?……ッ!?ちょ、ちょっと!!?大丈夫!?大丈夫ですか!?』
落とし穴の中にはガリガリに痩せ細った男の姿。よく見ると足は見るも耐えないほどに青白く腫れ上がり、右手は明らかに人間の物ではない。視線は死人のように生気を失い、微妙に動く胸と微かに聞こえる呼吸音が無ければ死んでいると判断しても何ら不思議ではなかった。
そんな状況の男、佐々木松が救出されたのは、彼が落とし穴に掛かってから実に六日後の事であった。
お読みいただき有難うございます!!
少女とは一体誰なのか……?
む、6日なら人間まだ生きてられるよね……?
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
因みに、途中出てきた人形の犬は影狼ちゃん(半獣モード)です。向こうは向こうでパニクってどうすればいいから分からずあたふたしてたら、松君がいなくなってた。感じです。
あ、あと
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Twitter始めてみました。まだ、機能とかよく分かっていませんが、宜しければふぉろー?お願いします。
では、また次回〜