目的を果たすために行動を起こす。
それ自体が悪いわけではないですが……目的その物があやふやならただの迷走。
けれど、それでも立ち止まることが出来ないところが辛いですよね。
では、どうぞ!!
宿屋の部屋に一人。外は既に暗く、月の淡い光だけが部屋に差し込む。
人里に来て既に一週間が過ぎようとしていた。いや、もう過ぎたのかもしれない。空に浮かぶ月を眺め、一週間前の事を思い出していた。
□■□■
「…………つい昨日話をしたばかりなんだがなぁ?いや、私に止める権利なんてものはないんだが……いや、そうだとしてもだ、風邪が治ったとは言え、昨日の今日で出ていくと言うのは些か焦りすぎではないか?」
「すいません……ただ、このままだったら、確実に私はここの温もりに甘えてしまいます。それが、私は嫌なんです」
理由にしては弱すぎる。いや、これは理由にすらなっていない。ただの甘え。自分で嫌だと言っておきながらこうして甘えている。そんな矛盾した感情と言葉が口からスラスラと出てくることに失望する。
「……そうか、分かりたくはないが、分かった。はぁ、本来生物と言うものは甘えから、責任感や誰かを頼ることの必要性を学ぶと思っていたのだが……どうやら私の見立ては間違っていたようだな。さて、話を戻すが、紅魔館を出ていく……間違いないな?」
「はい」
「だとすれば、行き先は人里になるだろうな。場所は分かるか?」
「大丈夫です」
短く、確りと返事を返す。
変わりたい。変わっていいのか?変わろうなんて考えるその物が間違っていた。何度も自問自答を繰り返し、時には自暴自棄になったりもした。そして、漸く決まった。
もし、変われるのなら、変わりたい。
曖昧過ぎる結論。いや、結論と呼ぶにも烏滸がましい。けれど、人間が出す考えなんてそんなものだ。
「その右手でか?」
「はい」
「即答か……出来れば少しくらい詰まって欲しかったものだが。その右手で雇ってくれる所があれば良いんだがなぁ」
十中八九無いだろう。
レミリアさんの言葉に対し、心の中で結論を下す。元の世界でも、片手が使えない奴を雇うなんて事を考えるのはよっぽど経営が上手く行って余裕が有るところか、よっぽどのお人好しでもない限り雇っては貰えまい。それは、この幻想郷においても同じこと。寧ろ、妖怪と言う存在が居るこの世界の方が不味いかもしれない。雇って貰えないことは勿論のこと、見た目が金属なのだ。そして、人間は自分たちと違うものを恐れ、嫌悪する。つまり、迫害されても可笑しくないのだ。
「はぁ……まったく、面倒な奴だなお前は」
溜め息を吐き、悪態をつくレミリアさんの表情は笑っていた。
何で笑っているのだろうか?それについて、俺は分からなかった。
「私が笑っているのが不思議か?そりゃあそうだろうとも。少なくとも、今のお前には分からんだろう。だが、それを理解できるようになるために、お前は一人になるんだろう?大丈夫……お前なら分かるようになるさ。なんせ、この世界の常識みたいなものだからな。
そうだな……一つ、余計なお世話でもしておこう。私は、お前のことを家族だと思っている。それは、パチュリーや小悪魔、妖精たちもそうだ。それだけじゃない、フランだってそうだろうし、咲夜は……まあ、その内分かりあえるさ。勿論、美鈴だって、お前のことを大切にしている。
皆お前のことが好きなんだよ」
■□■□
その後、パチュリーさんや少女、フランドール。紅さんに別れを告げ紅魔館を出ていった。
そりゃあ、止められた。その右手でどうやって生きていくんだを筆頭に、色んな言葉で説得された。フランドールに至っては泣きながら止められた。けれど、こうして俺は紅魔館を出ていった。
炉銀はレミリアさんから持たされた一ヶ月近くのお金がある。お金の単位が違い、頭を捻ったが、一週間もあればそのくらいの事であれば覚えることが出来た。
けれど、分かっていたことではあったが、やはり俺を雇ってくれる所は無かった。
そりゃあ相手側も自分達の生活が掛かっている。使えるかどうかも分からない。それに加え右手を動かすことも出来ない。切って当然だろう。
けれど、このまま働かずと言うのも不味い話。
この人里は其処まで広い場所ではない。二、三日歩き回ればほぼ全体を見て回ることが可能。そして、恐らく里の中に俺を雇ってくれるところは少ないだろう。噂とはほぼ無縁の中で育ってきたが、まさか、ここまで噂と言うものが早く広がるとは思っていなかった。
ダメ元で、今日噂に流されなさそうな寺子屋。この里一番の大手である霧雨道具店にも行ってみたが結果は駄目。
さて、こうなってくると里の外に職を探さなければならなくなってくる。
候補は二つだ。一つは魔法の森付近にある香霖堂。だが、此方は出来れば最後に回しておきたい。
そして二つ目は永遠亭と呼ばれる病院だ。
正直どちらも望みは薄い。だが、可能性はあるのだ。行ってみる価値はある。
取り敢えずは永遠亭に明日行ってみることにしよう。
まだ、変わることも、答えが分かったわけでもない。
けれど、だからこそ、俺は此処で止まれないんだ。
目的も、手段も分かっていない男はただがむしゃらに生きようとする。
すぐ後ろで笑っている一人の女にも気付かずに…………
お読みいただき有難うございます!!
次の目的地は永遠亭or香霖堂
松は目的をハッキリとさせることさえ出来れば、一気に進めそうなんですがね。そして、最後に出てきたのは一体……
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
最近クオリティがどんどん下がっていっている気がするけど気のせいだよね!!(ガクブル)
では、また次回~