歪んだ愛をアナタに(完結)   作:ちゃるもん

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投稿です!!

昼夜逆転なうなちゃるもんです。
軽く夏バテ気味。

では、どうぞ!!


第20話 停滞

「さて……疲れているところ悪いけど、もう一人相手にしてもらわないと困るのよ」

「……マジですか」

「マジよ。それじゃあお願いね。魔理沙」

『お、おう』

 

 是非も言わせてもらえないまま、パチュリーさんはその人物の名前を呼んだ。

 黒を基調にした服に、妙に尖った真っ黒の帽子。その帽子からは黄色の長い髪。金色の様に光を反射するような美しさではないが、控え目なその美しい髪はとてもその服装に合っていた。

 

「えっと、初めまして。佐々木松です。松は松の木の松で、松って読む。君は?」

『私は霧雨魔理沙だ。霧雨は霧の雨。魔理沙は魔法の魔に、理解の理、沙はさんずいに少いだ。気軽に呼んでくれ』

「よろしく霧雨さん」

「随分と他人行儀だな……まあ、いいか。なあ、松。少し、少し聞きたいことが有るんだが……良いか?」

「自分に答えられる範囲なら、全然構わないよ」

「そうか……取り敢えず、本当ならさっき言うべきだった気もするが、私のこと覚えているか?」

 

 霧雨さんの事を覚えているかどうか?いや、さっき初めましてって言った筈なんだが……それでも、聞いてくると言うことは何処かで会っているのか?

 記憶の中を探ってみるも、それらしき人物は居ない。

 …………いや、待てよ?俺はどうやってこの館まで来たんだ?

 

 と、答えが出てこようとした時、霧雨さんが口を開いた。

 

「その様子だと覚えてないみたいだな」

「すいません……何となく察しは付いているんですが」

「いや、覚えてないのはしょうがないさ。まあ、察しが付いているって言ったから何となく分かってるんだろうが、松を紅魔館まで連れてきたのは私だ」

 

 やっぱりか……。

 

「すいません……迷惑かけたみたいですね。助けて頂きありがとうございます」

 

 謝罪の言葉と、お礼の言葉を言って、頭を下げる。

 

「いや、その件に関しては全然気にしなくていい。寧ろ、助かってくれてありがとな」

「そう言って頂けると幸いです」

 

 何故か逆に感謝され、取り敢えずの返事を返した。

 

「でだ、此処からが本題なんだ。お前……アリスと何があった?お前が私の家に逃げ込んで来て、私を掴んで扉の裏に隠れた……そのあと私の家に入ってきたアリスは異常……少なくとも、私が今まで付き合ってきた中であんな状態のアリスは見たことがない。なあ、お前はアリスに何をしたんだ?教えてくれよ」

 

 肌を突き刺すような敵意。その感覚に、外の世界の雰囲気と言うものを思い出す。

 いや、まだ敵意と言う明確な感情を投げつけられているだけ、マシなのかもしれない。

 まあ、何にせよ、霧雨さんには全部話した方が良いだろう。

 

「分かりました。俺が知っている範囲で全部話します。

 まず、俺がこの世界、幻想郷に迷いこんで生き倒れていた所を助けてくれたのがアリスさんで、それが彼女との出会いでした。そこで、予定としては一週間、治療を目的として一緒に暮らしていました。ですが、結果としては一ヶ月、軟禁に近い状態。何度か、少しだけで良いから外に出してほしい。と、言ってみましたが、アリスさんから許可は貰えず、俺はストレスがたまる一方。遂には、アリスさんは俺を殺そうとしているのではないのか?何て思い始める始末です」

「アリスがお前を殺す?そんなこと……」

「実際はどうしたかったかなんて分かりませんよ?けど、その時の俺はそう感じて、考えていた……。そして、命の恩人である、アリスさんへの疑心、恐怖、罪悪感等を持ったまま彼女と一緒には住めない。いや、単純に逃げたかったのかもしれない……まあ、結局、アリスさんの家を飛び出したわけです。そして、道すがらアリスさんと鉢合わせ、腕を握り潰され…………後は貴女の方が分かるかと」

「…………それを、それをしたのは……アリス、なんだな?」

「はい」

 

 目を見て、小さく頷く。

 そして、霧雨さんの口から、大きな溜め息が漏れた。

 

「はあぁぁ~……信じたくはなかったが……一応、見てるわけだしなぁ……どうにかしたいところだが、どうすりゃあいいんだ?」

「どうすれば良いんですかね、本当に……」

「……まあ、どうにかするしかないんだが……正直アリスには勝てる気がせん。只でさえ小細工が得意な奴だ。アリスの家に行ったら最後……二度と出てこれないだろうな。また、私の力不足が原因……か」

 

 力不足が原因?また?

 今の会話からは少し外れた言葉が出てきたことに首を傾げる。やってもいないのに力不足が原因なんて分かる筈がないし、やってもいないのに、また。と言うのも可笑しい。だとすれば、以前にも似たような事があったのだろうか?

 そんな事を考えているのが分かったのか、霧雨さんが答えを教えてくれた。

 

「あ、ワケわからんこと言ってすまん。ちょっと昔な……私の力不足でさ……ケガ、させちまってな……松みたいに手が無くなった、とかじゃないんだが、その時は結構重体でよ……二週間、目を覚まさなかった。そして、目が覚めても、半年近く動けなかった。それが連鎖して里にも被害が……出て、な。三人、亡くなったよ。家族だ。夫と妻と子供。妖怪に喰われちまった……。あの時、私が慢心しなければ、アイツは、霊夢は私を庇って……ッ!!

 …………わるい……関係無いこと話しちまった。今日はありがとな……また、今度、落ち着いたら話を聞かせてくれ」

 

 霧雨さんは帽子を深く被り直し、去っていった。

 

「お疲れ様。立ったままで疲れたでしょう?座りなさいな」

 

 パチュリーさんに言われるがまま椅子に座る。霧雨さんと話していたのは十分程度だろうが、なんだか数時間立って居っぱなしだった感じだ。

 

「…………」

「…………」

 

 静寂が俺たちを包む。そして、その静寂を破ったのは俺だった。

 

「この世界の人たちは……本当に強いですね」

 

 特に意味もないその言葉。ただ、純粋にそう感じた。

 霧雨さんは沢山のトラウマを抱えているだろう。間接的にとはいえ、友人を傷付けたのは、無関係な家族を殺した、その原因を自分が作ったと言ったのだから。それは、どれだけ周りが、その友人が、違う。君は悪くない。と言っても覆すことは出来ない、絶対的な霧雨魔理沙が抱える罪。

 もし、彼女と同じ境遇に陥って、同じように前を向ける人は一体何人居るのだろうか?少なくとも自分なら、間違いなく、押し潰される。そして、この身を投じるだろう。

 

 また、一時の静寂の後、パチュリーさんが口を開いた。

 

「あの子は、魔理沙は強くなんかないわ。少なくとも、貴方が思っているようにはね。あの子はね、前を向いている。けど、進んでいない。逃げてはないけど、それは、逃げる方法が分かっていないから。あの子自身、自殺っていう考えがないのよ。他のことに、今ならアリスと松の事。その前なら、月の進軍。何かに没頭することで、進むのでもなく、逃げるわけでもない。停滞を選んでるのよ。それも、無意識の内に……ね。

 だから、貴方は、しっかりと前を向いて、足を進めなさい。あの子のように、立ち止まらないように。そして、進んでいると、勘違いしないように……まあ、初めて会った相手なのだから、わからないでしょうけど。そうねぇ……その亡くなった家族の墓参りにも行ってない。いや、行けてない。って言えば分かるかしら?」

 

 あんなに、前を向いて、進んでいる。様に、見えるのに…………。

 そうだとしたら、俺は……前に進めているのだろうか?いや、そもそも…………前を、向けているのだろうか……。




お読みいただき有難うございます!!

行ってない と 行けてない 一文字違うだけでこんなにも意味合いが変わってくる。
しかも、無意識にって所がまた厄介ですなぁ。

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

今更ですが、矛盾とかないですよね?スッゴい不安。

では、また次回~

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