歪んだ愛をアナタに(完結)   作:ちゃるもん

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投稿です!!

よわいものいじめ、だめ、ぜったい

では、どうぞ!!


第19話 弱いもの虐め

 流石に床に寝かせたままなのも可哀想なので、ベットの上に少女を寝かせ部屋を出た。階段を上がり、図書館へと出る。

 図書館は何時もの明るさはなく、一つの蝋燭の光だけが二つの影を照らし出していた。

 片方は、この右手を直してくれたパチュリーさん。

 そして、もう片方は、銀色の髪が特徴的なメイド。

 

「止めなさい咲夜」

 

 目の前にナイフの剣先が突き付けられていた。あと一センチでも動けば眼球に刺さりそうな程の距離。息が出来ない、首を締め付けられているようなそんな息苦しさが感じられた。

 

『離してくださいパチュリー様。離していただかなければこの屑を殺せません』

「殺させないために止めているのよ……まったく」

 

 何の話なのか良く分からなかったが、どうやらまたパチュリーさんに助けられたようだ。恐らく魔法か何かでこのメイドさんの動きを止めたのだろう。

 ここ最近似たような事が多かったからか随分と冷静になった自分に驚きながらも、これからどうすれば良いのかを考える。しかし、その答えを出すよりも前にメイドさんに変化が訪れた。

 

「いい加減にしなさい」

 

ドゴォオ!!

 

『ガハッァ!!』

 

 メイドさんが物凄い勢いで吹っ飛んでいき、本棚に激突したのだ。本棚は倒れず、本が棚から落ちることもなく、激突音だけが図書館に響いた。

 

「え!?ちょ、大丈夫なんですか!?」

「あの程度大丈夫よ。かなり手加減したしね。やろうと思えば豆粒くらいに握り潰せるのだけど、人手が減るのは頂けないのよ」

 

 パチュリーさんに安否を確認するが、どうやら大丈夫のようだ。少し捻れた答えも帰ってきたりもしたが、俺だって一人の人間。表面上だけとは言え他人の心配ぐらいはする。それが自然で、普通だから。

 

「にしても……一度殺されかけた身なのにあの子の心配をするのね。なに?惚れた?」

「確かに殺されかけましたが……心配することくらい普通でしょう?」

「さあ?私は外の世界に詳しくないし、人間でもないから良く分からないわ」

「そんなものでしょうか?」

 

 当たり障りのない曖昧な返事を返す。自分の行動を肯定と取るわけでも、パチュリーさんの言葉を否定する訳でもない、争いの起きない返事。

 

「そんなものじゃない?人間も人間ならざる者も……分かっている事なんてこれっぽっち。けれど」

『うぐッ』

「面と向かって話し合えば、少しは分かるんじゃない?貴方も、練習になるでしょう?」

「あ、アハハ……」

 

 どうやらバレていたらしい。いや、バレたからと言って何かが変わるわけじゃないが、いや、俺が変わって行かなければならないのか。

 

 こう、考えてみると俺は既に変わったのかもしれないな。以前は他人に歩み寄るなんて事をしようなんて事を諦めていたし、今のままで良いって言い聞かせていたのにな。

 

「あら、良い笑顔も出来るじゃない」

「良い笑顔……俺は今、笑顔なんですね。そっか、俺って作り笑い以外の笑顔も出来るんだ」

「さてと、一歩進んだ直後に悪いんだけど、もう一つ進んで貰おうかしら」

 

 

■□■□

 

 

「えっと、取り敢えず……自己紹介かな?」

『屑に教えるような名前は持ち合わせておりません』

 

 椅子に座り目の前の女性に目を向ける。銀色の髪に青色の目。容姿は怖いほどに整っている人間の女性だ。

 

「俺は佐々木松。君は?」

『さっき言ったことも忘れたのですか?流石は働かない屑ですね。貴方のような屑はさっさと死んだ方が宜しいかと』

「あ、あはは」

 

 さっきの笑顔とは打って変わって、苦笑いでその場を誤魔化す。

 俺は日本人だ。生まれも育ちも日本で、父と母も日本人だ。けれど、彼女は明らかに西洋の人。それに、俺はまだ三十になっていない。こんな大きい娘がいるはずがない。もっと言えば、俺はキチンと働いていた。と、言う風に突っ込みたい所は多々あるが、今は置いておこう。下手に刺激したらどうなるか分かったもんじゃない。

 

「えっと、じゃあ…………僕は誰かな?」

『屑です』

「そうじゃなくて、名前。さっき言ったでしょ?まさか、さっき言ったことも忘れた?」

『……ささき…………しょう』

「そう。佐々木松だ。なら、君のお父さんの名前は?」

『……………………』

 

 彼女は黙った。唇を噛み締め、俺を睨み付けた。

 

 正直、自分でもこんなにスラスラ言葉が出てくるとは思っていなかったから驚いているのだが……どうやら失敗はしていないみたいだ。

 

「俺は、自分の父親と母親の容姿も名前も覚えていない……覚えていることと言えば……人種と性別位か?それほどまでに、俺のなかで親と言うのは必要のなかった存在だった。そりゃあ感謝しているところもあるぞ?けど、それ以上に無関心な存在だった。他人以上にな。

 そう考えると、少しだけ分かるところが有るんだよ……まあ、勝手な思い込みかもしれないけどな。俺は他人と付き合う必要性をつい最近まで感じなかった。切っ掛けをくれたのは、幻想郷にきて、生き倒れていた俺を救ってくれた命の恩人。疑問を持ったのは紅さんが俺の中に踏み込んできたからで、前を向こうって思ったのはついさっき、こんな俺でも誰かを笑顔に出来るからって分かったから」

『……なにが、言いたいのですか?』

「俺は、君の過去をしらない。他人だから当然だ。父親でもなければ友人でもない……だから、さ?教えてくれないか?君の名前」

『お断りします』

「何故か、聞いても良いかな?」

『逆に何故教えなければならないのですか?』

「相手が名乗ったのなら自分も名乗る……日本では常識なんだが、海外では違うのかな?それとも知っていて黙っている……とか?そうだとしたら俺はレミリアさんの評価をかえなければならないようだ。自分の部下に常識も教えられない……とね」

『…………いざよい……さくや、です……さあ、もう良いでしょう!?私は仕事に戻らせていただきます!!』

「頑張ってねいざよいさん」

 

 慌ただしく椅子から立ち上がりその場から消えるいざよいさん。

 俺はそれを見届け、一気に崩れ落ち、だらしなく机に突っ伏した。

 

「案外やれるじゃない。正直驚いたわ」

「あはは……このザマですけどね」

「それを言ったらしょうがないでしょうに。けど、かっこよかったわよ」

「かっこよかった……ですか……」

 

 そんなはずはない。何故ならこれは、ただの弱い者虐めなのだから。だってそうだろう?此方に被害が出ることはなく、あっちにのみ被害が出る状況。

 俺の株がこれ以上下がることはない状況。それも、パチュリーさんのおかげでナイフも飛んでこない。対してアッチは何も出来ず古傷に散々塩を揉みこまれたようなもの……その行為の何処がカッコいいと言うのか……。

 

 ああ、やっちまったなぁ……

 

 なんて、柄にもないような事をやってしまった事に後悔を覚え、また、同時に罪悪感を覚える。そして、前に進んでいるんだと実感した。

 

 こんな事でしか前に進めないなんて、どれだけ周りに迷惑を掛ければ済むんだろうかねぇ……俺はよぉ。

 

 そんなことを考えながら、全部引っ括めて隠せもしないのに隠したつもりになって

 

「いざよいさくやって、十六夜に咲く夜(いざよいにさくよる)って書くんですかねぇ?」

 

 そんなことを呟いた。

 頬から感じる熱いものは、きっと気のせいなのだ。

 

 

■□■□

 

 

 くそっくそっくそっクソッ!!

 

 壁を殴ったり、蹴ってみる。それでもこの苛立ちは、憎しみは……この、殺意は収まらない。

 

「あぁぁぁぁあアァァァァアアアア!!!!」

 

 頭を掻きむしり、ナイフを『自身の手の平に』突き立てた。

 

 苛立ちとも、憎しみとも、殺意とも違う……この、感情を断ち切るために。

 

 

 

 この、なんとも言えない悔しさを断ち切るために―――――

 

 

 

 

「なんで!!!!なんで今さらになってッ!!!!」

 

 

 

 

 ―――――大きく振り上げたナイフを

 

 

 

 

 ザスッ! ザスッ!

 

 

 

 

 ―――――何度も、何度も

 

 

 

 

 

 ザスッ! ザスッ!

 

 

 

 

 

 ―――――何度も、何度も

 

 

 

 

 

 ザスッ! ザスッ!

 

 

 

 

 

 ―――――何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 

 

 

 

 

 ザスッ! ザスッザスッ! ザスッザスッザスッザスッザスッザスッザスッザスッザスッザスッザスッザスッ!!

 

 

 

 

 

 ―――――主君以外を、信じられない私を、隠すために

 

 

 

 

 

 ―――――そのアカく染まったナイフを、降り下ろすのだ。

 

 

 

 

 

『アァアアアアアアアア!!!!!!!』

 

 




お読みいただき有難うございます!!

悔しい……一体何故?

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

後1人、あの子を出さないと……

では、また次回~

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