人間の心はコロコロと変わるもの。
けれど、それは表面上だけの話だ。
主人公はどうなんでしょうかね?
では、どうぞ!!
少女の部屋の前には、狙い済ましたかのように二人分の食事が置いてあった。最初から俺と食べるつもりだったりらしく事前にレミリアさんにお願いしていたそうだ。
自分の分を左手に持ち少女の部屋へと入る。少女の部屋は相も変わらず薄暗い。
「いただきます」
料理を机の上におき、右手は動かないので、左手だけを顔の前に持ってきて呟く。
『おじさん、いただきますってなに?』
「日本ではこうやって食べ物に感謝するんだよ。このお肉だって元は生きていたんだ。その命を奪って、私達の生きる糧となってくれているんだ。だからこうして、今は左手だけだが、本来なら両手を合わせて、いただきます。って感謝するんだ」
『へー、えっと、手を合わせて……いただきます!!』
少女は子供らしく大きな声でいただきますと言った。その言葉に本当の意味で心は籠っていないのだろう。けれど、外の世界でも大体そんなものだ。真に感謝しながらいただきますを言っているものは一割ぐらいだろう。現に俺も体裁と言うモノを気にして言っているだけなのだから。
取り敢えず水を飲もう。
『ねえ、おじさん。おじさんはさ、誰かと一緒に居るのが嫌い?』
「…………」
少女の急な問いに一瞬頭が真っ白になった。
口に付けていたコップを机に置く。結局飲めなかったがしょうがない。
しかし、嫌い……なのだろうか?別に相手に嫌悪感等を抱いた事はないが、かといって楽しいと思ったことも……ないと、思う……。
『私はね、今こうして、おじさんと一緒に居られるのが嬉しいよ?』
アリスさんの家に居たとき、俺はどんな感情を抱いていたのだろうか?確かに、今でもあの時の事を思い出すと背中を冷たいものが流れていく。しかし、それ以前はどうだったか?俺はアリスさんに嫌な感情を抱いたけれど、それに罪悪感も抱いていたはずだし、出会った当初は見とれたりもした。それから数日は多分、笑っていたはず……そう、社会の柵も、過去の記憶も何もかもを忘れ笑っていたはずなんだ。つまり、楽しかったのではないか?嬉しかったのではないか?分からない……分からない……けれど、一つだけ確信を持って言えることは―――
「―――嫌じゃない」
『そっか』
少女は笑った。
そこに柵なんてものはなく、かといって、少女から感じていた息苦しさなんてものも存在しなかった。
『嫌じゃない……嫌じゃない……か。私もね、お姉様やパチュリーと一緒にいるのが嫌じゃないんだ。いや、本当は嬉しいんだと思う。けど、どうしても考えちゃう……これはただの甘い夢で、夢から起きたら、またあの暗闇に独りなのかなって……』
少女は笑った顔のままポツポツと呟いていく。その声は掠れ耳を澄まさないと聞こえないほどだ。
「多分……俺もそんな感じなんだろうな」
『……』
「外の世界なんてこんな優しい世界じゃない……顔には決して出さないけれど、内では何を考えているか分からない。だからこそ、他人を助けることはあれど踏みいることはしない。危ない橋は渡らず安全な道を選ぶ……それが普通……それが当たり前なんだ……。
勿論、そんな中他人とは違う行動を起こして幸せを掴む奴だっているだろうが……俺には無理だった。危ない道を通るくらいなら安全な道を模索する。誰かを自主的に助けたことなんて無いし、深い間柄になった奴なんていない。全員なあなあで中途半端な関係を築いてきた。
そう、昔の事を思い出すと……この世界は優しい世界なんだなって思う……俺が、息苦しく感じるくらいには……」
『息苦しい? おじさんは……帰りたいの?』
「帰りたい……と、思ったことはないな」
これだけ息苦しい優しい世界……しかし、その息苦しさがあっても尚、帰りたいと思ったことはない。
もし、この世界が夢だったとしたらそれはそれで良いのかもしれない……この世界に俺は余りにも不釣り合いだ。
「君はこの夢が覚めるのが怖いのか?」
『…………』
少女の顔が歪む。
「俺は……別にこの夢が覚めてしまっても構わない」
『ッ!! どうしてッ!!』
「どうしてって言われても、構わないものは構わないんだよ。ただ……こんな俺でも……悲しくなるのかねぇ?今まで以上に寂しくもなったりするんだろうなぁ」
『……おじさんは、私と会えなくなるのが寂しいの?』
「多分、寂しいんだろうな」
少女から返答はなかった。
既に冷めてしまった料理を見つめ、そう言えばと思いだし水を手に取った。
少し温くなってしまった水を喉に流し込む。
『そっか……そっか……』
少女は小さく何度も同じことを呟いている。それが数十秒続き、少女が顔を上げる。その顔には笑顔があった。そして、唐突に眠気が襲ってくる。
『お休みなさい、おじさん』
薄れ行く意識の中、聞こえてきたのはそんな言葉だった。
■□■□
コップの中に入った水を見つめる。水には昏睡の魔術を掛けていた。
今思うと、何でこんなこをしようとしたんだろう。と、馬鹿馬鹿しく感じてくる。そして、一緒に居たかったんだろうなぁ、って、自分の事がよくわかった。
「おじさん……」
床に倒れ、寝息を立てているおじさんを見つめる。そして、その手をゆっくりと握った。
その手は暖かかった……あの暗闇の中で独りだった私を助けてくれた時のように、暖かかった……。
「おじさんは……私とずっと一緒に居てくれるの?」
答えは分かっていた。けれど、心も、頭も理性も全てがそれを否定した。否定したかった。
もし、そうなってしまったら……、私はまた独りに戻ってしまう…………だから……
「今だけ……今だけでもイイから…………」
おじさんの手をギュッと握り、床に寝そべった。
「……もう少しだけ…………甘い夢を……」
ゆっくりと瞼を閉じる。そこは暗闇だ……けれど、直ぐ隣は暖かかった。
私はその暖かさに身を任せ……必ず来るであろう未来から、また私が独りに戻ってしまうであろう未来から、目を、背けるのだ…………。
■□■□
それは夢だ。
何時もと変わらない、誰とも関わらず、誰も近づいてこようともしない。
そう……何時もと変わらない筈なのに、何でこんなにも苦しいのだろう? 何で自分はあの暖かさを求めてしまうのだろう?
今までとは逆転した心に違和感を覚える。
何時から変わったのだろう? 何時から俺の世界は変わったのだろう?
考えれば考えるほど分からない。けれど……、こう言うのも、悪くない―――
目が覚める。どうやら眠ってしまっていたようだ。隣を見ると少女が苦しげな表情で眠っていた。少女の頭を優しく撫でる。少女の表情はみるみる内に変わっていき、それは笑顔となった。
「修行……頑張るか」
右腕を掲げ、動かない右手を見つめる。
人は変わるものだ。それは勿論俺だって例外じゃない……ただ、その変化は以外と……心地のよいものなのかもしれない。
お読みいただき有難うございます!!
少し前向きになった主人公。今後どう変化していくのかに期待です。
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
因みにメインヒロインは決まっていたりします。
では、また次回~