はい。と言うわけで、END2です。
一体誰の結末なんでしょうね?
では、どうぞ!!
初めてだった、あんなにも入り込んでくる人は。出会ってまだ数時間の相手に、外の世界ではまずいない相手。もっと早くあの人に会えていたら、今頃俺は変われていたのだろうか?
何度も、何度も何度もあの時の言葉が頭のなかで繰り返される
『吐き出して、良いんです。私が全部、聞いてあげますから。何時でも待っていますよ』
『―――じさん!!おじさん!!』
「ああ、君か。どうした?」
『……何だか元気がないね。そんなに修行が大変だった?』
「いや、そう言う訳じゃないんだ…………ただ、ただちょっと…………疲れただけで」
ああ、駄目だな、少女に全部吐き出してしまおう何て考えるなんて……。
『そっか……、ねえ、おじさん』
「ん?」
『一緒にご飯食べよう?』
□■□■
少女の部屋の前には、狙い済ましたかのように二人分の食事が置いてあった。最初から俺と食べるつもりだったらしく事前にレミリアさんにお願いしていたそうだ。
自分の分を左手に持ち少女の部屋へと入る。少女の部屋は相も変わらず薄暗い。
「いただきます」
料理を机の上におき、右手は動かないので、左手だけを顔の前に持ってきて呟く。
『おじさん、いただきますってなに?』
「日本ではこうやって食べ物に感謝するんだよ。このお肉だって元は生きていたんだ。その命を奪って、私達の生きる糧となってくれているんだ。だからこうして、今は左手だけだが、本来なら両手を合わせて、いただきます。って感謝するんだ」
『へー、えっと、手を合わせて……いただきます!!』
少女は子供らしく大きな声でいただきますと言った。その言葉に本当の意味で心は籠っていないのだろう。けれど、外の世界でも大体そんなものだ。真に感謝しながらいただきますを言っているものは一割ぐらいだろう。現に俺も体裁と言うモノを気にして言っているだけなのだから。
取り敢えず水を飲もう。
『ねえ、おじさん。おじさんはさ、誰かと一緒に居るのが嫌い?』
「…………」
少女の急な問いに一瞬頭が真っ白になった。
口に含んだ水を溢さないように飲み込み、コップを机に置く。
しかし、嫌い……なのだろうか?別に相手に嫌悪感等を抱いた事はないが、かといって楽しいと思ったことも……ないと、思う……。
『私はね、今こうして、おじさんと一緒に居られるのが嬉しいよ?』
アリスさんの家に居たとき、俺はどんな感情を抱いていたのだろうか?確かに、今でもあの時の事を思い出すと背中を冷たいものが流れていく。しかし、それ以前はどうだったか?俺はアリスさんに嫌な感情を抱いたけれど、それに罪悪感も抱いていたはずだし、出会った当初は見とれたりもした。それから数日は多分、笑っていたはず……そう、社会の柵も、過去の記憶も何もかもを忘れ笑っていたはずなんだ。つまり、楽しかったのではないか?嬉しかったのではないか?分からない……分からない……けれど、一つだけ確信を持って言えることは―――
「―――嫌じゃない」
『そっか』
少女は笑った。
そこに柵なんてものはなく、かといって、少女から感じていた息苦しさなんてものも存在しなかった。
『嫌じゃない……嫌じゃない……か。私もね、お姉様やパチュリーと一緒にいるのが嫌じゃないんだ。いや、本当は嬉しいんだと思う。けど、どうしても考えちゃう……これはただの甘い夢で、夢から起きたら、またあの暗闇に独りなのかなって……』
少女は笑った顔のままポツポツと呟いていく。その声は掠れ耳を澄まさないと聞こえないほどだ。
『ゴメンね、ゴメンね……』
「なんで謝る……んだ?」
『ゴメンね…………ねえ、おじさん』
ちょっと待ってくれ……急に眠くなってきたぞ……?修行でそんなに疲れていたのか?いや、そんなはずは……ああ、くそ……ねむ、い……
『おじさん……私のお願いを聞いてくれる?』
「すこ、し……まっ」
『ずっと、ずーっと……この甘い夢をミサせテ?』
□■□■
男はゆっくりと倒れ、女の体に抱き締められた。
女はそんな男を抱き締める。強く、強く、強く。
男の体からパキパキと言った軽快な音が鳴り響く。その音が聞こえる度に女はその表情をだらしなく緩めていった。その口からは涎が垂れ、目はトロンと垂れる。
男からは赤い汗が流れていた。それを女は小さく『だらしないよ?』と呟きながら舐めとる。首筋に流れる赤いモノを、口から溢れ出す赤いモノを、それが血液、血だとは気づかずに女は一心不乱に汗をなめとった。
何時しか、男からは汗も流れなくなった。パキパキと軽快な音もならなくなった。
しかし、今度はぐちゃぐちゃと言った音が女の耳を犯す。それだけで女は発情し、そのぐちゃぐちゃと音を鳴らすものに這い寄った。青くなったそれに手を当て、ゆっくりと撫で回す。それの一部を持ち上げ、自身の体に当て荒い吐息を吐き出した。
それはもとの原型を保っていなかった。それはただの肉塊。青緑色に変色、腐敗した肉塊。
女はそんな肉塊の上に股がった。女は腰を振った。まるで、そこには別のものが見えているかのように、別のなにかがあるかのように。
女の目に光は宿っていなかった。
■□■□
「くそっ!!」
とある扉の前。そこには爪をギリギリと噛み締める女がいた。
扉をぶち破ろうと思えばいとも容易く出来ることだろう。なにせ、女は血を吸う鬼、吸血鬼なのだから。その力は人間とは比べ物にならない。
けれど、それは出来なかった。その扉には魔術が掛かっていた。無理矢理にでも開けようとすればこの部屋もろとも消し飛ぶほどに強大で無差別な魔術が掛かっていたのだ。
「フラン、フラン!!聞こえているなら出てくるんだ!!」
女には妹がいる。この世で唯一無二の親族、血を分けあった愛する妹がいる。
妹には力があった、その身には大きすぎる力が。それを恐れ女は妹を地の奥底……目の前の扉の奥へと閉じ込めた。けれど、女は直ぐにそれが間違いだったと気付く。勿論放っておいた訳ではないく、何度もその部屋を訪れた。が、妹の目からは恐怖の視線しか生まれなかった。
しかし、妹を閉じ込め四百年ほど……救世主は現れた。救世主は女の妹を地の奥底から救いだし、それどころか女と妹を再開させてくれたのだ。
再開したとき妹の目には戸惑いこそはあったものの恐怖は存在しなかった。
これから、これからだったじゃないか……
女は呟く。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら。
「お前と再開できてまだ一週間も過ぎていないのだぞ……?それが今はどうだ……もう、こうして一年が過ぎようとしているじゃないか……またか、また、私が力不足だったから……ッ」
キイィィィ……
突如として響く小さな木がきしむ音。女は顔を上げた。そのぐしゃぐしゃの顔に疑問と喜びを見せながら。
しかし、その顔は直ぐに歪んだ。
女は吸血鬼だ。血の匂いなんて物はなれている。むしろ、食欲をそそる甘美な匂いだ。けれど、扉の中から漂う血の臭いと、何とも言い知れぬ鼻を付く刺激臭に顔が歪む。
そして、そこから姿を現す者……フランドール・スカーレット、女、レミリア・スカーレットの妹が出てきた。
しわくちゃで黒ずんだ服で身を包み、その生気のない目はトロンと垂れ、何か別の世界を写しているようだ。そして、その両手で抱える何か。青緑色の肉の塊……。
『あ、おねえさま。ごめんなさいなにもいわずかってなことをして。わたしね、おじさんとけっこんしたの。ほら、このこかわいいでしょう?わたしとおじさんのこども…………もう、おじさん……あいのけっしょうだなんて……はずかしいよ』
レミリア・スカーレットは困惑した。
この子は、妹は、フランは何を言っているんだ?子供?ただの異臭を放つ肉塊ではないか。おじさん?ショウのことか?だが、ショウの姿なんて何処にも……
レミリア・スカーレットは運命を遡る。フランドール・スカーレットとショウの運命を遡る。
そして、理解する……自分が全く視野に入れていなかった事が起きたと言うことに、今さらになって知った。そして、この中で何が起きたのかも、客人であるショウがどうなったのかも、フランドール・スカーレットが何を望んだのかも……そして、それが、自身の、レミリア・スカーレットの力不足だったから起きた悪夢だと言うのことも……。
すべて、全てを理解した。
だから、レミリア・スカーレットは妹にこう答える。
「そうか……お姉ちゃんは先をこされてしまったようだな」
最早笑いとも取れない笑みを浮かべる。
そう、レミリア・スカーレットが取ったのは、妹が願った甘い夢を続けることだった。
こうして、少女の甘い夢はこれから数百年と続いていく。
誰にも邪魔されず、ただただ幸せな世界。それは他人が見たら不気味で、頭のイカれているおままごとに見えるだろう。
けれど、少女は言うだろう。最早何も残っていない両手に赤子を抱きながら、誰にも見えない夫に対して
『幸せだね』
と、太陽のような、理不尽に不気味に輝く笑みを浮かべながら…………。
END 2
甘い夢
END
お読みいただき有難うございます!!
と言うわけでフランドールENDでした。
……ある意味では良いENDかもしれませんね。松は痛みを感じなかったでしょうし、フランドールは夢の中、幻覚の中とは言え幸せに暮らしているのですから……
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
それでは、また次回。