歪んだ愛をアナタに(完結)   作:ちゃるもん

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投稿です!!

こうして人は頼ることを覚えるのかもしれません。

では、どうぞ!!


第17話 踏み込んでくる者

 長いようで短かった三時間を過ごし今は一時間の休憩を取っている。昼食は紅さんが作ってくれた握り飯を三つ頂いた。しかし、なにもしないと言うのも退屈なものだ。これならば何かに縛られながらも強要される形でなにもしないと言う方が楽かもしれない。

 

 三時間と言う時間は長いようで短い。しかしながらその短さの中で世界と言うのは姿をガラッと変化させる。

 修行を始める前は雲がちらほらと漂っている程度の空模様が、今では太陽も雲に覆われ顔を覗かせることはない。所謂曇り空。しかし、雨は降りそうではない。この雲たちも一時間とすれば無くなっているであろう。

 太陽の恵みも、その呪いも、雨の恵みも、その呪いも、その両方を遮る雲を人間に例えるなら、人畜無害。これが当てはまるだろうか?誰にたいしても平等に接する。深入りもしなければ、ぞんざいに扱うこともない。

 

 幻想郷に来る前から理解はしていた。けれど、最近になってより一層分かるようになったことがある。けれど、それが何なのか、どんな表現をすれば良いのか分からない。

 ただ、言えるのは、レミリアさんと少女の再開の時に抱いた感情とは明らかに違うと言うこと。

 

「…………はぁ」

 

 幻想郷に迷い混む前、一日に何度も苦笑いと作り笑いを繰り返してきた。そうすれば、心の靄を騙しとる事が出来たから。周りも、それを良しとしたから。

 しかし、この世界は違った。優しいのだ。苦笑いを浮かべる必要も、作り笑いを作る必要も殆ど無いほどに、優しいのだ。美しいのだ。

 それは、唯一の逃げ場を失ったのと同じだった。だから、逃げ場を作るしか他になかった。相手の笑顔を作り物として受け止めた。そうしないと、押し潰されそうだったから……。

 

『おーじーさん!!』

「!?って、君か……どうかしたのか?」

『怒らないの?つまんな~い!!』

「つまらないって……君なぁ」

 

 寝そべって空を眺めていた視界に突如として現れた少女。その顔にはつまらないと言っておきながらも満面の笑みが浮かんでいた。作り物でも何でもない、太陽のような笑みが浮かんでいたのだ。空を覆う雲をはね除けるかのような笑顔。それは、俺では一生出すことの出来ないもの。

 俺には少女の、その笑顔を作り物だとは到底思えなかった。

 

『おじさんはここで何をしてたの?』

「修行だよ。今は休憩中でなにもしてないけど、さっきまでは精神統一の修行をしていた」

『窓の外におじさんが居たから来てみたけど、そんなことしてたんだ。そんなことしなくても私が守ってあげるのに……』

「確かにそう言う約束はしたけど、やっぱりある程度は自分で出来ないといけないからな。それに、ずっと居候の身でいるつもりもないから、その間までにはこの手を自由に動かせるようにならないと」

『おじさん、どこかいっちゃうの?』

「直ぐに、って訳じゃないけどそうなるのかな」

『そっか……何か嫌な事とかあったら何でも言ってね?あのメイドとかもどうにかしてみせるから』

 

 神妙な表情のまま少女は去っていった。

 そして、俺はその哀愁漂う背中に、心の中で小さく呟いたのだ……俺が逃げたい原因は、君にもあるんだ、と。

 

 

□■□■

 

 

 今のは……妹様でしたよね?松さんと何か話していたようですが……。それにしても、外に出ることを恐れていた妹様がこうして出歩けている……。話には聞いていましたが本当だったとは、確か松さんが助け出したんでしたか。これはお礼を言わなければ。

 

「松さん」

「あ、紅さん。もう一時間経ちましたか?」

「いえ、もう少し有りますよ。それよりも今の子は……」

「ああ、あの子ですか。正直名前は知らないんですけど一応自分が助けたみたいです」

「やっぱりそうだったのですね。恐らく色んな方から言われているでしょうが私からも言わせていただきたい……我が主の妹フランドール・スカーレットを助けていただきありがとうございます」

「いえいえ、自分がしたことはただあの子の背を押しただけですから。そんなお礼を言われるようなことじゃないんです。ええ、本当に、お礼を言われるような事は、していないんです……」

 

 そう、最初は自分の身を守るためだけにあの子に手を伸ばした。そこに彼女の願いを叶えると言う契約が有ったとしても、自分で自分の事はどうにかしないとなんて考えていたとしても、俺はあの時、確かに少女の事を『盾』として契約したのだ。確かに俺は、少女を『盾』として認識したのだ……。

 そこに軽蔑される事はあっても、決してお礼を言われるような事は何一つない。レミリアさんの時も、本当だったら謝り、お礼を言い続けるレミリアさんを止めるべきだったのだ。

 

「貴方がそう言うのであればそうなのかもしれません。ですが、貴方を評価するのは貴方ではないんですよ?」

「…………」

「だってそうでしょう?私は貴方では佐々木松ではなく、紅美鈴だから。

 佐々木松自身が何れだけ自身を評価し、その評価が低かったとしても、それは、自身の全てを知っているから。その心の内で何を考えているのかも、全て知っているから。

 けれど、私は紅美鈴は紅美鈴の持つ情報だけで佐々木松を評価しなければならない。貴方の言動、つまりは外側は評価対象になるでしょう。しかし、内面は絶対に評価されません。それが、何れだけ長い付き合いの相手だとしてもです。何故なら、それは所詮その人が貴方に抱く想像でしかないのですから」

 

 確かに……そうだ。外の世界でも、自身の株を上げるために上司に媚を売るやつがいる。誰にでも優しくするやつもいれば、誰にも興味を示さない人間だっている。

 しかし、それを評価するのは他人だ。外見や言動から、あの人は乱暴。あの人は大人しいと勝手に決めつける。

 

「……だったら……なんですか?確かに、相手を評価するのは自分じゃない。周りの存在第三者です。だから人は、自身の株を下げないために必死に自分を取り繕う。それが駄目なんですか?」

「駄目とは言いませんよ。ですが、貴方はどうなんですか?

『いえいえ、自分がしたことはただあの子の背を押しただけですから。そんなお礼を言われるようなことじゃないんです。ええ、本当に、お礼を言われるような事は、していないんです……』

 貴方の言葉は、自分の株を下げない為の物ですか?前半分までならただ謙遜しているだけにも聞こえます。ですが、後ろ半分は?私には弱々しい自分を前に出して、自身の株を下げている様に聞こえます。他には悩みを持っている様にも聞こえますし、強制されたようにも聞こえます」

「そ、それは……貴方がそう勝手に解釈しているだけでじゃないですか」

「相手を評価するのは自分じゃない。さっき自分でも言っていたじゃないですか」

 

 なんだよ……なんでこの人はこんなにも俺に踏み込んでくる、そこに貴方のメリットは存在しないだろう……?もう、止めてくれ、止めてくれよ……。

 

「そ、そんなことはどうだっていいでしょう!?いい加減修行の続きを「いいんですよ?吐き出しても」は?」

「吐き出して、良いんです。私が全部、聞いてあげますから」

 

 静かに響いたその言葉に俺は何も言えなかった。

 

「何時でも待っていますよ。それじゃあ、修行の続きを始めましょう」

 

 ただ、その場で呆けるしかなく、修行は再開された。

 

 

□■□■

 

 

 話した、踏み込んでもみた、頼ってもよいと言った。けれど、松さんから警戒のような感情は抜けなかった。

 駄目だ、そんなんでは守るに守れないじゃないか。私は貴方を守らなければならないのに、貴方がそんな態度では私は何も手出しできないではないか……。

 どうして貴方はそんなに誰かと付き合うことを嫌うのか、そんなに私は頼りないのか、いざというとき助けられないではないか……。

 

「何時でも待っていますよ。それじゃあ、修行の続きを始めましょう」

 

 私は貴方を助けたいのに、ただそれだけなのに……貴方はそれを良しとはしない。

 言葉では言わない、行動でも表していない。ただ、分かる。そんな雰囲気がひしひしと伝わってくる。

 

 

 

 その日から私は彼の行動一つ一つを注意深く観察するようになった。

 彼の心を開くために……些細な癖まで覚えるほどに観察を続けた。

 当初の目的も何もかもを忘れ、彼と一緒にいる時間がとても好きになった。

 けれど、私はまだこの感情が何か分かっていない。

 お嬢様と初めて出会ったときとも、咲夜さんを助けたときとも、妹様が外に出てくる様になったと聞いたときとも、全く違うその感情……

 

 

『美鈴さん……少し、良いですか?』

 

 

 彼が声を掛けてくる夜、その時、月明かりに照らされた疲れたその顔を見るまで、私はその感情を理解できなかった―――

 

 

 

 

 




お読みいただき有難うございます!!

美鈴がヒロインをしている……だとッ!?
居眠り門番じゃなかったのか……

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

眠いなり~

では、また次回~

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