優しさと言うものは、時に人を追い詰めるものです。
人間って難しいですよね……
では、どうぞ!!
あれからパチュリーさんが泣き止むのを待ち、泣き止んだら直ぐに行動へと移した。とは言っても、水晶に映し出される方向に従いながら進んでいるだけだが……。
しかし、この何かに従いながらと言うものは些か懐かしいものがある。上司に指示されたことを淡々とやり続けるだけの作業。失敗があれば頭を下げ、愛想笑いで誤魔化し、成功すれば上司の機嫌を損ねないようにそこそこ同意をしながら適当な理由を付け足早に立ち去る。
同僚にも似たような感じだ。そこそこの関係を築きはするものの、友人までには行かない。食事に誘われてもやんわりと断り、あくまで仕事場で話す程度で終わらせる。それは飲み会などの騒ぎの場でも変わらなかった。聞こえよく言えば、害を与えない。しかし、ざっくりと表すなら、人付き合いが悪い。もしくは、希薄と言うところだろうか。
何時からそうなったのか。
そう問われれば、最初からとしか言いようがない。何故か?小さい頃、小学校を卒業するまではそれが常識だと思っていたからだ。
俺の父親も母親も率先して人と関わらず、家族同士でもまず会話と言うものは殆ど存在しなかった。学校から帰ってきたとき、母が他の誰かと話しているのを見ると疑問を覚え、それが作り笑いなのも何となく分かった。
もっと言えばそれを教えてくれる存在が身近に居なかったのも原因だと言えるのかもしれない。俺の家は両親共に働いていた。母は早朝から夕方。早いときは俺が帰ってくるのと同時くらいに帰ってきていた。父は朝から晩まででまず話すことはなかった。
なら、母親と話せば良いじゃないかと思うかもしれないが、母親は帰ってくると直ぐにベットに潜り込んでしまう。それを一度起こした事があったが、睨まれて用事がないなら話し掛けてくるな。と言われて以来話し掛けることは無くなった。父は……まず喋らない。障害だとかではないが、三者面談なんかではない限り言葉を発するところを見たことがない。
要因はまだあるが、此処まででも十分子供の常識が刷り変わるには十分過ぎる事なんだと思う。
□■□■
自己紹介も済ませていない少女と手を繋ぎ、紅い廊下を進んでいく。昔の事からはまず有り得ない行動に自分自身も驚いている。今の俺は昔と比べて成長出来たのだろうか?いや……きっと何も変わってない。でなければ、あんな感情は抱かない筈だ。
隣にいる少女をチラッと見る。少女は見たことのない景色に興味津々なのか辺りをキョロキョロと見回しており、窓の外から見える景色には勿論のこと、花瓶に花、額縁に飾ってある風景画を瞳を輝かせながら見ている。その姿は何処か微笑ましく、そして、少し―――
「……はぁ俺って最低だな」
「おじさん?」
「ん?あ、口に出てたか。まあ、何でもないから、ほら、もう少しで着くから行くぞ」
「……ん」
それ以降、少女がレミリアさんの部屋にいくまで口を開くことはなかった。
しかし、繋がれたその手は少し痛かった。
□■□■
扉の前に立つ。
金属が木を叩き、少し高い音が三回続いた。
そして中からは小さな声。
その声に答えるかのように、左手の痛みが強くなる。そして今度は、その痛みに答えるために、目の前の扉のドアノブを捻った。扉は何の抵抗もすることなく開いた。
レミリアさんはベランダいた。その青みがかった銀色の髪を靡かせ、此方を驚いた表情で見ていた。
「ふ、らん?」
掠れた声が微かに耳に届く。少女の体がビクッと震えた。
「ふらん……ふらん、フラン!!」
その大きな呼び声に少女はカタカタと小さく震えるが、レミリアさんはお構いなしに此方へと近付いてくる。
そして、その両手が、少女を抱き締めた。
力強く、されど壊さぬように………………
俺は此処にいない方が良いと考え、部屋をあとにした。
□■□■
水晶を頼りに玄関へと向かう。
「にしても、この水晶は便利だな」
小さく呟いた。心を渦巻く感情を、今はもう求めることの無かったその感情を振り払うために。どうして今さらになってこんな感情が湧いてくるのか、どうして今さらになってこの感情が苦痛になるのか。何時ものように苦笑いを浮かべてみてもそれは変わらない。
玄関の重い扉を抜け、外へと出る。月の明かりが降り注ぎ何処か物寂しくなってしまう。
月明かりに照らされた中庭を進んでいくと、大きな門があった。ここを抜ければ外に出られる。別に出ていきたくて外に出たわけではないが……、俺なんかがあの場所にいてもいいのか?そんな何の意味もなさない事を考えてしまう。
そして、そんなことを考えていたらいつの間にか門の目の前まで着いてしまっていた。
後、一歩踏み出せば……。
ゆっくりと右足を上げ、門の外へと出す。分かっていた筈なのに、その呆気なさにやっぱり変わっていないんだなと安心した。左足も外へと出して、完全に館から出る。するとどうだろうか?さっきまでは動いてくれていた義手の動きが悪くなり、遂には動かなくなってしまった。それと同時に右手に持っていた水晶も地面へと落ちガシャーンと大きな音を立て壊れてしまった。
「…………やっちまった。大丈夫なのかこれ……高価なものだったり……するよなぁ……」
『大丈夫ですか?』
しゃがみこんでどうしようかと割れた水晶を見ていると、後ろから声を掛けられた。その声に振り返る。後ろに居たのは中国とかのドレスの様なものを着た一人の女性だった。
「ああ、まあ大丈夫ですよ」
『それなら良いのですが……ただ、余り無理は為さらないよう気を付けてくださいね』
「そんなに無理をしているように見えますか?」
『ええ。だって貴方の気のりょ……いえ、それは私より当事者に聞いた方が良いのでしょうね』
一体何の話をしているのだろうか?
『知りたいのなら戻りなさい。割れたガラス玉は私が処理しておきますから』
「え、いや、大丈夫です。ありがとうございます」
『そうですか?ですが、その右手使えないのでしょう?遠慮しないで、ほら、早く戻ってください』
女性は少し強い口調で背中を押し、俺を門の内側まで押し戻した。
『では、後は任せてくださいね』
ここまでされてまだ食い下がろうとするのは無粋だろう。ここは、彼女の好意に甘えるとするか。
「すいません。お願いします」
『お願いされました』
女性はその顔に笑顔を浮かべていた。
この世界は好い人ばっかりだ…………だからこそ俺には息苦しいのかもしれない。
お読みいただき有難うございます!!
レミリア フラン 感動の再開
そして最後やっぱりあの方
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
ここから一気に主人公が抱えるモノに触れて……いけたらいいなー
では、また次回~