皆様お待ちかねのあの方ですよ。
では、どうぞ!!
くそッくそッくそッ!!
何なんだよ!!俺が何をしたって言うんだよッ!!
すぐ目の前を銀色のナイフが通り過ぎ、赤い壁に突き刺さる。あと一歩前に出ていたらどうなっていたか……冷たい汗がじっとりと流れる。
『あらあら、そんな所で立ち止まっていても宜しいんですか?』
「ウぎィ!!」
背中に走る鋭い痛み。
こなまま殺されるのでは?そんな恐怖とその痛みから逃れたいが為に足は動き続けた。
幾度となくナイフが刺さり、掠る。動きを止めれば刺され、逃げればナイフが飛んでくる……。そんな悪夢のような時間を繰り返し、気が付けば見覚えのある扉の前に辿り着いていた。
■□■□
「たす……たすけ、て」
「はぁ……やっぱり……」
何時ものように魔道書読んでいた所に聞こえてきた力なき声。
レミィの奴ちゃんと説明したんでしょうね……いや、してないからこんなことになってるのか。まったく、嫌な予感が的中するって言うのはあまりいい気分ではないわね。
「咲夜……図書館で暴れるってことはそれ相応の覚悟があっての事よね?」
「パチュリー様そこを退いてください」
松を庇うように前に出た私に問答無用でナイフを投げるメイド長。しかしそのナイフは急に動きが止まり地面へと落下した。
「相手が物理的に死なないからって、主人の親友に向かって殺しにかかるのはどうかと思うわよ?」
「今はそれよりも重要なことが御座いますので」
これは思った以上に頑固ね…………めんどくさいから力で捩じ伏せようかしら。
「松、巻き込まれないように奥の部屋に逃げておきなさい。後で迎えにいくから」
後ろを振り向かず松に呼び掛けると、少しの間が生まれた後走って逃げる足音が聞こえた。
「……どうして邪魔をするのですか」
「さあ、どうしてかしら?」
茶化すようにおどけながら言ってみせると、目の前にはナイフを私の首に押し当てる咲夜の姿があった。
「パチュリー様……私は貴女との交戦をこれ以上望みません。そこを退いてください」
「そんなに殺気を出されながら言われてもねぇ……それに、まだ終わってないわよ?」
「な!?」
そう言えば咲夜は私と戦った事が無かったかしら?そうね、それじゃあ頑張って攻略してみなさいな……廻る七曜の世界を…………。
■□■□
「はぁはぁはぁ……」
パチュリーさんに言われ奥の部屋へと逃げ込んだはいいが、その先は長い階段となっていた。魔法と言う前の世界では存在しなかった得体の知れないモノ相手に一体何処まで逃げれば良いのかなんて皆目検討もつかない今、俺にその階段を降りないと言う選択肢はなかった。
壁に手を付き、ゆっくりとその階段を下って行く。意外と浅かったのか、それとも無意識に下っていたからか、気が付けば一枚の扉の前に辿り着いていた。その扉を押し開き、中へと入る。
部屋の中はランプの光がうっすらと部屋の中を照らしている。此処まで来れば大丈夫だろうか?どちらにせよもう歩く力なんてもうなく、壁を背もたれに床に座り込んだ。座り込んだ時に分かったが、背中のナイフは何処かで取れたようだ。
『久し振りのお客様……』
「……どうかしたのかいお嬢ちゃん」
部屋の奥から現れた一人の少女に返事を返す。疲れのせいで随分と味気ない返事になってしまったが、少女は笑顔のまま近寄ってきた。
恐らくこの子がレミリアさんの妹だろう。髪色は金色でまったくの違うが、何処と無くレミリアさんの面影がある。背もレミリアさんと同じくらいだろうか?あまり年は離れていなさそうだ。
『それは私の台詞じゃないかな?ここは私の………………部屋、なのよ?』
どうしたのだろうか?
少女はこの部屋を自分部屋だと言うことに抵抗があるのか、妙な沈黙が生まれた。
「そうか……それは悪いことをした…………そう、だな…………な、んて言え……ばいいの、か………………」
『ちょっと……大丈夫なの?』
「………………………………」
あ、れ?さっきの少女はどこに行ったんだ?この壁の赤色は何だろう?それに、急に体が軽くなった気がする……。
■□■□
「ちょっと……大丈夫なの?」
『………………………………』
男からの返事は無かった。代わりに、ゆっくりとその体が倒れ、その目からは光が消えていた。床には血溜まりがいつの間にか出来ており、素人目であっても男が死にかけているのが分かる。
「はた迷惑な話よね。二百年ぶりに来たお客様が死にかけているなんて……まったく……」
男の体を持ち上げ、ベットへと寝かせる。傷口には簡単な医療魔術を掛けこれ以上の出血は無いだろう。
「………………」
じっと、自身の右手を見つめる。今しがた男の傷を治した自身の右手を。
もしかしたら……。と、その手を握り締めてみた。当然何も起こらない。しかし、私の場合それは可笑しな事なのだ……そう、何も起こらないことの方が…………。
□■□■
「んっ…………」
『あ、起きた』
ぼんやりと光を取り入れる視界の中に、一つの影。その少女の姿がはっきりと見えると漸く何があったのかを思い出した。
『どう?取り敢えず簡単にだけど治療はしたけど……』
不安げに言われたその言葉。治療と言うことは……体のあっちこっちを動かしたり触ってはみたが特に痛みは感じられない。
「……ああ、大丈夫みたいだ。ありがとう」
『ん』
少女は小さく返事をするとそっぽ向いてしまった。誉めなれていないのだろうか?
『ねえ、おじさん』
「なんだい?」
『外から来たんでしょ?なら外のお話聞かせて』
「外の話?そんなに面白いものじゃないが……」
『いいから!!』
「分かった分かった。そうだな……」
俺は自分の人生、父母とは全く話さず、そこそこの高校に通い、そこそこの大学に進学。そして、普通に中小企業に就職。そんな、なんの面白味もない話を語っていった。
しかし少女はそんな面白味もない話を楽しそうに聞いていた。時には質問もしてきて話している此方もなんだか楽しくなって来るほどだ。
『そっかー外は楽しそうだね』
「まあ、外は外でも外界の話だけどな」
『あ、そっか……でも、げんそうきょう、だっけ?にも楽しいところは有るんでしょ?』
「それはどうだろうな~俺も幻想郷に来てまだ一ヶ月位だし、その一ヶ月は森の中で暮らしてたし、今は今でメイドさんに殺され掛けるし……」
『メイドに殺され掛けてるの?』
「ああ、何もしてない筈なんだがな」
『…………だったら、さ。私が守ってあげる』
「いやそれはちょっと……」
『私は吸血鬼だからおじさんよりは強いよ?』
「いや、だとしても……だな」
確かに吸血鬼である彼女は俺よりも圧倒的に強いのだろう。だが、だからと言って女の子に守られるのは男としてどうなのだろうか?
『だったら、さ。私の願いを叶えてよ。おじさんは私の願いを叶えて、私はおじさんを守る。これじゃあだめかな?』
「願い?」
『うん。私を外に連れていって。それが、私の唯一の願い』
何となくだが察してしまった。この子はずっと、それもかなり長い時間をこの部屋だけで過ごしてきたのだろう。恐らくはレミリアさんが言っていたその能力を恐れられて……。
「…………それでいいのか?」
『逆に聞くけど、最悪殺されるかもよ?お姉様に』
「その時はその時だし、そもそも二度も死の縁に立たされた身だからな。死ぬのが少し遅くなっただけだ。いや、そもそも俺は死なん!!何故なら……君が守ってくれる……そうだろ?」
左手を差し出し、彼女が握り返してくるのを待つ。柄にもなく言ってみたものは良いけれど、内容はかなり酷いものだ。せめて、自分自身の身は自分で守れるようにしないとな。そして、レミリアさんと話もしなければ……。
彼女はゆっくりと、その可愛らしい手を出しては引っ込めを繰り返し、そして――――――
「うん。それじゃあ行こうか」
お読みいただき有難うございます!!
フランが狂ってると思った?
残念(?)……狂ってなどいないのだよ……。
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
今、別作品の最新話を書くかどうか悩み中。
書くと決めたら少し此方が遅くなるかもですが、あしからず。
では、また次回~