歪んだ愛をアナタに(完結)   作:ちゃるもん

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投稿です!!

ふうむ……紅魔編は長くなりそうですな。
そして、回想も多くなりそう。

では、どうぞ!!


第10話 恐怖

 私がまだ子供だった頃……。

 

 私には父がいた。しかし母は居なかった。何が原因かは今となっても知らないし、知る必要もない。もっと言ってしまえば、死因を知っている存在が既に存在していないから。

 

 私のこの『時を操る程度の能力』は、ある一つの感情によって芽生えた。それは『殺意』。父親への殺意である。

 

 当時五歳だった私は、酒場で働いていた。汗水流して、店長に嫌味を言われながらもがむしゃらに働いた。

 辞めようと思えば辞めれただろう。だが、私には辞めると言う選択肢は存在しなかった。いや、潰されていた。と言った方が正しいのかもしれない。それは何故か……それは父の存在。酒を飲むために私に働かせ、贅沢をするために私は一日三等分にされたパンの一切れだけを投げ渡す。寝る場所は外。逃げないように首輪で犬のように繋がれた。私が逃げようとすれば暴力が降り注ぎ、文句を呟けば犯され、我儘を言えば服を剥ぎ取られ外に繋がれる。おまけに繋がれていた鉄の看板には、金を払えばヤってもよい。明確な金額など書かれておらず、子供が親の小遣いを持って犯しに来るほどには回された。

 

 何度願ったことか

 

 腹一杯に食べ物を食べたい、と。

 暖かいベットで眠りたい、と。

 

 何度願ったことか

 

 このまま時間が止まってしまえばいいのに。

 そうしたらお前の喉を噛み千切ってやるのに。

 

 それから三年の時間が流れた頃に、私の運命を大きく変える出来事が起きたのだ。起こされたのかもしれないが、これもまた私の知る必要はない。

 

 その日の夜の事だ。私は何時ものように犯され、そして外に繋がれた。私の首に繋がれた鎖が何時もの鉄の棒にではなく、直ぐとなりの朽ちかけた冊に繋がれていた。恐らく父が酔ったまま繋げるのを忘れたのだろう。

 私はこんな場所から逃げ出したいが一心で鎖を引っ張り続け、そして、ボロッと冊が壊れた。『やった!!』あまりの感激に私は声を荒げ喜んだ。そうすれば当然父が酒瓶を持って外に出てくる。父は酒瓶を振り上げ私を捕まえようとしたが私は逃げた。何が嬉しくてあんな場所に居なければならないのか……。後ろから聞こえてくる怒声に足から力が抜けそうになるが、恐怖を抑え込み逃げ続けた。

 気が付けば私は紅い屋敷、紅魔館の敷地内にいて、目の前には吸血鬼の姿。

 

『美鈴め……またサボっていたな……まったく…………それで?人間が何ようだ?』

 

 血のように赤いその瞳が私を射抜く。私は口を開けなかった。

 黙っている私に何を思ったのか、吸血鬼は小さな笑みを浮かべ口を開いた。

 

『ククッ……そう怖がらなくてもいい。別に取って喰う訳ではないのだからな。それに、貴様の事は知っているぞ?山を下った所にある村の奴隷娘だろう?その鎖からして脱走してきた所か?』

 

 まるで全てお見通しだと言っているが如く吸血鬼は楽しいそうに語る。そして、もうひとつの声が私の耳に届いてくる。父の怒声だ。

 

『た……たす…………けて、くださ……い……ッ!!』

 

 とっさに出た助けを求める言葉。

 

『私は吸血鬼、悪魔だ。悪魔に何かを求めるならそれ相応の対価を頂こうか』

『掃除でも洗濯でも何でもします……!!だから……だから……ッ!!もうあんな場所には戻りたくない……ッ!!』

『なるほど……メイドになるかわりに助けろと……良いだろう契約成立だ。だが、私が直接手を出すのは面白くないな……ふむ……これをやろう』

 

 吸血鬼が投げ渡してきた物は銀色に輝く時計。忌々しく回り続ける時計……お前が止まってしまえば……私が……あの男を……殺してやるのにッ!!

 

 

 そして、世界が止まった。

 

 

 灰色に変わった世界で草花も、風も、音も、光りも、吸血鬼も、そして、忌々しい父と残酷な時計の針も……全てが止まっていた。本来であればここで取り乱したりするのだろうが、不思議とそんなことはなく妙に安心出来た。

 私は吸血鬼が持っていたナイフを掴み、後ろで固まっている父に近寄り、手に持ったナイフをその胸に突き立てた。

 

『あ、あは……やった…………やったんだ……私は…………』

 

 銀の時計をゆっくりと握り締める。すると今度は世界に色が戻り、時が動き出した。

 父はその胸に刺さったナイフを見て口をパクパクさせ、ゆっくりと地面に倒れる。

 

『早速だが働いてもらおう。そのゴミを屋敷の外に捨てておいてくれ』

 

 吸血鬼は初めから全部知っていたかのように言うと、屋敷の中へと戻っていった。

 私は言われた通りにゴミを屋敷の外へと運び出し、近くの崖へと投げ捨てた。

 

 こうして、私は紅魔館に雇わることとなった。何時も何時も忙しいが、あんな理不尽な暴力も、男どもに回される生活も……全てが終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 そう……ついさっき、お嬢様に呼ばれ、お嬢様の部屋を訪れるまでは…………

 

 

 

 

 

 

 どうしてどうしてどうしてどうして??????????????????????

 何でお前が?なんでなんでなんで???????????????????????

 

 扉を開けた先にはお嬢様の姿と……殺した、死んだ筈の父の姿があった。

 

 そこからは条件反射だった。ナイフを投げ、お嬢様の元へ。

 私はもう、以前の私ではない。

 

 時間が動き、父の絶叫が響き渡る。咄嗟の事で狙いを外してしまったようだ。

 

「お呼びでしょうかおじょうさま」

「随分取り乱しているようだな」

「そんな事はございません」

「それにしては足が震えているようだが?」

「ッ!!」

 

 足を押さえ恐怖を隠す。その様子が可笑しかったのかお嬢様は小さく微笑んだ。

 

「あれから十年……まだ完全に恐怖を拭いきることは出来ていないようだな」

「も、申し訳ございませんッ!!」

「別に叱っている訳じゃない。しかし、その男は必要なのだ。だがそれではお前の腹の虫が収まることもないだろう。そうだな……殺さない程度に遊んでやれ。出来るな?」

「御意に」

 

 ナイフを持ち、父へと向き直る。父は怯えた様子で私を見ていた。まるで、以前の私のように、助けてくれと懇願しているかのように。

 

 ああ、貴様は実の娘にあれだけの仕打ちをしておきながら自分は助かりたいんだな……。

 

 知っていた。知っていたことなのに、この苛立ち、この怒り、この殺意が沸き上がってくる。

 殺してやる

 殺してやる

 殺してやる

 

 

 徹底的に、徹底的に、もう二度と生き返られぬように、手足をもいで、眼をえぐり出して、内蔵を引き抜いて、脳をかき混ぜて、骨を砕いて、心臓を潰して…………そして、存在すらもコロシてやる!!!!

 

 

 私が一歩進むと、父は狂ったように逃げ出した。

 

「咲夜……殺すんじゃないぞ?」

「分かっております。息をしている状態でお連れいたします」

 

 さあ、能力は使わないでいてあげる。精々逃げ惑いなさい……。

 

 

 

 

 

 

『すまないなショウ。お前が生きて、私の目論み通りに動いてくれることを期待しているよ。

 そして、あわよくば…………

 

 

 

 

 

 ………………フランを救ってやってくれ』

 

 

 

 

 

 




お読みいただき有難うございます!!

まあ、そう言うわけですたい。
他人の空似。髪とか声とかは違うんですが、咲夜さんは気付かなかったようですね。

誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。

カリスマブレイクは無いです(迫真)

では、また次回~

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